宿屋に戻るとナタはカードからゲイザーとアークを出しました。
「オズワルド様を倒されたご勇姿、私も苦痛に悶えながらも拝見しておりましたが…。こちらのご婦人、素晴らしい才色兼備ですね!」
「お恥ずかしいところをお見せしました…。ゲイザー様が酷い目に遭わされていましたので、ついカッとなってしまって…。反省しております」
ゲイザーは跪いて、うっとりした表情でナタの手を取って、こう言います。
「ナターシャ様、ご用がありましたら何なりとお申し付けください」
「なんかおじさんが変だから、チャーミングの魔法解除したいけど、この本には解除法が載ってないよ…」
ナタが魔導書をパラパラと流し読みしながら言いました。夜が明けて人間の姿に戻ったフラウは、宿屋のラウンジでコーヒーを飲みながら、アラヴェスタ・タイムスを読んでいました。突然、立ち上がって、ナタのいる部屋に来ると慌ててノックをします。アークがドアを開けたので、すぐ様、中に入りました。
「大変よ!ナターシャちゃん、これを見て?」
アラヴェスタ・タイムスにはシスターの服を着た獣人とフリルのワンピースを着たツインテールの美少女が描かれていました。
「独占スクープ!昨夜遅く、オズワルド邸に押し入った盗賊二人組。オズワルド氏を殺害し、金品を奪って逃亡…」
「ナタ、泥棒さんじゃないよ?ナタの宝石箱を取り返しただけなのに!あっ、でも天使様のカードは盗んだ事になるのかな?」
「これは困ったことになりましたね。私はお嬢さん方に忠誠を尽くすと決めましたので、私の意思でここにいますから、盗みではないでしょう」
「あっ、そうだ!お師匠様なら、おじさんを元に戻せるかも?」
「お師匠様ってユリアーノ様の事?」
「私もユリアーノ様には一度お会いしてお話してみたいですね。オズワルド様を武術大会で見事、打ち破られましたので…。おそらく第一級魔術師の中ではユリアーノ様が最強ではないかと」
「とりあえず子供に戻る方法は見つけたから、元に戻るね」
ナタが呪文を詠唱すると、大人用のワンピースはブカブカになってしまったので、子供用のワンピースに着替えました。ゲイザーも人間の姿に戻っています。子供に戻ったナタをじっと見つめてから、こう言いました。
「ああ、愛しのナターシャ様はどこに行かれたのだろう?」
「おじさん、ナタはここにいるよー」
「ナターシャ様はこのような子供ではない!もっとお美しい方であらせられる」
ナタはルーシーを召喚して、ユリアーノの住む塔へ、やって来ました。トラップはナタが全て回避して進んだので、サクサク上に昇ります。
「お師匠様、ただいまー!」
「おお、ナターシャ!久しぶりじゃのぉ。お前が旅に出て一ヶ月ほどじゃな。元気にしておったか?」
「うん!あのね、呪いを解く方法を知りたいのー」
ナタは本棚の魔導書を取り出すと、熱心に読み耽りました。
「あの勉強嫌いのナターシャが、こんなに熱心に魔法の勉強をしておるとは…。ゲイザー殿にナターシャをお任せして本当に良かったわい」
「おじさんが呪いをかけられちゃって、大変なの」
「これは!随分と酷い呪いを何重にもかけられておるようじゃのぉ。特にこの魅了の術が一番強力で厄介じゃな…」
「それ、ナタがかけたのー」
「魅了の術は禁忌とされておって、今はどこの魔導書にも載っておらんはずなのじゃが…。一体、どこで覚えたんじゃ?」
「この本に載ってたよー?」
「これは初版本じゃな。よく見つけたのぉ。絶版されておるから、プレミア物じゃよ?」
「おじさんが買ってくれたのー」
「魅了の術は記憶を操作する恐ろしい魔法じゃて、過去の記憶も全て塗り替えられてしまうんじゃ。そして新しい記憶を刷り込むのじゃが、古い記憶の中で本人にとって最も大事な思い出を取り戻せば、過去の記憶が戻ると言われておる」
「そうなの?早く前みたいな普通のおじさんに戻って欲しいのに…。今のおじさんと話しててもつまんないんだもん!どうしたら記憶が戻せるんだろー」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第27話です。