ついにその時はやってきた。
反董卓連合軍。
袁紹の檄に呼応し、悪逆非道とされる董卓を討つために集まった者たち。
発起人である袁紹を筆頭に、袁術、曹操、公孫瓚、劉備、孫策、そして馬騰の代理としてやってきた馬超。
現在、それぞれの軍を統括する者達が一堂に会して軍議を行っていた。
「さてみなさん。最初に、この連合軍の総大将を決めておくべきだと思うのですが・・・・・・」
結果だけ言えば、総大将は袁紹に決まった。
全ての責任がのしかかる総大将。他に誰もやりたがらなかったので当然と言えば当然なのだが・・・・・・
「それで、何か作戦はあるのか?」
公孫瓚の質問に、袁紹は胸を張って答えた。
「もちろん雄々しく、華麗に突撃ですわ!」
胸を張って言う袁紹に対し、他の者たちは呆れて何も言えなかった。
「私のあまりに見事な作戦にみなさん声も出ないようですわね。おーっほっほっほ!」
「麗羽様・・・・・・」
何か言いたげな側近、顔良の視線も意に介さない袁紹。
その後も袁紹劇場ともいうべき実に意味のない一人語りは続き、この馬鹿に何を言っても無駄だと悟ったものたちは一人、また一人と自軍の陣へと帰っていったのだった・・・・・・
袁術軍陣地に張られた天幕の中で、袁術、張勲、雪蓮、冥琳、一刀の五人がこれからの事について打ち合わせしていた。
「袁紹の無策突撃は置いておくとして、彼女が総大将になったのはこちらとしては喜ぶべき事なのだろうな」
「ですねえ。連合の発起人なだけでなく、総大将にまでなってくれて。これで責任を一手に担ってくれるわけですから」
「うむ。麗羽の奴め。見ておるがよい。あの耳障りな高笑いを泣き顔に変えてくれるわ」
「・・・・・・」
それはあなたに言いたい台詞なんだけど、とつい袁術に言ってしまいそうになり、口を閉じる雪蓮。
「それで、これからどうします?」
「まずは一刀の意見を聞こうか」
「そうだな。まずは向こうに俺たちが味方だと知らせないといけないよな」
「それなんだが一刀。どうして前もって知らせておかなかったんだ?それくらいの時間はあったはずだが・・・・・・」
「そうね。その方が苦労しなくてすんだんじゃない?」
雪蓮と冥琳の質問に対し、一刀は一言。
「時間に余裕が無いほうがいいかと思って」
「は?」
「時間は疑心を育てるから」
「どういうことじゃ?」
「では問題です。あなたが董卓だったとして、袁術から内通を受け、どのように考えますか?」
「そりゃあしめたと思うじゃろ。戦が有利になる材料が増えたんじゃから」
「どうかしら?自分の懐にもぐり込んで内部から崩すのが目的の偽の裏切りとか勘繰るんじゃない?」
「発起人の袁紹と同じ袁家だからな。袁紹を追い落とすのが目的と伝えれば真実味を帯びてくるかもしれんが、それはそれで信用に足る人間だとは思われないだろうな」
「とはいえ、兵数でも将の数でも負けている以上、少しでも味方を増やしたいと思うのが人情ですよね」
それぞれの意見を聞いて、うんうんと首を縦に振る一刀。
「まあ、こんな感じで意見が割れて、内通に応じない可能性が出てくるな。最悪、こちらが裏切った際動かず、俺たちが連合に潰されるまで黙って見ているだけという事もありうる。それでも向こうの懐は痛まないわけだからな。では、戦の最中に内通を受けた場合、どうなるでしょう?」
「別に変わらんのではないか?」
「・・・・・・もしかして」
「七乃。何か分かったのかや?」
「いえ、狙いはおそらく向こうの精神的余裕を削って、選択肢を狭める事にあるんじゃないかと」
「そういうこと。戦の最中では限られた時間の中で決断しなくてはいけない。そうなると考えつく事もたかが知れているし、現場の判断は先の事より目の前の事をどう乗り切るかに集約されるから、窮状にさらされる中で少しでも有利になると考えたら、疑わしい誘いでも乗りたくなると思うんだ」
「ふ~ん。一理あるとは思うけどね。冥琳はどう思う?軍師としては先の事も考えて動くべきだから、あまり意味がないとか?」
「いや、一定の効果は望めると思う。それに、どのみち戦は始まっているんだ。理由が分かったならこの話はここまででいいだろう」
「そうね」
「じゃあこの話はここまで。さて、どう味方だと知らせるかの話に戻るけど」
「戦のどさくさに紛れて、誰か潜入させるのが常道じゃない?」
「となると、やはり明命あたりが妥当か」
「そうね。袁術ちゃんはそれでいい?」
「任せるのじゃ」
「そう。だったらその方向で・・・・・・」
話し合いも終わり、自陣の天幕へ戻ってきた雪蓮、冥琳、一刀。
冥琳は仕事で天幕を出ていき、雪蓮と一刀は二人きりとなった。
「そういえば、袁紹の事は聞いたけど、他の諸候たちはどんな人達だった?」
「そうね。公孫瓚は・・・・・・無難って感じだったかしらね」
「有能ではないと?」
一刀の言葉に首を横に振る雪蓮。
「そんな事はないわよ。協調性はあるし、一諸侯としての力は十分ありそうだった。ただ、目を見張るような飛び抜けた点が見当たらなかったというか・・・・・・」
「本人が聞いたら傷つくだろうな」
まだ見ぬ公孫瓚に対し、同情する一刀。
「まあね。次に曹操は何ていうか、優秀が服着て歩いているような感じね。敵対するとしたら一番厄介かも」
「そんなに?」
「ええ。部下も有能そうなのが多いし。馬騰の代理で来た馬超は、将としては一角のようだけど、若いからかしら?まだこれからって感じね」
「ふむふむ」
「劉備については・・・・・・ああ、そういえば軍議の後に一刀について聞いてきたわよ」
「俺?」
「一刀が天の御使いって噂を聞いたみたいで、本当だって言ったら目をきらきらさせてたわね。ぜひまた会いたいって言ってたわよ」
そう言った後、雪蓮は一刀に意味ありげな視線を送る。
「心が痛むんじゃないの?袁紹を裏切るってことは劉備も裏切るってことなんだから」
「いや、あんまり」
即答だった。
「あらま。素っ気ないわね。何で?」
「それを話す前に、雪蓮は劉備についてどんな感想を持った?」
「砂糖のように甘いわね。ただその甘さが逆に、ここに集まった人間たちの中で誰一人もっていない彼女の力なのかもとは思ったけど。それがどうかしたの?」
「うん。甘いとも優しいとも言える彼女がその周りの人間を含めて、董卓が悪逆非道という事に疑念を抱かなかったのかと思って」
「・・・・・・つまり、彼女はその可能性を考えた上でここにいるってこと?」
雪蓮の言葉に頷く一刀。
「だと思う。まあ、劉備に限らないけどここに来た人間たちはなんだかんだ言って、自分達の都合で董卓倒しに来てるんだろうし。例え董卓が悪い人間じゃないとしても、この状況に陥ったのは董卓自身の責任だの自分たちが後々非難されないためだのと理由を付けて自己正当化して。そんな人間たちを裏切るのに感傷はいらないかなあと。まあそんな俺たちも一方的に言える立場じゃないけどな」
「・・・・・・」
無言で一刀を見る雪蓮。
「どうかした?」
「いえ、何というか、強くなったわね一刀。初めて会った時とは別人みたい」
「男子三日会わざれば刮目して見よと・・・・・・あ、やべ。これ俺が言っちゃいけない奴だ」
「?」
「いや、気にしないでくれ」
「まあなんにせよ、あなたがうちに来てくれて本当に良かったわ。敵に回したくないもん」
「誉め言葉として受け取っとくよ。まあ、成長できたとしたらそれは呉のみんなのおかげだから、他の所でも同じようにできたとは限らないけどな。それどころかどこにも行けずに野垂れ死にしてたかも」
「それもそうね」
顔を見合わせ笑いあう雪蓮と一刀。
呉に来て本当によかったなあと、改めて思う一刀であった・・・・・・
どうも、アキナスです。
次回から本格的に戦いが始まる予定です。
という事は、まず作者お気に入りの彼女がどうなるか・・・・・・
ではまた次回・・・・・・
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集う英雄たち・・・・・・?