No.941825

あの日の残滓を求めて

山畑槐さん

ワールドトリガー二次創作SS
#警戒区域で会いましょう

2018-02-16 23:50:02 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:929   閲覧ユーザー数:920

 

その日、この街は戦場になった。

今や、この街は戦場であった。

 

「皆さん、家に上がる際には靴は脱がないように、また必ず隊員と一緒に行動してください。時間は一時間の予定ですが近くに近界民(ネイバー)が出現した場合はその時点で終了となります。

 ――それでは、ただいまより一時帰宅を開始します、」

 

今回、防衛隊員たちのリーダーを務めている嵐山の言葉を受け、いくつかの家族がかつての我が家に足を踏み入れる。

 

危険な警戒区域に一般人を招き入れる試みは初めてではないものの、それは常に、彼らが失ったものや守るべきものを再認識させるものであった。

 

 

第一次侵攻から、警戒区域内の土地は住宅や家財も含め全てがボーダーに譲渡されているが、かつての住人が希望すれば家屋の現状を撮影したり、貴重品の回収を防衛隊員が代行するなどの活動をボーダーは行っている。

そしてまた、倒壊の危険がない状態であれば、防衛隊員の立会のもと一時的な帰宅も許されている。

 

当然のことながら警戒区域内では何時近界民(ネイバー)が現れるか分からない、危険はもちろんある。しかし市民の強い希望と、メディア対策室長による防衛能力アピールの期待、ゲート誘導装置のスポット制御の成功などがあり、A級部隊の同伴を条件として実施されることになったのだった。

 

今回一時帰宅を希望した住民は3世帯5人。

それぞれに嵐山隊、来隊馬、茶野隊が付き添い、早沼支部の隊員と各隊の狙撃手(スナイパー)が周囲を警戒している。

通常の防衛任務に比べると過大に思える戦力であるが、それはつまり必ず市民を守るという意思の表れであろう。帰宅者と面識のある支部の隊員や、人気の高い広報部隊が参加しているのも彼らに安心感を与えるためだ。

 

 

数年ぶりに足を踏み入れた我が家は埃こそ被っているものの、全てあの日のままの姿だった。

近界民(ネイバー)の第一次侵攻時、わけもわからず避難させられ、家に戻ることはできないと告げられた彼らはしかし今、感慨に浸る暇もなく引き上げる品物を選定するのだった。

アルバムや記念品など……近界民(ネイバー)の被害者には金銭的な保証が十分にあったが、そういった金銭に代え難いものはいくらでもあるのだ。とはいえ持ち帰ることができる量は自分たちが持てる限りであるため、各自大きな袋や鞄を持参している。

 

やがてそろそろ切り上げる時間になろうかという時、辺りにサイレンの音が鳴り響く。

 

(ゲート)発生 (ゲート)発生 座標誘導エリア回避

 近隣の皆様はご注意ください』

 

近界民(ネイバー)!?綾辻、(ゲート)の誘導はどうなってる!?」

[効いてるけどギリギリ範囲外です、北西50メートルに砲撃型(バンダー)1体、装甲型(バムスター)2体を確認!]

「っ!まずい!」

 

通常であれば意に介さない程度の相手である、一般人を守りながらでも問題なく撃破できるだろう。

しかし、家屋を守るとなると難易度は大きく跳ね上がる。厳密には防衛隊員に家屋を守る責務は無いが、住人たちの目の前で家を傷つけるわけにはいかないという気持ちが否応にも巻き起こる。砲撃を行う敵は、そういう意味では最悪の相性であった。

 

最初に家から飛び出したのは嵐山、続いて向かいの家から村上。このような事態では避難させる住人一人につき隊員一名が充てられることになっているため、他のメンバーは既に逆方向から脱出している。

近界民(ネイバー)とは距離がある。狙撃手(スナイパー)の間合いであるが、射線が通りづらくまだ狙撃位置に着けていない。

そして嵐山と村上の存在を認めた近界民(ネイバー)は砲撃の体制に入る!

 

「……俺が止めます。」

村上が発射と同時に宣言し、レイガストを(シールド)モードに変形、さらに形状を変化させて砲撃に突っ込んだ!

砲撃が大きく弾け、その後には、、、見事、盾が砕ける寸前になりながらも村上鋼は砲撃を止めきったのであった。

村上は盾を波型に変形させていた。例えば1枚だけの紙であっても、波型に折ると水の入ったコップを支えられる程の強度になる。その要領でレイガストとシールドの強度を上げ、上方に力を逃がすことで砲撃を止めてみせたのだ。

最も完全に止めきれたのは、村上の意図を汲んで同様の両防御(フルガード)を追加した嵐山の技量によるところが大きいだろう。

 

砲撃を止められた近界民(ネイバー)は嵐山達を踏み潰すべく歩き出そうとするが……ビシ!ビシッ!と目玉に穴が空き動きを止める。

ようやく狙撃位置に着いた太一と佐鳥のツインスナイプが近界民(ネイバー)を3匹とも捉えたのだ。そして、未だギギギ……と動こうとする近界民(ネイバー)に、回り込んでいた早沼支部の隊員たちが遅いかかり今度こそ完全に沈黙したのだった。

 

 

戦闘が終了し、退避させていた住民と隊員を再集合させてそのまま撤収の流れとなった。その帰路には、先程の近界民(ネイバー)が押しつぶした家屋も目に入る。一時帰宅中の家は守れたものの、(ゲート)の真下にあった家は半壊を余儀なくされていた。

「ああ……横水さん家が……」

近所で交流があったのだろう、壊れた家を目にして住民の一人が嘆くが、それに答える者は居ない。

 

なぜならば、この街は既に戦場である。

あの日から、この街は戦場なのだ。

 

あの日、切り離されたものを守るように、振り払うように

今日も少年たちは戦う。

 

 
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