mirage -2-
「・・・・・・・子・・・・・・・・・夜見子・・・・・・・・・・・!!」
聴きなれた声・・・眩しさも相まって私は目を覚ました
目の前に見慣れた顔が映る。今にも泣きそうな顔で。
あれ・・・明美ってこんな表情する子だったっけ・・・・・?
「やっと起きた・・・廊下の真ん中で寝るのはやめようよ・・・それにいい加減授業にも出ないとほんとに学校辞めさせられちゃうよ・・・?」
「な・・・何言ってるの・・・?私授業なんて欠席はおろか遅刻早退だってしたことないんだけど?」
「見え透いた嘘つかないで。夜見子が問題児なのは、周知の事実なんだから・・・」
・・・・・・意味が、分からなかった。
私が問題児・・・?そんなの有り得ない・・・
・・・確かに・・・そんなに成績は良い方ではない。だけど、並みはあるはず・・・
今気づいたが、随分と日が高い。
さっき夜の学校で、大鏡から出た光に包まれて・・・
これは・・・夢・・・・・?それとも今までのが夢・・・・・・?
キーンコーンカーンコーン
授業開始のチャイムで、私は我に返った。
生徒達がぞろぞろと教室に入っていく。私の寝姿は遠巻きからかなりの生徒に注目されていたらしい。
・・・・・・・恥ずかしい
「ね、ねぇ夜見子・・・」
「分かってる。授業には出るよ」
「ほ・・・・・・ほんとに!!?」
声をかけてはみたが、有り得ない。という表情で明美は私を見返してくる。
私の返答がそんなにも意外だったのだろうか。
とにかく、周りの状況を把握するためには授業に出るのが妥当だろう
・・・というか・・・私が授業をずる休みするなんて、生徒会長の面目が丸潰れだし。
カラカラと音を立てて私が扉を開けると、明らかに生徒達はざわついた。
・・・さっきから何なんだ。この対応は。
挙句先生まで「何だ麻倉いるのか。今日は槍が降ってくるんじゃないのか?」と含み笑いする始末。
あれでも・・・この先生っていつも生徒が何してようとお構いなしに淡々と授業を進める先生だったような・・・
少なくとも、こんな皮肉がこの先生から発せられるのは今まで聞いた事がない。
曖昧にそれに対応して、授業を聞く体制に入る。
相変わらず生徒の視線が気になる
自分が授業中の教室内にいるということを疑問視するひそひそ話は少なからず聞こえてきたが、ここは敢えて無視した。
「この問題が分かる者、誰かいるか?」
ここで大概手を上げるのは不動の全教科テスト順位1位の石川君
のはず・・・なのだが・・・
「はい」
手を上げたのは、赤点ハンター岩本であった。
しかもすらすらと問題を解いている。そして全問正解。
・・・あいつも勉強するようになった・・・ということか・・・?
にしてはどよめきが少ない・・・
あるとするなら、相変わらずの私に対してのものくらい。
クエスチョンマークをまた一つ増やして、この授業は終わった。
昼休み。
購買に寄り、明美と廊下を歩いている。
手に持っているのは置かれていたなら必ず買うコーンパンだ
「あ、あれ・・・?夜見子・・・コーン食べられたっけ・・・?」
「食べられるも何も、昔からの大好物だけど?」
「え・・・そ、そうだっけ・・・・・・?」
明美の怯えるような、疑問なような表情が私の目に映る。
・・・こんな明美、明美じゃない・・・
早く何が起きたか、しっぽだけでもつかまないと・・・
そんなことを下を向きながらぶつぶつ考えていたせいか、私は前のことに全然目がいっていなかった。
明美に袖を引っ張られ、ようやく前を向く。
見ると何故だか廊下の真ん中を空けるように生徒達が歩いている。私達のせい・・・ではないらしい。
向こうからその廊下のど真ん中を歩く人物が見える。
何人もの取り巻きを連れた女生徒・・・
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
思わず叫び声をあげてしまった。その口をとっさに明美がおさえる
「よ、夜見子ぉ!雪白さんいるところで目立つことしちゃだめだよ!!いくら夜見子でも目つけられたらどうなるか分からないよ!?」
いや、でも・・・これは驚かずにはいられなかった。
雪白と呼ばれたその女生徒の顔は・・・あの時トイレの鏡で見た幽霊そのものだったのだから。
・・・ん?雪白?その苗字どこかで聞いた事ある・・・
そうだそうだ!1年のときに一緒のクラスになった、ものすごく影の薄い子だ!!
点呼の時とか声が聞こえなくて、何度も呼ばれたりしてたっけ・・・
そりゃあの時に思い出せないはずだ・・・
そんなことを思って、自分は自分自身でも信じられない考えが頭の中に浮かんだのを感じた。
“ここは・・・「鏡の中の世界」なんじゃないのか・・・?”
・・・確かに、文字や基礎的なことは同じだが周りの人々の性格などが私が知っているものと正反対だ。
それだけじゃない。世界の情勢などもまるっきり反対
世界の偉人が大罪人だったり、紛争の絶えない国同士が同盟国になっていたり・・・
そして、私に対する周囲の反応も例に漏れず。
信じたくない話だったが、状況からしてそれが一番しっくりくる結論だった。
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-指先のほんの一振りで、世界は180度変わることがある。-
-これは、鏡の表と裏の、無限の可能性の話-
その第2話。