漢王朝の衰え・腐敗により始まった長く続いた戦乱の世
各地で戦が勃発し、いくつもの国が興って滅んでいく・・・最後に残ったのは『魏の曹操』『蜀の劉備』『呉の孫策』
最終的にこの3国を束ねたのは『魏の曹操』
敗れた私達を待っていたのは首を獲るという話ではなく、曹操に奪われた旧領の統治を任されるという破格の待遇。魏の属国してなのか、独立しているかの意識にも関与しないとの事。
妹の小蓮はムカつくって騒いでたけれど、姉さまは決着が付いた後に見苦しく戦を起こす気は全く無いと公言している。小蓮には悪いけど、私も姉さまの意見に賛成。”近しい人”が戦で死んでいく思いはしたくない。
今まで呉の民や将を率いていた姉さまが隠居し、私が後を継ぐことになり、戦後処理や討伐した異民族への対応など、忙しかった戦後処理も落ち着き、私は合肥にある港に来ている
「蓮華様、探しました…お顔が優れませんがいかがなされましたか」
「思春には誤魔化せないわね。天の御使いの事を考えていたの」
「あの男の事をですか。なぜ蓮華様があの男の事など」
私は思春の問いには答えずに、思春か視線を長江へと戻す
魏に舞い降りた天の御使い…北郷一刀
『全く。どうしてこんな事になっちゃったんだか……なぁ。凪』
そんな台詞と共に始まった彼との奇妙な関係。
最初に会った時から不思議な魅力を感じる男の子だとは思っていた。同年代の男の子とはほとんど話した事ないうえに、初対面のハズなのに信じられない程話が弾んだし、少しの間だけだったけど一緒に居れて楽しかった。
姉さまや小蓮には相談出来ない孫家の姫としての悩み、1軍を率いる将としての苦悩…これらを打ち明けるのなら思春や穏に亞莎といった、私に近しい者に話すのが正しい選択肢なのは解っていた、解っていたハズなのに
「打ち明けたのが彼女たちじゃなく、旅の商人だと思い込んでた彼だったなんてね」
なぜ私は彼に打ち明けたのだろうか
同じ場所で同じように悩みを抱えていたから?
彼がどこか安心できる雰囲気を持っていたから?
「確か彼に言われたのが『落ち着いていて、雰囲気が優しいから話しやすい』だったかしら」
姉からはもっとしっかり、妹からは堅すぎるなんて内容の事はよく言われてたけれど、こんな言葉を掛けられたのは初めての経験。母様の血を濃く受け継いだ姉妹とは少し違う自分に自信が持ててなかった私に『自信』を付けてくれた魔法の言葉。
そのすぐ後に、思春と明命が迎えに来てくれたから会話は終わってしまったけれど、本当に楽しい時間だった。
思春には間諜かもしれないから気を付けろって忠告を受けたけど、裏表の無い真っすぐな彼が間諜の仕事をやっていたとしても…
「ダメね、彼が自分の心を無にして情報収集なんて出来る訳ないわ」
天の国から来た彼の底抜けの優しさは、血で血を洗う戦乱の世では他社を虜にする劇薬にもなりえる。でも、曹操は天の国の御使いとして利用価値がずば抜けて高いのを理解し、足枷となるかもしれない劇薬を見事に扱いきった。彼も曹操の重い期待に悩みながらも、その期待を上回る戦果を挙げ続けた
「そういえば、合肥の戦いで負けた時は必ず討ってみせるって意気込んでたっけ」
『彼は曹操の重圧』『私は孫家の重圧』
同じような悩みを告白した後に勃発した合肥の戦いで、私は10万の大軍を率いておきながら大敗北を喫した。その時、私を負かした魏軍の『総大将・北郷一刀』の名を決して忘れぬ、次会った時は討ってやると決意を堅めたのに、陳留で再会した時は私から話しかけに行ってるし矛盾してるわね。
「でも、その時は”まだ”彼の名を知らなかったから無効かしら?」
敗戦直後に、姉さまから陳留行きを命じられた時は、正直、私の顔なんて見たくないって程怒ってるのかと思っていたのだけれど、『楽しい方に考えなきゃ損じゃない?いろいろなものを見る旅なんだよ』そんな言葉を言う彼に私は救われた。世の中には色々な考えが存在する…それは意気消沈して揚州に引きこもっていたままなら巡り合う事は無かった。
姉さまの思いやりが、彼との再会と新たしい考え方を齎してくれた事には感謝してもしきれないわ
「合流した祭からからかわれたのは勘弁して欲しかったのが本音ね」
確かに、彼との会話は楽しかったし、二度と会えないと思っていたのに再会出来て嬉しかったのは否定しないわよ?だからといってその・・・私の浮いた話どうこうになるのはおかしいと思うの!
私に限らず、姉さまや小蓮だってそういうった浮いた話は一切無かったのだし、祭が聞きたがるのは解らなくはないのだけれど…
成都での宴会時、彼の言葉で学んだ事を桃香と共に振り返りながらお酒を飲んでいた
彼ともう少し一緒に居たい、いろいろな事をもっと教えて欲しい…彼とならいい関係が築ける。なんて心の中に芽生えた小さな小さな願い。
でも
その願いは無残にも砕かれた……。
劉備軍の援軍と共に戦った皖城での戦い。時間稼ぎに徹していた小蓮の救援に向かった私の目に飛び込んで来たのは…魏延が狙っていた総大将…北郷一刀
旅の商人、護衛か食客だと思い込んでいた彼だった……
正直、この時程運命を憎んだ事はない。
どうして彼が北郷一刀なのか、一緒に居れると思ったのに…もっと色々な事を教えて欲しかったのに…
驚き、混乱、悲しみ。
様々な感情が私の中を支配しながら彼の名を叫んだ。
こうしなければ、私は彼に刃を向けられない…それほどまでに、私は彼に心を許していた。
魏軍が濡須口が攻め込んで来た時に『孫家の一員としての風格が強くなった、良い出会いでもあったの?』と粋怜に言われた時は気恥ずかしさもあって誤魔化したけど、彼との出会いは運命だったと自信を持って言える。
だから赤壁へ向かう船でも彼の事ばかり考えていた。
私の正体を知っていたの?
知っていて、私に近づいて来たの…?と一瞬思ったけれど、彼も本気で驚いてたしあり得ないわね。彼と私も器用では無いのだし…そういう意味では、彼と私は似ている。似ているから赤壁で孤立した祭を助けたいと発した時は驚きはしたけど、嘘だとは疑う事は無かった。
私達は敵同士だっていうのに…自分の立場が悪くなる事だってあり得たのに…祭の下へ案内してくれた。
もし、私が彼の立場ならどうしてたかしら。同じように案内していたか…それとも立ち塞がり妨害していたか…
その後もずっと、私の事を追って来てたのよね。赤壁からの撤退時にも、夏口での決戦時も、彼は私の前に姿を現した。私が彼を気にかけていたように、彼も私の事気にかけてくれてたのよね。敵同士だとハッキリ解った後も…
お互いの身分が侠客と旅商人だったら、最初や2度目に会った時の日のように過ごせたのかしら…
会えばお互いの近況報告をしたり、悩みを相談したりする友人同士が過ごすような日々が
「あれ、でも、戦場で雷火の年齢を教えてあげたり、嘘ついてない?とか言われたり、戦場で話する内容じゃないわよね」
命のやり取りをしてるのに、雷火が子供じゃない事を教えたり、それに対してびっくりしてたり、本当…戦場で何してるのよって感じよね。一緒に居た雛里とも話していたし、敵味方の概念が崩れるわよ
成都での戦いで曹操と桃香の決着が着いて、黄巾党から始まった動乱は幕を閉じて平穏な世が戻って来た。
もう戦をする事はない安堵、揚州の地に再び戻る事が出来る喜び、そして……ようやく敵味方の垣根を無くして話す事が出来る。そう思ってたに・・・
彼が姿を消した翌日、私は曹操に呼び出された
「孫権、あなた宛てに一刀からの手紙を見つけたから渡しておくわ」
「彼が私に…?なんなのかしら」
「さぁ?私は見てないから何も知らないわ。更に言っておくけれど、発見した者含め誰も中を見ないように厳命してあるから、貴方が見るのが初めてよ」
「素直に私に渡してもいいの?そちらの不利になる事が書かれてるかもしれないのに」
「私達が愛した一刀がそんな事書かないわ。それに…ほかの誰でもない貴方に残した手紙なのよ。同じ女として中身を見るなんて無粋な真似はしない」
「そう……貴方達は彼の事を心から信頼しているのね。それじゃあ、この手紙は受け取らせて貰うわ」
「確かに渡したわよ。最後に一言だけ……一刀を恨まないで、恨みならすべて私にして頂戴」
曹操が立ち去った後、私は部屋に戻らずにその場で佇んでいた。曹操から貰った彼からの手紙…
彼と長い時間を過ごした彼女たちに比べたら、私が接した時間なんて微々たるもの。でも、未だにこう思ってしまう
彼が舞い降りたのが陳留ではなく建業ならば…
曹操より早く私達が出会ってれば…
宴の時にもっと話しておけば…
彼と手を共にして歩む未来があったのかもしれない…
「ねぇ、思春。私は北郷一刀の事……」
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蒼天の覇王を再度プレイ時、一刀と蓮華の絡みが個人的にツボに入ったので、勢いで書き上げたみました。
蓮華の思い出語りなので、一刀は出てきませんのでご注意ください
いつの間にか本文に変なのが混ざってたのにで修正しました。これは我ながら酷い・・・。