No.932430

九番目の熾天使・外伝 ~短編30~

竜神丸さん

偽りの聖王 その2

2017-12-06 22:13:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2571   閲覧ユーザー数:1688

「聖王だぁ…?」

 

「えぇ。あなたはご存じありませんか? 古代ベルカの歴史に伝わる聖王オリヴィエの伝承を」

 

「知らん。歴史なんぞに興味ねぇ」

 

「おや、釣れないですねぇ…」

 

「む、むきゅう…!」

 

目の前にいる少女が聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローン。それを知ってもZEROは無関心な様子で、竜神丸に顔を掴まれている少女は苦しそうに竜神丸の手を叩き、何とか離して貰う。

 

「まぁ、どうせZEROさんはそんな返事で来ると思っていましたよ……さて、あなたにお聞きしましょうか。かの聖王オリヴィエのクローンが、何故このような所にいるんですか?」

 

「えぅ……えっと…」

 

「あん?」

 

少女は竜神丸に対して、何処か怯えているかのような表情を見せ、トテトテ歩いてZEROの後ろに隠れる。ZEROは少女の様子に鬱陶しそうな表情を浮かべるが、少女はZEROから離れようとしない。

 

「おい、邪魔だぞガキ」

 

「…いや」

 

「はぁ?」

 

「いやだ……あそこ、戻りたくない…」

 

「戻りたくない? ……あぁ、なるほど。そういう事ですか」

 

少女の言葉で何となく察した竜神丸は、取り出したタブレットを指で素早く操作する。画面にはとある施設のエリア構造が映し出された。

 

「私の推測が正しければ……あなた、恐らくここから逃げて来たんじゃないですか?」

 

「ッ…!!」

 

映像を見せた途端、少女は更に怯えた様子でZEROの後ろに隠れ、涙目でZEROが着ている服の袖を掴む。自身が見せた施設の映像。少女が自身を恐怖の目で見る姿。それらを見て竜神丸は確信した。

 

「…その表情、正解と見て良さそうですね」

 

「おい、何がどういう事だ。そりゃお前が潰す予定の研究所じゃねぇか」

 

「“お前が”ではなく“俺達が”です。さりげなく任務をサボろうとしないで下さい」

 

「うるせぇ。任務ならテメェ1人でやりやがれ、俺は喰いたい物を喰う為に来ただけだ」

 

「良いんですかねぇ? そんな事言って」

 

「何…?」

 

「あなたはまだ何も理解しておられないようで。よろしいですか? 聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトとは先程も言いましたように、古代ベルカにおいては聖王と呼ばれ民から親しまれていた王女の事」

 

「だから何だ」

 

「それと同時に、武技において最強とも呼べる実力者として有名です」

 

「……」

 

ZEROの眉がピクッと反応する。

 

「そして諸王時代を終結させたと言われる古代兵器『聖王のゆりかご』を起動させられる唯一の鍵。それほどの力を有した聖王のクローンが今ここにいる……この意味が分からない訳ではないでしょう?」

 

「…なら、その研究所とやらには」

 

「今ここにいる彼女以外にも、聖王のクローンが成功作や失敗作問わず、たくさん存在する事でしょう。武技において最強と称された聖王のクローンですよ? その戦闘データがインプットされていないなんて、私は到底思えませんがねぇ」

 

竜神丸の言葉に、ZEROは小さいながらも反応は示し始めていた。これは後少しだなと思った竜神丸は、ここで彼のやる気を出させるトドメの台詞を発する。

 

「あの管理局の事です。聖王の戦闘力をそっくりそのまま再現するとは思えません……ひょっとしたら聖王を上回る戦闘力を有しているかもしれませんねぇ? いや、もしかしたら魔力もより膨大になっているかも―――」

 

「おい、研究所とやらは何処だ。さっさと潰しに行くぞ」

 

「…分かりやすい反応ですねぇ」

 

いつも以上に目をギラギラさせたZEROは立ち上がり、ニヤついた表情で舌舐めずりをし始めていた。この変わり身早さに竜神丸は呆れた様子を見せつつ、ZEROの後ろに隠れていた少女に目を向け、それに気付いた少女はビクッと反応する。

 

「あ、あぅ…」

 

「あなたにお聞きしましょう……あなたはどうしたいですか?」

 

「ふぇ…?」

 

「私達はこれから、あなたが逃げてきた研究所に向かいます。そうなれば、あなたにとっては嫌な思いをさせる事になるでしょう。だからと言って、ここに残ればまた怪物に襲われるかもしれません。ここに残るか、我々と共に行くか……どうしたいですか?」

 

「うぅ……その服……」

 

「ん? あぁ、嫌でしたか? ならば白衣は脱いでおきましょうか」

 

研究所から逃げて来たとなれば、白衣を着た人物(・・・・・・・)に対してはあまり良い感情を抱いていない事だろう。それを察した竜神丸は着ていた白衣を脱ぎ去り、黒スーツの姿で少女と向き合う。

 

「これでよろしいですか?」

 

「…うん」

 

白衣を脱いだ事で多少は警戒心を解いたのか、少女は恐る恐るだが竜神丸のすぐ傍まで近付いて来た。普段の竜神丸なら他人の為にここまでする事など滅多に無いのだが、今この場には竜神丸とZEROの2人だけ。ZEROに任せようものなら確実に戦闘の被害に巻き込まれるであろう事が目に見えていた為、せっかく見つけた聖王のクローンをみすみす殺させはしないと、竜神丸は敢えて自ら少女の世話係を引き受ける事にしたのだ。

 

(こんな事なら、イーリスさんにも一緒に来て貰うべきでしたねぇ。彼女にタイラントの調整を全て託してきたのはある意味で失敗だったか…)

 

「…?」

 

少女からすれば、目の前のマッドサイエンティストが何を企んでいるかなど知る由も無いのだが。

 

「では、しっかり掴まっていて下さい」

 

「ん…!」

 

竜神丸は少女を右手で抱き上げ、少女は竜神丸の腕から落ちないようしっかり竜神丸に抱き着く。そして彼等がその場から移動しようとしたその時だった。

 

「動くな!!」

 

「「…!」」

 

「…ッ!?」

 

突如、草木の中から武装した兵士が複数現れ、3人の周囲を取り囲むように陣形を組み始めた。兵士達の構えた銃が3人に向けられる中、ZEROと竜神丸は表情が変わらない中、兵士達を見た少女の表情が恐怖に染まる。

 

「その娘をこちらに渡して貰おうか」

 

「ッ……いや…!!」

 

「…ふむ」

 

兵士達を率いる隊長格と思われる男性が、竜神丸に抱きかかえられている少女に手を伸ばそうとする。しかしその伸ばそうとした腕が、すぐ隣に立っていたZEROの右手にガシッと掴まれる。

 

「…これは何のマネかね、君達」

 

「なぁ、お前等……まだクローンはいるか(・・・・・・・・・・)?」

 

「!? 貴様、何故それを―――」

 

 

 

 

-ズドォンッ!!-

 

 

 

 

「げふぁ!?」

 

「「「「「隊長!?」」」」」

 

ZEROの裏拳を顔面に叩き込まれ、隊長格の男性がその場に薙ぎ倒される。それを見た部下の兵士達がZEROに銃を向ける。

 

「貴様ァッ!!」

 

「おっと、少し待って貰いましょうか」

 

「「「「「!? ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

兵士達がZERO目掛けて一斉に撃ち始めるが、ZEROに当たる直前で銃弾がピタリと止まり、竜神丸が左手をかざした瞬間に銃弾が全て跳ね返され、兵士達は纏めて吹き飛ばされた。

 

「おい、余計な事するんじゃねぇよ」

 

「あなたの狙いはこの雑魚共ではないでしょう?」

 

「グッ……き、貴様等、管理局に歯向かうつもりか…!!」

 

「おや、お気付きになられましたか」

 

「な、舐めおって……やれ、お前達!!」

 

隊長格の男性の命令で、先程吹き飛ばされた兵士の内、3人の兵士は銃弾をその身に受けたにも関わらず平然と立ち上がり、一瞬でその姿が変貌。全身ステンドグラス状のボディを露わにする。

 

「! ほぉ、ファンガイアも紛れていましたか」

 

『『『フンッ!!』』』

 

正体を現したラットファンガイア達は構えた銃から弾丸を放ち、竜神丸は再度左手をかざして弾丸を止めてすぐに跳ね返す。しかし先程と違い、ラットファンガイア達はその身に弾丸を浴びても怯んだ様子を見せず、3体同時に飛びかかってZERO達に攻撃を仕掛ける。

 

「ひっ!?」

 

「チッ怯みもしませんか……ZEROさん!」

 

「俺に命令すんじゃねぇ」

 

『グゥ!?』

 

ZEROの右手が1体のラットファンガイアの首を掴み、そのまま勢い良く地面に叩きつける。残る2体のラットファンガイアがZEROに銃を向けようとするも、即座に竜神丸が繰り出した蹴りで銃が蹴り飛ばされ、少女を抱きかかえたまま竜神丸が繰り出したローリングソバットで片方が大きく蹴り飛ばされる。

 

『グワッ!?』

 

「何だ、やっぱり大して強くありませんね」

 

「おい、手ぇ出すんじゃねぇぞ竜神丸……コイツ等も俺の獲物だ…!!」

 

「それなら、これを使うと良いでしょう」

 

「あん?」

 

その時、ZEROの手にゲネシスドライバーと赤褐色のエナジーロックシードが投げ渡される。それを見たZEROは表情が歓喜の物へと一変する。

 

「コイツは…」

 

「あなたが欲しがっていたベルトです」

 

「……ハッハァ!!」

 

≪スネークフルーツエナジー!≫

 

「な、何だ!?」

 

ZEROはゲネシスドライバーを腰に装着し、手に構えたエナジーロックシードを開錠。するとZEROの頭上に出現したクラックから赤褐色のアームズがゆっくり降下し、ZEROはエナジーロックシードをゲネシスドライバーに装填して右側のレバーを押し込む。

 

≪ロック・オン……ソーダァ!≫

 

「変身…!!」

 

≪スネークエナジーアームズ!≫

 

ZEROの頭にアームズが覆い被さり、ZEROの全身には黒と白のスーツが纏われる。そして被ったアームズが変形して上半身の鎧となり、毒蛇を彷彿とさせる戦士―――仮面ライダーヴァイパーへの変身が完了した。

 

「アーマードライダーヴァイパー……着心地は如何ですか?」

 

「…気に入った」

 

「ッ……や、やれ!! 奴を殺せ!!」

 

『『『ハッ!!』』』

 

ラットファンガイア達は長剣を召喚して斬りかかるも、ヴァイパーは右手に出現した弓型武器―――ソニックアローで斬撃を纏めて受け止め、ソニックアローの弓を引いて強力な矢を至近距離から撃ち放つ。

 

『『『グハッ!?』』』

 

「おい、どうしたぁ? もっと俺を楽しませろよぉ…!!」

 

「ひぃ…!?」

 

ヴァイパーが振り回すソニックアローで、ラットファンガイア達は長剣をへし折られ、一方的に殴られては容赦なく蹴り倒される。その光景を見た隊長格の男性は恐怖し、その場からこっそり逃走しようと考えたが、そんな彼の前に少女を抱きかかえた竜神丸が立ち塞がる。

 

「少し待って貰いましょうと言った筈ですよ」

 

「ど、どけぇ!! どかないと貴様を殺すぞ!!」

 

「えぇどうぞ。お好きなように」

 

「く、くそぉ!!」

 

隊長格の男性は構えた銃で竜神丸を何度も狙い撃つも、竜神丸は身体を反らすだけで弾丸を連続で回避し、どんどん距離を詰めていく。そして気付けば、竜神丸は目の前まで接近していた。

 

「な……ぐぶぁ!?」

 

腹部に膝蹴りを叩き込まれた隊長格の男性はその場に膝を突き、竜神丸が彼の頭を掴む。

 

「少しばかり、あなたの記憶を覗かせて貰いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガフッ!?』

 

『ギャアッ!?』

 

『お、おのれ…ゴファッ!?』

 

「…チッつまらん」

 

一方で、ラットファンガイア達はヴァイパーの猛攻で既に虫の息だった。その事にヴァイパーは飽きた様子でゲネシスドライバーからエナジーロックシードを取り外し、ソニックアローに装填する。

 

≪ロック・オン…≫

 

「もう良い、テメェ等は失せろ…!!」

 

≪スネークフルーツエナジー!≫

 

『『『ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!?』』』

 

ソニックアローから放たれた矢は深紅の大蛇となり、獲物を丸呑みにするかのようにラットファンガイア達を飲み込んでいく。その強力な一撃にラットファンガイア達は到底耐え切れず、ステンドグラスのように砕け散り呆気なく絶命してしまった。

 

「…駄目だ、こんなんじゃ。やっぱり研究所に向かうしかねぇな」

 

「そちらも終わりましたか。こちらも研究所の電子ロック用のパスワードを入手しました」

 

見ると、竜神丸の足元には泡を噴きながら気絶している隊長格の男性がいた。竜神丸の過去視(サイコメトリー)で情報を抜き取られた後、消去(デリート)で記憶を消去されてしまったようだ。

 

「ふん、回りくどい。開かない入り口なんざ破壊しちまえば良いだけだろうが」

 

「あなたに暴れられると、研究所にあるデータまで一緒に消し飛びかねないんですよ。そういう訳で、研究所では私がデータを確保するまでの間、むやみやたらに破壊するのはお控え願います」

 

「チッ…」

 

 

(やれやれ、これでは先が思いやられますねぇ…)

 

ZEROはイライラした様子でジャングルの奥深くへと進んでいく。その様子に竜神丸は溜め息をつきながらも彼の後に続いて歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに…

 

 

 

 

 

「…あ、そういえば彼女を抱きかかえていたのを忘れてました」

 

「オイ」

 

「キュウゥ~…」

 

竜神丸が素早く動きで戦っていた影響で、彼に抱きかかえられていた少女は目を回してしまっていたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分後…

 

 

 

 

 

 

 

-ビーッビーッ!!-

 

≪WARNING……WARNING……≫

 

「おい、何事だ!?」

 

「主任、大変です!! 内部に侵入者が!!」

 

「んなぁ!? くそ、4号機がいなくなって大変だって時に…………3号機と6号機を迎撃させろ!! 何としてでも侵入者を殺せ!!」

 

「了解!!」

 

侵入者発見による警報が鳴り響く中、主任はモニター室で監視カメラの映像を見据える。映像には気絶した警備兵を引き摺りながら通路を闊歩するZEROの姿があった。

 

「何処の誰だか知らんが、生かしては帰さんぞ……あの研究は知られる訳にはいかんのだ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、満たされねぇ……竜神丸の奴め、面倒な注文しやがって」

 

「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

襲い来る警備兵を片っ端から薙ぎ倒していたZEROは、引き摺っていた警備兵を振り回してから投げ飛ばし、前方から迫って来ていた警備兵を纏めて吹き飛ばす。イライラが収まらずにいた彼だったが、通路先の部屋まで辿り着いたその時、彼の目にある物が映る。

 

「ん…?」

 

彼が辿り着いたのは、無数の培養カプセルが並ぶ少し広めの部屋。どの培養カプセルも、ZEROが助けたのと全く同じ外見の少女が培養液に浸かっている。

 

「…ほぉ」

 

そんな陰気な部屋に辿り着いたZEROは、歓喜の目を見せる。彼の目の前に、黒いボディスーツと青いゴーグルを装備した長身の少女が2人、長い金髪を靡かせながら姿を現したからだ。

 

(コイツ等も、あのガキと同じクローンって奴か…)

 

『…3号機、侵入者を確認』

 

『…6号機、侵入者の危険度を最高ランクのSと認識』

 

『『…これより、侵入者の排除を開始する』』

 

「…ク、ハハハハハハ…!!」

 

3号機、6号機と名乗った少女達は、それぞれ両手剣と戦斧を手元に出現させて構えを取る。それに対しZEROは黒と紅色で禍々しく彩られた籠手型の神器“この世全ての悪(アンリマユ)”を自身に右腕に召喚し、籠手の隙間から黒いオーラを噴出させる。

 

「良いぜ、来いよ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

偽りの聖王達を相手に、OTAKU旅団の飢えた凶獣は牙を剥く―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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