アカギと赤き鎖
伝説のポケモンを救うために、コウキやハンサムとともにギンガ団のアジトに潜り込んだクウヤ。
「ここまでくるとは・・・なんの用かな?」
「なんのようかな、だってぇ?」
その先で彼らを待っていたのは、ギンガ団のボス、アカギ。
アカギの言葉に対してクウヤはにらみ返しつつ、言った。
「んなもん、決まってるだろ!
ユクシーにエムリットにアグノム・・・あの3つの湖にいたポケモンを取り返しにきたんだ!」
「・・・そうか・・・その3匹ならここにいる」
アカギがスイッチを押すと、巨大なモンスターボールをもしたカプセルが3つでてきた。
そこに閉じこめられているのは、赤い石に長いしっぽ、黄色、ピンク、水色がそれぞれ特徴的な3匹のポケモン。
その容姿は3匹ともよく似ていた。
「こいつらが・・・ユクシー、エムリット、アグノム・・・?」
「そうだ・・・初めてみることだろう・・・この世界に心を生み出したと呼ばれるポケモンたちだ」
「心・・・」
「知識を生み出し人々に知恵を与えたユクシー。
意志を生み出し人々に行動を与えたアグノム。
感情を生み出し人々に喜怒哀楽を与えたエムリット。
・・・そういう伝承を残す・・・」
アカギの言葉を聞いてクウヤはもう一度3匹をみる。
そして自分の胸にそっと手をあてた、そのときだった。
「さて、このポケモンたちならば解放させてもいい」
「・・・!」
アカギはクウヤをみるとボールを一つ構え、そこからドンカラスを出した。
「だがまずは、我々のじゃまをしようとするキミをここでとめなければならないな」
「はん、やっぱりそうくるのかよ!」
「うりぃっ!」
クウヤの気持ちに呼応するかのようにリームも鳴き声をあげる。
「ハンサムさん、コウキ、こいつの相手はおれがやる。
周りにいるギンガ団の動きを止めててくれ」
「・・・わかった」
クウヤのリームとアカギのドンカラスのバトルが始まった。
「リーム、こおりのつぶて!」
「かわせドンカラス」
先手をとってリームはこおりのつぶてで攻撃を仕掛けたが、ドンカラスはそれを飛んで回避し、アカギの指示にあわせてつじぎり攻撃を放ってきた。
「そのままはがねのつばさだ」
「まもる!」
一度はまもるで防御し、そこから再びこおりのつぶてを指示して攻撃し命中させることに成功。
だがそれでは倒すまでにはいたらず、ドンカラスのあくのはどうを受けてしまう。
「やはり、レベルが低いな・・・彼の足手まといなほどに」
「うっ・・・」
直球に言われて少し弱気になるリーム。
「お前にこいつの全部、決める権利なんてねぇよ!」
その発言を放ったアカギにたいし、クウヤはそう言い返し、リームの頭をなでる。
クウヤの手が自分の頭に置かれていることに気づいたリームはクウヤを見上げた。
「うりぃー・・・」
「リーム、お前なら・・・お前なら、このドンカラスを倒せる!
おれが保証するから絶対に大丈夫だ!」
「うりぃ」
「おれを信じてくれ、そこからさらに、自分のことを信じるんだ!」
「うーりぃっ!」
クウヤの言葉を信じたリームはその小さいからだを強く光らせる。
その異変の正体を悟ったクウヤは、
「これは・・・!」
「ドンカラス、もういちどはがねのつばさだ」
「リームッ」
クウヤが叫ぶと、リームはそのまま走っていった。
光に包まれたままリームはドンカラスを突き飛ばし、大きいからだに膨れ上がっていく。
光から出てきたのはウリムーの進化系、イノムーだった。
「イノムーに進化した!」
イノムーに進化したリームのパワーに押し負けたドンカラスは弾き飛ばされながらも空中で体制を立て直し、はがねのつばさで攻撃にでた。
だがそれにたいしリームは新しく覚えたらしい、ふぶき攻撃でドンカラスを一瞬でこおりづけにした。
バトルの中でいきなり進化した仲間をみて、進化に対する驚きを隠せないながらもクウヤはその口元に笑みを浮かべる。
「この前ゲットしたばかりなのに・・・!」
「むーっ!」
「やっぱりお前と一緒にいてよかった、うれしいよ!」
クウヤとリームは笑いあうと、3匹が閉じこめられているカプセルに視線を向ける。
そして目を合わせてうなずきあうと、氷から出てきたドンカラスが自分たちに怒りを向けてきた。
「リーム、とっしん攻撃!」
クウヤの指示にあわせてリームは突進しドンカラスを突き飛ばし、さらに強いとっしんで3匹が閉じこめられているカプセルも破壊した。
「む・・・」
その破壊力に対しアカギはただ目線をそっちに一瞬向けただけだった。
カプセルが壊れたことで、そこから3匹は外にでることができるようになった。
「ユクシー、エムリット、アグノム!
今のうちに逃げろ!」
クウヤがそう呼びかけ3匹はそれに従い外に逃げようとしたが、弱っているらしい3匹は動きが非常に遅い。
このスピードでは再び誰かに捕まってしまうかもしれない、そう思ったときコウキと彼のポケモン達が3匹を受け止めた。
「ボクが外へ連れ出すよ!」
「わかった、頼むぜコウキ!」
コウキは3匹を抱えるとレントラーにのってそこを抜け出した。
「あいつを妨害しようとしたって無駄だぜ、おれが阻止するからな!」
クウヤはそう言うが、アカギにはコウキを追撃しようとする様子がない。
「その3匹が今更いなくなったところでどうとない。
この赤い鎖が手に入った今となってはな・・・」
「・・・まさか、そんなもののためにあいつらを捕まえたのか!?」
「・・・そうだ」
「てめぇ・・・!」
自分の目的のために、ポケモンを苦しませる。
そんな冷酷な男に対しクウヤの怒りは募る一方だった。
「さて、私はここで失礼する・・・なにしろ、多忙の身なのでな・・・。」
「なにっ!?」
「テンガン山のやりのはしら、そこで私はあの3匹から絞り出した赤い鎖を使い・・・ギンガ団を生み出した本当の目的を果たす・・・!
キミに最後まで勝つことができなかったのは悔しいが、今となってはそんなものはどうでもいい・・・。
さらばだ」
「あっ!」
ジバコイルを出して去っていくアカギを止めようと走り出すクウヤ。
「待て、今度こそ逃がさねぇーーっ!」
「アカギ様の邪魔はさせぬ・・・」
「邪魔はてめぇだぁーっ!」
「ぐふっ!」
クウヤはボールを構えて戦う体制に入っていたサターンに膝蹴りをかましてぶっとばす。
だがその拍子でサターンの手に持っていたモンスターボールからゴルバットが出てきて、周囲をくろいきりで包んでしまい、それにとってクウヤはアカギを見失った。
「くっ・・・ズーバ、きりばらいだ!」
クウヤはズーバを出して、この部屋を包んでいたくろいきりをすべて払わせる。
だが、くろいきりが晴れたときそこにはすでにアカギの姿はなかった。
「ちくしょうっ!」
またしてもアカギを逃がしてしまったことにたいしクウヤは、悔しさで壁に拳をたたきつけた。
自分の片足がサターンを踏みつけていることに気づかないまま。
クウヤは外にでて、一部の部下をとらえ連行していったハンサムを見送りコウキと合流した。
ちなみに、アジトをでても、自分がサターンのことを踏んでいたことにはいっさい気づいてなかった。
「コウキ、あの3匹はどうなったんだ?」
「大丈夫、外に出したら後は自分たちで帰って行ったよ・・・そっちこそ、ボスはどうなったの?」
「逃がしちまった・・・だけど・・・」
クウヤは最後にアカギがいっていたことと演説の内容を思い出し、テンガン山のある方向をみた。
「あいつら、テンガン山に向かうって言ってたな・・・」
「追いかける?」
「もちろんだぜ、このまま下がれるかってーの」
「・・・だよね」
クウヤは何があっても目の前に悪の存在がある限り、決して下がろうとはしない。
そんな彼の性格は彼のポケモンにも伝わる。
だから、クウヤとクウヤのポケモンは本気でギンガ団との決戦に挑もうとしているのだ。
「クウヤくん!」
「え?」
そんな決意を聞いていたとき、彼らの前に一人の女性が現れた。
それは、チャンピオンのシロナだった。
「シロナさん!」
「うわわわ、シロナさんだ・・・チャンピオンだ・・・」
「くすっ・・・久しぶりね」
「うん、久しぶりだけど・・・なんでシロナさんがここに・・・」
コウキはチャンピオンの登場に驚きを隠せておらず、彼の反応に対しシロナは可笑しいのかくすっと笑う。
だがそのあとですぐに真剣な顔に切り替わり、事情をはなした。
「ええ、ギンガ団に大きな動きがあったと聞いたから、彼らの動きを止めるためにきたのよ・・・。
あんなのを野放しにしたら今度は何をやらかして、このシンオウ地方をけがすことになるのかわかったもんじゃないから。
それに」
「それに?」
シロナはクウヤの顔をまっすぐに見て言った。
「ミクリが、もし貴方になにかあったらそのときは助けてやってほしいって言ってたからね」
「ミクリ兄ちゃんが・・・」
ミクリは今はもうシンオウ地方にはいない。
だがなにかの予感を察して、彼は義理の弟のことをシロナに任せたのだ。
そこまでして自分のことを気にかけ思ってくれる義理の兄の気持ちを知ったクウヤは、この戦いに勝たなければならない理由をもう一つ決め、顔を上げてシロナをみた。
「おれ、ギンガ団に負けない・・・絶対に戦って勝つ!」
「よくいったわ」
クウヤの返事と顔を見たシロナはふふ、と笑うと車に誘導する。
「さぁ乗って、一緒にアカギを追いましょう!」
「・・・うん!」
クウヤはシロナの言葉にうなずき、彼女の車に乗り込んだ。
「そうだコウキくん」
「はい?」
シロナはコウキの方を向いて、ある人物からの伝言を伝えた。
「ナナカマド博士がね、ジュンくんやヒカリちゃんがいまフタバタウンとマサゴタウンにいるって言ってたわよ。
もしコウキくんに会ったら、二人がそこにいるって伝えてほしいって頼まれたわ」
「二人が・・・わかりました」
「あとさ、コウキ」
「ん?」
クウヤはコウキに向かって言葉をかけた。
話を聞いたコウキは一度は驚いたように目を見開かせたが、すぐに口元に小さく笑みを浮かべた。
そして、テンガン山へ向かったクウヤとシロナを、その姿が見えなくなるまで見送っていた。
「・・・」
一方、ヘリコプターでテンガン山に向かうアカギは一人考えていた。
「アカギ様」
「こちら、ジュピターとマーズです」
「ジュピターにマーズか、どうした」
そのときアカギの持っているタブレットに対し通信をとったのは、ジュピターだった。
彼女の後ろには、マーズの姿もある。
「現在、部下数十名とともにテンガン山内部を移動中、やりのはしらへの道も発見しました。
ポイントをそちらのモニターに映し出しますので、ご確認の後そちらに着地してください。
あとは下っ端のものが、貴方をやりのはしらへ導いてくださいます」
そうジュピターが告げると、アカギのタブレットに地図とレーダーが表示される。
「そうかご苦労、私もじきにそちらに到着する。
マーズとジュピターは一足先にやりのはしらに入り、配置を。
サターンとプルートには引き続きアジトの防衛をそれぞれ指示する」
「御意!」
通信を終えタブレットをおくと、アカギの脳裏にあの少年・・・クウヤの姿がよぎる。
感情を持たない自分と正反対の姿を持った少年。
感情豊かで、驚きも悲しみも怒りもすれば、喜びも楽しみも惜しみなく顔と言動に出す少年。
「いったい、なにものなのだ、あの少年は・・・」
一応程度ではあるが、クウヤの情報は知っていた。
ホウエン地方でジムを制覇しただけではなく、かつてそのホウエン地方で暗躍し活動していた組織であるアクア団とマグマ団を壊滅させた。
さらには、伝説の超古代ポケモンであるグラードンとカイオーガの戦いを、あのレックウザを呼び起こすことで止めた。
そのような存在が、今シンオウにいて、自分たちの野望をくい止めようとしていた。
今もおそらくは、自分たちを追いかけているかもしれない。
アカギはそこまで考えたが、首を横に振った。
「・・・いや、もうどうでもいいのだったな」
自分の世界、自分が目指す世界・・・そこではクウヤはすべてを失う。
だから彼のことなど、もう気にしたりする必要などない。
そうアカギは思った。
「私は、このシンオウの・・・いや・・・世界のすべての・・・神となるのだ・・・」
神に、心など不要。
自らが神となった世界には、心などいらない。
「悲しみもない、喜びもない。
すべての感情も心も捨てた存在、それが私だ・・・」
アカギはつぶいた。
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ポケモンの発売が楽しみだなぁ…と思いつつの投稿。