No.925882

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第006話

こんにち"は"。

あ、あのですね。
本当に投稿はまだ先にと思ってたんですよ。
今週末ぐらいかな?って予定は立ててたんですが、何故か前作が王冠戴きまして、つい作り上げてしまったわけです。

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2017-10-11 23:09:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2137   閲覧ユーザー数:1972

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第006話「郷里 了」

臧覇はあらゆることを楊奉より学んだ。民の動き、兵士の使い方、(まつりごと)など、教えられたことを躍起になって覚え学んだ。自分を見出してくれた呂北に対し、また、ここまで自分を優遇してくれた楊奉に対し。やがて時は流れ冬が越え扶風に来てからの二度目の夏を迎え秋に入ったある日、楊奉と臧覇は呂北に城へ召還された。

「我らが同時に同時に召還されることとは、珍しいですね師匠。いったい呂北様は何を我らに科しますのでしょうか?」

「さてな、若のことだ。きっと新しい政策でも思いついたか、最近の”若いの”の位を上げることではないか?」

二人は呂北の待つ執務室の廊下を歩いていく。この一年を通して、臧覇は楊奉を『師匠』と呼び、楊奉は相も変わらず『若いの』と呼び続ける。二人は師弟として互いに尊重し合える中へと成長し、互いに真名を交わし、臧覇の役職も現在は副軍師にまで上がったのだ。しかしいくらりっばな役職を受けようとも楊奉にとっては未だ『若いの』である。そんな彼の口から自らの名を呼ばせることに臧覇は若さの血気に任せていた。

「若、楊奉、臧覇参上しました」

執務室より入室の許可が下りると、楊奉に続き臧覇も入室する。

「爺ぃ、今軍配を持っているか?」

「軍配......ですかい......?」

軍配とは、軍の指揮者が部隊の指揮をする際に使う棒や扇子の様な物。楊奉は懐に指している鉄扇を引き抜く。

「爺ぃ、臧覇にその軍配を与えろ」

突然そう言われると、楊奉は顔を強張らせ、そして一つ息を吐くと、臧覇に向き直り鉄扇を握りその拳を突き向けた。

「臧宣高(せんこう)

今まで公式の場では名を呼ぶことはあろうとも、字を呼ばれたことはあまりなく無く、改めて呼ばれた字に臧覇は緊張する。

「私のこの軍配をお前に授ける。これからも呂北様の為に励むが良い」

師の改まった宣言により、緊張しながらも頭を下げ、恐る恐るその鉄扇を受け取る。その獲物はとても重く、普段から鍛えている臧覇も一瞬バランスを崩しそうになる。そしてまた楊奉が呂北の方を向き直ると、にこやかに笑いながらとんでもないことを言い出した。

「それでは若、東に帰る支度を整えます」

「何時経つ?」

「もう時期雪も本降りに差し掛かりますから、明後日にでも経ちます」

「わかった。今までご苦労であった」

「......それでは――」

臧覇は状況が理解できないでおり、そのまま部屋を後にする楊奉を追いかけようとするが、呂北に引き留められた。

「臧覇。これよりお前には爺ぃの権限の全てを与える。これよりお前は俺の軍師だ。おめでとう」

そう言いながら立ち上がり、呂北は淡々と言葉を並べるが、臧覇は半分以上訳も分からず聞き漏らしてしまったが、すぐに頭を切り替え、呂北に物申した。

「ちょ、ちょっと待っていただい......いえ、お伺いしてよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「あ、主の申される権限というのは?」

「文字通りだ。爺ぃのこの地で持つ権限、財産その全てをお前に委ねるということだ。無論あの屋敷も全て」

「な、財産も!?個人の所有物に対してもそのような」

「所有物?この地に爺ぃの所有物がどれほどあるというのだ?あの屋敷も爺ぃの所有物だと本当に思っていたのか?」

臧覇は呂北の言っている内容をすぐに理解できた。楊奉がこの地に来てから用意されたあの屋敷は、決して彼の為に用意されたものではなく、この街を管理する『管理者』の為に作られた物であることを。

「それに都に挙がっている親父の代わりに、東側を代行している無音(ムオン)からも、早く返せとせかされている。丁度いい機会だ」

楊奉の権限の全てが手に入る。扶風に来て一年と半年。ただただ出世の為に懸命に走り続け、運がいいことに素敵な師と巡り会い、まだまだ発展途上であるこの身にいきなり降って沸いてきた大役。楊奉の持っていた鉄扇が急に重さを増したように、更なる重みを伝えてくる。

呂北は臧覇に近づき、机に尻を預けて語りだす。

「臧覇。お前が初めて俺に茶を点て(いれ)てくれた時のことを覚えているか?あの時俺はお前を茶も分からぬ出しゃばり者と思い斬首ことも出来た。しかしそれをしなかった。私はお前に可能性を感じたからだ......。以上」

「あ、主、それはどういう――」

「話は終わりだ軍師殿。楊奉殿より引き継ぎを完了させ、明日よりの仕事に取り掛かれ」

自らの言を無理矢理打ち切り、呂北は仕事に戻った。

 

 臧覇は城を後にすると、フラフラと歩きながら楊奉の屋敷へと戻っていった。いや、これからはこの屋敷の主は自分になるのだ。しかしそんな実感は全く微塵と言っていいほども無く、ただ今まで潜っていった門を潜った。

すると突然、屋敷の者達が総動員して彼女を拍手で迎えてくれた中には今日非番の者も居た。

「遅いぞ若いの。何処をほっつき歩いていたのだ?」

え、いや、あの?っと臧覇は訳も分からない言葉で狼狽し、楊奉が宴の宣言をすると、屋敷の者は総動員で屋敷の酒蔵より、また食堂よりありとあらゆる飲み食い出来る物をかき集め宴の準備を始めた。

陽は落ち屋敷には蝋燭の灯りが屋敷内に灯ってもなお宴は続いていた。中には愛華(メイファ)や、呂北の妹である恋の姿もあり、二人も料理を食べ楽しんでいた。やがて勢いは周りに巡り、屋敷の一角は完全にお祭り騒ぎとなった。兵士隊時代の面々、町人などがこぞって集まり、臧覇の軍師就任を祝ってくれていた。

「若いの、飲んどるか?」

「い、いえ、まだ未成年ですので......」

「なんだと?元服を迎えているにも関わらず、そんな言い訳をして、ワシの酒が飲めないと言うか‼」

そう施され勢い余って酒を飲みそうになるも、楊奉は冗談と言いながら大いに笑い飛ばす。

やがて夜も更け、未だに蝋燭の火が灯るも、周りは静かにそこら中で眠り転げてしまった。季節は秋で、外で眠る分には如何せん寒い季節。屋敷の使用人、侍女達は総動員で眠りこけた人たちを大広間に押し込め、上から盛大に布団を投げつけるようにかける。恋は愛華が連れて帰り、楊奉だけは臧覇が肩を貸して彼の部屋に連れていく。

「まららぁ。まらのめるそぉ~」

腕を振り上げ、高らかに宣言している楊奉を、臧覇はかたっ苦しそうに肩に担ぎ、ようやくの思いで部屋の寝具に投げ入れた。

臧覇は呆れため息を吐きながらも、部屋の水差しから水を汲みに向かおうとするが、楊奉の声に呼び止められる。

「若いのぉ、認められたぉ」

相も変わらず呂律が回っていないようであるが、その言葉に水差しに手を伸ばした臧覇の動きが止まった。

「果たしてそうでしょうか?私には未だに実感が沸かないのですが......」

「それぁろうれあろうらぁ、そみょそも、ワシはまだお前を認めてはいないからな」

徐々に呂律が戻ってきた楊奉の言に、彼女は体全体を向けて彼の言葉を待った。

「別にワシが東に戻らなくとも、東の内政は比較的安定している。寧ろ、扶風全土の安定を測るのであれば、まだワシがこの地に留まる方がいい筈なのは確かだな。またお前の早すぎる昇進には、(こう)の嬢も反対していたからな」※高の嬢=愛華

「だったら何故?」

「今回お前を軍師に推し進めたのは他ならぬ若だからなぁ」

「な!?」

「若も思っているだろう。お前に軍師はまだ早いかもしれないと。何より経験が圧倒的に足りな過ぎる。それに若いのには圧倒的な軍師としての才能があるとも思えんしのぅ」

「だ、だったら、何故私なのです。何故若輩者の私なのですか!?」

楊奉は顎をさすりながら一幕おいて話し出す。

「......姿勢の問題だろうな」

「姿勢?」

「そう姿勢だ。ワシも見て思った。自らを高めるための努力。苦手ながらも貪欲に知識を蓄えようとする意気込み。そしてなにより、周りを気遣う心遣い。こういった者は確実に伸びる。才能だけに胡坐をかき、現状に満足する者より余程いい」

すると突然楊奉は立ち上がり、寝具の下より一つの箱を取り出す。それを臧覇に手渡し、彼女が封を開けると、中には服が入っていた。

「ホントはもっと先のことだと思いコッソリ用意していたのだが、如何せん早まってしまった。おめでとう郷里(サトリ)。これでお前も立派な将の仲間入りだ」

郷里は感極まり涙腺が崩壊し、衣服の入った箱に雫が零れ落ちる。

「ま、まぁ。ホントに少し先のことと思い、服は少し大きめに作ってしまったが、成長期じゃろうから、すぐに合う様になるだろう」

珍しく照れる楊奉に、郷里は目の下を腫らしながらも小さく笑い最後に「ありがとうございます師匠」と言い、膝を落とし、礼を告げた。

 翌日、郷里は呂北の待つ執務室へと向かった。本日正式に軍師として就任するためである。

「臧宣高、入ります」

呂北より入室の許可が下りると、入室したさきには部屋で立って待つ呂北の姿があり、彼女は催促されるまでもなく、彼の前に片膝を下ろし、拱手の姿勢を取る。昨日楊奉に貰った、白のカッターシャツにその上から首元と中心に緑のラインにセピア調の半袖ニットを着て、黒のケープ・ローブ・マント。下は膝元まで見える短めの紺色スクールスカート。膝元まで伸びる黒のロングソックスに、白いブーツを着ていた。若干服の大きさが合っていないのか、手首の部分が折られている。

「姓は臧、名は覇、字を宣高。これより我が真名を主にお預けします。我が真名は郷里。この身この命、存分にお使い下さいませ」

「お前の覚悟しかと伝わった。我が姓は呂、名を北、字を戯郷、真名は一刀。あえて言う、郷里、俺はお前に期待している。我が頭となり存分に働け」

「はっ‼」

すると一刀は半分ほど鞘より刀を抜き、自らの手首を裂く。その行動に狼狽した郷里をしり目に置き、おもむろに酒の入った酒瓶を取り出し、滴る血を瓶に混ぜ合わせ、混血の酒を杯に注ぐと、郷里に突き出した。

未だに床に血は滴り、部屋には雨上がりの雨音の様な音が響くが、一刀の表情は真面目そのものであり、郷里には儀式めいた物を感じ、黙ってその杯を受け取ると、それを飲み干す。また、催促されたわけでもなく、彼女は懐刀を取り出すと、彼女も自らの掌に裂き傷を付け、渡された杯に血を滴らせる。

返杯を行ない一刀が受け取ると、彼は新しい酒瓶を取り出し、盃の血を瓶に混ぜ新たな混血酒を作り上げ、そしてその混血酒を飲み干した。

一刀は一息吐いて酒が与える高揚感を楽しみ、「頼むぞ」と言うや否や、郷里はそのまま後ろに倒れ込んでしまう。

顔を真っ赤にして倒れ込んだその表情は、緊張感が抜けたあどけない少女であり、一刀も呆れてため息を漏らすが、彼の表情もどことなく緩み、頬は上に軽く引っ張られていた。

しかしこの影響で彼女は翌日も二日酔いで寝込み、楊奉の帰還が二三日遅れたのはいうまでもなかった。

こうして一刀の陣に初めて軍師が迎えられ、この先の様々な戦にて戦功を上げるのはまた別のお話。

 

姓 臧 名 覇 字 宣高(せんこう) 真名 郷里(サトリ) 臧覇(ぞうは)

統 C 武 D+ 知 A- 政 A+ 義 C 魅 C 歳 19 武器 鉄扇

一刀の軍師。一刀が扶風の統治を任されてから初めて見出した将であり、その付き合いは呂北陣営では一刀の義妹である恋、幼馴染である愛華の次に長い。基本的に戦略を考えることを苦手としているが、主である一刀の期待に応えるべく日々精進している。甘いものが好物で酒類が苦手。よく間食にお菓子を摘まんでいるために悩みである減量の成功は未だ遠い。その割には着やせするタイプであり、近頃は肩こりが悩みの原因の一つに加わった。生真面目な性格だが、酒が入ると大変なことになる。後の八健将の一人。

 

能力値

S 逸 A 鬼 B 秀 C 良 D 並 E 悪 F 酷

 


 
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