恋姫†無双 真・北郷√04
大選別
/一刀視点
ちび恋と愛紗の大活躍? により麗羽達と合流。愛紗、恋、麗羽、斗詩、の四人に策の下準備を伝えて、俺は文官の中から荀彧を探していた。
確かまだ南皮にいたはずだし、曹操に会う前なら男嫌いではないはずだ。
そして、ちび恋は今日もやっぱり俺の肩の上に座ってます!
ドドドドドドドドドドドドドド
「どぅふふ。ご主人様~」
凄まじい気の塊が俺に向かって突っ込んでくると、目の前で飛び上がり、
「愛~の~フゥラィング」
バキッ
「あん♪」
ドサッ
肩の上に乗っていたちび恋が、ロケット砲のような飛び蹴りで、貂蝉を叩き落した。
あはは……。恋はやっぱ凄いや……。
「呂布ちゃんの蹴りはきくわん、体が燃え出しそうよん」
地に伏したままクネクネくねる貂蝉。燃え出して、そのまま燃え尽きてくれ、頼むから。
「……ちょーせん、じちょー」
ちび恋が地面にスタンと降りて、立っている俺の体にまたのぼりだす。
よぢよぢ
「昨日、約束した呂布ちゃんの武器なんだけど? これでいいのかしらん?」
立ち直るの、はや! って昨日……。
……
/一刀回想(02話 参照)
「貂蝉、恋の武器なんだけど……。東海竜王が持っているかもしれない海の重りとか借りてこられないかな?」
貂蝉がとたんに笑顔になって答える。
「あらん。あたしも今それを考えていたのよん。やっぱりご主人様と気が合うわん」
回想 了
……
そう言って取り出したのは真赤な棍(こん)その両端には金の装飾が施されている。正史では黒色か銀色らしいけど、この外史では日本でお馴染みの赤だったのか。
そう。これが、かの有名な『如意棒』俺はドキドキしながら貂蝉の手から受け取ろうとするが、
「ご主人様。それすっごく重いから、多分無理だと思うわん」
見た目の太さは単二電池くらいで、長さは俺の背丈より少し長いくらいだろうか。
「気をつけるのよん?」
手に取ると重い! すごく重いよコレ。まあ持てなくはないけど……。でも、男ならこの武器で、一度はやりたいことってあるよね!
「伸び……。じゃなくて、縮め! 如意棒っ!」
危なかった……。今の長さでさえ重いのに、伸ばしたらつぶされちゃうっての。すると半分くらいの長さに縮んでいった。
「あら、すごいわね。私がやったときは伸縮しなかったわよん? 竜ちゃんに頼んで程良い大きさにしてもらったのだからん♪」
へー、使う人を選ぶのかな? おっちび恋の瞳がキラキラしてるぞ!
「恋もやってみる? 重いぞ?」
恋は俺から如意棒を受け取ると、頭の上で……クルクル、ブンブンッっと回し始めた。
ッギュオンギュォンギュギュオン
なんか、すっごい怖い音がします……。
オンギュオングゥッ ドズン!
ちび恋が如意棒を地面に突き立てると、激しい音の後、地面に大穴。更に城全体が大きく揺れた。見た目ただの棒なのに……。
「すごいな! 恋、伸ばしたりもできる?」
不思議そうに頭を横にコテンと倒し?(はてな)のポーズ。
「心で念じたり、言葉で言ったりするんだ。そうするとにゅーって伸びたり、にょーって縮んだりするはずだよ?」
「……れん、わかった」
ちび恋は再び如意棒を腰に当てて、地面と平行にすると。
「……にゅーーーーーぅ」
ぶっ無表情でにゅーっていう恋、可愛いすぎなんですけど! って伸びてる伸びて……伸びすぎ! 伸びすぎ! 城壁に当たるていうか、突き破る!?
「恋! ストップ! ストップ!」
「ぅーーーーー。すとっぷ?」
ほっ。何とか止まったみたいだ。
「ストップっていうのはね、やめるって意味なんだ」
恋は、にぱっと笑うと、
「……こん、……のびるのとめた。……れん、……えらい?」
なんか色々飛ばしてるけど……多分、如意棒伸ばしてたけど、俺のストップっていう言葉を聞き、その意味は知らないのに正確に意味を捉えてえらい? ってことかな。
「うんうん、えらいぞ~。恋はさすが俺の最強の武だね!」
「……(コク)……じー」
嬉しそうだけど、じーっと見られてる? 視線の先は……手? あ、そうか! なでなでなでなで。と、ちび恋の頭を優しく撫でながら、
「今度は縮められるかな? 恋」
コクンと可愛い返事が返ってきて、
「……にょーーーーーーーぉーーーーーーーーーー」
って、さっきの俺の説明、間違って理解してるよコレ(可愛いからいいか!) ぐんぐん縮む如意棒……。思ったけどこれ細くも太くもならないな?
やがて、単二乾電池を縦に二本つなげたぐらいの長さになる如意棒。
「……ん? ……にょーーーーー?」
これ以上は小さくならないらしい。ちび恋はトテトテと貂蝉にちかづくと、
「……ありがとう。……こん、……きにいった」
ペコリッと、ちゃんとお礼を言い頭を下げる。
「~~っ恋! なんていい子なんだ! ぐすんっ」
幼い娘の成長を喜ぶようなオヤバカズト。じゃない! 俺! あれ? そういえば記憶とか、恋の中身はかわってないのに違和感ないぞ?
「どぅふふ。呂布ちゃんも気に入ってくれたようねん♪」
貂蝉も笑顔で満足気だ。
「貂蝉、これって太くなったり、細くなったりはしないのか?」
と、俺が問いかければ。
「どうなのかしらん? 悟空ちゃんの使ってるやつとは、すこーし違うみたいねん?」
まあいいか。恋も気に入って、名前付けてるみたいだし……。
「コン?」
「……れんのこん。……このこ、……いきてる」
そう言いつつ、腰のベルトに最小状態の如意棒を押し込む。
レンコン? いやいや、突っ込んじゃ駄目だ! それにしても軽くなってるのかな?
「恋、少し持たせてくれる?」
そう言って持たせてもらうと。あれー? すっごく軽い。ナニコレ……。
「……れん、……こんに、おねがいした。……かるくなった」
さすが呂布! 武器を選ばず使いこなすのか! 鬼に金棒じゃなくて呂布に如意棒? オラスゴクワクワクシテキタゾ!
はっ!
「じゃあ、ご主人様。そろそろ行くわねん」
少し寂しそうな貂蝉に、
「ああ、色々助かったよ。また会えるかは、わからないけど、元気で!」
笑顔で声をかけた。徐々に透けて、消えていく貂蝉。
「ご主人様、役者は大体同じみたいよ? がんばって……」
貂蝉が消えるてしまうと、すぐ近くから、
「ななななによ、今の化け物! あああなたが退治したの? お手柄ね!」
聞き覚えのある声が響く。荀彧文若。曹操の智謀となる予定の軍師。南皮で冷遇されて、曹操の下にいったんだったっけ? ぎりぎり間に合ったようだ。
ちび恋が如意棒を試したいのか、うずうずしているようなので。
「恋、いっておいで。城は壊さないようにね?」
一応、釘を刺しておく。
「……(コク)……あぶなくなったら、あいしゃか、……れん、よぶ」
ダダダーッと、調練所へ? 恋はともかく、愛紗も? まあいいか。と切り替えて、
「君が荀彧だね? 初めまして、北郷一刀って言えば、わかりやすいかな?」
俺は、荀彧に話しかけるが、
「へー。貴方が袁紹を丸め込んで、君主になった天の御遣い様? 袁紹みたいな馬鹿は騙せても、私は騙せないわよ? それとも無礼な私を処罰します?」
(初めて会ったのに、確認する事も無く、私の名を!? しかも、ここに着いたのは確か昨日のはず……)
既に、相当鬱憤が溜まっている様だ。まずはガス抜きかな?
「いや、罰するつもりはないし騙すつもりもないよ? ただ訂正はしてもらおうかな?」
「はっ? なにを」
「俺のことはどうでもいいが、麗羽はけして馬鹿じゃない! 民を想い、全てを俺に託して自らも全力を尽くそうとしてる! 自らの力不足に悩み、あがき続けていた君主に、お前は何をぶつけた? 自らの策が採用されないのに下策が採用される不平か? 待遇が悪いという不満か? それらを麗羽にぶつけているだけで、自分こそが民を救えるとでも思っているのか? なぜ俺に今のような態度がとれるのなら、自分が正しいと思うこと。それを実行しない? お前の策はその程度なのか? 十分な資金と役職が無いとなにもできないと諦めるのか? 違うだろう、荀彧」
「……」
荀彧は茫然と俺の目を見つめている。しかし、その目はまだ輝きを失っていない。
「民の為に文官になったのだろう? 民の敵になぜその力を振るわない? 麗羽は今、民達の為に尽力している。お前にそれが笑えるのか? 無能で馬鹿な君主だと。答えろ! 荀彧っ!」
ガバッと荀彧はひれ伏して、
「申し訳ありません! 御遣い様、私の目が……曇っておりました。自分の不徳を他人のせいにして八つ当たりするなんてっ。 不才の身なれど、この荀文若。まだ挽回の機会は頂けるのでしょうか……」
少しの静寂。荀彧は顔を伏せたまま、俺の返事を待っている。
スッと近づくと荀彧の体が震えるが、顔は伏せたまま。その手を、そっと両手で包み、起き上がらせる。
「荀彧、俺はこの大陸を統一し、民達が笑顔で暮らせる世をつくる為に戦いたい。 そのための犠牲は覚悟しなければならないが、あなたの智謀があれば、その犠牲はきっとより少なくなるはずだ。今のあなたの目は濁ってはいない。俺に力を貸してくれ! 民達の為にその智謀を!」
両の目を見据えて心の底から訴える。俺の覚悟、皆との誓い、全てを込めて。
「御遣い様……私の真名は桂花と申します。私を正しい道に引き戻してくださった御恩。この桂花、全ての智謀をかけてお返しします。大陸を、御遣い様が統一する為に」
(天の御遣い様……澄み切った目をしているのに全く底が見えなくて、私はこの出会いを感謝します。あぁ、御遣い様)
「桂花。早速だけど、頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
桂花は、嬉しそうに微笑むと。
「何なりとお申し付けくださいませ。御遣い様!」
「では、我が軍の筆頭軍師として、細作や間者等、情報収集の総括をお願いするよ」
「採用されたばかりの私にそんな大役を? ……いえ、御遣い様は、私だから出来ると。そう仰りたいのですね?」
「ああ、さすが俺の桂花だ。陳留の刺史の動向に、特に注意を払っておいてくれるかな? あと孫呉にも……。この二つの地は、特に優秀な者を向かわせてくれ! 予算も、任せた額以内なら、どう使ってもかまわない」
「はい!(俺の桂花って仰って頂けた……はぁ~♪)」
赤い顔の桂花に、予算額を記した書簡を渡す。
「こっ、こんなにですか? 御遣い様。私、感激ですっ! こんなに信頼して頂いて、あんなに無礼な態度をとったのに……。私、……私」
先ほど怒鳴った時でさえ、一粒も涙を流さなかった桂花が泣き始める。
「大陸を統一する苦労に比べたら、なんてことはないだろ? これからは情報こそが最大の武器、そしてそれを使うのは桂花、君だ。桂花にはある程度、北郷軍の闇を任せるかもしれない……。だが必ず俺に相談してくれ。民を導くには、絶対にしてはいけない事もある。難しい役目だが、桂花なら必ず出来る」
「御意! 道を外しそうになる時は、御遣い様がいる。そう信じて力の限り頑張ります!」
元気一杯に返事をする桂花。やる気が漲っているようだ。
「うん。いまから皆に引き会わせるね。おいで桂花、案内するよ」
猫耳軍師を従えて、軍議室へ向かう。
大陸最高クラスの智謀の士、桂花を交えて、これからの方針を話し合う為だ。現在、桂花の為の私室(あまり大層な造りでは怪しまれるので、偽装の為に通路からの見た目は普通と変わらないが、壁をはるかに厚く作り、同じ階の天井裏を全て迷路状に塞いだ上で、対侵入者用の生物(ちび恋による訓練済みの猫)を数匹放つ。……後に、この対侵入者用生物が大手柄をあげるのは別の話……。(呉のSさんとか)
桂花に改装中の私室の説明をしていると、侍女に呼ばせていた皆が揃った。
「ご主人様、例の軍師が見つかったのですね?(荀彧!?)」
愛紗がチラリと俺の横を見て桂花を確認すると、ほんの少し目を見開いた。軽く会釈をして、俺の席の右側の椅子を俺の近くへと引き寄せると着席する。
ナチュラルに寄り添う愛紗が愛しいです!
そんな愛紗を見て、桂花の顔が、ほんの少し引き攣ったのを見てしまった。
「……(なによ、この女。御遣い様に馴れ馴れし過ぎるわ!)」
直後、小さすぎて入ってくるのが見えなかったが、何者かが俺の体をよじ登る。
「……あいしゃにまけた。……つぎ、……れんが、かつ」
あ。多分、俺に呼ばれてどっちが早かったかってことなんだろうなー。
「!?(なんなの! この可愛い生物! 滅茶苦茶撫でたい~~っ)」
桂花の目がほわーんと蕩ける。
次に、麗羽、猪々子、斗詩が入ってくる。その後に続く、高位の文官武官達。
麗羽達は軽く会釈すると、
「ご、ご主人様。……こほん。荀彧さんは見つかりましたのね?」
麗羽が赤い顔で、桂花の事を確認すると、
「あ、麗羽様ぁ。あんなに練習していたのに噛んでますよ~」
チシャ猫みたいな口の猪々子が突っ込みを入れる。
あれ? そういえば昨日の麗羽は、北郷様って俺を呼んでたような?
「だ、黙りなさい! 後でおしおきしますわよ?
(ご主人様のお顔を見たら、昨日のことを思い出して……あー! 顔がまっかっかのかですわ!)」
「もー、文ちゃんたらー。ところで、麗羽様はこの方を知っているんですか?」
斗詩は桂花を見ながら、麗羽に問いかける。
「ええ、知っていますわよ。民達の為に熱心に献策してくれた、将来有望な軍師ですの。私にはもったいないほどの……。でも、ご主人様の下(もと)でなら、その力を充分に揮えるのではないかと思い、ご主人様に推挙したのです」
そう、桂花がこの城にいるからと、軍師に推挙したのは誰あろう麗羽だった。 己の力不足で悩んでいた彼女は、この有望な軍師を腐らせておくのは世の損失と、自分を見限って他に行かせたほうがいいとまで思っていたらしい。
だが昨日、新たに世を救おうと立ち上がった麗羽は、桂花の才を惜しみ俺に任せたのだ。
「荀彧さん。いままで私がしたことは謝ります。貴女という才能を使いこなす自信が無く無為に時を過ごさせてしまいました。ですが、北郷一刀様なら、貴方の王佐の才を十二分に発揮できるはずですわ……。恥を忍んでお頼みします。北郷一刀様の御旗の下、私達に力をお貸しください」
そう言いながら、若い軍師に頭を下げる麗羽。その真剣な容貌はすっきりとしていて、透き通る硝子細工の様に美しいと感じた。
「!? どうかお顔を御上げください袁紹様……。私こそあなたの本心も知らず……無能な君主と、蔑んでおりました。御遣い様に諭されるまで袁紹様を見縊っていたのです。私のほうこそ……っ! よろしくお願いします。それに御遣い様、いえ御主人様の素晴らしさは先程見せて頂きました。袁紹様が躊躇い無く君主の座を譲った潔さ、そして、私の才を見抜いていた慧眼に感服致しました。今までのご無礼をお許しください」
ネコミミフードをすこし深めにかぶって、ほんのりと赤い顔で謝意を示す桂花。猪々子、斗詩も親しげに自己紹介していく。二人の台詞は省略。
「アニキ! そりゃないぜ」
「あぅ」
「私は姓は関、名は羽、字は雲長と申す。別の世界の大陸統一前からご主人様に従う一の家臣! ご主人様がお認めになられたのなら、私は絶対の信頼をあなたに寄せよう。真名は愛紗という、よろしく頼むぞ?」
愛紗の男前な? 名乗りを聞いて、桂花は驚いているようだ……。
「私は姓は荀、名は彧、字は文若と申します。御主人様の下、皆さんと共に力の限り頑張ります。真名は桂花。どうか桂花とお呼びださい」
(そんなに深い関係だったなんて! ……うー、さっき顔は引き攣っていなかったかしら。それに、なんて凛々しい方。御主人様に近い場所に座るのは当然ね)
少し百合っぽいけど。……仲がいいならいいかな。
もそもそと動いた後、俺の頭の上から恋の声が聞こえる。
「……れんはりょふ。けいふぁも……まな、れんて、よんでいい」
「はふぅ! 超越的に可愛い上に、ご挨拶も出来るなんて! 恋、よろしくね!」
「桂花さん。私のことも真名で、麗羽と呼んでいただけますかしら?」
と、麗羽がいつもの調子に戻れば、
「はい、麗羽様っ!」
っと、元気に桂花。完全に仲直りできたみたいだな。やっぱり皆が笑顔でないとね!
「ふふっ。ご主人様はやはり素晴らしいお方です、改めて惚れ直しました」
と、愛紗が微笑む。
「ん? 俺は凄いことは何もしてないぞ、すれ違っていた想いをあるべき姿に戻した。ただそれだけなんだからな」
「安心しました♪」
なに、その笑い? 愛紗?
「さて、進行役は愛紗にしてもらおうと思うんだけど。皆いいかな?」
「「「「「御意!」」」」」 「……んっ」
どうやら愛紗は既に皆から一目おかれてるようだ。昨日来たばっかりなんだけどね?
「では、ご主人様。……始めます」
愛紗が俺を見つめて確認した後、皆を見回す。
「まず、新しい政策と方針について……」
次々と簡潔に説明していく。さすが愛紗、大筋の説明が終わると、
「最後に、今後の我々の役割を……。まず間者や細作等情報の総括を、ご主人様のご希望により、桂花殿にと」
「御意!」
先程、話していたので、桂花が即答する。高位の文官たちによって、どよめく軍議室。既に空気な武官達。
「次に兵達の調練等だが……」
「はいはい! アタイやりたい!」
「……むぅ」
愛紗の発言の途中でわりこむ猪々子。
「猪々子。私に恥をかかす気ですの? 愛紗さんの発言中に割り込むなんて……」
(ご主人様に呆れられたら、どうしてくれますの! この、おばかっ!)
麗羽が目を閉じ、静かに猪々子を叱る。
「っひ! 麗羽様、怖すぎますよ~」
「文ちゃん。積極的なのはいいけど、最後まで聞いてからにしよ? ね?」
すかさず斗詩が声をかければ、
「斗詩ぃ~。わかった! 斗詩が、そう言うなら♪」
文官武官達からも苦笑が聞こえる。 いつ見ても飽きない二人だなぁ。と、俺も苦笑していると、
「ぎぎぎっ」
なぜか、麗羽の視線が絶対零度で猪々子に突き刺さる。
「あー、こほん。それで、だ。我が軍の武力である兵達の数、質、などを考慮した結果、麗羽殿の親衛隊はそれなりだが、その他は再訓練が必要だと判断した。更に、ご主人様が提案された『あめりか海兵隊式訓練法』を、私に実践して欲しいということで、私が受け持つことになった。異論は無いだろうか?」
「異論など、あろうはずがありませんわ。ご主人様の決めたことは、絶対なのですから」
麗羽が、猪々子を始め、文官武官達を睨みつけながら、涼しげに答える。
「御主人様が全幅の信頼を寄せている、愛紗お姉さましか考えられません!」
桂花も同意してくれる。っていうか、……呼び方が少し微妙?
「麗羽殿、桂花殿「桂花とおよびすてください!」桂花、感謝する」
愛紗が、満足そうに頬を緩めるけど……「あめりか海兵隊式訓練法」をまだ説明してないからなぁ…・・・。これで自分の退路を塞いじゃってるんだけど……。ま、いいか。愛紗なら絶対うまくいくだろう。説得は今夜にでも……。
「つぎに、城下の治安を向上させる為、警邏隊を組織するが……。斗詩を補佐にして、統括を麗羽殿にお任せする。構成員は新兵や復帰したばかりの負傷兵、更に民達の有志から編成する。麗羽殿、斗詩、よろしくお願いします」
愛紗が麗羽、斗詩に会釈する。
「この袁本初。必ずや、ご主人様の期待にお答えいたしますわ!(サラリ)」
「姫と一緒に、頑張ります!」
麗羽が、その美しいリッチブロンドに、額の前から指をさし入れて、上に掻き揚げ、同時に首を傾け、そのまま髪を後ろへとかき流す。サラリと流れる煌く金糸が抜群の量感を持って空に舞うと、後を追うように麝香が香りを残しながら元の形へと戻る。
ちなみにいつもの、おーっほっほっほ! てのはやめさせた。個性なんだろうけど。警邏隊であれをやるのはまずいから……なので、かわりに髪を掻き揚げる仕草を追加!
「麗羽。その仕草、様になってるよ。本当に綺麗な髪だね。見惚れたよ。ストレートにしたら、もっと良いんじゃないのかな?」
「(ご主人様に、褒めて頂けた!)す、すとれいと? どういう意味なのでしょう? とっても、とっても、知りたいですわ!」
麗羽が嬉しそうな顔で、ストレートの意味を知りたがるが、
「あー! 麗羽様だって、脱線して「文ちゃん!」むがもぐ(なんだよー。斗詩?)」
「あははー(文ちゃん、空気読みなよ!)」
何か言いかけた猪々子の口を、斗詩が慌てて塞ぐ。麗羽は猪々子を一瞥すると、俺を上目遣いで見つめる。瞬間!?
「かぷっ♪」
愛紗さん。今夜、ちゃんと可愛がってあげるから、我慢してね!(アイコンタクト)
(御意♪)
なにか、別のものでつながっている二人……。忠誠度255(MAX100)は伊達じゃない!
「ストレートっていうのは、まっすぐって意味で、今の巻いてある髪形も綺麗だけど、多分まっすぐにしたほうが、今の素直な麗羽には似合うかなって?」
麗羽は席を立って歩み寄り、俺の左手を両手で握って胸の前で優しく包みこむと、
「ご主人様! その髪型は、紙に描くことは可能でしょうか? もし……宜しければどんな感じなのか参考にしたいのです!」
麗羽は、どうしても知りたいらしい。
「もちろん、この軍議が終わったらすぐ書いてあげるよ」
俺は笑顔で返事する。すると麗羽は俺の手を握っていたことに気がついて、
「あ、ありがとうございます! ……こほん。軍議を続けましょう」
と、慌てて向かいの席に戻る。自分の両手を大切そうに見つめながら……。
さてっと、愛紗、続きを……。
「かぷ♪」「……かぷ」
って、痛ーーっ!
表情は気合で変えず痛みの確認をすると、右側の手は愛紗だよな? 耳は?って、ちび恋ですか! しょうがないので膝に乗せて左手で頭を撫でる。 右手は? 愛紗さんが、離してくれませんよ!
「ふふ♪」
桂花が苦笑しながら左側に席をずらして俺の隣に近づいてくる。
「おかしかったかな?」
と、にこやかに桂花に問えば、
「はい! でも、これが御主人様が目指す理想。なのですよね?」
桂花が嬉しそうに返事をした後、俺に問いかける。ならばと桂花に俺は頷く。
「ああ。俺達の守るべき民達にも、この笑顔を……」
「御意!(あぁ! 眩し過ぎます! 御主人様♪)」
「恋は、ご主人様の警護がてら親衛隊の練兵をしてくれ」
愛紗が気を取り直して司会を続ける。
「……れん、……がんばる。ごしゅじんさまをまもるへい……さいきょーにする」
膝の上のちび恋が、抑揚の無いけれど気持ちのこもった声で返事をする。
そういえば、恋の手勢って超強かったけど如何してだろう……いや、最強の武神が率いてるんだから、士気が上がるのはわかるんだけどね?
「その他の仕事は、ご主人様がこれから行う『大選別』によって選ばれた、文官武官に。後日、ご主人様から振り分けられ」
「ちょっと、まった~」
「む……」
猪々子が、また愛紗の発言に割り込む。
「猪々子。一度ならず二度までも……」
「やだ! ひかない!」
「文ちゃん!」
麗羽は席を立って隣の猪々子を睨み付け、斗詩がその間に割って入る。
「だって、アタイの仕事は? まだ何も言われてないよ? せっかくアニキの為、麗羽様の為に精一杯頑張ろうって!」
「文ちゃん……」
斗詩は、猪々子の名を呟くだけで、何も言えない。心が痛むがこれも覚悟しなければならなかった事。
俺は、俺を信じてくれた人達を信じるだけだ。
「猪々子……。いまのところお前の仕事は無いのだ……。城で待機するか、他の者の仕事を手伝うが良い……」
愛紗が言い難そうに宥めるものの。
「アニキ! うそだよなっ? 大選別って……まさかっ! 麗羽様……っ!」
麗羽に助けを求める猪々子。
「アニキ……。アタイはいらないのか? 確かに敵をぶっ飛ばす事くらいしかできないアタイだけど……。だから? ……だからなのか?」
捨てられた子犬のように俺の瞳の中を探ろうとする猪々子。だから俺は心から念じた。
(流れのままに俺を信じろ)
「~~っ! っく」
悔しそうに俯く猪々子。麗羽も斗詩も、声はかけない。『大選別』その為にも、ここで躓くわけにはいかない。
そして、軍議が全てが終わり皆が解散する中。猪々子は幽鬼のように立ち上がると、ふらふらと部屋を出て行く。
残されたのは静寂。
物語の主役達が立ち去った軍議室で、文官武官達が話し合い始めるのだった。
つづく
おまけ
拠点 愛紗02
南皮城内 一刀私室
深夜
『恋しい想い』
/一刀視点
「~~~っ! ~んぅ」
……更に深夜
「……。~ご主人様! ご主人様! ~~~っ!」
愛紗の切ない嬌声が耳元で心地よく響く。胡坐をかいて座る俺の上に、抱き合う形で体を重ねる愛紗が頂から降りて脱力し、俺の肩にその美しい顔とわずかに柑橘の香る黒髪を寄せる。
肩の上に頬を預けて、ニコリと疲れたように微笑むその容貌は正に妖艶。胸に感じる特盛のふたつのふくらみが、俺達が動くたびに窮屈そうにその形を変え、汗で濡れた長い黒髪を掻き揚げ、首筋に優しく口付けを落とす。
そして、白磁のような細腰を支え、再び愛紗を高みに連れて行くのだった……。
……翌日明け方、少し前
「ご主人様、この『あめりか海兵隊式訓練法』ですが、お約束通り、この愛紗、命に代えても遂行して見せます! ご主人様のご提案されるものは、私が見てきた限り、全てが素晴らしいものでした! ならば、多少の羞恥心等は捨て、ご主人様が満足する形にすることこそ、我が使命だと心得ました」
寝台に横になった俺の隣で、腕枕で寄り添う愛紗。って、書くと、格好良いんだけど。申し訳ない……。愛紗の腕が枕なんだ……そう! 愛紗が、俺の頭を抱え込んでいるって事ね。なので、頬にぽよんと。……イカン、イカン! いまは、賢者タイムだ!
それにしても、さっきまで『やです! 恥ずかしい! 絶対やりません!』って、言ってたのに。まあ、このゲンキンな愛紗が大好物なんだけどね♪
「ご主人様のお考えになったあの合図も素晴らしい! 私は気に入っております。甘えきって腑抜けた私に愛想を尽かされるのでは? と、少し心配ですが……」
笑顔の後、すぐにしゅんとなる愛紗。悪い癖だ。だから質問。
「ねえねえ、愛紗。俺が愛紗に甘えたら、愛紗はどうする?」
少し考え、何も無いのに上方向を見上げ思案する愛紗。
「そう……ですねぇ。甘やかしてしまいそうですっ! ご主人様の笑顔を独り占めできるなら、全てを忘れて、我が全力を持って甘えさせます! ……きっと♪」
そう答えながらとても優しい顔をする愛紗。自分で聞いてなんだけど……超恥ずかしいです! 顔が赤くなっているのが自覚できる程に。
「そっか! ねえ愛紗? 俺も同じ気持ちだよっ! て言ったらわかってくれる?」
愛紗は、目をコレでもか! と、大きく見開いたまま止まり、しばらくたった後。
ボムッ!
自分が言った言葉を改めて思い出したのか、体全体を赤くして、
「あ、あわわっ! はわわ~」
愛紗さん! それ、他の人のセリフですから! 笑いながら顔を見ようとすると、
ガバァッ! ギュゥーーッ!
そのまま、柔らかくって熱いふたつの感触と共に、目の前が真っ暗になりました……気持ち良いけどさすがに眠くなってきた……。
「……愛紗、ねよっか?」
「……はい。少しでも寝ておいたほうが良いかと……」
そう言うと、少し腕の力を緩めてくれる。でも頭に絡みつく腕は離してくれなくて。幸せそうな愛紗の顔は見たいけど、女の子には見せたくない顔もあるんだって俺はもう知っているから……。
愛紗の甘えた顔を思い浮かべながら、その腕の中で意識を手放した……。
/愛紗視点
私の腕の中で眠る愛しい愛しい御方。我が主、北郷一刀様。
その優しさは、身を委ねるのが怖いほど誰よりも深くて……。
その愛は枯れることなくいつまでも湧き出して。
『愛紗が甘えてくれると、嬉しいよ?』
その言葉がこの私にとってどれだけ嬉しいか、あなたは気付かない。嬉しさで蕩けた情けない顔を、ご主人様には見られたくなくて思わず抱き締めた。
「……ん~……愛紗、むにゃむにゃ。少し苦しい……腕を緩めてくれ~」
寝言で文句を言う腕の中のご主人様。
「絶対に離しませんよ……。ご主人様♪ おやすみなさいませ……んっ」
日向の匂いがするご主人様の髪の中に軽い口付けをする。夢の中でも私を感じてくれるのが、なにより嬉しくて。私は、夢より甘い現実を強く強く抱き締めて、幸せの中で眠りについた。
おまけ
拠点 恋02
昼過ぎ 南皮 調練場
『居場所』
/一刀視点
麗羽の元親衛隊が、毅然と整列する中、新たに彼らを率いる存在の登場に、全ての兵が狂喜した。
「ほあぁぁぁああああああああああああああああああーーーーっ!」
それ、違うから!
……
麗羽が、声を高らかに兵達に告げる。
「あなた方は、これから北郷一刀様の身を守る盾として、この呂布将軍の下、その武を更に磨いてもらいますわ! 天の御遣いの盾。その名に恥じない親衛隊を目指し、日々精進なさい! 言っておきますが、私の時とは違い、ご主人様は常に皆の先頭に立たれるお方。少しばかり腕が立つといっても、後方で安穏としていた今までのあなた達では、とても任せられませんわ! 恋さん、挨拶をお願い致します」
ちび恋は俺の肩から降りると、(俺の肩の上は、ちび恋のデフォルト位置です)とてとてと、親衛隊の前に立ち、じっと皆を見つめる。
すると、辺りに強い殺気が漂い始める。恋の後ろにいる俺でさえ足が竦む程の強い殺気。それを正面から受ける兵達の気持ちは、いかほどのものだろうか?
ふと、隣を見れば麗羽が震えている。俺はその肩に優しく手を置く。麗羽が振り返り目が合ってから、その手の親指を立て、自分顔の横に引き寄せる。
所謂(いわゆる)、少し後ろに下がろう! って、合図だ。
(コクン(この雰囲気を壊さないようにしつつ、震える私を気遣う心配り……))
少し顔の赤い麗羽が頷いた後、一緒に離れると、既に親衛隊の半分近くが膝をついていた。
「……れんに、……なれる。……だいじ」
どうやら、この殺気に慣れないと、一緒に戦えない。と、言っているようだ。多分、今出している殺気は敵に対するものじゃないのだろう……。
こんな殺気に慣れたらそれだけで凄いぞ。なるほど!
しばらくすると、へたり込んでいた者達も持ち直して慣れてきたようだ。
「……きょうは、……はじめて。……あしたは、もっとほんき」
ちび恋の声を聞き逃さないようにと、静まり返る調練場。その場を支配する力。英雄、呂布奉先は、どんなに小さくてもその名に恥じない勇姿を俺達に見せつけた。
……
調練がおわり麗羽達と別れた後、城下町を歩いていると、何かを見つけた恋が、肩から降りて袖を引く。しばらくついていくと、肉まんを蒸かす店があった。
右手の人差し指を立て、小さな口の下に当てて小首を傾げるちび恋。
「おじちゃん! 肉まん五つ!」
「あいよっ! 蒸かしたてだよ!」
瞬時に、その行動を理解して注文し、さっと受け取り、一個目を恋に渡す。
「はい、恋」
にぱぁっと、笑顔を咲かせ、早速、頬袋に肉まんを詰め込み始めるちび恋の手をとり、近くの草が生えた場所に並んで腰を下ろす。
多分、ちび恋は、肉まん四個分くらいかな?(満足する量的に)
「……ごしゅじんさまと、……にくまん」
もきゅもきゅと、ゆっくり目に味わっているちび恋。
出会った頃を思い出し、俺は空を眺める。ふたりは言葉なんてなくても、それだけで十分幸せなのだから……。
三個目を食べ終えたちび恋は、四個目に取り掛かる前に、
「……ごしゅじんさまも、……いっしょにたべる」
と、最後の一個を見詰める。
「全部、恋が食べても良いんだよ?」
と、言っても。
「……(フルフル)」
そして、自分の手の四個目の肉まんと、俺の手の中の五個目の肉まんを見て、
「……いっしょにたべると、……おいしい」
そう言って、俺が肉まんを食べるのを、ジーッと待っている。
「~~がぶっ。おいしいね、恋」
そう笑顔を、ちび恋に向ければ。
「……んっ。……ふたりでたべるとおいしい。……あのときも、おいしかった」
それは、出会った時の恋が感じた、初めての感情の始まり。
「……ごしゅじんさまとたべるにくまん、ひとりでたべるより、ずっとずっとおいしい」
本当に嬉しそうに微笑むちび恋を、俺は早すぎないよう遅すぎないよう、肉まんを同じペースで味わいながら、飽きることなく眺めるのだった。
/語り視点
隣に笑顔のご主人様がいる。その事実は今の彼女の一番大切な事で、ちいさな恋がその全てをかけて守りたい、暖かい居場所なのだから……。
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恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・10・30修正。