第2章.反董卓連合編 6話 汜水関攻防(2)
洛陽を進発した馬騰軍は虎牢関にて他の軍と合流し、最終調整の後、汜水関へと向かった。
最終的に総数3万5千、総大将に馬騰、将は呂布、張遼、華雄、馬超、張飛、公孫賛、軍師として鳳統、陳宮からなる攻撃力と機動力に特化した軍となった。
皇帝に馬騰が拝謁してから3日後、汜水関まで20里の地点に到着し、そこに陣を敷くとともに戦場想定地域の最終調査及び汜水関への伝令を出した。
その頃汜水関では、混成軍と一刀達の激戦が続いていた。
初日、2日目と昼間に正攻法で攻めてきた混成軍だが、事前に仕掛けた罠や趙雲、馬岱の奮戦により大損害を出し敗退した。
流石に正攻法では無理と気付いた混成軍は1日おいて軍の再編成を済ませると夜襲をかけてきた。
見張りの油断により城壁上に橋頭堡を作られそうになったが、素焼きの壷での即席の火炎瓶大量投下と火矢により炎の壁を作り後続を遮断するという一刀の策と趙雲、劉備兵達の奮戦により退けることができた。
これに味を占めた混成軍は度々夜襲を仕掛けてきたが、もう見張りも油断しておらず一刀達は危なげなく撃退していた。
開戦から6日目の昼に馬騰よりの伝令が着き準備が整ったことを知ると一刀達は撤退の準備を始め準備が整った部隊から少しずつ静かに撤退していった。
そして連合軍の陣では袁紹が切れかけていた。
「きーーー、たかが関1つ落とすのにどれだけかかってますの!」
陶謙達混成軍の将にしてみれば冗談じゃないという気持ちである。
ろくな攻城兵器も持たず援助もしてもらえない自分達があわやというところまでいったのだ。
それを賞賛されてもおかしくないのに叱責されるとはやってられない状態であった。
実際、曹操や孫策は混成軍にしてはよくやっていると思っていたが巻き込まれてはたまらないとばかり見捨てていた。
「ともかく!明日まで落としなさい。それ以上は待ちません。」
と袁紹がぴしゃりというと軍議は終了となった。
陶謙達混成軍の将が悲壮感を漂わせながら天幕を出て行きその後から曹操、孫策が出て行き自分達の陣へと向かった。
孫策の陣にて
「冥琳、今帰ったわよ。」
孫策が天幕を開けて入ってきたのを認めると周瑜は傍によって告げた。
「明命が帰ってきたわ。」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「どうやら捕まってたらしい。」
「嘘でしょう?あの明命が……ってひょっとしてアレ?」
そこで隅からすごすごと周泰が出てきた。
「はい……申し訳ありません!」
「まあ、無事だったんだからいいけど注意しなさいよ。」
アレとはこれを読んでる方は大体わかってると思いますが「お猫様、もふもふです。」で隙だらけになった周泰を偶然居合わせた馬岱があっさりとっ捕まえたという訳です。
(なぜ汜水関に猫がいるのかということについては食料を鼠等から守る為に連れてきていたということで余り深く追求しないでください。)
「それでどうだったの?」
「はい、汜水関に篭る兵の数は約1万、それを率いる将は趙雲、馬岱、北郷の3名です。」
「北郷は天の御使いで皇帝の使者って言ってた奴で、趙雲ってのは聞いたこと無いけど、馬岱は聞いたことあるわ。ね、冥琳。」
「ああ、菖蒲様のところの将だ。趙雲は私も聞いたことないが……明命、趙雲と北郷のことでわかったことはあるか。」
「はい、趙雲は元義勇軍の大将で今は平原の相の劉備殿のところの将だそうです。槍を獲物としており、戦いぶりを見た限りではかなりの腕のようです。また兵を用いても巧みで堅実。良将だと判断致します。」
劉備の名を聞いて孫策は?を浮かべていたが、周瑜は思い出したようで
「思い出した!確か黄巾党の討伐で活躍していたな。恩賞で何か役職を得たと聞いたが平原の相だったか。」
「ふ~ん、つまり劉備は董卓に付いたという訳ね。で、北郷については?」
「はい、どうやら馬騰殿のところの将のようで汜水関の大将とのことです。唯、本人の武は大したことなく自分の身を守るのが精一杯というところでもっぱら智の方、つまり軍師的立ち位置にいる人物のようです。関の前の罠や仕掛けはこの人物の案だそうです。」
孫策と周瑜はそれを聞いて怪訝な顔になる。
2人とも馬騰とは顔見知りなのであるがその配下に北郷という名の人物がいるというのは、初耳だったからである。聡い周瑜はそのことより北郷は馬騰に仕えてまだまもないのだと推察したがつまりそれは仕えて間もない人物が重要な汜水関の大将に任じられたということであり、馬騰の人となりを知っている周瑜は馬騰がいい加減な人事をするとは思えず北郷に対する警戒を強めた。
「それにしても「天の御遣い」ってなんのことでしょう?」
「天の御遣いね~~。」
「………!雪蓮、前に都辺りで流れていた噂を覚えていないか。流星と共に降り立ち乱世を鎮めるだったと思うが。」
「……あー、そう言えばそんな噂があったわね。でもあの人がそんなもん信じると思う?考えられないわよ。」
「雪蓮、あの方を武辺一辺倒と認識するのは間違ってるぞ。あの方は頭も切れる!明命、それ以外には?」
そう問われると周泰は懐から書簡を取り出し孫策に渡した。
「開放される際にそれを雪蓮様に渡すようにと言付かりました。」
孫策は渡された書簡を開いて読み始めた。
初めはやれやれと言った感じであったが、途中から食い入るように読み出し読み終わると無言で周瑜に書簡を渡した。
「だれから?」
「師匠からよ。」
補足説明です。
原作、史実ともに馬騰と孫堅、孫策が接触したことはなかったはずですが、この物語では過去に馬騰と孫堅は皇甫嵩の旗下で戦ったことがあり、その際孫策ら現在の孫呉中枢は馬騰に大変かわいがられていたという設定になっています。
史実では馬騰は皇甫嵩と戦っており、孫堅は朱儁の旗下で戦ったり辺章や韓遂と戦ったりしてますのでニアミスしていたものと判断しこのような設定を立ててみました。
「ほう?菖蒲様からか。何々……ふふ、あの方らしい……んっ!……う~ん……」
書簡を読み終えた周瑜は書簡を周泰に渡し処分するよう指示し孫策の方を向く。
「雪蓮、菖蒲様は私達が参戦した本当の目的をわかった上で手助けしてくれるようだな。」
「うー、でもあの鬼の掌で踊らされているみたいで釈然としないのよ。」
「別にいいじゃない、袁術の戦力を削ってくれるのだから。我々の目的に合致してるじゃない。」
「うーーー」
「やれやれ。」
……………
その日の夜、陶謙達混成軍は悲壮感を漂わせながら出撃していった。
袁紹からこれが最後と念押しされており上層部は必死だった。
これで失敗すれば今後ろくな場は与えてもらえないのは目に見えており、そうなればこの戦いに参加した意味がなくなるばかりか損害がかなり出ていることより自分の立場がやばくなることがわかっていたからである。
だが兵士達は違っていた。
死傷者は日を追う毎に増えており連戦により疲労の色も濃くなっていた。
その上作戦がうまく行かず先の見えない戦いに士気は下がっていた。
静かに音を立てず関へと近づいていき城壁の下へと到達する。
この時上層部は何か違和感を感じていたがそれが何なのかはわからなかった。
梯子を城壁に立て兵士が登っていく。
そこで上層部は気付いた。
ここまでくれば今までなら関側は気付き迎撃の為、騒然となりかなり騒がしくなるのだが静かだ、静かすぎる。
そう言えば今までは夜襲を警戒する為か夜になると多数の松明で煌々と照らされていたがそれがないことに今更ながら気付いた。
そんなことに気付かないほど彼らは追い詰められていたのである。
大急ぎで兵達を登らせると自分達も登っていった。
城壁を登った陶謙達は松明の火で周りを見たが敵兵らしきものは見えず、他の箇所を調べさせていた兵が戻ってきたがどこにも敵兵はいないとのことであった。
意を決した陶謙達は洛陽側の城壁の下へと降りていった。
しかし下にも敵は居らず無人であった。
なぜかはわからないが汜水関は蛻の殻だったわけである。
何はともあれ汜水関の攻略に成功した陶謙達混成軍は城門を開けるべく兵を城門へと向かわせるのだがすぐ兵が帰ってきた。
聞けば城門は瓦礫の山で封鎖されており開けることができないとのことである。
攻略に成功し安心した陶謙達は暗闇での瓦礫除去作業で兵が怪我することを恐れ、除去作業は明るくなってからにし歩哨を立てて休むことにした。
罠に嵌められたことに気付かず。
………………
明るくなり朝餉を取った混成軍は城門の瓦礫を取り除くべく作業を開始する。
それと同時に袁紹の下へ攻略成功と城門の瓦礫について伝令を送った。
但し、伝令には汜水関が蛻の殻だったことは伏せるように、いかにも激戦を制して攻略したように伝えるよう指示していた。
陶謙達にしてみれば当然である。
無人の汜水関を攻略したと言えばあの袁紹が自分達の功績を認めるとは思えず、そうなれば損ばかりで益が何一つないということになりかねないのだから。
だが図らずも彼らは一刀の策を後押しし自らの運命を決めてしまった。
この時彼らが本当のことを言ってれば曹操陣営の荀彧や孫策陣営の周瑜のような超一流の軍師はいなくとも、顔良やその他の頭が回る人物が袁紹陣営にもいたのだから少なくとも違和感を感じ罠の可能性に思い至ることもあったのだが。
残念ながら彼らのこの後の悲惨な運命は連合の総大将を袁紹に決めた時点で決まっていたのかもしれない。
何はともあれ袁紹は汜水関攻略の功績は認め、城門の瓦礫除去を急ぐよう、そしてそれが終わったら混成軍は2里前方へ前進するよう指示を出した。
袁紹の指示を受けた伝令が戻ってから2刻後、やっと瓦礫除去が終わり城門が開いた。
混成軍は隊列を整えると2里先へと進軍していった。
彼らの終焉の地へと………
<あとがき>
どうもhiroyukiです。
汜水関での戦いは今回で終わりです。
あっさりしているように思われるかもしれませんが一刀にとって汜水関を境にした攻防は時間稼ぎと連合軍の戦力を少しでもいいから削るという意味しかありませんのでこういう形になりました。
いよいよ次回一刀の策が発動し馬騰達が総攻撃に出ます。
第2章のクライマックスというところです。
では次回をお楽しみに・・・
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汜水関での攻防は今回で終わります。
はたして陶謙達混成軍は攻略できるのでしょうか?