No.898476

艦隊 真・恋姫無双 125話目

いたさん

今回はシリアス的にした為、思ったより時間が………

2017-03-24 08:00:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1181   閲覧ユーザー数:1084

【 逆鱗 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

??「…………あはっ、やり過ぎちゃたようですねぇ。 スクープをものに出来ると思ったから、ちょおっと深入りしすぎたようで………」

 

「「「 ──────!? 」」」

 

ーー

 

華琳の言葉により皆が静かになる中、その静寂を破るかのように口を開いた者が居る。 その者の発する呑気な声、些か残念そうな落胆気味の内容からして、華琳でも冥琳でもなく、また一刀でも無い事は明らかだった。

 

────『青葉型 1番艦 重巡洋艦 青葉』が、ボソリと呟いたのだ。

 

『彼女の写した写真が一枚、外に流れれば………現王朝が終わり、一刀による新王朝が始まるかも知れない』

 

そう予想した華琳の言葉に驚愕する者が多い中、当の本人は事の重大さを判っていないかのように発言したのである。 その様子を見た華琳達の空気が一瞬で凍りつくのも、無理はないと言えよう。 

 

だが、はにかみながら上目遣いの視線を一刀へ向ける青葉は、更に発言を続けた。 

 

ーー

 

青葉「成る程、この写真を公表しちゃいますと……司令官が紆余曲折の末に救国の英雄となり、この大陸で新たな国を建国する羽目に陥るという訳ですね。 つまり、新たな『艦』王朝の設立というわけでぇ………」

 

一刀「誰が上手い事を言えっと言ったんだ!?」

 

青葉「─────い、痛ぁっ!? 痛いですよ、司令官っ!!」

 

ーー

 

得意気に語る青葉は急に頭を押さえて、一刀に文句を言い出す。 何故なら、青葉を黙らせる為に、一刀の手刀が青葉の額へと当てたからだ。

 

勿論、青葉が騒ぐ程の威力も無いし、力も込めてなどいない。 寧ろ、一刀が本気で青葉に攻撃しても、全くの無傷だろうが……それは言わぬが花、である。

 

一刀が手刀を放ったのは、青葉への懲罰の意味合いもあるのだが、どちらかと言えば、固まった場の空気を解す事にあった。

 

ーー

 

一刀「俺の下した命令もせず、こんな事をやらかして………罰として写真類を俺の目の前で全部廃棄する事! いいな?」

 

青葉「………了解です。 青葉が千辛万苦を積み重ね、やっとの思いで得た物ですが、この写真は全て処分させて貰います……」

 

一刀「言っておくが写真だけじゃ駄目だぞ! ネガがあると焼き増しの可能性がある。 それと、画像データも含め纏めて全部だ!!」  

 

青葉「な、なんです………と?」

 

ーー

 

その言葉を聞いた青葉の目がクワッと見開くと、信じられぬというような顔を見せ、一刀に詰め寄った。

 

今はデジタルの比率が多いカメラなのだが、青葉は主にフィルムのカメラを好んで使う。 無論、デジタル式も使うのは使うのだが、フィルムにはフィルムの良さ(発色の具合い等)があるので、愛用しているのだ。

 

だが、フィルムは長いコマ割りになって、それぞれに撮影した被写体が写り込んでいるのだが、一本の巻紙状になっているので、その画像だけを消す事が出来ない。 全部が全部、関係ない部分も含め破棄される。

 

つまり、青葉の趣……ゴフン、仕事が半分以上………消滅する事になるだろう。

 

だからこそ、その抵抗は熾烈を極めた。

 

ーー

 

一刀「聞こえなかったか? 全部だ、全部っ!!」

 

青葉「ま、まさか………ネガまでぇ!? 司令官、それだけは、それだけは! どうか勘弁して下さいよっ!!」

 

一刀「いや、そう言うが………青葉の事だから、何かとポロリとやりそうで心配なんだ。 だから、ネガも全部処分すると決めたんだよ!」

 

青葉「お、お言葉ですが、司令官! 青葉は、そんな失敗なんて致しません! これでも、青葉は……あの戦いを最後まで戦い抜いたんですよ!?」

 

ーー

 

一刀の決定は絶対。 

 

それは艦娘にとっては抗う事は許されぬ至上命令だったのだが、青葉は 『退かぬ!媚びぬ!省みぬ!』という南斗の帝王の定理で、この決定を拒もうとした。 逆に言えば、それだけ青葉にとって必死だったということだ。

 

そんな青葉に対して、一刀は………哀しげな顔で何かを呟く。 

 

ーー

 

一刀「そうか。 それなら……??の件を忘れたか?」

 

青葉「───────っ!?」

 

一刀「………??や??…………」

 

青葉「─────!!」ブルブル

 

一刀「そして………??の件も忘れたというのか?」

 

青葉「…………ぅぅぅ………」

 

ーー

 

一刀が一言と喋ると青葉の顔が青ざめた。 

 

二言目には身体がガタガタと震えだし、三言目には涙が溢れた。

 

ーー

 

春蘭「………アイツ、何を言ってるんだ?」

 

華琳「───春蘭、控えなさい」

 

春蘭「か、華琳様っ!?」

 

華琳「私にも意味は理解できない。 だけど、一刀が語る言葉に刻まれしモノは……決して馬鹿にしてはいけない神聖な意味なのよ。 一刀の辛そうな顔が、それをよく……物語っているわ………」

 

ーー

 

一刀が呟く言葉に、若干ながら反応する声が聞こえるが、それは少数。 多くは、その様子を固唾を飲んで見守る。 

 

この大陸の者には判らないだろうが、艦娘達にとっては、物悲しく哀れを誘う名前。 提督諸兄も………青葉に関する艦名と言えば、御存知かと。

 

ーー

 

陸奥「…………あの子達……ね……」

 

瑞穂「……お話は……伺っています。 川内さん達も聞けば……」

 

菊月「…………本人も居るから、聞けば怒るだろう……」

 

ーー

 

その名を持って、青葉の固い決意を砕く北郷一刀であるが、彼にしても辛い事なのは間違いない。

 

既に彼を慕い、力になってくれている者。

 

あの大戦より眠り続け、未だに一刀の下へ着任しない者。

 

そして、自分の言葉で双眸に涙を溜め、今にも大泣きしそうな者も含め、どの者も大切な仲間であり、自分が守らなければと誓う者達だ。

 

だからこそ、一刀は甘さを殺し鬼となりて、青葉に命じる。 

 

あの事件を蒸し返してでも、青葉の持つ『ジョーカー』を捨てさせる為に。

 

ーー

 

一刀「もう一度、言おうか。 『加古』『古鷹』『叢雲』………そして『吹雪』の件を忘れたか? お前の為に轟沈した艦の事を………」

 

青葉「……………ぅぅぅぅ………」

 

一刀「お前だけの努力と奮闘だけではないんだぞ。 お前の行動を正しいと信じて、最後まで戦い抜いた『あの娘達』の思いを……お前は反省も生かせず、同じような道程を……他の仲間達に味あわせるつもりか?」

 

青葉「わ、判りました、判りましたぁ!! ネガも処分しますぅ………司令官の……グス……司令官の目の前で………処分しまふぅ! だから、だからぁ………もうっ! それ以上、言わないで下さいよぉぉぉ!!」

 

一刀「…………すまん……」

 

ーー

 

こうして、一刀の説得により……青葉は王允の写真を全部処分したのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 慰め の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

青葉「…………クスン………クスン………」

 

 

一刀「………………………」

 

ーー

 

青葉は一刀の目の前で、カメラからフィルムを引き出したり、写真を破ったりし、その約束を実行した。 だが、流石に精神負担が大きく、その後は部屋の隅で体育坐りをしながら泣いている状態だ。

 

今回処分した物は、青葉の精神的支えであり、大事な仕事道具の成果である。 例え、自業自得だと理解しても、その成果を自ら台無しにしてしまうのは……かなりキツかったらしい。 

 

処分が終わると、青葉は大泣きしながら壁に寄り………後は、ご覧の通りである。 

 

 

ーー

 

瑞穂「青葉さん……落ち込んでいらっしゃいますね……」 

 

鳳翔「…………………」

 

瑞穂「幾ら説得なさる為と言えど……昔の話を持ち出すなんて。 瑞穂は提督に………些か不信感を抱いてしまいそうになります………」

 

鳳翔「それは、違いますよ」

 

瑞穂「………えっ?」

 

鳳翔「一刀提督は人一倍、私達の損失を嫌がる方です。 それは瑞穂さんも御存じですよね?」

 

瑞穂「は、はいっ! 勿論ですっ!!」

 

鳳翔「青葉さんは提督の命令を拡大解釈して罪を犯しつつ、その事に謝罪のまま有耶無耶にし、更には罰として命じられた証拠品の処分にさえ、抗おうとしました。 これでは、提督の心遣いを無に帰すようなものですよ?」

 

瑞穂「で、ですが……青葉さんにも都合が……おありだと……」 

 

鳳翔「自分だけでは無く、他の仲間をも巻き込む都合が……許されると?」

 

瑞穂「──────!?」

 

鳳翔「…………青葉さんが泣きながら提督に答えた返事の中身、今一度、思案される事ですね。 あの返事の中に……どれ程の悔恨と悲哀があるか、よく考えてみて下さい…………」

 

瑞穂「…………はい」

 

鳳翔「私としては、提督の身が心配なんですよ。 情が深いのは、私達にとって有り難いことですが……されど、提督も責任ある身。 青葉さんを言い聞かせる為とはいえ、御自身をも追い詰めないで頂きたいのですが………」

 

瑞穂「…………………」

 

ーー

ーー

 

菊月「司令官は、いつも気を遣い過ぎているのだ。 部下を叱る時は大声で理路整然と指摘してだな………」

 

如月「じゃあ、菊月ちゃん。 司令官から理路整然に大声で叱られてみる? 『そんな真面目な菊月なんか、大嫌いだぁ!』とか────」

 

菊月「!?!?」

 

如月「な~んちゃっ『………ヒック……』───えっ?」

 

菊月「………………ぅ、ぅぅぅぅ…………」

 

如月「あ、あっ………菊月ちゃん! 如月が悪かったわ、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!! お、お願いだからぁ泣き止んでぇ~!!」

 

ーー

 

そんな青葉を他の艦娘達が見つめるのだが、青葉を心配する者は少ない。 

 

これは別に青葉を蔑んでいるからではなく、これくらいの出来事で、青葉が長く落ち込む筈がないと、ある意味……信頼していたからである。

 

だが、初対面の冥琳や華琳達は違う。 

 

青葉が泣いて離れたという事もあるが、あの甘いと定評がある一刀の毅然とした態度に皆が驚き、また青葉を心配する者も多かったのだ。

 

ーー

 

「「「 ………………………… 」」」

 

冥琳「……北郷……」

 

一刀「全部いわなくても判る。 俺も心配だから……少し席を外すよ」

 

ーー

 

一刀の決断により漢王朝の危機?が去って安心するものの、ああも悲しげな態度を取られると、流石に後ろめたさを感じるのが人情である。 

 

だから、何とかしてくれと目で訴えられ、冥琳からも言葉を濁しつつ頼まれれば、一刀も動かざるえない。 いや、動く口実を貰ったようなものだから、青葉を気にしていた一刀は早急に動き出した。  

 

ーー

 

一刀「青葉の事だが………」

 

飛鷹「提督も心配症ねぇ……ほら、青葉の二つ名って知ってるでしょ? あの『ソロモンの狼』を心配するだけ損じゃない………ほらっ、隼鷹! こっちの艦載機もぉ!!」

 

隼鷹「トホホホ………あっ、提督! 暇なら整備を手伝ってよぉ!」

 

ーー

 

とは言っても、一刀は艦娘の上に立つ者だが、当然ながら艦娘でも無いし、それどころか根本的な性別さえも違う。 これでは、いくら説得しようとも、逆に泣かれてしまうのが、オチである。

 

だから、青葉を説得する為、他の艦娘達へ意見を聞こうと尋ねていた。

 

ーー

 

一刀「見て判るだろう? そんな暇、あるように見えるか?」

 

隼鷹「そうだよね~、あるわけないか~。 だけどさー、青葉の奴も取材、取材って駆けずり回ってたんだよねぇ? 休む間なんてあったけ~?」

 

一刀「俺が命じて………そうか、そのままか……」

 

隼鷹「たまには……よっと! 自分の時間を持たせて……うーん、こうかな? 考えさせるちゅうのもいいんじゃねえ~? うしっ、出来たぁ!」

 

一刀「…………………ありがとう、隼鷹」

 

隼鷹「ふふん、上手くいったらさ……提督とあたし、二人だけ呑もうよ! んん~、あれ? ちょと、主翼……曲がったかな。 まあ、平気、平気っと♪」

 

飛鷹「…………隼鷹、自分の艦載機じゃないからって、適当な整備するんじゃないわよ? もし、不備なんか出したら………ここにある酒、全部没収!!」

 

隼鷹「ご、ごご、ごめんっ!! もう一度やり直すから勘弁してぇ!!」

 

ーー

 

天津風「ふん、みんな………あたしが戻って来たのを知らないんだもの。 な、何よ……何か聞きたい事でも……あぁ、深海棲艦とあたし達の戦いの結果ね? 当然、あたし達の大勝利よ! 轟沈した艦は居ないから安心なさい」 

 

一刀「…………そうかぁ……皆、無事で……」

 

天津風「────な、何よ? 島風より早く帰還してあげたのに、何か文句ある? べ、別に心配だったからじゃなくて……」

 

一刀「いや、無事に帰投してくれたのは嬉しいんだが……青葉の事を聞きたくて………」

 

天津風「……………ふん! あたしに声かけて来るから、どういう風の吹き回しだど思えば。 勝手にすればいいじゃない! もう、知らないわよ!!」

 

一刀「…………ごめん、それじゃ行くよ……」

 

天津風「…………………『Gone With the Wind』……」 

 

一刀「……………えっ?」

 

天津風「貴方やあたしが言って……青葉の苦悩が解決するわけないでしょ? あのまま放って置けば、悩みなんて……いつか風と共に去るわよ」 

 

一刀「………しかし、そのままって言うのは……」

 

天津風「哀しみを癒すのはね………時の経過だけ。 もし、その癒しを早くしたいのなら……当事者が口を出すのは絶対に駄目よ?」

 

一刀「……どうしてだい?」

 

天津風「貴方は青葉の大事な物を壊させた。 それは必要だったからなんでしょ? それが過ちだったとかで、貴方に非があるからと言えば、青葉は怒るわ。 自分の失った物を返せと、怒り狂うのが目に見えるわよ」

 

一刀「………………」

 

天津風「そんなに悩まなくても……大丈夫よ。 あたし達を思いやる貴方になら、必ずいい風が吹くわ。 今できる事を貴方が行えば、必ず青葉を慰める優しき風が………訪れる。 きっと、きっとよ」

 

一刀「……………そうか。 天津風が言うんなら、俺も信じるとするか……」

 

天津風「頑張ってね…………………………あ・な・た……」

 

ーー

 

青葉を慰める方法を探していたのに、逆に聞いた艦娘から慰められる結果となり、一刀は大いに戸惑う羽目になる。 

 

だが、確かに考えれば、昨夜から疲れているであろう冥琳達の疲労を思えば、青葉の事ばかり構ってはいられない。 早く終わらせ、身体を休んで貰わなくては、後々の行動に差し支えるのだ。

 

そう考えた一刀は冥琳達に向かい、説明を継続する意志を固めるのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 横槍 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

冥琳「……………いいのか、青葉殿を放っておいて?」

 

一刀「酷い事をしたと言う自覚はあるが、俺より青葉を知ってる者達から冥琳達を優先するように勧められてね。 ならば、先に俺の方を終わらせ、それから青葉に償いをさせてやろうと思うんだよ」

 

冥琳「……………」

 

一刀「だけど、皆が言うから先に終わらせようという訳じゃない。 この話を早く終わらせ、冥琳や皆と相談して慰めたいって思うよ。 俺の意見や他の仲間達だけでは、絶対に解決できない問題なんだ。 だから────」

 

冥琳「ふふ……ふふふ………」

 

一刀「な、何か……俺、可笑しな事……言ったかい!?」

 

冥琳「…………いや、すまん。 于吉が言った通り、人、年齢、服装、更に世界まで変わったというのに、お前は自身は本当に『北郷一刀』なんだな……と思ったら……ふふふ……笑いが込み上げてきてしまったんだ」

 

一刀「…………ど、どう意味だ?」

 

ーー

 

一刀が説明しようと動くと、待っていたかのように、冥琳が近付き声を掛けて来た。 いや、この場合は待ち構えていたと、言い直した方がいいのだろう。

 

冥琳の顔には、先程まで浮かんでいた厳しい表情はなくなり、まるで昔の知古に逢えたような、優しい笑顔をして一刀に近付くと、すぐに口を開き話し出したのだから。

 

ーー

 

冥琳「私の知る北郷は……はっきりと言えば、甘い男だった。 だか、彼は関わる者、誰に対しても、誠実に対応していたよ。 今の北郷、お前と同じく真摯に、真剣に……物事を解決しようと向き合ってくれたんだ………」

 

一刀「いや、北郷さんに比べれば………あ、いや……」

 

冥琳「ほう? まるで出会った事があるような言い方だが………」

 

一刀「あ、うん………倒れていた時に─────んんっ!?」

 

冥琳「……………北郷……」

 

一刀「~~~~~~!?」

 

ーー

 

一刀は北郷一刀に出会った話を冥琳へ語ろうとするが、冥琳は人さし指をそっと一刀の唇に添えて、その言動を封じ込める。 

 

一刀は、魅力的な女性の指をくっつけられて、少しだが狼狽した。 

 

ーー

 

冥琳「私にだけ内容を語るんじゃない。 他の者達に恨まれてしまうではないか? また、後でいいから、皆と一緒に聞かせてくれ……」

 

一刀「………………ん、んん、プハァー! わ、判った!!」

 

冥琳「ふふふ。 それよりも………あのような状態の青葉殿では、説明が出来にくいだろう。 お前から何を命じたのか説明してくれないか?」

 

一刀「あ、ああ……どのみち、俺が説明するつもりだったんだ。 丁度いいから言わせて貰う。 俺が青葉に命じたのは────『その話、私が代りにさせて頂きましょうか?』───!?」

 

ーー

 

冥琳から促され一刀が語ろうとした時、一刀の横に眼鏡の少年が現れた。

 

白色を基調とした道服、現れたと同時に陽射しか何かで反射光が輝く眼鏡、大して長くない髪を、鬱陶しそうに片手で掻き上げての登場である。

 

ーー

 

「「「 ………………………… 」」」

 

于吉「…………おや? やけに静かですね? 別に私の登場で賞賛の拍手など必要も無いのですが、こうも雰囲気が暗いと葬式会場と間違えて参加したと思ってしまいましたよ。 出来れば、明るく行いたいのですが………」

 

冥琳「───待て! なぜ、孫呉の客将となっている貴様が、この場に現れたのだ? お前は蓮華様達と一緒に居たのでは!?」

 

ーー

 

管理者の一人である于吉の登場に、殆どの者が呆気に取られる。 だが、その中で逸早く正気に戻った冥琳が、自己陶酔している于吉に詰め寄った。

 

何故なら、雪蓮達を連れてくる為に一部の将に留守を任せた。 その中には蓮華や小蓮は当然として星、稟、風、そして于吉の名が入っていたのだ。

 

ーー

 

于吉「御安心下さい。 仕事は傀儡兵に任せていますし、今の孫呉には、私の代りの管理者が向かっています。 何があっても尽く防いでくれる、頼もしい味方ですよ」

 

冥琳「だが…………」

 

于吉「それに………貴女の知古である艦娘達にも援軍を頼み、快く引き受けてくれましたよ。 あの姉妹達に任せれば、寂しくされる事はないでしょう」

 

冥琳「…………な、なんだとっ!?」

 

ーー

 

于吉は冥琳に説明をすると、片手を空中で一捻りすれば、大きな水晶玉を取り出した。 透明な水晶玉に始めは何も映らなかったが、徐々に何かが映り込み画像が鮮明になっていく。

 

そして、冥琳の前に恭しく差し出す頃には……城の庭園で椅子に座り、茶を一人飲んでいる蓮華の姿が映し出されていた。

 

 

ーー

ーー

 

 

《 揚州 会稽郡 孫呉居城 庭園 にて 》

 

 

蓮華「はあ~、姉様達は一刀に逢えたのかしら。 羨まし………ん、んん! 何を惚けているんだ私はっ!? 今は国の柱である姉様達が居ないのに、このような事を! もし……敵が攻めてでもしたら────」

 

兵「─────仲謀様、た、大変です! 長江より謎の集団がっ!!」

 

蓮華「なっ! ほ、本当に来るなんて! あ……そ、そんな事より、ゴホン! 孫仲謀の名において、命じます! 至急、星を呼びに行きなさい! 稟や風にも連絡を忘れないように!!」 

 

兵「────はっ!」

 

蓮華「誰かある! 兵を呼び集め隊を編成せよ! いざとなれば、この私が姉様達の代りに出撃─────」

 

 

 

金剛「Hey、蓮華ぁー! I am so happy to be able to see your face!(あなたの顔が見れて、とても嬉しいデース!)」

 

蓮華「こ、金剛っ!?」

 

 

 

比叡「金剛お姉さまに離されないよう、気合! 入れて! 来ましたぁ!」

 

榛名「お任せください! 孫呉での勝手など! 榛名が! 許しません!」

 

蓮華「ひ、比叡! 榛名も───!!」

 

 

 

 

??「マイク音量、大丈夫ぅ~? チェック、ワァン、ツゥ~……うふっ! はじめましてぇん、わたし~ぃ、霧島よおぉおおおん!!」

 

蓮華「き…………きり………? え、ええぇぇぇぇぇーっ!?!?」

 

 

 

霧島「こらぁーっ! 貂蝉っ!! 選りにも選って! 私の名を騙るのは!! 止めなさぁぁいっっっ!!!」

 

 

ーー

ーー

 

城の庭園に走り込んで来る金剛達、そして………未だに霧島の衣装を身に着けた漢女が………映し出されていた。

 

画像を見せる于吉は、ずれた眼鏡を人さし指で押し直し、水晶玉を食い入るように見ている冥琳、雪蓮、祭へ、誇らしげに語る。

 

ーー

 

于吉「ど~うですかぁ!? これだけの者が居れば、孫呉の守りは鉄璧でしょう! 私などが居なくても大丈夫ですよ!!」

 

冥琳「…………………蓮華様……」ホロリ

 

雪蓮「ねぇねぇ、あの娘達が冥琳の言ってた変な言葉を話す娘なの!?」

 

冥琳「あ、ああ……そうだ、あの方達が金剛姉妹だ。 だが、一人は………」

 

雪蓮「へえ~、面白い娘達じゃないっ!!」

 

祭「ほうほう………于吉ほどの者が認めるだけあるの。 特に四番目の娘は、かなりの腕前じゃのう。 隙が全くと言うほど見当たらぬ、恐るべき武人じゃわい………」

 

ーー

 

自分が居なくても安心できるように、孫呉には手配を廻したと語るが、何故か冥琳はホロリと涙を溢し、雪蓮と祭が目を輝かす。 

 

そんな様子を見て于吉は、冥琳達に向かい改めて口にする。

 

ーー

 

于吉「孫呉は間違いなく安全ですよ。 もし、孫呉の者、老若男女貴賤を問わず誰が傷一つ付こうなら……どうぞ、私の首を差し上げましょう。 ここに居る皆さんが証人です。 これで、御理解をしていただけませんか?」

 

「「「 ………………… 」」」

 

ーー

 

この言葉により納得され、于吉は一刀の側に立ち説明を始めた。

 

 

◆◇◆

 

【 励まし の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

青葉「ぅぅぅ………青葉、司令官に嫌われちゃいましたぁ。 青葉は司令官に喜んで貰えるように頑張ったのに、特ダネ取れたと思ったのに……司令官の馬鹿ぁ……………ぅぅぅ、うわ~ん!!」

 

ーー

 

こちらは、かの渦中に居る青葉である。

 

青葉は一刀の命令により、つい最近まで王允の周辺を監視していた。 これは、王允が情報漏洩先だと考えての行動だった。 

 

だが、意外な事に……王允が内応者だと……決めつけまでしていなかったのだ。 

ーー

 

??「…………」

 

??「…………」

 

ーー

 

何故なら、王允は三公まで昇りつめた、生粋の官僚だからである。 

 

これは、漢王朝という『池の中』では十分に力を発揮できる『大魚』として暮らしていけるが、この池が決壊し大河に流れ込めば、瞬く間に『雑魚』と化し駆逐される運命となる……老いた鯉と似ているのだ。

 

つまり、漢王朝なくしては生きて行けない……老害と言っていいかも知れない人物。 そのような者が、何ゆえ漢王朝を潰す動きをしなければならないのかと、不定する事ができるからである。

 

では、一刀は……王允を監視させながら、何を調べていたのだろうか?

 

その答えを述べる前に………泣いて顔を膝に埋める青葉の傍へ、ユックリと近付く影が現れた。

 

ーー

 

季衣「…………姉ちゃん、元気だしなよ!」

 

青葉「………えっ?」

 

流琉「あ、あの……元気出して下さい! 兄様も……本当は褒めたいって言ってましたから、きっと今回……偶々運が悪かっただけだと思います!」

 

青葉「………………あ、貴女達は?」

 

ーー

 

見知らぬ二人から励ましの言葉を掛けられ、呆気に取られる青葉。 それでも二人……季衣と流琉は話を止めない。

 

季衣は元気いっぱいに、流琉は少し恥ずかしげに自己紹介を行う。

 

ーー

 

季衣「ボクは許仲康って言うんだ! 姓は許、名は緒、字は仲康!」

 

流琉「私は、典韋と。 姓は典、名は韋……です」

 

青葉「きょ、恐縮です。 青葉は……正式名は長いので『青葉』と………」 

 

季衣「青葉ちゃんか。 じゃあ……兄ちゃんの仲間だから、青葉姉ちゃんって呼ばしてもらっていい?」

 

青葉「それは……はい、いいですよぉ。 司令官と同じ敬称なんて~少し恥ずかしいですけど~」

 

流琉「私は……青葉さんと……」

 

青葉「じゃあ、私は許緒ちゃんと典韋ちゃんと………呼ばせて貰います。 でも、何で御二人が……こちらに? 青葉に何か………?」

 

ーー

 

真っ赤にさせた目を見せたくないらしく、伏し目がちで季衣達の様子を窺う。 そんな弱々しい視線で見つめらた二人は、顔を見合わせて『?』の表情をした。

 

ーー

 

季衣「青葉姉ちゃん、ボク達の声……聞こえてた?」

 

流琉「私達は、青葉さんを………励ましに来たんです」

 

青葉「………………へっ?」

 

季衣「だってさ~、青葉姉ちゃんの仲間の人達、誰も慰めに来てくれないじゃんか。 こんなに一人で苦しんでるのに、酷いや!」

 

流琉「兄様も、心配そうに青葉さんを見ていたんですが………立場が立場なんでしょうね。 皆さんと相談して、冥琳さんとの話を継続するようにされたようなんです」

 

ーー

 

二人の言葉を聞いて、青葉は納得したように何回も頷き、最後にはニッコリと微笑んだ。 

 

そして、二人に礼を述べる。 

 

ーー

 

青葉「それで、わざわざ青葉を励ましに来てくれたんですかぁ? ありがとうございます。 いや~、幼い子達に恥ずかしいところ見せちゃいましたね~。 いや~、青葉、汗顔の至りですよ~!」

 

季衣「……………」

 

流琉「……………」

 

ーー

 

笑顔でハッキリと『大丈夫』と答える青葉。 確かに言動もハツラツとしているのでの、あれから立ち直ったように見える。 

 

──────しかし、二人は心配そうに見つめた。

 

ーー

 

青葉「だ、大丈夫ですよ? ほ、ほらぁ……青葉……もう元気───」

 

季衣「……………まだ、泣いてるよ……」

 

流琉「うん、強がり言ってるのが……丸わかりですよ、青葉さん」

 

青葉「…………え、泣いてなんか……」

 

ーー

 

青葉は自分の頬をペタペタと触る。 確かに頬が少し湿っているが、新しい涙は溢れてはいなかった。

 

季衣と流琉は少しだけ苦笑すると、『此処が泣いてる』と自分達の胸を軽く指先で示す。 そして、何故わかるのか……ポツリポツリと話し出した。

 

ーー

 

季衣「桂花ちゃんと……同じなんだ……」

 

青葉「…………?」 

 

季衣「兄ちゃんが天に戻った後、昼は空元気を出して兄ちゃんを馬鹿にしてたけど、夜になると兄ちゃんの部屋で泣きながら謝る桂花ちゃんと……全く同じなんだよ。 青葉姉ちゃんの、今の顔と……」

 

青葉「……そ、そんな………訳……」 

 

流琉「青葉さん、私達を見た目で判断しないで下さい。 これでも、一度は生を全うした身なんです。 人生の喜怒哀楽を見てきた私達は、貴女の薄く張り付けた仮面ぐらい……簡単に見抜く事が出来るんですから………」

 

青葉「………………」

 

季衣「ボク達も判るんだ。 兄ちゃんが……あの日、城から居なくなった時、どれだけ悲しくて泣いたか。 兄ちゃんの苦しみを知らずに、我が儘を言って困らせたボク達自身、どれだけ後悔したか……判んないほど……」

 

流琉「だから……兄様と接する事ができる青葉さんには、後悔して貰いたくないんです! もう、私達とは……立場が違う人に………なってしまったから!」

 

青葉「……………」

 

ーー

 

そう言って、二人は俯き………床に涙が数粒……落ちる。 

 

先の説明と二人の涙で、青葉の頭に漸く(ようやく)合点がいった。

 

桂花と同じように記憶を持ち、前の世界の後悔を担い、また再び逢えた華琳へ仕える事になった二人。 しかし、天の御遣いとして一刀が再度現れたと聞いて喜んだのも束の間、今では益州州牧という高位の身。

 

昔のように軽々接する事が出来ないから、近習に近い青葉には、自分達のように後悔してほしくない。 その為に華琳達の傍を離れ青葉へ近付き、励ましと警告を告げたという訳である。

 

自分と同じく、一度は身体を還した身の上なのに、こうも心配してくれる二人に好感を持った。 いや、自分以上に辛い物を背負っているのに、尚も他人を励ましに来たという二人に対して、申し訳なく感じる。

 

元より……青葉とて大破や着底を繰り返しながら、何度も前線に向かったのは護る者が居るからという義務感、不屈不撓の取材魂……いや、野次馬根性、いやいやいや……つまり、凄絶なる七生報国の誠心である。

 

それに、青葉だけ除け者にされるのは……甚だ不快だった。 何に対して……などを問うのは野暮な話だ。

 

それを再び思い出した青葉が、ここに留まる理由は無い。

 

ーー

 

青葉「…………そうですか。 先人達に諭されるなんて、青葉もまだまだ未熟ですねぇ。 みんなが轟沈する中、呉で最後を迎えるほど粘った青葉なのに……判りましたっ! まだ、青葉は……じっとなんてしてられません!」

 

季衣「良かった………頑張って、青葉姉ちゃん!」

 

流琉「頑張って下さい! 私達、二人の分まで………」

 

ーー

 

こうして、青葉は気持ちを持ち直し一刀達の方へ向かう。 二人は嬉しそうに頬笑むが、やはり影が濃かった。

 

そんな二人に、青葉は近付いて────

 

ーー

 

青葉「御二人には世話になりましたから、特別に情報をお教えしたいとおもうんです。 ………どうですかぁ? 聞きたいです?」

 

季衣「聞きた────んぐぅ!?」

 

流琉「そんな! わ、悪いですよ! そんなつもりじゃ………」

 

青葉「司令官に関する情報なんですよ。 きっと喜んでくれる……いい情報なんですけどぉ? 気になるんですかぁ?」

 

「「 ……………… 」」コクッ

 

ーー

 

二人は黙って頷くのを見て、青葉はニッコリと笑うと……小さく囁いた。

 

ーー

 

青葉「司令官は………近い内に益州州牧の地位を……移譲させます。 つまり……無官になるって、ところですねぇ」

 

季衣「兄ちゃんが────!?」

 

流琉「そ、それじゃ────」

 

青葉「司令官は………その後、どう動くおつもりかは判りませんが、とりあえず根無草になるので、どこかの諸侯に行くかも知れませんよぉ? もし、御二人の下に行ければ……是非、青葉をよろしくです!!」 

 

季衣「青葉姉ちゃん───ボクの真名は『季衣』! この真名を預けるから、今度は季衣って呼んでよ!!」

 

流琉「わ、私も真名を預けます! 『流琉』と言いますから、今度は流琉と呼んで下さいっ!」

 

青葉「御二人とも恐縮です! 青葉の正式名は『青葉型 1番艦 重巡洋艦 青葉』と! 長いですので青葉のままでいいですからねぇ! それじゃ、失礼します!! ────季衣さん! 流琉さん!」

 

季衣「さん付けなんて恥ずかしいよぉ、季衣だけでいいから!!」

 

流琉「私も季衣と同じでお願いします!」

 

青葉「────了解です、季衣! 流琉!」

 

ーー

 

こうして、青葉は季衣達の手助けにより、艦隊へと合流する事ができたのである。

 

 

 

 

それから後、青葉の艦隊新聞へ『美味しい店の紹介』なる欄が登場し、空母達から好評を博して、その売上を大きく伸ばす。 

 

それと同時に『今週のレシピ』なる欄も登場し、こちらも鳳翔が唸り瑞穂が

学び始める程の人気となり、より一層の販売に貢献するのだった。

 

 

 

また、何故か季衣と流琉の下に大陸での情報が集るようになる。 

 

その情報は、ガセネタも幾つか含まれていたが、桂花の情報と合わせる事により精度を増し、華琳の覇道への大いに助けとなった。 

 

中には、一刀のスキャンダルも幾つか入り、華琳や桂花達をやきもきさせる事があったとも。 

 

この情報の提供者は………季衣達に世話になった、あの艦娘である。

 

 

こうして───昨夜の戦い、または一刀の知らないところでの交流により、それぞれが接触、迂曲曲折の末に、また一つ……大切な絆が生まれたようである。 

 

不思議にも、あの先に訪れた天の御遣いのように……徐々に、そして強固に、北郷一刀を中心とした絆を────

 

 

 

 


 
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