今、城の衆議場に机の上の1通の書状が置かれていた。
その周りに一刀たちが座っているが、その表情は何とも言えない表情を浮かべ困惑している様でもあった。
洛陽から来た使者は現在この場にはおらず城の控え室で待たせているので、本来ならある程度遠慮なく議論になるはずだが書状の書かれている内容が重大過ぎて皆、無言であった。
書かれていた書状には、漢との和睦について書かれていたのであるが、一番問題であるのが何と現皇帝劉宏の次女である劉協を一刀の妃として差し出すという事であった。
確かに先の戦いで一刀たち率いる維新軍が勝利はしたものの、国力の差で言えばまだまだ開きがある。漢が国の総力を挙げて涼州制圧に掛かれば正直どこまで持つか分からない状態。それなのに何故漢は劉協を差し出してまで一刀たちとの和睦を選択したのか、漢の意図が読めなかった。
「劉協様を嫁に差し出すと言って、それが替え玉で実はご主人様の暗殺を狙ってんじゃないのか?」
「翠、それは今回については可能性が低いと思いますわ」
「どうしてそんな事が分かるんだよ」
翠が何とか考え出した意見に真里はあっさりと否定する。
「もし一刀様という『天の御遣い』が1人であれば、翠の言う通り暗殺という強行手段を取る可能性があり得ますが、ただこちらには一刀様以外にも紫苑さんと璃々の『天の御遣い』がいます。もし向こうが暗殺という姑息な手段を取って仮に成功したとしても、その場合私たちは紫苑さんを立てて私たちは戦いを続けることになるでしょう。そうしたら私たちか漢が滅びるまで戦いが終わらない事となりますし、それにそんな手を打てば今、中原で反乱を起こしている黄巾党と挟撃される可能性があるから、現状ではそんな無謀な事をしないわよ」
「じゃ何故、向こうは劉協様を差し出してまで和睦を求めたの?」
「その理由が分からないから、皆こうして悩んでいるのでしょう!」
蒼の繰り返しの質問に鶸が怒りながら突っ込みを入れる。
「正直、向こうの意図が分からないけど…碧さん、劉協様がどのような人物なのか教えてくれませんか?」
一刀も相手の意図が分からないので、まずはこちらへ来ると思われる劉協がどのような人物であるか多少中央の情報を持っていた碧から聞くことにした。
「そうね…私も2、3度それもほんの少しだけ謁見したことがないから詳しい事が分からないけど、正直生まれたところが悪かったと言えるわ。劉協様は今の皇帝の次女として生まれたけど、生まれてしばらくして義母の何太后に実母が殺されたわ。殺した理由は自分の子の劉弁を皇位に付ける時に邪魔になるからまずは先手を打った形よ」
「仮にも同じ妃を殺した事を激怒した皇帝は何太后を排除しようとしたけど、何進や宦官の張譲たちの助命もあり命が救われ、そして皇帝陛下は劉協様が再び何太后の手に掛からない様、祖母のところに預けられ育てられているけど、一部の者を除いて何太后に目に付くことを恐れ劉協様には近付こうとしない状況よ」
「うわ…それ完全に毒婦だよ…」
碧の説明を聞いて璃々が渋い表情しながら何太后の文句を言う。
「でも…そんな状況じゃ劉協様いつ殺されてもおかしくないよね…」
劉協の境遇を聞いて蒼が心配そうな表情を見せる。
「そんな他の事を心配している場合じゃないでしょう。それでこの話を受けるの、それによって私たちの動きも大きく変わってくるわ。時と場合によれば私たちとの同盟も考えさせて貰うかもしれないわ」
そう発言したのは今回特別に会議に加わっていた孫策であった。もし一刀が今回劉協を受け入れる話なれば、必然的に孫家が漢を出し抜いて独自行動を取った事がばれる可能性が高い。そうなると勝手な行動で一刀と同盟を結んだ孫堅に対して漢は何らかの報復があるかもしれないが、ただ孫堅の性格上、一度言い出した事を撤回する様な性格でも無いので、既に進めている同盟の話を今更覆す事をするつもりはない。しかしこの話を通じて一刀の器を見てみたいという気持ちがあったので敢えて孫策は同盟破棄を匂わせる様な発言をした。
「ではこの話を断れと言うの貴女は」
そう言って凄んで見せるのは碧であった。孫策の言い方は自分たちで同盟の話を持ちこんで一方的に同盟破棄を匂わせる様な言い分に碧は腹を立てていた。
「まあ碧さん、そう腹を立てないで。孫策さんの言い分も分かりますが、まずはご主人様の考えを伺いましょう」
ここは紫苑が仲裁に入り、一刀の考えを聞く事にする。
「俺はこの話を受けようと考えている。今の戦力では地の利を生かして敵を撃退する事はできても遠征するには力が足りない。ここは同盟を結んで力を蓄えるのが一番だと思う。それに劉協様の話を聞いて、このままじゃ彼女は何太后に殺されてしまう、妃とか云々では無くまずは彼女を助けないと」
「へぇ…話を受けるつもりなんだ。じゃ一つ聞くけど、もし向こうが盟を破ってこっちに攻めてきた場合、貴方劉協様を斬るの?」
「斬る?彼女は親の愛情も知らずにそして継母に命を狙われここに来るんだぞ!例え漢が攻めてきても彼女を斬る必要はないだろう!!」
「甘い!甘いわ。そんな弱気で甘い態度じゃ他国から舐められるわよ」
「ちょっとご主人様!孫策さん!二人とも落ち着いて!まだ劉協様が来てもいない状態で口論しても仕方がないでしょう!!」
璃々から指摘されると漸く二人にも漸く冷静さが戻り、
「済まない孫策さん。ちょっと興奮してしまって、もし仮にそんな状況になったとしても俺は人質を斬らないよ。人質が斬れば物事が解決する訳ではないだろう。だから俺は斬らない。……ちょっと頭冷やしてくるよ」
一刀は孫策に謝罪して席を外した。
一刀の話を聞いて孫策は
「分からない。あの男の考えが全く判らない。国や君主と言うのは舐められたら終わりよ。あんな甘い考えじゃ何れ滅ぼされるのがオチよ。ねぇ貴女達は何であんな男に付いているの、貴女達の器量だったら貴方達が上に立った方がいいんじゃないかしら」
「そうね…何故私たちがご主人様に付いて行っているのか理解しなくてもいいんじゃないですか。ただ言えることは私たちよりご主人様の方が人として全てに魅力があり、万人の上に立つ事ができる人物だと言っておきますわ」
「そうそう別に孫策さんに無理して理解して貰おうと思ってないから、と言うか寧ろ分かって貰えない方がいいかな。好敵手が少ない方がいいから」
孫策は一刀は上に立つ器ではないと告げたが、逆に紫苑と璃々から逆に見る目が無いと思わぬ返答を受けてしまう。
「何よ、それ!!」
孫策は怒るが、これ以上部外者として話の邪魔をするのであれば退出して貰うと真里に告げられると後は情報収集のため静かに黙って話を聞いていたのであった。
取りあえずは一刀の意見を尊重して話を受けることとなり、漢の使者に承諾の回答をしたのであった。
部屋で頭を冷やしていた一刀の元に紫苑と璃々が現れ、一刀が部屋を立ち去る前に言った様に和睦を承諾する事を説明したが、話を聞いても一刀の表情はすぐれなかった。
「なあ紫苑、俺の考えは甘いかな」
先程、孫策から言われた君主としての考え等が甘いと指摘された事について一刀は気にしている様であったが、紫苑は首を横に振り
「ご主人様は今のまま皆の事を考えてくれるのがいいんですよ。だからこそ私たちは皆、ご主人様に付いてあの乱世で統一を果たしたではないですか、違いますか」
紫苑は、今は無き前回の外史で一刀の優しさや人柄に惚れて付き添った愛紗や鈴々、星などの事を思い出し、敢えて「私たち」という言葉を使った。一刀が自分を否定してしまえば、今はもう会えなくなった愛紗たちの事が無になってしまう気がして、後を託された様な立場になった紫苑とすれば彼女ら顔向けできなくなるような気がした。
「ご主人様、確かに孫策さんが言われた様な考えもあります。しかしあの外史でご主人様は曹操や孫権に打ち勝ったではないですか。ご主人様、もう少し自分に自信を持って下さい」
紫苑からそう言われる一刀はしばらく無言であったが
「そうだよな…俺がここで自信を無くしてしまったら、今まで俺に付いてきた皆に申し訳ないよな。紫苑、おかげで目が覚めたよ」
「良かったよ、ご主人様。もし劉協様の話を聞いて何も感じていなかったら、私、ご主人様嫌いになっていたかも」
璃々がおどけた様に言っているが、内心は一刀が劉協の事を引き受けてくれてホッとしていた。自分が劉協と同じ様な立場だったら耐えられるかどうか分からないし、宮廷という魔の巣窟みたいな場所で親の愛情をほとんど知らない劉協に璃々は知らないうちに同情し、何とか助けて上げたいという姉の様な目線になっていたかもしれない。
「でも向こうの条件は婚姻が条件だったがあれで良かったのか?」
「ご主人様、私や璃々も乱世の世界で生まれた女です。今更女性の一人や二人増える事で目くじらを立てたりは致しません」
「そうそうご主人様が劉協様を娶るという事はもしかしてご主人様、幼児趣味?今から考えると私よく無事だったな~」
「ちょっと待て、璃々。お前が子供の頃に手を出した覚えは無いし、それに途中からはお前の方から誘惑して来ただろうが、あれを耐えるのにどれだけ気力がいったか…」
「あっ…なるほど」
「お母さん、なるほどって。何か分かったの」
「璃々、ご主人様は偶に夜が激しい時があったのよ。もう私が負けそうになる時が」
ここまで話をすれば、元々「性欲の塊」と呼ばれた紫苑の娘でもある璃々。ここまで聞けば話が早い。璃々の色仕掛けに辛うじて堪えた一刀は夜、紫苑を攻めたてるくらい激しい一晩を過ごした事があることを暗に説明を受けると
「へぇ…ご主人様、私の誘惑我慢してたんだ。それだったらもう問題ないよね」
璃々が極上の笑顔を浮かべて、一刀に迫る。もう既に一刀と璃々は結ばれているし今更我慢することは何もないのだから
「えぇ……いや璃々……だから……その……えぇい!」
既に発情して出来上がっている璃々を見て、身の危険を感じた一刀は、三十六計よろしく逃げようと部屋の扉に向かって駆け出したが―――その先には、紫苑が舌舐め摺りをして立ちはだかっていた。
「ご主人様、どこに行くおつもりですか?」
「げぇ!?紫苑!!」
扉の前に笑みを浮かべながら仁王立ちして待ち構えていた紫苑は、扉に突っ込んで来た一刀の腕を掴んで勢いのままに半反転させ、その勢いでそのまま一刀を寝台に投げ出し璃々と二人で一刀を囲む。
「ご主人様、今夜は眠れないからね」
「あらあら璃々も言うようになったわね♪。お手並み拝見させて貰うわ」
二人はそう言いながら一刀を攻め立てる。
「ちょっと待て!本当に璃々脱がすな!?いや、紫苑助けて、いや勘弁してく……ア―――ッ!?」
次の日の朝。自室の寝台で干乾びた様な姿を発見された一刀は、発見者である鶸に「今、助けてくれた君が女神に見える」と言う謎の言葉を残し完全に意識を失ったが、この言葉を聞いた鶸が新たな問題を起こすのは、また別の話である。
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久しぶりの投稿です。
この間に風邪を2回引いたりして散々な目に遭っていましたが、漸く投稿できました。ただ話の最後の方はかなり脱線して璃々が少々はっちゃけています。
それでも良ければ読んで下さい。
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