No.89013

真・魏ルートIF ~4

θさん

四話目です。
華琳の保護を受けた一刀の生活風景と華琳の試験。

できればおつきあいください。

2009-08-09 23:44:31 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10765   閲覧ユーザー数:7191

「ふっ・・・・・・太陽がまぶしいぜ」

 

 一刀は空を仰いでいた。

 体中あちこちが悲鳴を上げている。

 正直、立ち上げるのもだるい。まるでフルマラソンを完走した後のようだ。・・・・・・まぁ完走したことなど無いわけだが。

 

「だらしがないぞ北郷。貴様の実力はその程度ではないだろう!」

「だから、春蘭も華琳も俺を過大評価しすぎだって言ってるんだよ! こちとらたただの学生だって!」

「ええい五月蠅い! 不意を突いたとはいえ私を倒したのだ! これくらいの訓練でへばってどうする!」

「あれのどこが普通だ! これが訓練じゃなきゃ七回は殺されていたぞ!」

 

 口げんかを始めた一刀と春蘭。周りの訓練兵は止めようにも怖くて何もできずにオロオロするばかり。

 一刀と春蘭の訓練、今回は周りの兵が見守る中模擬戦を行ったのだが・・・・・・結果は言わずもがな、一刀が一方的にしばきたおされた。普通に戦えばこんなものである。

 

「しかし、今回はそれなりに持ったではないか」

「それなりに鍛えはしているからな・・・・・・」

 

 一刀が曹操――華琳に保護されてから約二週間ほどたつ。

 一応客人として迎えられた一刀は初日と次の日にたっぷりと休養を取り、三日目に今後について華琳に話した。

 働かぬ者食うべからず――客人としてタダ飯を食らうのはよろしくないと考えた一刀は、何か出来ることは無いかと華琳に尋ねた。

 華琳は自分から言い出たその殊勝な態度に感心し、望み通り何か雑務を与えようとしたところで問題が発覚。一刀はこちらの文字が読めなかったのだ。

 読み書きについては追々考えるとして、時間を持て余しているのなら兵の訓練にでも参加してみてはどうかと提案され、一刀はそれに従うことにした。

 

 そうして訓練場にやってきた一刀の姿を見て兵達が騒ぎ出す。

 あの夏候惇に勝った天の御使い・・・・・・と、憧れの眼差しで見つめられたじろぐ一刀。

 街中であれだけのことをやったのだ、三日もすれば噂もかなり広まっていて、中には一刀のことを半場心酔する者まで出てくるしまつ。

 そんな中、少々の居心地の悪さを感じながらも隅っこで腕立てや走り込みをして体を動かしていた。剣などは振るわない。そもそも、一刀に親しみのある日本刀とこの世界の剣は全然違うのだ。今更そんな剣を持ちたくは無かったので、あくまで基礎体力作りに努めた。

 兵達の視線に気づかないふりをし、ほんのストレッチ感覚で。元々体を動かすのは好きな方だし、気晴らしにもなるので丁度良かった。 

 段々と汗をかき、体も温まってきた。そんなタイミングで春蘭は訓練場にやってきた。

 

 一刀の姿を見ると強引に木剣を持たせ、無理矢理に模擬戦を開始。

 結果は一刀の瞬殺。

 一合で衝撃を殺せずに吹き飛ばされノックアウト。本来、一刀と春蘭が戦えばこういう事になるほうが自然だ。

 それ以来一刀は毎日訓練場に通い鍛錬している。当面の目標は春蘭に一撃入れることだ。

 兵達からは軽蔑されると思ったが、そんな事は無かった。

 不様に吹き飛ばされる所を見、逆に親近感が沸いたらしい。

 

「いやいや、北郷様の成長には目を見張るものがあるな・・・・・・」

「たったの二週間で夏候惇様とここまで打ち合えるとは」

「さすがは天の御使い様だ!」

 

 春蘭は全然本気では無かったとはいえ、全力で手を抜いていたわけでもない。

 一騎当千の春蘭が手を抜いたところで並の者は敵わない。この場の兵士の誰もが遠く及ばない、そのような高見に春蘭はいる。

 その手加減している春蘭に一撃の下に吹き飛ばされたのが二週間前の一刀。しかし、今の一刀はまがりなりにも春蘭と打ち合えていた。

 手も足も出なかった状態から一合、また一合と受ける回数が増えていき、隙あれば反撃を試みるまでになっていた。

 攻撃を耐え、受け流し、避け、予測し、次の一撃に備える。

 祖父となら勝てないにしてもギリギリの戦いをすることができる一刀だが、春蘭相手ではそうはいかない。防御に徹していても、嵐のような剣戟に耐えられず崩れる。

 しかし、一刀は模擬戦をする回数に比例して耐える時間が長くなっていった。兵士の言うことは嘘ではない、成長スピードが半端じゃないのだ。

 

「ふふ・・・・・・お疲れ様、二人とも」

 

 見学していた秋蘭がねぎらいの言葉をかける。

 

「今回もボロボロだったよ・・・・・・」

「いや、北郷はよくやったさ。相手は姉者なんだ、ここまで上手く打ち合えるなら誇ってもいい。並の雑兵じゃもう相手にならないさ」

「そうだとも、胸を張るが良いぞ北郷!」

 

 たった今一刀をしばきたおした春蘭は満面の笑みだ。

 一刀でストレスを発散したのではなく、一刀の成長が嬉しいのだ。

 ここ二週間、春蘭の毎日は充実していた。それは一刀がいたからだ。

 まるで布が水を吸うかのごとく成長していく一刀。未だ己には遠く及ばない脆弱な武だが、春蘭は一刀に才を見いだした。天賦の才ではないかもしれない。が、一般人のそれを凌駕する戦いのセンスが一刀にはある。その証拠に一回目の一方的な手合わせの時に受けきれなかった一撃を、休む間も無く(強制的に)始めた手合わせの時には完全に受けきった。

 その時、春蘭の背筋に稲妻が走った。受けきらない、また不様に吹き飛ばされると確信していた一撃を受けた、受けきった。春蘭の一撃はまぐれで受けきるほど優しくはない。すなわち、まぐれではない、見切ったのだ。まぁその後にボコボコにされたわけだが・・・・・・。

 

「次の手合わせが楽しみだな北郷!」

「勘弁してくれよ・・・・・・」

 

 春蘭は楽しい。この未熟な武がどこまで伸びるか、伸ばせることができるか。

 一刀の急成長は何も一刀の力だけじゃない。それは春蘭がまるで稽古を付けるかのように一刀と手合わせしていたからに他ならない。

 圧倒的な力で瞬殺するのではく力をセーブし、一刀に合わせて戦い一刀の成長を促していった。

 一刀もそのことには気づいている。祖父との手合わせがそれと全く同じだったからだ。

 いわば春蘭にとって一刀は一番弟子、一刀にとって春蘭は二番目の師匠になる。

 春蘭はこんな師弟のような関係が心地よかったのだ。自分が教示する者がどんどん成長していく・・・・・・これは、春蘭が初めて感じる喜びだった。

 

「じゃあ北郷、次は私と勉強だな」

「ああ、よろしく・・・・・・」

 

 一刀は秋蘭に文字を習っている。秋蘭の指導は中々に上手く、ある程度の文字は既に読み書き出来るようになっていた。・・・・・・日本で言う小学校低学年程度だが。

 

「では私は兵の訓練に戻るとするか。よし! 整列!」

 春蘭の一声で手合わせを見ていた兵達が一瞬で整列する。よく訓練されたいい兵達だ。

 

「春蘭」

「ん? なんだ北郷」

 

 額から汗を流しつつ春蘭に声をかける。ちなみに春蘭は汗などかいてはいない。

 

「ありがとうございました!」

 

 腰を折り頭を下げる一刀。

 

「・・・・・・ああ! お疲れ様、北郷!」

 

 自然と春蘭の顔が綻んだ。

 

 

 

「よし、今日の所はここまでにしておこうか。覚えが良いな、私も教えがいがあるよ」

「ありがとう秋蘭。教師がいいからね、俺が特別すごいってわけじゃないさ」

 

 勉強を終えた一刀は大きく伸びをする。一刀は本来学生だが、基本的に勉強は嫌いだ。

 この世界に迷い込んで二週間、一刀にとって充実した毎日だった。春蘭との訓練は体の芯から熱くなったし、嫌いな勉強も教師が格別の美人となれば話も違ってくる。

 

「いや、謙遜するな。北郷にとってはこちらの文字は全く未知のものなのだろう? それをこの短帰還でここまでものにしたんだ、もっと誇っても良いだろう」

 

 優雅にお茶を一口飲む秋蘭。勉強会の終わりにはこうして秋蘭がお茶を入れてくれる。一刀にとって楽しみなイベントの一つだ。

 

「いや、それがそうでもないんだよな。俺の国・・・・・・秋蘭達にとっては天の国になるのかな? ここの文字も使うんだよ、全く同じというわけではないし、使い方も違うんだけどさ」

「ふむ・・・・・・というと?」

「俺の国じゃあ漢字以外にも平仮名と片仮名というものも使ってさ」

 一刀は筆をとると紙にさらさらと平仮名と片仮名を五十音順に書いていった。

「ちなみに俺の名前を漢字で書くとこう、片仮名と平仮名だとこうだな」

「むむむ・・・・・・複雑なのだな天の文字は」

 

 難しい顔をして唸る秋蘭。彼女にとっては本当に未知の文字なのだ。おそらく天の文字と説明されていなければ落書きに見えていただろう。

 

「結構俺の国の文字や表現方法は難しいって言われているしね。まぁ俺にとっては英語やアラビアやハングル文字の方がわけわかんないけどさ」

「なんなのだそれは?」

「天にある国も一つじゃないってことさ」

 

 こんな二人の会話を終わらせたのは聞こえてくるノックの音。

 秋蘭の入れと言う声に返事をし扉を開いたのは一人の兵士だった。

 

「どうした、何か急用か?」

「はっ、妙才様に北郷様のお二方、曹操様がお呼びですので至急謁見の間にお出でいただきたいのですが」

 びしっと敬礼しはきはきとした言葉で喋るまだ年若い兵士だった。しかしいささか緊張気味なようだ。

「元譲様は既に向かわれております」

「姉者もか・・・・・・わかった。ごくろう、さがっていいぞ」

 兵士は短く返事をし、きびきびとした動作で部屋を後にした。春蘭によく鍛えられているらしい。

 

「華琳が? 何のようだろう?」

 一刀は曹孟徳の事を華琳と呼ぶ。会った頃のように曹操様と呼ばず、真名を呼ぶことを許されている。

 一刀は保護を求めた時に一般兵や町民、悪くて捕虜の扱いになると覚悟していたのだが、実際の所は破格の扱いと言って良いほどに待遇が良かった。上位の客賓として城内に個室を与えられ、望む品があればある程度は用意してくれたし、侍女を付けるまでと徹底していた(さすがに侍女は断った)

 それだけに留まらず、華琳の側近である春蘭秋蘭の姉妹と同程度の立場をも与えられているのだ。流石に夏候姉妹ほどの信や指揮や命令の権利などは持ってはいないが、華琳に意見することを許されている。基本的に華琳は男をそばに置いておかないということを城内の誰もが知っている。その華琳が側に置き、あまつさえ真名を許している北郷一刀という存在はこの二週間で想像以上に大きく成っていた。

 簡単な話、一般男子兵の諸君の憧れの的となっているのだが、本人はそんな事は知らない。

 

「行ってみれば分かるさ。行こうか、北郷」

「ああ。でも何で俺まで呼ぶのかな?」

「ふふ・・・・・・それだけ華琳様に買われているということだよ」

 

 秋蘭の言葉に苦笑する一刀だった。

 

 

 

「よくきてくれたわね三人とも」

 玉座に腰掛けている華琳は持っていた巻物を置き、揃った三人を見る。

 

「そうね・・・・・・単刀直入に言うわ。三人とも、ここ最近活動が活発になっている盗賊団がいるのだけど知っているかしら?」

「はい、聞き及んでおります。中々の規模でとても静観できないと」

 秋蘭と春蘭は知っているようだったが、一刀にとっては初耳だった。

「そう、知っているのなら話が早いわ。その盗賊や野盗が集まった集団のなのだけど・・・・・・被害をもう街の警備隊では押さえられないの。だから、今回私が兵を率いて討伐することになったわ」

 

 民に害成す野盗の討伐。刺史として当然の行動だろう。

 しかし、華琳自らが兵を動かすことになるとは・・・・・・いくら烏合の衆であるとはいえ油断できない規模になっているらしい。

 

「全く・・・・・・向こうは何をしているのかしらね。無能が上に立つと苦しむのは民草・・・・・・やるせないわね」

 

 ため息を吐く華琳。その言い方に違和感を覚える。

 

「ん? 何だ華琳、その言い方はおかしくないか?」

 

 その言い回しだと華琳は己を無能だと自虐しているのではないのか?

 

「ああ、一刀はまだこちらにきて日が浅いから知らないのね。自慢・・・・・・というわけじゃないけれど、私が治めるこの陳留は他の街に比べれば格段に平和よ。そもそも、私は『向こう』と言ったわ。その意味分かるかしら?」

「つまり、野盗が出ているのは別の街・・・・・・華琳が治めていない地か。つまり無能はその街を治めている人物・・・・・・か」

「ご名答よ。民草は泣いているわ。私が兵を挙げないと被害は増える一方でしょう。名目上は野盗の追跡と言うことになるわ、他の街に干渉するわけだから」

 

 納得いった。華琳が無能じゃないことはたった二週間そばに居ただけで嫌と言うほどに理解した。まだ幼さが残る少女だが、その器たるはまさしく王者のもの。

 

「その街の統治者は何をやっているんだろうな」

「さぁ? 無能の考えることは理解しかねるわ」

 

 またため息を吐く華琳。本当なら華琳がしなくても良い徒労だからしかたがないのかもしれない。

 

「民を救うのは上に立つ者の仕事よ。いずれ魏国の王になる私にとってはこの大陸の民草全ては私の庇護を受ける対象よ。違うかしら?」

 

 そう言い放ち不敵に笑う華琳。それに顔を輝かせ心酔する夏候姉妹。

 その華琳の表情に心奪われるのは何も夏候姉妹だけではない。一刀も一種の畏怖にも似た感情を抱く。知らずに背筋が伸びる。紛れもなく今対峙しているのは真の王者。前の世界で決して見ることの出来ない覇王のそれだ。

 

「さすがは華琳だな。全くその通りだよ」

「当然よ。一週間準備期間を設けるわ。雑兵の集まりといえど数は膨大、油断はできないわ」

 

 華琳の指示に頷き合う三人。

 しかし、やはり一刀は何か納得できない。

 それは華琳の方針や政策についてではない。何故、この場所に自分が呼ばれているか・・・・・・その一点に尽きる。

 

「華琳、一つ良いか?」

「何かしら?」

 

 手を挙げ意見を述べる一刀に視線が集まる。

 

「いや、何故俺がここに呼ばれているのか気になってさ」

 

 一刀はあくまで客人扱いで華琳の部下ではない。なのに、ここに呼ばれていることが不思議なのだ。

 

「そうね、一刀、あなたは私の部下でも軍属でもなくただ保護を求めてきたにすぎないわ。でもね、私がここに呼んだのは理由があるの」

 

 今度は柔らかく微笑む華琳。

 

「一刀、あなたに仕事を与えます。何か仕事をほしがっていたでしょう?」

「ああ、そうだな」

 

 そして今度は試すような鋭い視線にかわる。

 

「今度の戦に関する準備のうち・・・・・・そうね、兵糧に関することをあなたに一任しようと考えているわ」

「えっ!?」

「華琳様!?」

 

 驚くのは華琳以外の三人だ

 

「勘違いしないで。一任しようと言っても最終確認は私がするし、別に私が納得できるものを準備しなくても罰したりしない。言ってみれば試験のようなものよ。一刀、あなたは自分を無能ではないと評したわよね? それを試す試験だと思ってもらってかまわないわ」

 

 そう言われると嫌と言えない一刀だ。ここは頷くしかない。

 

「本の知識程度しかないと言ったんだけどな・・・・・・」

「あら? それでも十分よ。軍の規模や装備品、兵の状況、その他諸々の要因を考えた上で必要な兵糧を提示して。期限は一週間、兵糧は大事よ? よく考えてね」

 

 華琳の期待する視線に苦笑するしかない一刀だった。

 

 

 

 後書き的なものを・・・・・・。

 

 長らく期間が空いてしまいましたが書く意志はありますよ。リアルがいそがしんです、どこら辺が不景気なんでしょうか・・・・・・。

 

 盗賊退治前の話で盛り上がりも何も無くて申し訳ないです。

 

 次回には桂花や季衣が出てくると思いますので。

 

 ・・・・・・なるべく次の更新はできるだけ早めにしますので、どうかよろしくです。

 

 

 

 

 

 

 


 
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