ホウエン地方、とあるリゾートホテル。
綺麗な海を始め、綺麗な景色を見渡せる豪華なホテル施設の1階にあるゴージャスな一室……そこにokakaはやって来ていた。椅子に座っている彼はテーブルの上に置かれたティーカップを手に取り、紅茶を一口飲んだ後……同じ部屋にいる一人の人物に語りかける。
「…じゃあ、やっぱりそっちでも行方は掴めなさそうか?」
「然様ですわ。お仕事のお役に立てず、申し訳ありません」
「良いさ。そっちはそっちで忙しい中、無理言って情報収集を頼んだ俺が悪いのさ……ソフィお嬢様」
okakaと対話するは、白黒のチェック柄の衣装に身を包んだ銀髪の少女。外見は10代前半ほどで、その無表情な顔からは全くと言って良いほど表情が読み取れない。そして何よりも分かりやすい特徴は……そんな彼女が乗っている車椅子だった。
「我々エーデルワイス家の情報網を持ってしても、ボルカノという男の行方を掴む事は叶いませんでしたわ……そうなった以上、あのポケモンハンターJと行動を共にしているだろうという、カズキさんの考えは確実な物と見て問題ないでしょう」
車椅子に乗った銀髪の少女―――ソフィがティーカップの紅茶を口にする中、彼女の言葉を聞いたokakaはめんどくさそうな表情を浮かべながらテーブルに頭を寝かせる。
「大財閥エーデルワイス家の情報網にすら入り込まんとは……あの野郎、慎重さに関してはマグマ団に所属していた頃とちっとも変わっちゃいねぇな」
「あなたが捜査に動いているからなのでは? あなたはそのボルカノという男に、既に二回もコケにされているとライラから聞きましたわ。相当嫌われているのではなくて?」
「あぁそうだ。全く、この俺を二回も出し抜くとは良い度胸してくれやがる……というか俺、アイツに対しては別にそこまで嫌われるような事はしてない筈なんだがなぁ。マグマ団のアジトに潜入した際、マスターボールの保管された部屋の入り口を守っていた上にちょっと強いポケモン連れてたから、ポケモンバトルで涙も枯れ果てるぐらい徹底的にボコってやったくらいしかしてねぇのに」
「どう考えてもそれが原因ですわね」
「いやぁそれほどでも」
「褒めてませんわ」
ソフィに真顔でバッサリ切り捨てられるokakaだったが、okakaは「まぁ良いや」の一言ですぐに表情を切り替えてから別の話題へと突入する。
「まぁ、ボルカノは俺達の方で探すから良いとして……上に話してみてどうだったよ? “エーテル財団”の件については」
「…裏で実行されていた、BKプロジェクトの事ですわね?」
「あぁ」
ソフィはティーカップを置いた後、テーブルに置かれている資料の一部を手に取る。
「医療機器開発の取引先としてエーテルパラダイスに招かれたカズキさんが、秘密裏に確保したというこの資料の一部と、例のディスク……全てこちらで拝見させて頂きましたわ。私の目から見ても、これは好意的に受け取れそうにありませんわ」
「だろうな。あのサングラスかけた幹部さんに話を聞いた時から、妙に胡散臭いと思ってたんだ……まさか裏であんなプロジェクトを進めていたとはな。今はもうプロジェクト自体が凍結したようだが」
「その凍結されたプロジェクトによって人工的に開発された、
「「タイプ:ヌル」」
二人は再び紅茶を口にする。
「…それで、上は何て言ってた? 流石にこれは見過ごして良い話じゃねぇぞ」
「……」
「…どうした?」
「…カズキさん、敢えてハッキリ伝えておきますわ」
ソフィは少し間を空けてから、okakaに伝える。
「そのエーテル財団の一件、カズキさんは大人しく手を引くように……との事です」
「…は?」
ソフィの一言に、okakaは手に持っていたティーカップを床に落とす。ティーカップはガシャンという音と共に無惨に砕け散る。
「…待て待て、そりゃ一体どういう事だ!」
「エーデルワイス家と同じく、エーテル財団もリーグ協会に出資している組織。財団がリーグ協会に与えた利益は非常に大き過ぎる事から、リーグ協会であっても手出しは出来ないそうです……そもそも、今回の一件はリーグ協会の方が圧倒的に立場が低いのです」
「何故だ!? リーグ協会の権限があれば、すぐ
「…カズキさんも気付いたようですわね」
「…あぁそうか、なるほどなぁ」
途中まで言いかけたところで、okakaも理由に気付く事が出来た。
「…アローラ地方に、
「正解ですわ。アローラ地方にポケモンリーグが無いという事は、リーグ協会にとってもアローラ地方は管轄外という事。それで下手に首を突っ込むような真似をすれば、こちらがかえって不利な立場に陥るのは明白……だからこそこの一件は、リーグ協会から国際警察へと管轄が移譲されたのです」
「…ハンサムさん達に全て任せるしか無いって訳かよ。力になれないのが何とも歯痒いぜ」
「今はただ、国際警察の捜査が上手くいく事を祈るしかありませんわ。それに聞いた話では、若くして前線で活躍している新人がいるとの事ですし……おまけにその新人、ハンサムさんよりも階級が上になったらしいですわよ」
「あのハンサムさんよりも? …そりゃ凄いな。ぜひ会ってみたいもんだ」
(…まぁ最も、その新人さんの事情も色々複雑なようですけれど)
その国際警察に所属する新人について、ソフィは既に詳しい情報を耳にしている。しかし彼女は敢えてそれを口にする事は無かった。
「…ん? あれは…」
その時、ガラス戸から外の景色を見渡していたokakaは、ある光景を目撃する。その様子に気付いたソフィも同じようにガラス戸から外の景色を眺めてみると、その視線の先にはこのリゾートホテルが所有している少し広めのバトルフィールドがあり、そこでホテルに滞在していたトレーナー達がポケモンバトルをしていた。
「ヤルキモノ、『きりさく』攻撃だ!!」
「ドクケイル、かわして『むしのさざめき』!!」
バトルフィールドでは、暴れ猿ポケモン―――ヤルキモノと毒蛾ポケモン―――ドクケイルの2体がトレーナーの指示を受けながらポケモンバトルを繰り広げている。その様子をフィールド外ではギャラリーの歓声が上がっており、皆が楽しそうに盛り上がっている。
「へぇ、ここでもポケモンバトルが出来るんだな」
「当然ですわ。ここは我々エーデルワイス家が建設したリゾートホテル。バトルする為のフィールドもきちんと用意してあげなければ、トレーナーさん達が退屈してしまいますわ」
「ほうほう。徹底してらっしゃいますねぇ、このお嬢様は…」
okakaはちらりと横目でソフィの表情を見据える。ガラス戸に手を添えつつ、車椅子の上からポケモンバトルを眺めている彼女は今、無表情ながらも僅かに楽しそうな雰囲気が醸し出されていた……しかし同時に、その楽しげな雰囲気からは
(…何だろうなぁ、この複雑な感情は)
「…何ですの? 先程からこちらを見てるようですけれど」
「いえいえ、何でもありませんよっと……ソフィお嬢様はさ。ポケモンバトルをしようと思った事は無いのか?」
「…藪から棒な質問ですわね」
「ちょいと気になったもんでな」
「…もちろんポケモンは好きですし、ポケモンバトルも好きに決まってますわ。だからこそこれまで、ポケモンについてたくさん勉強してきたんですもの。ポケモントレーナーになる為に」
「で、ポケモントレーナーになろうと頑張った結果、12歳という若さでエーデルワイス家の跡継ぎになるんだもんなぁ。子供ながらよくやるもんだ」
「子供扱いしないでくれません事?」
「ははは、悪い悪い……で、そこんとこはどうなんだ?」
okakaに子供扱いされたソフィが少しだけムッとした表情を見せるも……その表情は、すぐに暗い物へと変わる。
「…こんな身ですもの。今更、トレーナーになる道は考えられませんわ」
「! …すまん」
それを聞いてokakaはハッと気付き、同時に「しまった」と言った表情を顔に浮かべる。ソフィがポケモントレーナーにならなかった一番の理由は……彼女が乗っている車椅子にあったのだから。
「謝る必要はありませんわ。私も既に、この現状を受け入れた身……ライラや他の従者達もいますもの、特に不自由はありません事よ」
「…治る見込みは無いのか? その身体は」
「絶望的だと、医師からハッキリ言い渡されましたわ」
「だが、医療技術も少しずつだが発達してきている。お嬢様の身体だって、いずれは…」
「もう良いのです。エーデルワイス家の跡継ぎとなった以上、今は跡継ぎとしての責務を果たすだけ……それに、今更ポケモントレーナーになりたいとも思いませんわ」
ソフィは車椅子を回転させ、外の景色が見えるガラス戸に背を向ける。
「そう……“あの子”がいなければ、何の意味もありませんわ…」
(? あの子…?)
場所は変わり、支配人一行はと言うと…
「ピカッチュウ!」
「チラァ~♪」
「ゼニゼニ!」
「マニュッマニュッ!」
「チェリ~♪」
「チルチルゥ~♪」
「おっおー! 待て待てー!」
『待て待てー!』
千年彗星が一番良く見えるという土地―――ファウンスを目指していた一行は、とある山脈の麓にトラックを停車させてから休憩に入っているところだった。快晴の中、トラックの外ではピカチュウやチルタリスを始め、スカーフのような白い体毛が美しいポケモン―――チラチーノ、子亀のようなポケモン―――ゼニガメ、鋭い爪を持った二足歩行の黒いポケモン―――マニューラ、桜の花びらが特徴的なポケモン―――チェリム、そして咲良とジラーチが皆で追いかけっこをしながら楽しそうに遊んでおり、その様子を近くで支配人とユイが眺めている。
「しっかしまぁ、見ていて和む光景だねぇ…」
「兄さん、仕事に集中」
「はいはい、分かってるっての……ユイ、タブンネの方はどうだ?」
「…まだダークオーラは消えてない。けど、今までに比べてオーラは少しずつ弱まっていってる。今、美空がタブンネの世話をしてる」
ユイが指差す方向では、木に寄りかかった状態で座り込んでいるタブンネに、優しく語りかけ続けている美空の姿があった。その様子が気になるのか、彼女達の周囲には小さな野生のポケモン達がたくさん集まって来ている。
「ケアが順調に進んでいるなら何よりだ。あの様子なら、リライブも早い内に済みそうだな……ところで、他の面子は何処に行った?」
「カズキはエーデルワイス家の跡継ぎと対談中。フィアレス逹は今も育て屋で仕事中。男共は……少し離れた所にある湖畔で、皆でポケモンバトル中」
「ルカリオ、『きあいだま』!!」
「カイリキー、『だいもんじ』で打ち消せ!!」
「ワオォン!!」
「リッキィィィィィ!!」
ユイの言葉通り、少し離れた位置にある湖畔ではディアーリーズ達が激しいポケモンバトルを繰り広げているところだった。現在はディアーリーズのルカリオとげんぶのカイリキーがバトル中であり、ルカリオの繰り出した『きあいだま』を、カイリキーが口から放った大の字を模した炎『だいもんじ』で相殺する。
「行けカイリキー、『ばくれつパンチ』だ!!」
「ッ……ルカリオ、『バレットパンチ』で先制!!」
カイリキーよりも先にルカリオが動き、先制技の『バレットパンチ』がカイリキーに炸裂……したかのように思われたが。
「はい、残念でした」
「ッ!? しまった!!」
ルカリオの『バレットパンチ』は、カイリキーの四本腕によってガッチリ掴まれてガードされたのだ。三本の腕がそれぞれルカリオの両腕と頭を掴んでいる中、残る一本の腕がエネルギーを纏って『ばくれつパンチ』を放ち、ルカリオを大きく吹き飛ばす。
「ワ、ォオ……ン…!」
「あぁ、ルカリオ!?」
「今だカイリキー、『じごくぐるま』!!」
「リッキィ!!」
『ばくれつパンチ』の追加効果で混乱状態となったルカリオに、カイリキーが追撃を仕掛ける。四本腕でルカリオを捕まえたカイリキーはそのまま車輪のように地面を転がり、空中へ大きく跳躍。そのまま自分ごとルカリオを地面に叩きつけ、大爆発が起こった。
「ルカリオォッ!!」
「…キリヤさん、これは」
「あぁ。勝負あったな」
朱雀とロキが見据える中、爆発による土煙が晴れる。そこには勝利の決めポーズを取っているカイリキーと、その足元で目を回したまま伸びているルカリオの姿があった。審判役の刃は、その光景を見て判定を下す。
「ルカリオ、戦闘不能。カイリキーの勝ち……よってこの勝負、コウヤさんの勝ち!」
「よぉし、よくやったカイリキー」
「リッキィ~♪」
「ルカリオ、大丈夫?」
「ワ、ワォン…」
カイリキーがげんぶに褒められて嬉しそうにしている中、ディアーリーズは倒れているルカリオを優しく起こしてからモンスターボールに戻す。
「惜しかったなウル。途中まで良い感じに押してたのに」
「うぅ……カイリキーの特性は、お互いの攻撃が必中になる『ノーガード』。だから下手に防御や回避をするよりは攻めた方が良いだろうと思っていたんですが…」
「カイリキーのパワーが、ウルの予想を上回っていた訳だ」
「ん、そうなのか? 俺とカイリキーは特に深く考えずにひたすら攻めまくったんだが」
「…まぁ、そんな事だろうと思ったよ(そういや、げんぶは特性については知らないんだっけか)」
げんぶのあっけらかんとした一言にロキが苦笑する中、先程まで観戦していた朱雀が座っていた岩から立ち上がり、ディアーリーズやげんぶと入れ替わる形でバトルフィールドに立つ。
「それじゃ、次は僕達ですね……アルファさん」
「…やれやれ、仕方ありませんねぇ」
朱雀から指名された事で、これまで全く観戦する事なくタブレットを操作していた竜神丸は重い腰を上げ、タブレットを懐に収めながらバトルフィールドに立つ。
「ん、次はコハクさんとアルファさんですか?」
「そのようだ……しかし珍しいな。あのアルファが、またポケモンバトルに応じるなんて」
「アルファに聞いた話じゃ、コハクの方から指名して来たらしいぜ」
ロキ逹がそんな話をしている中、再び審判役を引き受けた刃が高らかに告げる。
「これより、コハクさんとアルファさんのバトルを始めます。使用ポケモンは三体。交代は自由。先に相手のポケモンを全て倒した方の勝ちとなります」
刃が告げる中、朱雀は対戦相手である竜神丸を見据える。竜神丸はめんどくさそうな様子で欠伸をしている。
(団長からは期待されちゃってるけど、僕はまだまだ実力不足。もっと強くならなくちゃいけない……竜神丸さんにも食らいつけるほどには…!)
「それでは両者、1体目のポケモンを!」
その合図と共に、朱雀と竜神丸は同時にモンスターボールを投げる。
「頼んだよ、イシュタル!」
「ドクロッグ、実験開始」
「エルゥ~♪」
「ドクロォ…!」
朱雀のモンスターボールからは、身体より大きい繊維状の白い綿が特徴の可愛らしいポケモン―――エルフーン。
竜神丸のモンスターボールからは、毒々しい紫のボディと赤い爪を持った二足歩行の蛙ポケモン―――ドクロッグ。
2体のポケモンがバトルフィールドに立った為、バトルの準備が整った。
「それでは……バトル、開始!」
「イシュタル、『みがわり』だ!!」
「エルゥ~!」
バトル開始の合図が出ると同時に、イシュタルというニックネームを持ったエルフーンが動き、瞬時に『みがわり』を生成する。それに対してドクロッグはと言うと…
「『ちょうはつ』しなさい」
「ドクロォ…!」
「ッ…エッルゥ~!!」
「!? イシュタル!?」
赤い爪で挑発するような動きを見せる。それを見たエルフーンは怒った表情を浮かべるが、ドクロッグが繰り出した技の詳細を知っている朱雀は焦った表情を見せる。しかし竜神丸は容赦しない。
「ドクロッグ、『どくづき』です」
「ドクゥ……ロォッ!!」
「!? エルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…ッ!?」
「イシュタルゥッ!!」
竜神丸の指示でドクロッグが瞬時に駆け出し、猛毒の込められた赤い爪で『どくづき』を発動。エルフーンの生成した『みがわり』人形を瞬時に破壊し、そのまま本体のエルフーンにも炸裂させて大きく吹き飛ばしてみせた。
「ッ…!!」
「さぁ、実験の時間と行きましょうか…!」
『七夜の願い星 その13』に続く…
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七夜の願い星 その12