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九番目の熾天使・外伝 ~ポケモン短編EX2~

竜神丸さん

きずなへんげ

2016-12-04 04:13:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4886   閲覧ユーザー数:1336

シンオウ地方、満月島…

 

 

 

 

 

 

 

「逃がすな、捕まえろ!!」

 

「アリアドス、『いとをはく』!!」

 

「シャッ!!」

 

島の中央部に生い茂る森の中、男達の声が響き渡る。それと共に木々の間を擦り抜けるように、三日月のように輝かしい姿をしたポケモンが外へ飛び出すが、後方から伸びて来た蜘蛛の糸がそのポケモンを逃がさない。

 

「―――…!?」

 

「よぉし、やっと捕まえたぞ」

 

「伝説ポケモンのクレセリア、こいつぁ売り飛ばせば高く売れるぜ…!」

 

「―――…ッ!!」

 

アリアドスの『いとをはく』攻撃で捕らえられてしまった伝説ポケモン―――クレセリア。黒い覆面で顔を隠した迷彩服の男達が取り囲み、身動きが取れないクレセリアを愉快そうに見下ろす。彼等は野生ポケモンを違法手段で捕獲して回っている密猟団のようだ。

 

「―――…!!」

 

「おっと、させねぇよ」

 

「シャッ!!」

 

「!? ―――ッ…!!」

 

クレセリアのボディが光り始めたのを見て、何らかの技で拘束から抜け出そうとした事に気付いたのか。それより前にアリアドスが電撃を纏った糸『エレキネット』でクレセリアの全身を更に拘束。クレセリアは繰り出そうとした技が失敗し、更に『エレキネット』から放出される電撃で全身にダメージを受けてしまい、そのダメージで意識を失ってしまった。

 

「アルゴさん、ケージの用意が出来ました!」

 

「よし、入れろアリアドス」

 

「シャッ」

 

男達が大きいサイズのケージを運んで来たのを見て、密猟団のリーダーと思われる男―――アルゴは自身の手持ちポケモンであるアリアドスに指示を下す。それを聞き入れたアリアドスは口から放出したままの『エレキネット』を利用してクレセリアをケージまでズルズル引き摺っていく。

 

「ククク、これでまた大儲け出来るぜ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうは問屋が卸さねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!? 誰だ!!」

 

密猟団の構成員達が周囲を見渡し出す中、上空から紫色のボディと4枚の翼を持った蝙蝠ポケモン―――クロバットが飛来し、羽ばたく翼から無数の『エアスラッシュ』を発動し始めた。

 

「クロ……バァッ!!」

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

「!? 嗅ぎ付かれてたのか……何処だ、何処にいる!!」

 

「ここだよ」

 

「ッ!?」

 

アルゴが振り返った方角の崖には、巨大な檻の上に立っている二人の人物―――okakaとツバメの姿があり、okakaの隣にはゲッコウガ、ツバメの足元には小さな青い蛙ポケモン―――ケロマツの姿もある。そんな彼等が立っている巨大な檻の中には、密猟団がこれまで捕まえて来た野生ポケモン達がいた。

 

「ゲッコウガ、頼む」

 

「コウッ!!」

 

「ッ……テメェ、何してくれやが…ッ!?」

 

okakaの指示で、ゲッコウガは居合いの構えから繰り出した『つじぎり』で巨大な檻を一閃。破壊された檻から解放された野生ポケモン達は一斉に逃げ出していき、その事で怒りを露わにするアルゴだったが……okakaが両腰に取りつけているモンスターボール付きのベルトを見てハッと気付いた。

 

「そうか……テメェだな。クリミナルキラーのカズキってのは」

 

「へぇ、知ってんのか」

 

「まぁな。最近ポケモンリーグ協会に配属されて、既に多くの功績を出している……裏社会じゃあ、あの“闇斬りのマサ”と並んで有名人だ。テメェが腰に付けてるボールが12個な時点ですぐ分かったぜ、普通のトレーナーは6体までしかポケモンを連れ歩けない筈だからな」

 

「へぇ、マサ先輩の事も知ってんのか。割と詳しいじゃないか……なら、俺達がここまでやって来た理由も分かるよな?」

 

「ここは野生ポケモン捕獲禁止区域です。そのルールを破り、かつポケモン達を不幸な目に遭わせるあなた達を許す訳にはいきません!! クレセリアも解放して貰います!!」

 

「ッ……若造に小娘が、粋がりやがってよぉ!!」

 

「―――グルァァァァァァァッ!!」

 

アルゴの投擲したモンスターボールから、口元に斧のような形状の牙を2対持った怪獣型ポケモン―――オノノクスが咆哮を上げながら登場し、オノノクスの隣にはアリアドスが並び立つ。続いてアルゴの手下達も一斉にモンスターボールを放り投げる。

 

「「「「「お前達も行けぇっ!!」」」」」

 

「クリィムッ!!」

 

「ヤミィ!!」

 

「ゲロォッ!!」

 

「キッパァー!!」

 

「シャアァァァァァッ!!」

 

「エアァーッ!!」

 

複数のモンスターボールから、赤い頭部と青いボディを持ったドラゴン型ポケモン―――クリムガン、両目が宝石の形状をしている紫色のポケモン―――ヤミラミ、ゲッコウガやケロマツとはまた違う青色の太った蛙ポケモン―――ガマゲロゲ、ハエトリソウのような緑色のポケモン―――マスキッパ、紫色のコブラ型ポケモン―――アーボック、鋼のボディを持った鳥型ポケモン―――エアームドなどが出現。密猟団の手持ちポケモン達はokaka逹の周囲を一斉に取り囲んでいく。

 

「おうおう、豪華な面子だこと」

 

「悪に屈する訳にはいきません。やりましょう、マスター!」

 

「そして妙に気合い入ってんなお前…」

 

「かかれぇっ!!」

 

アルゴの怒号に、オノノクス率いる密猟団の手持ちポケモン達が一斉に動き出そうとしたその時…

 

「ドダイトス、『ストーンエッジ』」

 

「ドッダァァァァァァァァァァァァイ!!!」

 

「「「「「うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」」

 

「んな、チィ…!!」

 

「グルァ…!!」

 

「シャッ!!」

 

突如、密猟団構成員達の足元から巨大かつ鋭利な岩『ストーンエッジ』が無数に出現。密猟団構成員や彼等の手持ちポケモン達が一斉に怯まされ、アルゴと彼の手持ちであるオノノクスとアリアドスは素早く回避。いきなり出現した『ストーンエッジ』にはokakaやツバメも驚きの表情を示したが、『ストーンエッジ』が出現した理由はすぐに判明する。

 

「大変そうですねぇ、カズキさん」

 

「…そ・の・こ・え・は」

 

声が聞こえた方向にokakaが振り向くと、そこにはいつもと違って白衣ではなく黒スーツ姿の竜神丸が楽しげな表情を浮かべて立っており、その隣にドダイトスが並んでいた。それを見たokakaは「うげっ」と嫌そうな表情に代わる。

 

「…おいコラ、何でお前が付いて来てんだよ」

 

「あらら。せっかく助っ人として来てあげたのに、その言い草は無いんじゃありませんかねぇ?」

 

「助っ人を頼んだ覚えは無ぇよ!? どうせお前の目当てはゲッコウガについてのデータ採取だろ、分かってんだよこっちは!!」

 

「おや、何でバレちゃってるんでしょうかねぇ?」

 

「気付かれてないと思ってるお前の頭がおかしいだけだ!!」

 

「!? お二方、口喧嘩してる場合じゃありません!! 来ますよ!!」

 

「「!」」

 

「エアァァァァァーッ!!」

 

「キッパァァァァァッ!!」

 

上空から飛来したエアームドが『ラスターカノン』、マスキッパが『タネマシンガン』でokaka逹を狙い、okakaとツバメは右に、竜神丸は左に動く事で攻撃を回避する。

 

「クッリィィィィム!!」

 

「ヤァァァァァァ…ミィッ!!」

 

「ゲロォォォォッ!!」

 

「キシャアーッ!!」

 

「うわわわわわ!? また来ましたぁ!!」

 

「ケロロロ!?」

 

「…ドッダァ!!」

 

続いてクリムガンが『かえんほうしゃ』、ヤミラミが『シャドーボール』、ガマゲロゲが『マッドショット』、アーボックが『ダストシュート』で一斉に襲い掛かって来た。ツバメとケロマツが焦る中、ドダイトスは前足で地面を踏みつけると共に『ストーンエッジ』を発動し、地面から出現した岩で飛来する攻撃を全て防ぎ切る。

 

「ッ……アルファ、来たからには足引っ張んじゃねぇぞ!!」

 

「おやおや、それはどちらが言うべき台詞でしょうねぇ……む?」

 

その時、密猟団構成員が従えているポケモン中で、1体のポケモンの姿が竜神丸の目に映った。

 

「クリムガン、『ドラゴンクロー』だ!!」

 

「クリィムッ!!」

 

(…ほぉう)

 

先程、『かえんほうしゃ』で攻撃を仕掛けて来たクリムガンだ。クリムガンが両腕の爪で『ドラゴンクロー』を繰り出そうとしているのを見て、竜神丸はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ドダイトス、下がって下さい。ここは()に任せましょう」

 

「!? ド、ドダ…!!」

 

()に任せましょう。その言葉の意図を察したドダイトスは異議を唱えるかのように首を横に振るが…

 

「下がりなさい。これは命令です」

 

「…ドダァ」

 

竜神丸はドスの利いた声で再度命令を下す。流石に逆らう訳にはいかないのか、ドダイトスは渋々ながらも首を縦に振った後、モンスターボールへと戻されていく。そして竜神丸は代わりのポケモンを繰り出した。

 

「ギャラドス、実験開始です」

 

「グォォォォォォォォォォォン……ッ!?」

 

ドダイトスに代わり、咆哮を上げながら登場したギャラドスだった……が、クリムガンが『ドラゴンクロー』で襲い掛かろうとして来ているのを見て、一瞬で表情が変わる。

 

「…グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!? ク、リィィィィィム…ッ!?」

 

ギャラドスは更に高い咆哮を上げ、即座に『アクアテール』でクリムガンの『ドラゴンクロー』を相殺。圧倒的なパワーに押し返されたクリムガンが後退する一方で、ギャラドスは普段よりも更に怖い鬼のような形相でクリムガンを睨みつける。

 

「さぁ、ギャラドス。あなたの大嫌いなクリムガンが相手です。全力で叩き潰しなさい」

 

「…グルォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコウガ、『みずしゅりけん』!! クロバット、『どくどくのキバ』!!」

 

「サイゾウ、『みずのはどう』です!!」

 

「コウッガァ!!」

 

「クロバァ!!」

 

「ケェェェェェェ……ロォッ!!」

 

「させるか、『ドラゴンテール』で跳ね返せぇ!!」

 

「グルァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

一方で、okakaとツバメの二人はアルゴと対峙していた。アリアドスの『エレキネット』に捕らえられているクレセリアを助け出すべく、二人の手持ちポケモン達が一斉に攻撃を仕掛けるものの、アルゴの指示を受けたオノノクスは跳躍しながら自身の長い尻尾にエネルギーを収束させ、『ドラゴンテール』を発動。緑色に光るオノノクスの尻尾が『みずしゅりけん』と『みずのはどう』を一撃で掻き消し、『どくどくのキバ』で接近しようとしていたクロバットを強力な一撃で弾き飛ばし、強制的にokakaのモンスターボールに戻されてしまう。

 

「クロバァッ!?」

 

「クロバット!! …チッ。弱くはないようだな」

 

「それでも私達は負けません!! サイゾウ、『いあいぎり』で攻撃です!!」

 

「ケロォ!!」

 

「無駄だ無駄だ!! オノノクス、ケロマツに『シャドークロー』だ!!」

 

「グルァッ!!」

 

ケロマツが『いあいぎり』を仕掛けるのを見て、オノノクスも再び跳躍。それに続いてサイゾウも跳躍して『いあいぎり』でオノノクスに斬りかかるも、オノノクスは軽い身のこなしで斬撃をかわし、右腕の爪から繰り出された『シャドークロー』の一撃でケロマツを地面に撃ち落とす。

 

「ケロォッ!?」

 

「あぁ、サイゾウ!?」

 

「チッ……ゲッコウガ、『みずしゅりけん』連打!!」

 

「コォウ…ガガガガガガ!!」

 

「はん、無駄だと言ってるだろう!! 『りゅうのはどう』だぁっ!!」

 

「グルァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

無数に飛んで来る『みずしゅりけん』にも、アルゴは怯まない。オノノクスは『りゅうのはどう』で無数の『みずしゅりけん』と対峙し、相殺されて大爆発が起こる。

 

「続けて『かげぶんしん』!!」

 

「「「「「コウガッコウガッコウガッコウガッ!!」」」」」

 

「小賢しい真似を……『ドラゴンテール』だ!!」

 

「グルァ!!」

 

爆発の煙から飛び出したオノノクスが、複数出現したゲッコウガの分身逹を『ドラゴンテール』で次々と打ち消していく。しかし密かにオノノクスの視界から外れていたゲッコウガの本体が、『エレキネット』に捕らわれているクレセリアの間近まで迫る。

 

(よし、これで―――)

 

「シャアッ!!」

 

「!? コウガッ!?」

 

「ッ…しまった!!」

 

しかし、クレセリアの近くに構えていたアリアドスが『いとをはく』攻撃を繰り出し、ゲッコウガの足に糸が巻きついてしまう。そのままアリアドスに振り回されたゲッコウガは近くの大木に叩きつけられ、そのまま大木に押さえつけられた状態で拘束されてしまう。

 

「おっと、危ない危ない。そう簡単に取り返されてたまるかよ」

 

「いえ、取り返させて貰います!」

 

「あん? 小娘が、この状況を見て一体何をほざきやが…」

 

「今ですサスケ、『かえんほうしゃ』!!」

 

「!? 何っ!?」

 

突如、アリアドスの死角から現れたオレンジ色の子猿ポケモン―――ヒコザルが跳躍し、口から『かえんほうしゃ』を発射。流石に炎タイプの技ではひとたまりも無いのか、『かえんほうしゃ』を受けたアリアドスはたまらず怯んで隙を見せてしまい…

 

「『みずのはどう』です!!」

 

「ケッロォ!!!」

 

「シャアァァァァァァァッ!!?」

 

「何、アリアドスッ!?」

 

ケロマツの『みずのはどう』が直接アリアドスの顔面に叩き込まれ、アリアドスは大きく吹き飛ばされていく。その直後、今度は別方向から小さな燕型ポケモン―――スバメが猛スピードで飛来する。

 

「ヒエン、『つばめがえし』でネットを斬って下さい!!」

 

「スバァーッ!!」

 

「―――…!」

 

「コウガ…!」

 

スバメが高速で繰り出した『つばめがえし』の一撃は、クレセリアとゲッコウガを捕らえていた『エレキネット』を一閃。それによりクレセリアとゲッコウガは同時に解放され、未だ意識を失っているクレセリアをゲッコウガが受け止めてからokakaの横に着地する。

 

「ッ……さっきのゲッコウガの突撃、あれは囮だったのか…!!」

 

「そういう事だ。俺達が姿を見せるより前から、サスケとヒエンには違う場所で待機して貰っていたよ」

 

「サスケ、ヒエン、よくやってくれました!」

 

「ウッキャー!」

 

「スバァーッ!」

 

どうやら真打ちはサスケことヒコザル、ヒエンことスバメの2体だったようだ。クレセリアを取り返された事でようやくそれに気付いたアルゴは苛立ちを露わにし、ツバメに褒められたヒコザルとスバメは両者共に嬉しそうに鳴き声を上げる。

 

しかし…

 

「ス、スバ、バババ…!?」

 

「え、あ、あれ? ヒエン!? どうしたんですか!?」

 

「…まぁ、電撃を纏った『エレキネット』を直接斬ったんじゃそらそうなるわな」

 

…『エレキネット』を一閃する際、電撃が原因でスバメが痺れてしまったようだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、場所は変わって竜神丸の方では…

 

 

 

 

「な、な、な…!?」

 

密猟団構成員達は皆、言葉を失ったままポケモン達への指示が出来ない状態でいた。何故なら、そんな彼等の目の前では…

 

「ギャラドス、『アクアテール』です」

 

「キシャアァッ!?」

 

「『だいもんじ』で焼き払いなさい」

 

「エァアーッ!!?」

 

「キパパパパッパァーッ!?」

 

「後ろから来てます、『ストーンエッジ』」

 

「ヤミィィィィィィィィィィーッ!?」

 

「しつこいですねぇ……『アイアンヘッド』です」

 

「ゲ、ゲロォォォォォォッ!!?」

 

ギャラドス1体によって、密猟団構成員の従えていたポケモン達が一方的に蹂躙されているからだ。『アクアテール』がアーボックを地面に叩き伏せ、『だいもんじ』がエアームドとマスキッパの2体が纏めて焼き払われ、後方から奇襲を仕掛けたヤミラミが『ストーンエッジ』で撃ち上げられ、フラフラながらも立ち上がろうとするガマゲロゲは『アイアンヘッド』で薙ぎ倒される。気付けば瀕死になっていないポケモンはクリムガンの1体のみという状態だった。

 

「く、くそ!! な、何とかしろクリムガン!!」

 

「ッ…!! クッリィィィィィィィム…」

 

ボロボロながらも何とか立っていたクリムガンは、口元にエネルギーを収束して『はかいこうせん』を放とうとするが、それよりも前にギャラドスが動く。

 

「沈めなさい、『アクアテール』」

 

「グオォォォォォォォォォォォォォンッ!! …ッ!?」

 

「む?」

 

しかしギャラドスが『アクアテール』を繰り出そうとしたその時、右方向から一発の電撃が放たれ、ギャラドスの頭部にその電撃が命中。その瞬間、ギャラドスは全身が痺れて動きが鈍ってしまう。

 

「今のは…」

 

「はっはぁ!! 残念だったな!! こっちはまだもう1体いるんだよ!!」

 

「シビビ!」

 

「…なるほど、シビルドンの『でんじは』ですか」

 

どうやら謎の電撃の正体は、草むらに隠れていた電気ウナギ型ポケモン―――シビルドンが繰り出した『でんじは』のようだ。その『でんじは』の効果でギャラドスが麻痺状態に陥ってしまうのを見て、密猟団構成員達は先程までとは打って変わって余裕そうな表情で笑い出す。

 

「これで終わりだぁ!! クリムガン、『はかいこうせん』!!」

 

「シビルドン、お前も行け!! 『ほうでん』だぁ!!」

 

「クッリィィィィィィィィィィィム!!!」

 

「シッビィィィィィィィィィィィッ!!!」

 

クリムガンの『はかいこうせん』、シビルドンの『ほうでん』が同時に放たれ、麻痺で動けないギャラドスに容赦なく命中。大爆発が起こり、ギャラドスの姿が見えなくなる。

 

「ぎゃははははははは!! ざまぁねぇな、ギャラドスも案外大した事なかったぜ!!」

 

「記念にテメェのギャラドスも貰っていくぜぇ!!」

 

「悔しかったら次のポケモン出してみな!! ひゃははははははは!!」

 

「……はぁ」

 

密猟団構成員達が竜神丸を大声で嘲笑する中、竜神丸は小さく溜め息をつき、そして告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この程度ですか、つまらないですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!-

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

一瞬だった。爆発で発生した土煙が突然晴れると同時に轟音が響き渡り、木々を薙ぎ倒しながらシビルドンが森の奥まで吹き飛んでいく。その光景を見た密猟団構成員達は笑いが止まって唖然とする。

 

「私が鍛えに鍛え上げたギャラドスですよ? それがまさか、今の攻撃だけで落とせると思ったんですか? だとすれば……実に滑稽な話だ」

 

「グルルルルォアァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」」」」」

 

土煙の中から出て来たギャラドスは、先程までよりも凶悪な目付きとなり、両目が赤く染まった状態で更に高い咆哮を上げる。その咆哮だけで周囲の岩や地面はビシッと罅割れ、木々はミシミシと音を鳴らし、密猟団構成員達は余裕が完全に消え失せて怯えた様子で地面に座り込む。

 

「ク、クリムガン、もう一度『はかいこうせん』だぁ!? た、頼む、早くしてくれぇ!!」

 

「ク、クリィム…!?」

 

しかし、一度『はかいこうせん』をギャラドスに命中させた以上、今のクリムガンは『はかいこうせん』の反動で全く動けない。そんなクリムガンの状態など知った事じゃないと言わんばかりに、ギャラドスは長い尻尾を大きく振り上げて『アクアテール』を発動する。

 

「吹き飛びなさい」

 

「グルアァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「クリ―――」

 

断末魔を上げる余裕すら与えられなかった。ギャラドスの『アクアテール』が直撃し、クリムガンは一瞬にして満月島の海岸すらも軽く飛び超えるように吹き飛ばされ、あっという間に姿が見えなくなってしまった。頼みの綱であるクリムガンまでやられた事で、密猟団構成員達は覆面の下で青ざめていく。

 

「…さて」

 

「ひぃっ!? ま、待ってくれ、俺達が悪かった!!」

 

「に、二度とこんな悪い事はしないと約束する!! 今まで捕まえたポケモンも全部逃がすよ!!」

 

「だ、だから頼む!! 自首する、自首するから本当にやめてく―――」

 

-ドゴォンッ!!!-

 

「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」」」」」

 

密猟団構成員達の足元に『アクアテール』が撃ち込まれ、地面が大きく陥没する。密猟団構成員達は完全に腰が抜けてしまい、その場から全く動けなくなってしまう。

 

「私は別にどうでも良いんですよねぇ。カズキさんのゲッコウガの戦闘データ、そしてギャラドスの今の状態(・・・・)についてのデータさえ採取出来てしまえば……潰しなさい、ギャラドス」

 

「グオォォォォォォガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「「「「「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」」」」」

 

再びギャラドスの『アクアテール』が襲い掛かり、密猟団構成員達の悲鳴が上がる。そして『アクアテール』の無情な一撃が彼等に命中―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ギャラドス、お願いやめて!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「…む?」

 

―――する事は無かった。命中すると思われた『アクアテール』は寸前のところでピタリと止まっており、密猟団構成員達は全員が口から泡を噴いたまま失神して倒れる。その光景を見て、ギャラドスが攻撃をやめた理由に何となく気付いたのか、竜神丸は呆れた様子でギャラドスに問いかける。

 

また(・・)ですか? ギャラドス」

 

「…グルゥ」

 

「…全く。分かりました、戻りなさい」

 

これ以上の攻撃行為は無理だと悟った竜神丸は、ギャラドスをモンスターボールに戻す。

 

「やれやれ、せっかくあの状態(・・・・)についてデータを集められると思ったというのに……まぁ、こちらはまだ良いでしょう。今回のメインはカズキさんのゲッコウガの方ですからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコウガ、『つばめがえし』!!」

 

「オノノクス、『シャドークロー』だぁ!!」

 

「コォウ……ガァアッ!!」

 

「グルァアッ!!」

 

そのokakaのゲッコウガはと言うと、今もアルゴのオノノクスと激戦を繰り広げている真っ最中だった。ゲッコウガの構えた刀身から繰り出される『つばめがえし』が、オノノクスの両腕の爪から繰り出された『シャドークロー』を押し返す。

 

「チィ、まだ戦る気か…!!」

 

「ツバメ達があんなに頑張ったんだ……だったら、師匠の俺達がへこたれてる場合じゃねぇだろ!!」

 

「コウガッ!!」

 

「鬱陶しいんだよ、揃いも揃って……『りゅうのはどう』だぁ!!!」

 

オノノクスの『りゅうのはどう』が、okakaとゲッコウガの二人に迫る。それでも、彼等は動じなかった。

 

「行くぞゲッコウガ!! 相手が強いなら、俺達はもっともっと強くだ!!!」

 

「コウガァッ!!!」

 

okakaとゲッコウガ、二人の拳を握り締める動きが一致する。その瞬間…

 

二人の姿は、再び重なり合った。

 

「行っくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

「コウッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「「!?」」

 

ゲッコウガの全身が水流に包まれていき、その水流の中でゲッコウガの姿が変化する。赤い模様が加わった顔。アサシンの被るフードを彷彿させた、猛禽類の嘴ような頭部。手首に見えた、アサシンブレードのような白い模様。これまで目撃された事の無い、新たなゲッコウガの姿がそこに現れた。

 

「な、何だ…!?」

 

「マ、マスター、これは一体…!?」

 

「ゲッコウガ、『つじぎり』だ!!」

 

「コウガッ!!」

 

アルゴやツバメ達が驚く中、okakaはゲッコウガに指示を下す。その時、okakaが居合いのような構えを取ると、ゲッコウガも同じように居合いの構えを取り、『つじぎり』を発動してみせる。二人の動きは、ほぼ完全にシンクロしていた。

 

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「コウガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

そしてゲッコウガの『つじぎり』は、オノノクスの放った『りゅうのはどう』を一撃で斬り裂き、瞬く間に掻き消して消滅させてしまった。この圧倒的なパワーを前に、アルゴは戦慄する。

 

「く、くそ……『ドラゴンテール』だぁっ!!」

 

「グルアァッ!!!」

 

「行け、ゲッコウガ!!」

 

「コウガァッ!!!」

 

再び跳躍するゲッコウガとオノノクス。オノノクスの高い機動力から繰り出される『ドラゴンテール』をゲッコウガの『つじぎり』が受け流し、そのまま尻尾の上を駆け上がるようにオノノクスの上半身へと接近。なお、『つじぎり』で生成した刀剣はそのまま継続されているからこそ…

 

「『つばめがえし』だぁっ!!!」

 

「コウガァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「グルガァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

続けて『つばめがえし』も発動出来る訳である。刀身がオノノクスの上半身を勢い良く斬りつけ、ダメージを受けたオノノクスはそのまま墜落していき、ゲッコウガも後を追いかけるように落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い…!」

 

「ケロォ…!」

 

「ウキャア…!」

 

「スバ…!」

 

その一部始終を、地上から見上げていたツバメと彼女の手持ちポケモン達。先程まではオノノクスが優勢だった筈なのに、今ではゲッコウガの方が圧倒してみせている。その凄まじいゲッコウガの戦闘力を前に、ツバメ達は畏怖すると同時に憧れの感情も湧き出していた。

 

「サイゾウ、あなたの御父上は素晴らしい御方です…!」

 

「ケロ…!」

 

「流石は私達の師匠……否、“頭領”と呼ぶに相応しい御方…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! ほぉ…」

 

そのゲッコウガの戦いを見ていたのは、竜神丸も同じだった。

 

「私のキリキザンすらも倒す力……やはり、あの力は素晴らしい!! しかし、一体何が切っ掛けであの力が発動したのか、出来る事なら変化するところも見たかったですね……う~む、実に惜しい事をしてしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコウガ、もう一度『つじぎり』だぁっ!!!」

 

「コウガァァァァァァァァッ!!!」

 

「ま、まだだ!! オノノクス、『シャドークロー』だぁっ!!!」

 

「グルァァァァァァァァァッ!!!」

 

落下しながらも『つじぎり』と『シャドークロー』がぶつかり合い、相殺された衝撃から2体は同時に地面に着地する。しかし先程受けたダメージから、オノノクスは僅かに足元がフラついた。その隙をokakaは見逃さず、彼は両手をパァンと合わせる。

 

「隙ありだ、『みずしゅりけん』!!!」

 

「コォウ…」

 

その動きに合わせるかのように、ゲッコウガも同じように両手をパァンと合わせる。それによりゲッコウガの両手の間には二枚の『みずしゅりけん』が生成され…

 

「…ぶちかませぇっ!!!」

 

「…ガァァァァァッ!!!」

 

「!? グガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「オノノクス!?」

 

2枚同時に放たれる。そして態勢を立て直した直後のオノノクスに直撃し、オノノクスは大きく後退してその場に膝を突く。それでもなお、ゲッコウガは追撃の手を緩めない。

 

「まだだ、もう一発行くぞぉっ!!!」

 

「コォォォォォォォォォォォウ…!!」

 

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

-ズビィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!-

 

「「―――ッ!?」」

 

再び『みずしゅりけん』を放とうとしたゲッコウガの右腕を、後方から飛んで来た光線『シグナルビーム』が少しだけ掠った。その時…

 

「コ、コォウ…!?」

 

「!? ぐぁ…っ…!?」

 

ゲッコウガが右腕にダメージを受けたと同時に、okakaの右腕にも謎の痛みが発生した。突然発生した右腕の痛みにokakaは驚愕する。

 

(な、何だ…!?)

 

okakaは『シグナルビーム』が飛んで来た方角を見据える。彼の視線の先にいたのは、先程ケロマツに吹き飛ばされた筈のアリアドスだった。

 

(ッ!? アイツ、復活してやがったのか…!!)

 

「マスター、危ない!!」

 

「!? しま―――」

 

「隙を見せたな!! 『げきりん』だぁっ!!!」

 

「グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ッ…コォォォォォォォォォォォォォォォォォウッ!!?」

 

その一瞬の隙が命取りだった。オノノクスはボディが赤く発光すると共に湯気が噴き出し、ドラゴンタイプの強力な大技『げきりん』を発動。その状態で突撃したオノノクスのパンチがゲッコウガの腹部に命中し、ゲッコウガは地面を抉るように大きく吹き飛ばされ、その先にあった岩に激突する。

 

その瞬間…

 

「―――ッ!? ぐ、がはぁっ!? ぁ、が…ッ…!!」

 

「マスタァッ!!!」

 

「…!?」

 

ゲッコウガが腹部を負傷したように、okakaの腹部にも多大なダメージが響き渡り、okakaは口から血を噴き出しながら膝を突いてしまう。それを見たツバメは素早くokakaの下まで駆け寄り、離れた場所から眺めていた竜神丸はokakaとゲッコウガの身に起こった現象を見て驚愕する。

 

(右腕の負傷、そして腹部に受けた一撃……まさか、動きだけでなくダメージまでシンクロしている…!?)

 

竜神丸が呑気に考察する中、オノノクスの『げきりん』で吹き飛ばされたゲッコウガは、フラフラながらも立ち上がろうとする……しかし。

 

「ッ……コォ、ウ…」

 

震える足の所為で上手く立ち上がれず、ゲッコウガはその場に倒れ伏す。その時、ゲッコウガの全身を包んでいた水流が消滅し、それと共にゲッコウガは通常の姿に戻ってしまった。

 

「!? ゲッコウ、ガ……ッ…!!」

 

「ははははは、形勢逆転だなぁ!! オノノクス、そのまま『げきりん』でトドメを刺せぇっ!!!」

 

「グルルルルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ッ……マスターは私達が守ります!!!」

 

「ケロォッ!!」

 

「ウッキャア!!」

 

「スバァ!!」

 

『げきりん』のパワーが未だ続いているオノノクスは、okakaとゲッコウガにトドメを刺そうと猛スピードで突撃し始める。そんなオノノクスの猛攻から守るべく、ツバメ達は負傷しているokakaとゲッコウガの前に並び立ってから両腕を広げ、突っ込んで来るオノノクスを真正面から迎え撃とうとする。

 

「ッ……馬鹿、逃げろ…!!」

 

「出来ません!! いくらマスターの命令でも!!」

 

「はっはぁ、馬鹿な奴等め!! そんなに死にたいなら、全員仲良くくたばっちまいなぁっ!!!」

 

オノノクスの繰り出している『げきりん』は破壊力が絶大であり、直撃すれば無事では済まない。ツバメはこれから来るであろう痛みを覚悟し、ギュッと目を瞑りその時を待ち続ける……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コダチ、『たたみがえし』だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神は、彼等に救いの手を差し伸べた。

 

「コォウッ!!」

 

突如、何処からか跳躍して来た黒いポケモンはツバメ達の前に立ち、右手で地面を思いきり叩くと同時に『たたみがえし』を発動。地面から複数の畳が出現し、オノノクスの『げきりん』による一撃を完璧に防ぎ切り、逆にオノノクスを弾き返した。

 

「!? な、何だとっ!?」

 

「…………あ、あれ?」

 

オノノクスの『げきりん』が防がれた事にアルゴは驚き、ツバメは何時まで経っても痛みが来ない事に疑問を抱きつつ両目を開ける。そんな彼女の前に立っていたのは…

 

「…黒い、ゲッコウガ…?」

 

真っ黒なボディを持った、色違いのゲッコウガだった。『たたみがえし』で出現させた畳が地面に戻る形で消滅する中、両手を合わせてポーズを取るその姿は、okakaのゲッコウガ以上に忍者の風格を持ち合わせていた。

 

「あの一撃を受け切ろうなんて、無茶にも程があるぜ。お嬢さん」

 

「え……ふぇっ!? だ、誰ですか!?」

 

そんな時、ツバメ達の後ろから忍者服を纏った黒髪の青年が姿を現した。気配も無しに突然現れたその青年に驚くツバメだったが、その青年にokakaは見覚えがあった。

 

「…マサ、先輩…!?」

 

「よ、カズキ。危ないところだったな」

 

okakaの発した名前を聞いて、アルゴも驚愕する。

 

「マサ、だと…? ま、まさかテメェ、あの“闇斬りのマサ”か!?」

 

「ほぉ、俺を知ってるのか! いやぁ、俺も随分と有名になったもんだねぇ~……おっと、こんな話してる場合じゃなかったな」

 

闇斬りのマサ―――もといマサナリはアルゴとオノノクスの方に振り返り、黒いゲッコウガもマサナリの横に並び立つと同時に戦闘態勢に入る。

 

「任務帰りのついでに様子を見に来てみれば……お前さん、うちの後輩達を可愛がってくれたようだな。キッチリお返しさせて貰うぜ」

 

「ず、図に乗るな!! オノノクス、もう一度『げきりん』だぁっ!!!」

 

「グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「え、えっと、マサさんで言いんですよね? …じゃなくて!! ま、また『げきりん』が来ますよ!?」

 

「心配は無用さ。なぁ、コダチ」

 

「コウガ…!」

 

「え…?」

 

オノノクスが突っ込んで来ているにも関わらず、マサナリと黒いゲッコウガ―――もといコダチはあくまで余裕の表情だ。彼等が余裕でいられる理由は……この後すぐに判明した。

 

「オオミ」

 

「スピッ!!」

 

直後、マサナリの後ろの木々から1体のポケモンが飛び出した。スズメバチ型ポケモンのスピアーだ。

 

「え、スピアー…!?」

 

「オオミ、『はたきおとす』攻撃だ!!」

 

「スッピィィィィィィィィィィィ…」

 

マサナリの指示を受け、スピアー―――もといオオミは猛スピードでオノノクスに向かって突撃を開始。オノノクスと真正面からぶつかり合おうとした瞬間、オオミは素早い動きでオノノクスの真上を取り…

 

「…スッピィ!!!」

 

-ズガァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!-

 

「グ、ガァ…ア…ッ!!?」

 

オオミは右腕の毒針を勢い良く振り下ろした。その一撃はオノノクスの頭部に叩き込まれるように直撃し、轟音と共にオノノクスは上半身が地面に減り込み、そのまま地面に埋まった状態で撃沈してしまった。

 

「ば、馬鹿な……俺の、オノノクスが……たった一撃で…!?」

 

「す、凄い…!」

 

「…い、いや、まだだ!! アリアドス、『エレキネット』だ!!」

 

「シャアッ!!」

 

オノノクスがやられても、まだアリアドスがいる。そう考えたアルゴは急いでアリアドスに指示を出し、アリアドスは口から放出した『エレキネット』でオオミを捕らえようとする……が、オオミは素早い動きでそれを回避。瞬時にアリアドスの目の前に接近する。

 

「オオミ、『いとをはく』!!」

 

「スピッ!!」

 

「キ、キシャアッ!?」

 

オオミは『いとをはく』攻撃を発動し、右腕の毒針の先端からアリアドスと同じように糸を放出。その糸はアリアドスのボディを一瞬で拘束し、オオミはそのまま捕らえたアリアドスを振り回し…

 

「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…ッピィイ!!!!!」

 

「シャアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「なっ……うごわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

地面に埋まっているオノノクス目掛け、アリアドスを思いきり投げつけた。投げつけられたアリアドスはそのままオノノクスごと吹き飛ばし、それを見たアルゴは慌てて逃げようとするが時既に遅し。飛んで来たアリアドスとオノノクスに押し潰される形で撃沈し、呆気なく気絶してしまった。

 

「う、うわぁ…」

 

「よしよし、よくやったオオミ」

 

「スピッ」

 

オオミのとんでもない力技にツバメ達は唖然とし、okakaは思わず苦笑い。マサナリが敬礼しているオオミをモンスターボールに戻す中、okakaはツバメの肩を借りる形で何とか立ち上がり、マサナリと対面する。その横ではコダチがボロボロのゲッコウガを支えている。

 

「マサ先輩、どうしてここに…?」

 

「さっきも言ったように、任務帰りのついでにこっちの様子も見に来たのさ……と言っても、まさか後輩がここまで重傷を負っているとは想像もしてなかったけどな」

 

「は、はは……そりゃご迷惑おかけま、し……」

 

「!? マ、マスターッ!?」

 

「ッ……おい、カズキ!! しっかりしろ!!」

 

しかし、ダメージが相当大きかったのだろう。okakaは借りていたツバメの肩からずり落ちるように地面へと倒れ伏してしまい、そのまま意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捜査のご協力、感謝します!」

 

「早いとこ、アイツ等の連行よろしくな~」

 

その後、アルゴ率いる密猟団は全員、ジュンサー逹によって逮捕される事になった。アルゴ逹を乗せた護送船がミオシティまで移動し始める中、マサナリは海岸付近の小さな岩に座り込んだまま視線を別の方向に向ける。その視線の先には……医療船に運ばれようとしているokakaとゲッコウガの姿があった。

 

「マスター、しっかりして下さい…!!」

 

「ケロォ…!」

 

「ウキャア…!」

 

「スバァ…!」

 

「クロバ…!」

 

ツバメやケロマツ逹、そしてクロバットがokakaとゲッコウガの事を心配そうな様子で同行する中、マサナリはその様子を見ながら通信機でリーグ協会に連絡を取る。

 

「こちらマサナリ、任務は無事完了しました。しかし密猟団との戦闘で、諜報部のメンバー1名とその手持ちポケモンが1体、そして野生ポケモン1体が負傷。負傷者達をポケモンセンターまで運んだ後、本部に帰還します。報告はその時にでも……了解、では」

 

リーグ協会に状況だけ伝えてから通信機を切るマサナリ。そんな彼の隣に、結局最後まで傍観したままだった竜神丸が並び立つ。

 

「流石のカズキさんでも、あれほどの力を使いこなすのは簡単ではなかったようですねぇ」

 

「ん、お前さんは?」

 

「あぁ失礼。私の名はアルファと申します、以後お見知り置きを」

 

「お、わざわざご丁寧にどうも。ポケモンリーグ協会諜報部のマサナリです、よろしく」

 

「えぇ、よろしくお願いします」

 

お互い、ご丁寧に笑顔で挨拶を済ませた後……マサナリはすぐに真剣な表情に切り替わる。

 

「…それで、今言った事はどういう事だ?」

 

「…あれほどの力、についてですね?」

 

マサナリは無言で頷く。それに対して竜神丸は今も不敵な笑みを浮かべたままタブレットを取り出し、画面にゲッコウガとオノノクスの戦っている映像を映し出す。

 

「!? 何だ、このゲッコウガの姿は…!!」

 

「実を言うと、この姿になったのは今回で2回目です。それ故に情報が少な過ぎるのが現状なのですが……現段階で判明している事は一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この力は、カズキさん達ですら簡単に使いこなせる物ではない……という事くらいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ポケモン短編EX3』に続く…

 


 
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