三人は落ち着いた後、剣丞が連れてきた面々と面通しをし、雑賀庄へと皆を招きいれた。
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「それじゃあ、大きな被害は出てないんだね?」
「えぇ。浜の方が少々やられましたけど、人的被害などはほとんどありませんわ」
「麗羽殿は基本力押ししかしませんからね。この地形を見るに、現状の袁家では攻め落とすことは出来ないでしょう」
麗羽の戦術は『雄々しく前進』の一点。
平地や城攻めなど、圧倒的多数で攻める時には有用な場合もあるが、紀州のような山間の狭い道などでは策なき大軍はかえって逆効果だ。
「何度かお姉ちゃんが総大将っぽい人を狙撃したんだけどね~」
「え……狙撃、したの?」
雀の言葉に剣丞の顔が一瞬で青くなる。
百間先の動く的でさえ正確に打ち抜く烏に狙われては、麗羽の命など…
「……あれ?」
そこまで行って剣丞の思考は止まる。
「稟姉ちゃんって、この前麗羽姉ちゃんに会ったんだよね?」
「えぇ。それが?」
「……あるぇ~?」
剣丞は首を捻りながら、顔を烏の方へ向ける。と、
「…………(ずーん)」
烏は暗い顔をしていた。
「お姉ちゃん、珍しく失敗しちゃったんだよねー。それも二回も!」
「……………………(ずずーーん)」
雀の追い討ちに、烏の顔は益々暗くなる。
「……どして?」
明命などのようにすばしっこかったり、鈴々のように動物的勘が鋭いならともかく、麗羽などは目立つだけの歩く的だろうに…
「それが、直前にくしゃみされたり振り返られたりで、なんか避けられちゃったんだよね」
「本当に、悪運の強い方ですのね」
「…あぁ」
剣丞は梅の言葉で思い出した。
麗羽の恐ろしいまでの『運の強さ』を。
競馬をやらせれば百戦百勝。
麗羽が賭けなければどんな大本命馬でも、ゲート内で立ち上がったり、はたまたコーナーで逸走したりと、不可解な負け方をするという…
その勝ち方が一部で話題になってしまい、土日は麗羽を無理矢理屋敷に押し込めた事があったまでは、剣丞は知らなかったりする。
「雀さんの話では品のない髪型をしているとか。嫌ですわね、まったく…」
「…………」
「お姉ちゃんは梅ちゃんに似てる、って言ってるよー」
「なんですって!?」
「…………!(ぶ、ぶんぶん)」
慌てた様子で首を横に振りながら、烏は雀を指差す。
言ったのはお前だと言わんばかりだ。
「う~ん、でも確かに…」
「ちょいと似てるかもしれへんな」
「喋り方も似てますね~」
翠、真桜、風は梅を見ながらそう言った。
「…まぁ、そうかもね」
「ハ、ハニーまで…!」
剣丞の言葉に衝撃を受ける梅。
しかし客観的に見れば、その髪の色や髪型、喋り方や笑い方など、梅と麗羽は似ていると言っても過言ではないだろう。
「ま、その話は置いておくとして…」
「置いておかれたっ!?」
流れを静観していた一葉が話に入る。
「こうして梅らと合流できたのは良いとして主様よ、この後はどうするつもりじゃ?」
「もちろん当初の予定通り、麗羽姉ちゃん達にも協力をお願いするつもりだよ」
「ふむ…しかしその袁本初殿は、こちらに攻撃を仕掛けてきてるのですよ?」
幽が冷静に切り返す。
「俺は稟姉ちゃんの感じたことを信じたい」
「と言うと?」
「麗羽姉ちゃんはその真直って人に扇動されてる、とすれば話は変わってくる」
「どう変わると?」
「自分の意志でやってるならともかく、扇動されてるなら説得なり何なりすることが出来ると思うんだ」
「ふむ…」
問答の末、一定の納得を得た幽。
しかし、
「麗羽を説得ぅ~?」
「あのおばさんを説得とか、絶対ムリだよね~」
普段から散々困らされている翠と蒲公英は、苦虫を丸まま飲み込んだような渋い顔をする。
「ちゃんと、梅たちは敵じゃない、って説明すれば大丈夫だと思うけどなぁ~」
ポリポリと頭をかく剣丞。
翠や蒲公英に限らず、麗羽と関わった者は悉く迷惑を被っているが、剣丞は小さい頃、麗羽には割と遊んでもらっていたこともあり、苦手意識というものはなかったりする。
「それで、具体的にはどうするのだ?」
秋蘭はひとまず剣丞の話に乗ることにしたようだ。
「ん~~……手っ取り早いのは麗羽姉ちゃんを捕まえちゃうのが一番なんだけど…」
「また難しいことを…」
剣丞の無茶な発言に、詩乃は思わず額を押さえる。
「袁本初殿といえば、袁家の総大将。そうそう捕まえられるはずがないでしょうに…」
「でも確か、兵は多いけど将の数は少ないんだったよね?」
「そですね。前線指揮ができる人材というと、斗詩ちゃんと猪々子ちゃんしかいないですねー」
風が剣丞の問いに答える。
「そこに付けこむ所があると思うんだけど…梅、こっちで確認できた将の数は?」
「前線には、確かに将を二人、確認してますわ。後は本陣に総大将と思しき方と、貴人の娘が一人。そのお付きの者と思われる者が一人。他に主だった者はいなかったようですわ」
「多分、美羽と七乃やろな」
「あーー…」
真桜の言葉が、剣丞の頭の中で確かな像を結ぶ。
「それだけ、なのですか?眼鏡をかけた軍師のような人物はいませんでしたか?」
稟が尋ねる。
「私は聞いておりませんわね。烏さん、雀さん、いかがですか?」
「雀は知らないよー?お姉ちゃんも見てないって」
「(こくっ)」
この三人が把握していないと言う事は、紀伊攻めに軍師の真直は一度も参戦していないようだ。
「真直なしでどこか攻めようって、無謀が過ぎるだろ…」
「馬鹿ばっかだもんねー」
手厳しい評価を下す翠と蒲公英。
「真直は恐らくは留守居役を務めていたのだろうが…」
「しかし、軍師ともあろうお方が一度も現地に赴かないというのは、いかがなものでしょうなぁ…」
「ふむ。策を献上するには地形を把握しておくことが大事じゃからな。幽もふらふらと京の街を歩いておるのもその一環じゃろうて」
「はっはっは。さすがは公方さま。お目が高い」
「主従漫才はさておいて…」
話が進まないので剣丞が割って入る。
「軍師が同行しない遠征。どう見るべきだろう?」
「剣丞さま」
剣丞の問いに詩乃が一歩進み出る。
「田豊の手によって稟殿が追われていたことを鑑みるに、田豊は敵方の息がかかっていると見て間違いないでしょう」
「なるほど。それで?」
詩乃の目が前髪の奥でキラリと光る。
「だとすると、敵方の狙いはただ一つ。この戦に勝たないようにすることが目的かと」
「んだそりゃ!?戦は勝ってナンボのもんだろうがっ!」
小夜叉が呆れる。
「今までの各地の情勢を見るに、敵の攻め口は大きく分けて二つに分かれます。一つは鬼や白装束など大兵力を用いての力攻め。
そしてもう一つは、策によって我々の同士討ちを狙う謀略戦です」
「なるほど。それがしらと白百合、孫呉と長尾、松平と壬月殿や趙子龍殿ら、そして今回…こうして列挙すると、少なくはないですな」
「我々の国家間、勢力間での戦力の分断。そしてその間に各地で各個撃破。悪くはないですね~」
ふむふむと風が頷く。
「…それなら、やっぱり真直ってのを出向かせて、勝っちまった方がよくねっすか?」
柘榴が単純な疑問を投げかける。
「わ、私たちは軍師の一人や二人いたくらいで負けたりはしませんわ!」
「まぁまぁ、梅。落ち着いて」
いきり立つ梅を剣丞がなだめる。
「すぐに勝ってしまっては意味がありません。雑賀衆は少数精鋭。対する袁家は大兵力。理想は雑賀衆に袁家の兵力を削がせつつ、雑賀衆の物資を減らし、少しの差でどちらが勝つこと。これに尽きます」
「…なるほどっす」
詩乃の解説にやや気圧され気味に柘榴は頷いた。
「とにかく、敵の一味なのか操られているのかは分からないけど、田豊が遠征に同行してないのは僥倖だね。麗羽姉ちゃんに接触さえできれば何とか出来るはず」
「双方の消耗が目的であれば、そう間を置かずにまた攻めてくるでしょう」
「そうですね。その時が好機かと。麗羽殿の確保が目的であれば、上手く策にはめる必要がありますね」
「ですねー。なので梅ちゃんに烏ちゃんに雀ちゃんには、風たちに一度詳しくこの国の道案内をお願いしたいのですがー」
軍師三人のやる気に満ちている。
「お安い御用ですわ」
「はーい!」
「(こくっ)」
「それならみんなで一緒に行こう。戦うにしても、地形を見といて損はないからね」
こうして一行は、紀伊の国を周ることになった。
次に袁家軍が攻め寄せた時に、麗羽の身柄を確保するために。
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どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、86本目です。
今回は軍議?なのかな?
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