「ここが、ザラーム地下墓地みたいだな」
三女神とトールは、町人から情報を聞いて、ザラーム地下墓地の入口に辿り着きました。
「いかにもアンデッドが出そうな場所だね」
「でも、ここで問題が起きてるんですよね……」
問題とは、死体が突然目覚め、アンデッド化するというものです。
「その問題をどうにかしなきゃ、あいつは安心しないって事だな」
「……」
ジャンヌは、何故か黙りこくっていました。
「何を黙っているのですか。お姉様」
「……四使徒を全滅させたら、わたくし達は本当に神界に帰れるのでしょうか」
「あっ、すっかり忘れていました!」
「アンタらは神界へ帰りたかったんだな」
「そうですよ、トールさん」
現在、神界へ続く道は、四使徒の手によって塞がれています。
そのため、彼らを全滅させれば、神界に戻れると三女神は考えているのですが……。
「早く帰りたいんだろ? だったらこの問題を解決させようぜ!」
「ええ。今は、そうしましょうか」
三女神とトールは、ザラーム地下墓地に入りました。
「うぅ……薄暗いですね」
「当たり前だろ、アンデッドが住む場所なんだから」
地下墓地の中は薄暗く、前はほとんど見えません。
障害物も見えにくいため、慎重に進まなければなりません。
「どうか出てきませんように!」
バイオレットがそう祈っていましたが、カタカタカタと何かの音が聞こえてきました。
「……って、きゃあっ!」
「っ! スケルトンですか!」
それは、動く骨のモンスター、スケルトンでした。
スケルトンはゾンビと同じく下級のアンデッドモンスターで、
死者の骨が死霊術によって操られたものです。
作った者の命令に従いますが、知性は全くないため複雑な命令はできません。
―カタカタカタカタ!
「痛ぁい!」
スケルトンは剣を持ってバイオレットに襲いかかってきました。
本来は簡単にかわせる攻撃なのですが、何しろ薄暗いためにまともに見えません。
そのため、バイオレットはスケルトンの攻撃を受けてしまいました。
「もーう! 許さないんだからぁー!」
バイオレットが影の能力でスケルトンを攻撃しました。
しかし、闇属性はスケルトンにはあまり効果はなかったため、大したダメージにはなりませんでした。
「はっ! スケルトンならバラバラにすればいいさ!」
トールはミョルニルを振り下ろしてスケルトンを攻撃しました。
神器であり、その上スケルトンは打撃攻撃に弱いため、スケルトンは一撃の下に砕け散りました。
「所詮は数だけ……ですよね?」
ジャンヌが手をかざすと、そこから暴風が吹き荒れました。
それにより、スケルトンは跡形もなく吹き飛ばされました。
「まったく、数だけは多いんですから」
スケルトンを全滅させたジャンヌは、不機嫌な様子で先に進みました。
「……そんなに怒るなよ」
「お姉様は弱いけど数が多い敵は嫌いなんです。だから許してください、トールさん」
「それなら、出会わないようにすりゃいいだけだろ!」
そう言うと、トールの周囲から威圧感が放たれました。
すると、周囲の弱い魔物が委縮し、戦意を喪失しました。
これは『強者の気迫』といい、威圧感によって弱い魔物を遠ざける事ができる技です。
「ん? 敵の気配が感じられませんね」
「先を急ぐんだろ? ついてこい!」
「あ、はいっ!」
弱い魔物が出なくなったとはいえ、強い魔物が出ないというわけではありません。
ダークストーカーやアンデッドキメラなど、強いアンデッドが出やすくなったのです。
「ライフドレイン!」
ゲールは生命の力を使い、アンデッド達を次々に浄化していきました。
「やりますね、ゲール」
「こういうのは私に任せてくださいよ」
「ガァァァァァァァァァ!」
「くっ、ヴァンパイアか!」
レッサーヴァンパイアがトールに襲いかかってきました。
彼らは相手を眷属にする力はありませんが、高い再生能力を持っており、
一撃で倒さなければすぐに回復されてしまいます。
「シャドウエッジ!」
バイオレットは影の能力でレッサーヴァンパイアを足止めし、姉達の攻撃をサポートする事にしました。
「ウィンドカッター!」
「ライフドレイン!」
ジャンヌとゲールは能力を使ってレッサーヴァンパイアを攻撃しますが、
レッサーヴァンパイアを倒すには至らず、傷を回復されてしまいました。
「ったく、一撃で倒さなきゃダメだっつってんのに!」
「一撃で倒すには……威力を上げる事。こうすればいいでしょう。ゼピュロスフォース!」
ジャンヌは風の能力を使い、トールのミョルニルを強化しました。
「よし、一気に振るぜ……どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ギャァァァァァァァァァァァァ!!」
強化されたミョルニルは、レッサーヴァンパイアに命中しました。
レッサーヴァンパイアの頭はミョルニルによって潰され、そこから太い雷が落ちると、
レッサーヴァンパイアは肉片も残らず消滅しました。
「さぁて、先を急ぐか!」
「はい!」
ジャンヌ、ゲール、バイオレット、トールは、
強者の気迫の効果が続いているうちに地下墓地の最深部を急ぎました。
途中、バイオレットが隠し扉を発見し、大きな扉に辿り着きました。
「これは……」
「でかい扉だな」
「多分、ここにボスがいるだろうね」
「よし、開けるぜ!」
ジャンヌ、ゲール、バイオレットは、その扉を開けて中に入りました。
大きな扉の先は、大広間になっていました。
そこには、尖った耳と白い肌、鋭い牙と赤い瞳を持つ男性が、
多くのスケルトンやゾンビと共に立っていました。
「これは……!?」
「ヴァンパイアか!」
どうやらこの男性は、中位のヴァンパイアのようです。
理性がないレッサーヴァンパイアと異なり、知能も戦闘能力も人並み以上に高いのです。
しかし、日の光に弱いため、暗い場所でしか活動できないのです。
「お前達を殺す……」
「その様子からして、あなたが黒幕のようですね」
力あるヴァンパイアは、下級のアンデッドを操る事もできるようです。
あの男性の周りにスケルトンがいるため、ジャンヌは彼が黒幕だと判断しました。
「何にしても、まずはスケルトンから倒しますよ!」
ジャンヌ、ゲール、バイオレット、トールは、戦闘態勢を取りました。
「ターンアンデッド!」
ジャンヌが生命の力をスケルトンとゾンビに放つと、
大半のスケルトンとゾンビは跡形もなく崩れ去りました。
しかし、スケルトンナイトにだけは効果がありませんでした。
「ガァァァァァァァ!」
「ウィンドガード!」
スケルトンナイトの剣を、ジャンヌは風の能力で受け止めました。
「エアリアルブラスト!」
ジャンヌは後ろに下がり、風の能力でスケルトンナイトを攻撃しました。
しかし、遠く離れていたため、威力は減衰して少ししかダメージを与えられませんでした。
「シャドウエッジ!」
「ライフドレイン!」
バイオレットが影の刃を放ってスケルトンナイトを怯ませた後、
ゲールが生命の力でスケルトンナイトを攻撃しました。
続けてトールがミョルニルを持ってヴァンパイアに突っ込んでいき、
ヴァンパイアに振り下ろしました。
―ガキィィィィィィン!
しかし、ミョルニルはヴァンパイアの防御魔法に阻まれました。
ヴァンパイアは反撃として、トールを爪で引き裂きました。
「がはぁっ!」
「トールさん!」
「安心しろ、これくらい平気だぐほぁ!」
そんなトールを、スケルトンナイトは容赦なく切り裂きました。
「早めに倒しましょう! エアリアルブラスト!」
「ライフドレイン!」
「ダークブラッド!」
三女神が一斉攻撃をした事によって、スケルトンナイトは崩れ落ちました。
残るはヴァンパイアのみです。
「食らえ……ファイアストーム!」
ヴァンパイアは炎魔法でジャンヌ、ゲール、バイオレット、トールを攻撃しました。
しかし、彼らは何とか気合で耐えきり、反撃を行いました。
「ウィンドストーム!」
「グラビティ!」
「フォースアタック!」
「サンダーブロウ!」
彼らの連続攻撃によってヴァンパイアは大きなダメージを受けました。
ヴァンパイアはジャンヌに噛みついて体力を吸収しようとしましたが、
ジャンヌはそれをかわして風を叩き付けました。
「ぐほぁぁっ!」
「……何とかして、あいつに日光を当てて、消さなきゃな……」
「でも、ここには窓がありませんし……どうすれば……」
ゲールが困った顔をしていると、トールはミョルニルを構えました。
「窓がなければ……」
「え?」
「作ればいいだろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして、トールはジャンプして、壁を破壊しました。
すると、ヴァンパイアに当たるように、太陽の光が差しました。
「ぐぉお……なんだ、この光は……!」
「そうか! 壁を壊して、そこから日光を出したのですね!」
「ああ、そうだ! 後は手を出さなくても、勝手に消えるはずだ」
トールの言う通り、ヴァンパイアは膝をつき、苦しみ出しました。
「嫌だ……なんで私が消えるんだ……。まだ……まだ生きていたいのに……。
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヴァンパイアの叫び声と同時に、ヴァンパイアは灰となって消えました。
それと同時に、地下墓地のアンデッドの気配も消えました。
「ようやく終わりましたね」
「ああ……。終わったな」
「こんな敵とまた戦うなんて……もう、私はうんざりですよ」
「でもまぁ、勝ったんだし。まずは帰って喜ぼっか♪」
「そうですね、バイオレット」
「んじゃ、そろそろ地上に戻ろうぜ!」
こうして、三女神とトールは、地上に戻ったのでした。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
9月なのに暑いですね……。