No.868946

夢が叶うなら

注:星矢×サガです。逆ではありません。ものすごい年下×年上。

2016-09-13 16:38:02 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2649   閲覧ユーザー数:2626

ハーデス軍に勝利した女神アテナと聖闘士たちは、女神の慈悲により皆が無事に復活をとげた。全員がアテナ神殿に集合し、玉座の女神とその横に立つ前教皇シオン、そしてその前の大広間に聖闘士一同そろって並び、片膝をついて女神に敬礼していた。最前列にはカノンを含む13人の黄金聖闘士、その後ろに白銀、青銅、最後列には雑兵まで、聖域での順位通りに並んでいる。

まずは全員に対して女神から労いの言葉があり、その一言一言を噛みしめるように聖闘士たちは聞き入った。涙を流す者もいれば、安堵して友人と笑顔を交わす者もいる。一同静まったあと、今度はシオンが言葉を発した。

 

「ペガサス星矢、前へ出よ。」

 

思いがけない呼び出しに、星矢は「え、オレ?」と自分を指差したが、シオンは続けて紫龍、氷河、瞬、一輝を呼び出し、5人は段を上がり女神とシオンの前で膝をついた。アテナ沙織はにこりと笑顔を見せ、星矢たち5人も嬉しそうに笑顔で返した。

 

「聖戦での最たる功労者である、お前たち5人に褒美をとらせる。」

 

シオンの言葉に、彼らは「ええ??」と素直に驚きの声をあげた。

 

「一人一つだけお前たちの望みを叶える。これは、ここにいる女神と教皇である私、そして最高位の黄金聖闘士たちも承知したことだ。」

 

5人はそれぞれに思いを巡らし、次々と答えたが、そのほとんどが世界平和や仲間たちとの永き友情を願うものだった。欲のない、実に清々しい少年たちである。

最後に順番が回ってきた星矢は、4人とは違って真剣な顔で必死に願い事を考えていた。女神とシオンは穏やかな笑みを浮かべて彼を眺めている。後ろで見ている聖闘士たちも星矢の思い悩む様子を楽しんでいるようで、時折クスクス笑い声さえ起きた。

皆、思った。功労者とはいえ、元を正せば13歳の少年だ。そのぐらいの年頃の子供が欲しがるものなどたかが知れてるし、食べたいものや行きたい処も何となく想像できる。

やがて星矢はすっくと立ち上がり、笑顔を見せると、くるりと後ろを振り向いた。

 

「あの人をオレにください。」

 

皆がざっと星矢の指差す方向を見た。しかし、星矢のいる位置からでは整列する聖闘士たちが離れているため、今ひとつ誰を指しているのかわからない。

 

「え、どの人だ?」

 

シオンも思わず星矢と同じような口調で返してしまった。星矢は嬉しそうに段を降り、つかつかとその人物に寄って思い切り指差した。

 

「この人!!!」

 

神殿内にどよめきが起こった。指の先には、もはや驚きも通り越して、ぽかんとした顔で彼を見上げるサガがいた。星矢はいたずらっぽいいつもの笑みを浮かべて、シオンを振り返った。

 

「どんな願い事でも叶えてもらえるんだろ?」

 

 

 

「やめてください!……放してあげて!…星矢は何も悪いことしてない……!!」

 

瞬が少女のような高い声で泣き叫び、星矢を掴む男の腕にすがりついていた。数名の聖闘士が彼を押さえようとしていたが、男はびくともしない。星矢の両腕をつかみあげ、彼の足が地に届かないほど高く持ち上げ、無言で締め上げている。その男の前で、星矢は”最も言ってはいけない事”を言ってしまったのだ。

男……射手座のアイオロスは、星矢の聖衣の腕パーツがすでにビキビキ音を立ててひび割れているのを気にも止めず、無表情でつかみあげている。星矢は彼の凄まじい力に苦悶の表情を浮かべていた。

サガは、カノンに揺さぶられてようやく正気に返り、無言で立ち上がると騒動の輪の中に入っていった。

 

「放してやれ、アイオロス。」

 

サガがアイオロスの腕に触れると、いとも簡単に彼は星矢を放した。駆け寄る仲間たちに囲まれながら、星矢は腕を押さえている。

 

「仲間が先に同じ事を願っちゃったから、オレぐらいいいかなと思って……」

 

「この馬鹿者め。」

 

「何でも叶うっていうから……」

 

「お前に託したのは女神だ。断じてサガではない。」

 

聖域の英雄たるアイオロスが、これほど冷たい目をするものかと周囲はぞっとした。

 

「二人ともやめてくれ。私は心から恥ずかしい。」

 

「しかしお前……!!!」

 

怒りに涙目になりつつあるアイオロスにサガは自らの肩を押し当て、星矢から彼を少し遠ざけた。アイオロスの耳元で囁く。

 

「子供の言う事じゃないか。本気にとらえるヤツがあるか……」

 

「まさかお前、承知してるんじゃあるまいな?」

 

「落ち着いてくれアイオロス。私はこの件をもうこれ以上大きくしたくない。」

 

ボソボソと二人で話した後、アイオロスは急に澄ましたような顔で星矢を見下ろした。サガは星矢の側に腰を下ろすと、優しく語りかけた。その類い稀な美貌に、星矢はボーッとした目でサガを見上げている。

 

「いいよ、星矢。私はお前のものになる。でも、明日1日だけという事でお願いしたい。どうだ、私の申し出を受け入れてくれるか?……もしそうしてもらえるなら、私は一日中お前と一緒にいるよ。」

 

ぱっと星矢の顔が明るくなり、周囲など見えないかのように飛び上がって喜んだ。

 

「やった!!……サガだって急に言われたんだもんね。びっくりするよね。でも一日中なんてすごいや。じゃあ、明日の朝から翌日の朝まで! 24時間ずっと二人きりでいるんだ!」

 

アイオロスのイライラした小宇宙を背後に感じながら、サガは努めて明るく振る舞ってごまかした。

 

「それでいいでしょうか、シオン教皇。」

 

「ああ、何でもよい。お前たちの好きにしてよい……」

 

卒倒した女神を介抱するのに必死だったシオンは、今後の聖域を憂いて大きなため息をついた。

 

 

翌朝8時ぴったりに、星矢はサガの家の前に現れた。いつもの赤いTシャツとジーンズの普段着ではなく、クリーム色の丈の短いチュニックとスボンを身につけ、額にも同じ色のバンダナを巻いている。修行中の服はボロボロになってしまったので、同居している姉の星華が新しく仕立ててくれたものだ。過酷な戦いの間に身体が鍛えられて逞しくなり、胸筋が張って我ながらカッコよく見えると星矢は思った。戸口に立つと、家の中から話し声がする。やがて木戸が開いた。

 

「おはよう星矢、時間通りだな。」

 

目の前に現れたサガの姿に、星矢は目を奪われた。いつものライラック色の普段着かと思っていたが、今日の彼は違う。衣の色こそ同じだったが、袖や襟ぐりに金の飾り模様がある法衣のような長い裾の服を身につけ、金の飾り帯で腰をしめている。帯の中央には、双子座の聖衣の冠に使われているものと同じルビーがはめ込まれ、朝日を受けてキラキラと光った。裾が動くと、両腕を飾る細めのブレスレットと同じデザインのアンクレットが見え隠れし、金のサンダルが彼の白い足を包んでいた。見慣れているはずの青銀色の長髪も、今日は一段と輝いて美しい。こんな美人と一緒にいられるのが信じられない。星矢は夢見心地でぼんやり眺めていた。

すると、サガの後ろからぬっと手が現れ、彼の両肩に置かれた。次に、ひょいと顔が現れた。サガと同じ顔……いや、正確には彼より少し険のある表情。

 

「カ、カノン……!どうしてここに?」

 

「オレの家なんだから当たり前だろう。」

 

サガの後ろから姿を現したカノンは、星矢によく見えるように両手を広げてみせた。サガとまったく同じデザインの衣装と装飾を身につけ、衣の色だけが普段着と同じスカイブルーで、彼によく似合って大変美しい。男性でこれほどの容姿を持つ双子など、宇宙中探してもここにしかいないだろう。それはそれで星矢は見とれたが、ハッと我に返ってカノンに言った。

 

「ま、まさか……貴方も一緒に行くのか?」

 

「バーカ。なんでお前たちのデートに付き合わなきゃいけないんだよ。兄さん、こいつが変な事したらちゃんと殴れよ。」

 

「変な事なんかするか!!!」

 

笑うカノンに向かって星矢は真っ赤になって拳を握ったが、すれ違いざまにカノンは星矢の肩を抱き寄せて耳に囁いた。

 

「サガはフルーツ味のジェラートが大好物だ。忘れるなよ……」

 

ぽかんとした顔でカノンを見送る星矢の肩にふわりと手が置かれ、彼はドキリとして振り返った。

 

「カノンも羽をのばしにいくそうだ。私たちも出かけよう。私は朝食がまだなんだが、星矢、お前は?」

 

「オレもまだ食べてない。早くここへ来たかったからさ……」

 

エヘヘと笑う星矢に、サガも微笑んだ。歩き出すと、サガはさりげなく星矢の腕に自分の腕を後ろから絡ませた。女性のような香料のよい薫りがする。星矢はウキウキしながら、得意げにサガをエスコートしてアテネ市街へと向かった。

 

「オレ、明日の8時きっかりに、今度はアイオロスが迎えに来ると思うよ。」

 

「私もそう思う。星矢、お前もよくわかっているな。」

 

二人は笑ったが、サガは昨晩の騒ぎの際、アイオロスが耳打ちしてきた”今日の分の見返り”を思い出した。とても言葉にできない数々のアイオロスらしい要求に、先を思いやったサガは一人で赤くなった。

 

 

その日二人は、特別な事をせずただ普通に市街地を巡った。星矢は修行のためにこの国に来たので、それほどギリシャの遺跡を見ていなかったし、サガもここで生まれ育ったわりに、街の流行ものについてはあまりよく知らなかった。普通には生きられない運命を持った二人にとって、「ただ普通であること」が一番やりたかった事だった。

気取ったレストランなどには入らず、屋台で思いつくままに買ったものを食べ、土産屋をのぞいてみたり、観光客に混じって遺跡の案内人の話を聞いたりした。

すれ違う人は皆、サガの容姿に振り返った。他人にはどんなふうに自分たちが見えるのだろう?……美人の母と息子、容姿端麗な父と子、美貌の姉と弟、美声年の兄と弟……いろいろ組み合わせはあるが、どうあっても恋人同士には見えないだろう。そんな事を考えながら、星矢は噴水の石段に腰かけて、横で大事そうにジェラートを舐めるサガを見ていた。

 

空が少し黄色みがかってきた頃、二人は街を離れ聖域近郊へ足を運んだ。かつて太陽神と過酷な闘いを繰り広げたディグニティ・ヒル。ここにひっそりと咲き乱れる花畑に二人は現れた。秘境のため他に人影はない。星矢はふざけてサガの腰にとびつき、二人は笑いながら転がった。両手を広げて花に埋もれるサガを、星矢は見下ろした。長いまつ毛に縁取られたマラカイトブルーの瞳が、星矢を見つめ返す。その澄んだ美しさに星矢は眩しさを感じた。

 

「ここでの闘いで貴方に命がけで喝を入れてもらったの、忘れられないよ。」

 

「そんな事もあったな。なんだか遠い昔のようだ。」

 

「もう貴方にあんな事させない。邪悪な者も近寄らせない。オレ、もっと強くなるから。」

 

「お前は充分強いよ。私だけじゃない。皆が認めているじゃないか……」

 

サガの白い手が優しく星矢の髪に触れた。星矢はそれを気持ち良さそうに受ける。

 

「オレが大人になったら、好きになってくれる?」

 

サガは目を細めて笑顔を浮かべたが、言葉はない。

 

「オレ、すっっごい大男になるかもしれないよ。身長も190センチくらいになっちゃったりして。筋肉とかもうムキムキでさ。サガをお姫さん抱っこしちゃうんだ。」

 

「アッハハハハハ」

 

想像したサガは大笑いした。こんなに楽しそうに笑う優しいサガを見た事がない。星矢もつられて笑った。

 

「ねえ、そうしたら好きになってくれる?」

 

「星矢………」

 

目を閉じ、サガは笑いながら顔をそらした。

 

「こっち見ろよ。」

 

思いがけない言葉に、サガは驚きの混じった瞳で見つめ返す。そこには、いつの間にか大人びた表情を浮かべる星矢の顔があった。

 

「……お前がアイオロスに勝ったら考えるよ。」

 

「勝っちゃったらどうするの? 本当にそうなったら…」

 

「生意気言うな。」

 

サガは星矢のほっぺたを柔らかくつねった。星矢はわざと痛そうな顔をしてみせたが、ニヤリと笑みを浮かべると、サガの背中に手をまわして抱きしめた。寝転んでしまえば身長差なんて関係ない、と言わんばかりに。男らしい強い抱擁に、サガは幼い頃のアイオロスを思い出した。星矢と彼は似ている。諦めない強い信念と、過酷な時ほど増長し爆発する小宇宙。天駆ける神馬の宿命が、彼らの力をつなぐのだろうか。

 

私は、その神馬にずっと追われる宿命なのかもしれない……

 

サガは瞼を閉じ、彼を抱きしめたままじっと動かない星矢の身体にそっと両腕を巻きつけた。

 

 

 

夜遅く、二人は食事を済ませてサガの家に帰ってきた。星矢は相当楽しかったのか、大きなベッドに寝転がるとすぐに寝息をたてた。できれば風呂に入ってほしかったが、あまりに深い眠りなので起こすのを諦めた。

いつもの長湯を楽しんで浴室から出てくると、カノンが帰っていた。リビングのソファに座り、適当なグラスでワインを飲んでいる。

 

「ああ、カノンか。今日は双児宮に行くと言ってたから帰って来ると思わなかったよ。」

 

「そのつもりだが、ちょっと様子を見に来た。」

 

自分たちが何かしてると思ったのだろうか。カノンが少し含み笑いを浮かべていたので、弟の悪戯な性格も相変わらずだとサガは思った。二人で寝室のドアから中を伺う。星矢は大の字で爆睡していた。

 

「気絶するほど楽しかったみたいだな。おい小僧、そこはオレの席だぞ。わかってるのか。」

 

サガはしぃーっと指を立ててリビングに戻った。

 

「兄さんも無事だし、オレ、そろそろ宮に帰るよ。」

 

戸口に向かうカノンをサガは呼び止めた。

 

「いつかお前とも出かけてみたい。私はあんなにゆっくり街を見たのは初めてだ。自分が知らない事ばかりで楽しかったよ。」

 

「いいよ。アイオロスの次で。終戦早々お付き合いが大変だな、兄さん。」

 

じゃあな、と手を振りながらカノンは夜道を十二宮に向かって歩いていった。

 

ソファで一休みしたあと、サガは寝衣に着替えてベッドに向かった。寝るスペースを空けるために星矢を起こさないようにそっと動かし、横になった。このあどけない顔で眠る少年が、よもや海皇や冥王に立ち向かうほどの戦士だとは誰も想像できないだろう。小さな身体にみなぎる、自分よりも巨大な小宇宙。側にいると大きな腕で抱擁されているような感じさえしてくる。

 

「星矢、今日はありがとう。お前からは本当に学ぶものが多いよ。ありがとう……」

 

サガは静かに瞼を閉じ、心地よいぬくもりの中で穏やかな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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