No.866580

リべレート ザ ヴィーナス 第3話 ~Liberate The Venus~

ざわ姐さん

お待たせしました?
待っている人がいるのか判りませんが、私は毎日まじかをやっているので想像がどんどん膨らんで書かずにはいられないのですw
とはいえ、仕事が忙しいので中々筆が進まず、また増える一方の設定に頭を悩ませながら書いているので非常に遅筆です。自分が後2人ぐらい欲しいですね!

2016-08-31 23:18:11 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:537   閲覧ユーザー数:537

 帝暦378年、時はティラン7世の時代、ティラン帝国に政変が起こる。老齢の皇帝の代わりに即位したティラン8世は21歳という若さで逝去した。時を同じくホーエンツォレルン家摂関フリードリヒ3世もこの世を去る。結果、これがティラン7世へ権力が集中する始まりとなる。教皇=法王となったティラン7世は院省(造語、実在する概念に一番近いのは平安時代に置かれた院庁)を設立し王権を超越した政治権力を獲得しそれを皇帝2代にわたって行使した。傀儡王権時代の始まりであった。

 

 「待って!そんな無茶な事無理に決まってるでしょ!」私は現実的ではないその提案に真っ向から反対した。「第一、帝国軍人として在籍している以上ありえない話じゃない。軍隊っていうのはそんな時間にルーズな所じゃないのよ。」それに対してシュクラは「その為の工作はもちろんこっちでちゃんと進めるわよ。すでに別件で帝国各省に調略の密偵を送り込んでいるわ。帝国政府は内部に反感感情を持つ者が大勢いるから既に相当数こちら側に着く事を了承しているわよ。あなたはその協力者を使って帝国軍公認で事を進めることができるって訳。」なんとも根回しの周到な事、まぞく達の中にも相当な知略家がいる事を窺わせる。

 

 「はて?いずこかのお嬢様が私の噂をしているようですね。」そう呟いて邪悪の王ジンはティーカップに大仰な仕草で紅茶を注いだ。「どうぞマイレディ。冷めないうちに。」そう勧めるとテーブルにソーサーに載ったティーカップを置いた。

 

 シュクラは折り畳まれた一枚の紙を胸の内ポケットから取り出すと、それを広げながら語る「近いうちに帝国は内部から崩壊する。その時、国をまとめるのは誰か?これからその為の根回しをしておこうって訳。あなたはその為のパズルのピースになるのよ。悪い話じゃないと思わない?」そして私に紙を見せた。それは調略が既に成立していて、いくつかの荘園領主や貴族は時期を見て離反に応じる用意がある事を仄めかす誓約書の覚書だった。しかも組織だって寝返る用意がある事を示唆している。なぜならこれは外務省の覚書だからだ「辺境諸侯はとっくの昔に帝国を捨てる準備をしていた訳か・・・・・」シュクラは書類を私から取り上げると「帝国への忠誠も引き時だって思ってるのよ。責めちゃ駄目よ。命、生活、家族、領民どれも大事だもの。」と言って折り畳んで書類を元あったポケットの中へ仕舞った。

 一介の帝国兵である私には、話が大きすぎて自身の役割が良く掴めない状態だった「具体的には私は何をどうすればいい訳?」単刀直入に尋ねてみるとシュクラは「そうね、簡単に説明するなら、英雄譚を私とあなたで作っていくって言ったらわかりやすいかしら?あなたが主役のプリンセスストーリーを作っていくの。これが成功すればこの大陸はあなた一人の物になるはずよ。」あまりにも気宇壮大(構想が並外れて大きい様)な構想、大胆不敵とはまさにこういうことを言うのだろう。私が一国の王に?ティラン皇帝に代わって私をお姫様にしようと言うのだ。子供の時分にもこんな人生の目標は考えもしなかった。「な・・・・・何をバカな話を・・・・・からかうのも大概にしてよ・・・・・」と、言いつつもちょっと想像してニヤけてしまいそうになる私は本当にバカなのか?そんな事を考えているとシュクラは真剣な表情で「冗談でこんな話はできないわよ。これは現魔王アーディをはじめその配下のまぞく、そして現在は協力関係にある魔王達とも対立する、造反すれすれの政治的蜂起になるんだもの。」そんな事言われても教養の無い私には想像もつかない内容の話だ。「難しすぎて私にはまったく想像もつかないんだけど・・・・・」頭を抱える私にシュクラは事の概要を説明し始めた。

 

 「今までまぞくは2つの大陸を侵略して、征服してきたわ。それと平行して問題も噴出してきた。それが統治問題。簡単に言うと元々人が統治してきた国をまぞくが割って入って来るんだからうまくいく訳も無く、いまだに小規模の小競り合いが続いてるの。特に元グラーツィア王国の兵は今やテロリストと化して事あるごとにテロを仕掛けてきてる状況なのよ。」そういえばここ帝国にもグラーツィアから来たという傭兵が結構居て、まぞくに対して復習を心に誓っている、なんて話を聞いたことがある。「ユニヴェールでは今までの占領政策の失敗を鑑みて政策の方向転換を図る計画を立案してるの。現魔王の執事は統治能力に長けた魔王に広く政策立案を要請して、当然私にもその話は来ているのよ。」私にもなんとなくだけど話の流れが見えてきた。「私を傀儡の王にしてこの大陸を統治しようって魂胆?」そう言うとシュクラは指を鳴らして「察しがいいわね、その通りよ。」と言って話を続ける。「あなたを帝位につけてユニヴェールを統治すれば、人間側での反感が間違いなく緩和されるし、なによりこの国の民はティラン皇帝に代わるカリスマ性を持った王を欲しているもの。」そんなこと言われても、私にはカリスマ性とか全く無縁だと思う、そんな私の考えを見透かすようにシュクラは話をそっち方向へと持っていった。「勿論、今のあなたは帝国軍の女兵長でしかないから、これからサクセスストーリーをなぞってもらってこの国の英雄になってもらう。その為のシナリオもこれから用意するわ。大丈夫、あなたには魔王イルテバークと姫巫女の血が受け継がれているのだから、十分英雄の器たりえるわ。」シュクラは私の耳元でそう言うと、席を立ち病室の窓際に近づく。

  「まずは明日の叙勲式ね。ここで一芝居うつわよ。私の配下のまぞくが式を襲撃する、あなたはそれを見事撃退してみせる。そして声高らかにあなたの真の名前を宣言するのよ。それまでは名乗るのはお預けね。楽しみにしてるわよ。」そう言い残して、シュクラは忽然と姿を消した。窓に架かるカーテンが風に揺らめく。私はしばらくの間先ほどの会話の内容を精査し考えをまとめていたが、今後の身の振り方についての答えだけはどうしても出せなかった。成るように成るかとも思ったが、それでいいのか?と考えてしまう。どうしても割り切って考えられない。自身の将来に大きく影響する、一歩間違えれば死を招きかねない決断だ。人生はやり直しがきかないのだ。

 

 

 遡る事2日前、ここはまぞくに接収されたアヴニール城。現在城の一部にはまぞくの参謀指令支部が置かれている。参謀にはシュクラを始め名だたる多数の魔王が名を連ね、ここから最前線に発令がなされている。帝国兵籠絡作戦はシュクラによる秘密作戦として、一部の配下のまぞくと協力関係にある魔王をのぞいて他の者には極秘とされていて、その中には勿論魔王アーディやティーンなども含まれていた。

 

 「フロイライン、二日後の強襲には誰を連れて行くのですかな?」テーブルの上に置いてある銀のトレーの上に自らの首を置き、体はイスに腰掛けてデュラハン公爵はシュクラに尋ねた。シュクラは接収した城の本を読んでいたが、それを胸の下辺りまで下げ、掛けているメガネを少しずらしてから答えた「あまり大勢で押しかけたくないの、人選は公爵に任せていいかしら?4~5人いればいいの、般兵に倒されない程度のそこそこ屈強なので口の軽いのがいいわ。」そう言ってシュクラは再び本に目をやる。デュラハンは唸りながら考え込む「なかなか難しい要求ですなぁ。それに口が軽いというのはどういうことでしょうか?堅いの間違いではないのですかな?」シュクラに問い質すと「いいのよ。言いふらして欲しいから。あの帝国兵の存在を広く知ってもらわないと計画が進まないし。」シュクラは窓の外を窺いながら話を続ける「最低でもティーンの耳に入らないと計画の第2段階に進めないのよ。ジンの使っている調略の使者を使わないとあの娘を道化として利用できないから。」窓の外にはイブリースからの増援まぞくが続々と城に入城していた。デュラハン公爵はトレーの首に運んでいた食事を止めて「秘密の計画から、公にするのが今回の強襲の目的なのですかな?」と伺う。「まあ、そんなところね。計画の最終段階が待ち遠しいわ・・・アノ力が私の物になると思うと・・・ふふっ」

 

 私は二者択一の答えの出ないまま翌日を迎える事となった。叙勲式は午前10時から行うという。帝都から教皇様が迎えられ、直に私に叙勲するというのだ。現教皇ヴィルヘルム2世は帝国公家出身の元皇族、齢50を越える老齢の立太子だったが、ティラン13世の即位と同時に院省に属した言わば政権争いに負けた負け組み皇族なのだ。もちろん、起死回生を今も考えているとはもっぱらの噂である。もしかしたらこれもまぞくの、いやシュクラの考えた壮大なシナリオの一つなのかもしれない。この叙勲式をシュクラはどう利用するというのだろうか?

 

 「昨日は眠れましたか?」看護婦が朝食を運んできて、朝の挨拶をしてきた。「眠れなかったよ。」と、ぼそっと私はつぶやく。「後で叙勲式に着ていく衣装を届けるってお役所の人から連絡がありましたよ。」それを聞いて「ここから直接式場に行くってこと?」と聞き返すと「叙勲式は隣の大修道院が会場になってるんですよ、知りませんでした?」との答えが返ってきた。「それは知らなかった。誰も教えてくれなかったし。」私は独り言のようにつぶやく。それを聞いた看護婦は「誰も言ってませんでした?大勢人が出入りしてたものだから、てっきり知っているものかと思い込んじゃってましたね。」朝食をベッド据付のテーブルに配膳しながら話す。「式まではまだ時間があるのでゆっくり食べてくださいね。」看護婦はそう言うと病室から出て行った。

 

 時刻は9時をまわり、シスターや看護婦たちは教皇様も到着したと噂している。私も祭事用の軍礼服に身支度を整えて、叙勲式への準備を進めていたのだが帯剣は許されないとの事で一抹の不安が過ぎる。すでにまぞくの襲撃がある事を知っている私はそれを誰かに言うべきか迷っていた。言えばその情報をどうやって知ったのかが後に追求される事が明白だ。言わなければ私は帯剣すら許されない丸腰で式に臨まなくてはならない。何か良い対策を講じなければ、と考えを巡らしていた時昨日現れた戦略諜報局のホーエンツォレルンが病室に訪問してきた。「おはようございますシャウエンブルクさん。叙勲式の準備は滞りなく進んでいるようですね。」と言って私にドルヒ(ダガーの事)の様な物を差し出す。「これを持っていてください。何も無ければ良いのですが護身用です。」と言われたので、私はそれを受け取り鞘から抜いて刀身を確認する「これはマンゴーシュ?スティレットですか?」今まで見た事もないドルヒだった。「ソードブレイカーという片刃のスティレットの様な物です。あなたならきっと使いこなせるでしょう。そういう事態にならない事を祈りますが。」そう言われたはいいものの、心配になったので「しかし帯剣は許されないと聞いています、こんな物を隠し持っていて良いものでしょうか?」と尋ねると「確かに発覚すれば良くない状況になるでしょう。万一の備えと思っていただきたかったのですが、持って行くかはあなたにお任せします。」そう言って病室を出て行った。

 「それ、持って行ったら相手の思う壺よ。」声の方向、窓に振り返るとそこには腕組みしたシュクラが立っていた。組んだ腕を解くとイスに腰掛けてから「情報省はまだこちらと事を構える態度をくずしていないから罠を仕掛けるつもりよ。あなたをまぞくのスパイに仕立て上げるか、教皇暗殺の嫌疑を懸けるか、いずれにしても今日の私の襲撃を情報省に有利な事件としてシナリオを書き換える腹積もりよ。」信じられない話だった「情報省は今日の叙勲式で何が起こるか予め知っているの?」シュクラの話はそういうことだからだ。「そうよ、既に一度話を通してるの。その中で話が二転三転していて状況が刻々変っていってるの。外務省や院省には同意を得ているけど、情報省は話が割れてるわ。」そう言われてもう何を信じてよいのか全く解らなくなってしまう私だった。そんな私の心を見透かしたように「私だけ信じなさい。何があっても悪いようにはしないから。」と、力強く宣言するシュクラ。だが相手はまぞく、100%心を許してはいけないはず・・・だけど、心が折れそうになる。

 

 廊下から大勢の足音が聞こえてきた。振り返るとシュクラは消えていて、入れ替わるように病室に部下たちが雪崩れ込んできた。「兵長!おはようございます!支度はできましたか?」とオーデルが尋ねてきた。振り返ると部下たちは全員目を丸くして立ち尽くしている。「ちょ、何かおかしい?」私に変なところがあるのかと勘ぐって聞いてみると「いえ・・・いつもの兵長じゃないんで見とれちゃいました」との答えが返ってきた。言われて凄い恥ずかしい、予想もしなかった返答だったし。きっと今の私、顔真っ赤だ。「バカな事言ってないで!行くわよ!」私は先ほど渡されたスティレットをそっとベッドとシーツの隙間に仕舞って病室を後にする。例え死ぬ事になったとしてもこれは持っていくべきではない、そう思ったから。

 

 大修道院に向かうとそこは大勢の人で溢れていた。それだけではない、街道には即席の屋台が並び香具師(こうぐし)たちが軒を連ね、貴族や諸侯だけではなく村や町からも一般の人たちが大勢集まっていてお祭り騒ぎになっている。とんでもない大事になったものだと今更ながら思い知らされる。修道院に入れない人々も中庭や外壁の外にまで行列を作って式を一目見ようと待ち望んでいるといった感じだ。私を見に来ているのか、教皇様を見に来ているのかは判断の難しいところだが・・・私の中では教皇様であって欲しいところだ。院省の近臣の方が礼拝堂の一室にある控え室に案内してくれる。中には私しか入る事が許されなかったので、部下たちとはここで一度別れる。控え室には教皇様の親衛隊が数人いて私の警護も担当してくれるという。教皇様は別室に控えているとの事。私はこれから起こるであろう事を考え緊張を隠せなかった。「大丈夫ですか、シャウエンブルクさん?」私の様子に気づいた親衛隊の方が気にかけて話しかけてきた。「あんまり平気ではないです、こういう場は慣れていないもので・・・」何時に無く弱気な私が自分らしくないなと、我ながら思う。「勲章を授与されるだけの簡単な式ですから、そんなに緊張しないで。」と、慰められた。

 時刻は10時をまわり、ついに叙勲式の開会の挨拶がゴットルプ大司教様から宣言され、式が始まった。まぞくは何時襲ってくるのだろうか?そんな不安が頭を過ぎるが、この時のわたしは緊張も相まっていっぱいいっぱいだった。「まずは貴族の方々、諸侯の方々そして帝国臣民諸氏にこの場にお集まり頂き厚く御礼を申し上げます。本日は帝国臣民をまぞくの魔の手から救い、守り抜いた救国の英雄をここに招待しております。そして我らが教皇ヴィルヘルム2世台下も本日参られ、直々にプールルメリット戦功章を進呈すると台下起ってのご希望により本日の叙勲式典の開催と相成りました。このレジオンの地に現れた救国の英雄を皆で称えようではありませんか。」そう宣言すると会場周辺を巻き込んで大歓声が上がった。大司教は皆に静まるよう諸手を挙げて抑すと「これを持って開会の挨拶と代えさせていただく。」とおっしゃって礼拝堂の壇上から退壇された。するとまた収拾がつかないほどの歓声が沸きそれは数分続いた。

 

 その様を修道院から少し離れた所にある立ち入り禁止の尖塔から、シュクラとその一団は見下ろしていた。「我らが謁見に参上仕るは何時頃ですかな?」デュラハン公爵は少々の皮肉を込めてそう言うと、シュクラは「叙勲が終わってからが本番よ、強襲のタイミングは私が指示する。ゲーェ(行け、という意味)。」と言うとシュクラを取り巻いていたデュラハンを初めとする4人は忽然と姿を消す。一人残ったシュクラは塔の窓から式典をじっと見守り続ける。

 

 大司教の開会の挨拶が終わり、歓声の鳴り止まない中、壇上に近臣の者に連れられて教皇様が姿を現すと更に歓声が増し大歓声となる。それを端で直に見ていた私の緊張は最高潮に達していた。「まずい!まずい!もう緊張が止まらない!」などと独り言をこぼしながら頬をバシバシ叩いた。「シャウエンブルクさん!そんなに頬を叩いたら赤く腫れ上がってしまいますよ!」と騎士様に止められてしまったほどだ。そんな中教皇様の祝辞の挨拶が宣言される。「お集まりの帝国臣民の諸氏、この数ヶ月にも及ぶまぞくとの小競り合いも、近々収束に向かう吉報が続々と帝国各省にも寄せられている。そんな折、我ら院省にもこの度のまぞく撃退の報を聞き、この吉兆に我々として出来る事が無いかと思案した。そして今日の叙勲式の開催と相成った次第である。」そう仰られると、端に控えていた私の方を見てから「皆で我らがここレジオンの救国の英雄殿を拍手をもって迎えようではないか!」と仰られ、それを合図とするかのように騎士様が私を前に行くように促す。私は緊張のあまり脚を縺れさせながら歩き出す。拍手の中壇上に迎えられた私は目前の人々を目にすると自然と音が耳に入らなくなっていくような感覚になり、震えが止まり、緊張が少しだけ和らいだ気がした。壇上の中央、教皇様の下に向かう私が後2ヤード程の所まで歩み寄った時、壇下からベールを被った女が壇上に近づいてきた。私はこれが襲撃の合図なのかと思って一瞬立ち止まると、壇下の女は私に花束を投げてきた。それと同時ぐらいに女は騎士に元の場所に戻されるように連れられていった。ただ、祝福の花束を投げるのが目的だったようだ。丸腰なのでちょっとビビった。投げられた花束を後ろから来た騎士様に渡し、教皇様の下に歩を進めた。すると、今度は満面の笑みを浮かべた幼女が壇上に近づいてくる。今度は何を投げてくるんだろうと思った瞬間、幼女の手には明かに妖気を帯びた業物のドルヒが握られている。それを見た瞬間、来たか!と思って身構える、構えるが得物は無い!幼女が凄い跳躍力で跳び、襲い掛かってきた、しかも満面の笑みはそのままで!その瞬間、会場はまだ何が起こっているのか理解できてはいなかった。私は最初の一撃から目で追っていたのでドルヒを直に受けずにかわした。異変に気づいた騎士様がすかさず飛び出してきて私の前に立ち塞がる。それと時を同じくして壇上に他のまぞくも雪崩れ込んでくる。壇上は一触即発の状態に陥った。しかし壇下の民衆のほとんどはその状態にあっけにとられているか、状況を飲み込めないでいた。中には余興か何かだと勘違いしている者もいるようだった。状況を瞬時に把握していた貴族、諸侯、院省の近臣は素早く退避を始めている。教皇様も大司教も騎士が傍について壇下に退避していた。私を庇うように立ちはだかった騎士は「狼藉者、名を名乗れ」と言って剣を抜いて構える。

 一連の流れを尖塔の窓から見ていたシュクラは驚きを隠さなかった。「誰の手の者?計画が台無しじゃない!」とひとりごちる、と同時に行動を起こす。塔の窓からデュラハンにまだ待機するように指示を出し、自らも塔を後にする。「情報省が一枚噛んでいる?それとも単なる奇襲?にしても誰の命令なの?聞いてないわよ!」そう言って塔の階段を八艘とびで下ると、塔から飛び出して修道院に向かって一気に加速、目にも留まらぬ速さで会場上階まで飛び上がる。そこから怪しい行動を起こす者を探す。いた、出口に近い所で気配を完全に殺しているがシュクラにはすぐに分かった。「あれは未来を見通す事ができる妖怪ね。壇上の3人は、タオ使い2人と・・・幼女?とすれば、指示を出した魔王は・・・ソーマ?」独り言を呟くシュクラを他所に、壇上は緊迫の度合いを強めていく。

 

 「その子は喋れないまぞくアルよ。」と私の後方にいた素手で構え、東洋の服を身に纏う少し顔色の悪いまぞくの少女が言った。「代わりに私が名乗るアルね、私はタオ、こっちがマオね。その子はレイディー言うね。」見た目ではどの子も手練には見えなかったがまぞくの実年齢は分からない事が多い、油断はできない。現にレイディーと呼ばれた幼女の持っているドルヒは、触れただけでも体に悪そうな妖気を漂わせている。後ろの2人もまだあどけない少女のように見えるが、素手で構えている所を見るに、相当な訓練は成されているはず。「こっちは名乗ったんだから、そっちも名乗らないアルか?」と名乗りを要求してきた。すると私の前にいた騎士様が「我が名はレキュヒナー男爵だ、尋常に参る!」と言ってそのまま幼女まぞくに突撃していく。私は武器を持っていないのでどうする事もできないでいたが、だからといって敵は容赦してはくれない。タオとマオも私に飛び掛ろうと間合いを詰めるが、他の騎士に阻まれて近づけないでいる。剣さえあれば、とも思ったが誰も私に剣を渡す気配は無かった。部下たちから剣を受け取れないかとも思ったが、壇上の近くには見当たらない。騎士様に剣を要求するのは恐れ多くて出来ない。そんな時だった、空から剣が降ってきて壇上に突き刺さったのは。それは見たことのあるレイピアだった、そう、デュラハン公爵のレイピアだ!私はそれを手に取り構える。辺りを見ても姿は無かったが、確かにこの場にいるのだろう。きっとシュクラの指示か何かだろうと考えを巡らせながら、雄牛の構えで敵を迎え撃つ体制をとった。剣さえあれば百人力、私はこの状況に少し興奮していた。その勢いでつい名乗りをあげる「帝国陸軍兵長アサルシャ・シャウエンブルク、推して参る!」その瞬間、場内から歓声が沸きあがった。

 私は一瞬泡を食ったがすぐに正気を取り戻し、誰を相手にするか見定める。レキュヒナー男爵はレイディーと呼ばれる幼女と一対一でやり合っていたが、中々どうして幼女は半端無く強い。マオと呼ばれたカンフー少女は5人からの騎士を相手にたった一人で立ち回っている、恐ろしい強さだ。やはり、思ったとおりタオが私の前に一歩出てきた。私の目の前にいるタオと名乗る少女はリーダー格、もっとも強いと予想される相手だった。「姉さんに恨みは無いが、死んでもらうアル」そう言って飛び掛ってきた。病み上がりの私は重い体に活を入れるべく、最初から本気で迎え撃つ覚悟で対峙した。今の私は最初からクライマックスだっ!と心の中で叫びながら禁じ手のオンパレードで体を一気に覚醒させる。デュラハン公爵のレイピアは、私のパンツァーシュテッヒャーより少し短いやや接近戦闘に傾倒した剣だ。間合いをいつもより5インチほど詰めて戦闘しなければならない。あいては素手、更に至近距離まで間合いを詰めてくると予想されるので、相手の間合いよりも距離を置いて戦う事になる有利な状況。現時点で見切れるスピードで突するタオを知覚した私は、一気に勝負をかける事にした。「シュテッヘン!(突きの事)」と心の中で叫び、タオに向けて紫電一閃の一撃を仕掛ける。私の繰り出したシュテッヘンがタオの心臓めがけて命中する刹那、私にも知覚できない速さで何かが横から飛び出してきてそのままタオをかっさらって行ってしまった。そしてタオの居た場所には何か得体の知れない拳大の物が宙に残されていた。それを察知した瞬間、私は危険を感じてそのまま剣で突いて弾き飛ばした。一拍おいて弾き飛ばしたそれは爆発し、辺りに煙が充満した。殺傷物ではなく煙幕のようなものだった。煙はすぐに落ち着いて視界が回復した頃、壇上にいたまぞく3人の姿は無くなっていた。

 煙に巻かれて静まり返っていた場内が一気に歓声で沸きあがった、それも本日最大とも思える大歓声だった。

 

続く


 
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