No.866201

ビヨンド ア スフィア ~スカイ・アンカー~

ざわ姐さん

数えてみたら実に2年ぶりのビヨンド ア スフィアの続きですw
実はほとんど2年前に出来ていたんですが、最後の詰め部分に繋がらなかったので今日の公開になりました。
リベレートザヴィーナスも現在半分ぐらいまで書き終えているので時間をみながら続きも書きたいと思います。というか待ってる人とかいるか疑問ですけどねw

2016-08-29 23:14:21 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:586   閲覧ユーザー数:586

そしてエホバは、地に人を造ったことで悔やみ、その心に痛みを覚えられた。 それでエホバはこう言われた。「わたしは、自分が創造した人を地の表からぬぐい去ろう。人から、家畜、動く生き物、天の飛ぶ生き物、にいたるまで。わたしはこれらを造ったことでまさに悔やむからである」

-創世記 6章 6-7節-

 

 アメリカ、サン・ディエゴ、映画「トップガン」の舞台にもなったこの都市にアメリカ軍「ネーヴァル・ベース・サン・ディエゴ」(サン・ディエゴ海軍基地)がある。ここに現存するエレメント・コア・オプティマイザーでは最年少のオプティマイザーが配属されている。名前は「アンビ・ミシェール・スコフィールド」若干13歳の少女である。

 「第2回、連動コア・オプティマイズ試験および同時空中投射試験、試験開始。」C-130Eの機内無線から流れる発令を聞いた兵たちは、待機起動中にて専用投射パレット上に設置された総数11体の「MQI-08A ブルーアンジェ」を機体後方に向けて、全開に開けられたハッチから上空3000フィートへと勢い良く押し出す。同時に随伴飛行しているF/A-18Eからも実戦配備されたばかりの最新型UCLS(アンマンネッド・コンバット・ランドウォーリャー・システム)「MQI-16A アンヘリート」がエジェクターラックから切り離され、投げ上げられるように投射される。このF/A-18Eは航空母艦ミニッツから離艦した第11空母打撃群に所属するVFA-14(14攻撃飛行隊)「トップハッターズ」のCO機(隊長機)、MQI-16AはCTF-36(タスクフォース36)に所属する、アンビ・ミシェール・スコフィールドがメインオプティマイズするUCLSだ。この母機を含めて他の11体のブルーアンジェを同時にコントロールし、機体すべてを無事に地上へと導くのが今回のテストプログラムになっている。

 アンヘリートとはラテン語で「小さな天使」という意味を持つ言葉だ。開発初期のものは別として、近年のUCLSには一貫して天使や悪魔といった神話に登場する象徴的な名称が与えられている。アンヘリートをコントロールするアンビは、投射空域から15km程離れた陸上の降下予定地点となるミラマー海兵航空隊基地、通称MCASミラマーの滑走路上空で回遊しているE-8C ジョイントスターズに搭乗していた。E-8Cはボーイング707-320をベースに半径175kmをカバーする対地監視用AN/APY-3側面監視型マルチモードフェイズドアレイレーダーを搭載した対地早期警戒管制機である。この機体に設けられているレーダー・フェアリング内を改装して、地上に直接UCLSのコントロールビームを照射できる機器を搭載、中継機無しでの直接制御を実現させることに成功した。これはオペレーション・ゴシック・ファントムから多くの事を学んだ成果でもあった。

 空中へ投射された11体のブルーアンジェは高度も隊形もバラバラのまま1分ほどの時間を降下していた。その様は単に機体から投げ出されたようにも見える。唯一、統制をとって降下しているように見えるのが両腕を左右に広げ、両足を真っ直ぐ後方に突き出していたアンヘリートのみだった。アンヘリートがブルーアンジェの降下する空域に接近すると、アンヘリートに近い機体から順にブルーアンジェが滑空姿勢を整え始める。母機であるアンヘリートがほぼ中心に到達した頃、全機の統制が整いウエッジ形の隊形をとった。C-130Eから撮影されたそれらの映像はE-8Cへと送信され、それをモニターで確認していた米海軍NSWCクレーン・ディビジョンに籍を置く「ルシアス・ヒル」中佐は、「うん、上手上手。」と言って座席に座るアンビの後頭部を軽く撫でた。するとアンビはモニターを見つめているルシアスの横顔を真っ直ぐ見つめて、「別に何もしてないんだけど・・・」と呟いた。それを聞いたルシアスはアンビに向き直り、「そうだったね。でも、指示通りに飛んでるじゃない。指令をちゃんと聞いてたって事でしょ?」と言ってアンビの顔を覗き込む。するとアンビは目を逸らし、下唇を上唇で軽く噛んでからコクリと頷いた。アンビはモニターに表示されているミッション時間と高度を交互に見た後、ルシアスにもう一度ちらりと目をやると再び俯く。するとモニターの中の12機のUCLSから一斉にディスポーザブル・フォールディング・ウイング(使い捨て折りたたみ翼)が展開され、高度を維持しながら滑空体勢に移行する映像が表示される。それを見ていたルシアスは再び無言でアンビの髪を優しく撫でた。実験プログラム、スカイ・アンカーは想定範囲の成果を収めて終了した。

 

 海星学園を後にした「森永未来」と「レオナ・マルグレーテ・リュクスボー」の一行は、一路、第二臨海副都心にあるWITO(世界軍事条約機構)本部にMATV(オシコシ製軽装甲車両)を走らせていた。鞄から書類を出してページをめくるレオナを横目で見ていた未来はタイミングを計るように「これから私、どうなっちゃうの?」とレオナに質問した。レオナは書類をチェックしながら未来を見て、「どうなっちゃうって?」と聞き返した。未来は膝元に目を移しぼそぼそと呟き始めた。「どうなっちゃうって・・・・・そりゃ・・・学校とか生活の事とか色々・・・この先心配なんだよぅ・・・・・」と。それを聞いたレオナは、「まず言える事と言えば、未来ちゃんはこれからWITOに入局する事になるから職務義務が発生するってところかな。」と答えた。それに対し未来は黙って続きを聞き続ける。「一応、就業の扱いになってるからお給料も支払われるよ。それと学費は国庫から支給ってことになっているから免除と代らないね。」と続ける。手元の書類のページを何かを探すように捲りながらレオナは話を続ける。「昨日、言ったけど入寮の話、発生する居住費、家賃とか光熱費ね、WITOで支払われるからこれも免除と同じ扱いだね。もうお金貯まってしょうがないんじゃない?w」と言ってレオナはニヤリとする。「ま、でも、心配なのは自分が何をやらされるのかって所でしょ?」そう尋ねるとチラリと未来に目をやる。「未来ちゃんにはタイニースターと戦ってもらうよ。」とレオナはさらりと断言する。それでもぐっと口を噤む未来を確認したレオナは「と、言っても素手で殴りあう訳じゃないから心配しないで。」と続ける。「未来ちゃんには簡単なトレーニングをしてもらって、これまた簡単なレクチャーを聞いてもらって覚えてくれればオールオッケーだから。中学生でも出来る事だから気楽にね。」中学生とはアンビの事を指しているのだろう、そう言ってレオナは話を締めくくった。

 そんな話をしているうちに車両はWITO本部のゲートに到着した。運転手が通行許可書をゲートの守衛に手渡しし、それをバーコードリーダーでスキャンするやり取りをしている。車両の左右では片手にテレスコピング型のミラーを、もう片手にHK・MP5A5サブマシンガンを持った守衛が車両の下にミラーを向けて不審物が無いか調べている。それを何気なく見ていた未来だったが、自分が警戒厳重な場所に足を踏み入れるんだなぁなどとふと思っていると、未来達の車列の後ろに1台のレクサスが検問待ちで停車した。中に乗っているのは「西園寺なな」と「袖山桜」だったが未来が知る由など無かった。

 本部内に入った未来はまずは屋内の案内をしてもらう事になる。レオナは、まず形式上ではあるが本部で未来の直属の上司となる「手代木春菜」中尉を紹介した。手代木中尉は陸上自衛隊から出向してWITOに入局した元自衛官で防衛大学出身、年齢は26歳とまだ若い。「仲良くね。シゴいちゃダメだからね。」とレオナは中尉に釘を刺す。続けて、「そうそう、未来ちゃんも今日任官するから。今日から少尉だからね。訓練が全部終わったら中尉に昇進させてあげるから。」とさらりと言った。もちろん、未来にはその意味は良く分かってはいない。それがどんなに凄い事で特殊なのかも。手代木中尉は未来に向かって、「手代木です、よろしくね。」と簡単な挨拶をする。それに対して未来は「よろしくお願いします」と、いつもの誰にでもしている挨拶を返した。

 一旦レオナと別れた未来は、手代木中尉に連れられて本部内を移動し始める。まずは中央発令所へと案内された。発令所は3階分のスペースを使った吹き抜けのフロアになっていて天井が高く非常に広く感じる。フロアには、天井から吊るされたプロジェクターのスクリーンに向かって下がるように軽い傾斜がついていてフロアの前と後ろで1.5mほどの落差があった。部屋のあらゆる空いているスペースに電子機器が所狭しと置かれている。「ここが第一中央発令所。簡単に言うと指令を出すところね。」手代木中尉が説明を付け加えると、未来は首を縦に振り頷く。中尉は発令所の出入り口に足を進めながら、未来に振り返ると、「次は待機所と更衣室に案内するわね」と言った。

 その頃、レオナは司令室にいた。WITO・JAPANの総司令官は元海上自衛隊幕僚長官「黒田考章」という自衛隊OBで、2006年に日本の核兵器保持に関する論文を発表した事により官職を更迭され退職を余儀なくされた人物である。「海堂要、これが書類ね。」そう言って黒田司令に書類を手渡すレオナ。そこにはどこから、どういう伝で揃えたのかわからない、しかし公式の出向書類がまとまっていた。それに目を通す黒田司令は、「よく一日でそろえましたね・・・これによると作戦司令官の肩書きになっていますが、戦闘の指揮をさせるのですか?」と質問する。「そのつもりで引き抜いたんだけど、何か問題でもある?」と逆に質問を返すレオナ。黒田は書類を捲りながらしばらく考えてから「特に問題などは無いのですが、この書類、本物でしょうね?」と再び質問。「もちろん。当たり前でしょ?」なぜそんなことを聞くのか?と言わんばかりに答えるレオナだった。レオナが答え終えるのと同時ぐらいに、司令室のドアをノックする音が響く。直後、「失礼します」の挨拶と供にドアが開き、司令秘書官の「佐々木静香」が入室してきた。彼女の背後にもう一人、髪をオレンジ色に染めた黒いパンツルックのスーツを着用した少女が立っている。西園寺ななだ。「西園寺少佐をお連れしました。」秘書官がそう言うとななが司令室に入ってきた。室内に入ったななはレオナの存在を確認すると一瞬立ち止まり「なぜそこにいる?」と言わんばかりに視線を送った後、再び前に進み出ると司令に敬礼し、「10:30西園寺、南月両名帰還しました。現隊復帰します。」と報告した。司令は書類を机に置くと、「ご苦労様です。引き続き任務についてください。」と言って席から立ち上がり敬礼を返した後、「掛けてください。」と言って腰掛をすすめる。

 ななはWITOにおいて、任官された「少佐」としての立場の他に、SAMTのCEOとしての立場も兼務している。ゆえに二役を使い分けて対応しているのだ。「ななちゃん、無事帰還おめでとう。」唐突にレオナがななに話しかける。ななは、「ありがとう。」と素っ気無く言葉を返す。そこへ司令が口を挟む、「君にも報告しておこう、3日後の1日付けで新しい作戦司令が着任することになった。」それを聞いたななは、「随分急な話ですね。」と答える。司令は机の上の書類を指差して、「たった今しがた書類が届いたばかりだ。」と言い、書類とレオナに交互に目をやる。するとななは「偽造じゃないんですか?」と質問する。一連の二人のやり取りを横で見ていたレオナは、「失礼だなw私の持ってきた書類がいつも偽物みたいな言い方は止めてほしいなw」と笑いながら言う。「偽物の方が多いから言ってる。」とキツイ一言を付け加えるなな。「ちゃんと後で本物になってるからいいじゃない」と反論するレオナ。レオナと不毛な会話をしていても埒が明かないと思ったななは話の腰を折ることにする。「まあいいわ、それよりあれは一体どういうつもりだったの?私のシルバラになんて事してくれたのよ?」ファーストアロー作戦の抗議が始まる。「1分だけ動きを止めていればいいと言われたけど、1分経つ前にCOIL、照射してたわよね?」と言ってレオナを睨みつける。続けて、「1分丁度で離脱するように指令も受けてたんだけど。1分経って無かったよね?私のカウントミスだったのかしら?」そこまでニヤニヤしながら聞いていたレオナは、「ゴメンゴメンwこっちも色々事情があったんだよwちゃんとおもちゃの修理代は弁償するからさ、ゆるしてよ?ね?」とあっさり謝ってきたが、しかしこう付け加えた、「それにシルシックMK1は私たちの共有財産じゃない?私の力無しでは日本に持ち込めなかったでしょ?」と。それに対しななは、「私の資産よ。私の会社の。」と釘を刺すように答える。修繕費用の確約を得た事で満足したななは続けて、「それで、二人目はどこ?」と質問。レオナはニヤリと笑うと、「気になる?今、本部内を案内してるところだよ。」と答えた。

 

 未来は食堂を案内されているところだった。食堂の隅のテーブルに一山の物が置かれていて、そのテーブルに案内される。そこで一部の支給品を渡す手筈になっていたのだ。「これ、支給品の一部なんだけど、訓練用の装備は別のところで発給するから・・・・・」と言葉の最後の方を詰らせるように手代木中尉が言った。それもその筈、結構な量の荷物だ。二人共内心でそう思った。手代木は未来をチラリと見て「女の子一人で持って移動できそうに無いな・・・」と思う。未来は助け舟の期待を込めて手代木に目配せを送る。その眼差しを受けた中尉は、「まあいいわ、後で部屋に届けさせるわ」と気を配る。すると、手代木の携帯電話に着信が入る。指令秘書の佐々木からの着信だった。未来に背を向けて電話に出ると、未来を司令室に連れてくるように言われた。山の中の荷物を手に取り眺めていた未来に、「森永さんを司令室へ案内するように言われたわ。行きましょうか。」手代木が廊下の方に向かいながらそう言った。未来は手に持っていた物をテーブルに置くと手代木の後を無言で付いていく。

 廊下に出ると数人の隊員とすれ違う。するとその数人の隊員が足を止めてこちらに敬礼する。手代木中尉は足を止めずに歩を進めたまま敬礼を返す。その姿を後ろから付いて見ていた未来は、ここに着いて本部の案内をされてから何度か同じ光景を見ていた事を振り返って思い出した。「手代木さんって偉いんですか?」と思った事を率直に口に出してみる。後ろの未来に振り返り、未来の左横に寄ると、「そんなに偉くも無いわよ。航空隊のパイロットと大体同じ階級だから。」と答えて前に向き直る。一拍置いてから再び未来に向かって、「敬礼されるから?」と逆に聞き返される。未来はチラリと手代木を見てから、「まあ、そうです」と答え、「中尉って、ここにはどれぐらいいるんですか?」と聞いてみる。手代木は少し考えてから、「う~ん・・・連隊が一つと航空隊・・・・機甲部隊・・・200人はいると思うけど、詳しい数字はわからないかな。日々、増えてるしね。」と答えた。「それに特殊部隊もあるから正確な数字は出ないんじゃないかな。」とも付け加えた。そんなやり取りをしながら司令室へと向かう二人だった。

 司令室は本部建屋5階、南エレベーターを降りたつき当たりの所にある。手前には防弾ガラス張りになっている秘書官の部屋があり、その前には警備の隊員が一人いる。手代木中尉は警備兵に胸に下げているIDカードを見せる、警備兵はそこにスキャナーを当ててQRコードを読み取る。問題の無い事を確認した警備兵は秘書室に二人を通す。手代木中尉は秘書官に向かって敬礼をし、「手代木、以下一名出頭しました。」と言うと、秘書官佐々木少佐は立ち上がって敬礼を返し、「指令がお待ちです、部屋に案内します」と言って司令室のドアに近づきノックをした。ドアを開け入室すると「手代木中尉、森永様2名お連れしました。」と言って二人に入室するように促し、道を空ける。司令室に入った手代木は黒田司令に敬礼し、「手代木、以下一名出頭しました。」と秘書室で言った事を繰り返し言う。後ろに続く未来は中尉の斜め後ろからお辞儀する。司令室にはレオナとななも居り椅子に腰掛けていた。腕組みをしてじっと未来を見つめていたななは立ち上がって歩み寄ると、未来の周りをぐるりと一周舐め回すように上下からじっくり見回した後、正面に立ち両手で未来の頬をガッチリ掴む。そのちょっと異常と思えた行動にたじろぐ未来は後ずさりしようとするが、顔を掴まれて動きが取れない。ななは未来の顔をしばらく凝視してから捨てるように手を離し、「普通の女子高生みたいだけど、素質はどうなの?」とレオナの方に向かって質問する。レオナは不適な笑みを浮かべながら言う、「スゴイよ、この子は、多分、カテゴリー5を殺れるぐらいの適正があるよ」。それを聞いたななの目尻がピクリと動き、未来を睨むような目つきでじろりと見る。間近にいた未来はななが少し不機嫌になったように観察できた、が、次の瞬間いきなりななが未来に向かって手を差し出し、「西園寺ななです。よろしく。」と挨拶してきたので、思わず後ずさってから差し出された握手を交わし、「森永未来です・・・」と挨拶交換した。「歳はいくつなの?」とななは未来に向かって質問すると、「17です。高二です。」と短く答える未来。ななは、「私と同い歳ね。はづみもか・・・そこの財閥の人もだったっけ。」とレオナに対してだけ嫌味っぽく、さらに本人に聞こえるように向かって言う。レオナは終始それをニヤニヤしながら聞いているだけだった。そのやり取りを見ていた黒田が険悪な空気を察して、口を挟んできた、「新しい作戦司令の下に着けるつもりだ。着任がまだ先だからしばらくは君の下で指導してくれるとありがたいんだが。」とななに言うと、「それは辞令でしょうか?」と司令に聞き返した。ななの機嫌が悪そうなのを察知した黒田は、「私の希望なんだが。」と尻窄みに言う。ななは値踏みするように未来に目をやった後、黒田に向き直り「分りました。私も興味があるので引き受けます。」と承諾した。それを聞いた黒田はホッと胸を撫で下ろす様に溜息をつく、レオナは腕を組んだままそのやりとりを眺めている、手代木はその場に居ながら完全に蚊帳の外だった。

 「さて、こんな時間だし、お昼にしようか。」スマートフォンの時刻をみなに見せながら、レオナが提案。腰に手を当てていたななはその手を下ろすと、無言のままドアに向かい振り向きざまに敬礼し「昼食に行きます、失礼します。」と言って、返事を待たずにそのまま司令室を後にして行ってしまった。それを見ていた皆は言葉も無くそれを見送り、沈黙が司令室の中を包む。最初に口火を切ったのはレオナだった。「あれはアリなの?」そう言って黒田司令に視線を送る。司令は少し呆れたとも取れる表情をつくり、「まあ、今に始まった事では無いからな。」と諦めたように答えた。それを確かめるように聞いていたレオナは席から立ち上がり「私も失礼してお昼に行ってきますわ。」と言うと続けて「未来ちゃんも一緒に、ね?」と昼食に誘う。

 食堂へ着いたレオナはまず視線でななを探す。なながテーブルに着いて食事を始めている事を確認すると、連れてきた未来の背中を押しながら食堂の食券販売機へと向かう。レオナは上着の内ポケットから一枚のカードを取り出すと券売機の認証パネルにカードをかざし、YESのボタンを押し「私の奢りだよ。好きなの選んでいいよ」と言って未来に押しボタンを勧める。未来がメニューを確かめるように一つづつ見ながら迷っていると、「昨日、未来ちゃんに渡したカードでも買えるから次から試してみてよ。支払いはお給料から引き落としになってるから決算は楽なんだけど、便利だからって使いすぎないように注意してね。」とレオナに説明を受ける。その言葉を半ば聞き流しながら定食のセットを選びボタンを押す。続いてレオナもスパゲッティカルボナーラとグリーンサラダのボタンを押す。そして隣にある飲料自販機に移りカードをかざして炭酸水のボタンを押す。「未来ちゃんも飲む?好きなのいいよ」と勧められたので、緑茶のボタンを押す。食堂のカウンターへ行き食券を食堂の職員に渡し、ななのいるテーブルへ向かう。

 「つれないな~誘ってくれてもいいじゃない~?」そうななに言いながら向かいの席に着くレオナ。それを横目にその隣の席に未来も腰を下ろすと、いきなりななは「誰も座っていいとは言っていませんが。」とレオナに向かって攻撃的な言葉を投げつけた。レオナに向かって言っていた事とは解っていたが未来は反射的に音を立てて席を立ってしまう。それに目を向けるななは「あなたはいいのよ。」とテーブルを指でコツコツと2回叩いて未来に席に着くように促す。差別的な冷たい対応を受けていたレオナは、動じもせず席を立つこともない。未来はこれがこの二人の距離感なのか、と頭の中で呟いていた。「この後未来ちゃんをハンガーベイに案内する事になってるんだけど、ななちゃんも一緒に来てアンジェとレッドアイの解説をしてくれない?」レオナはななにそう尋ねるとななの定食の皿にあるブロッコリーをつまみ食いした。それを横で見ていた未来は嵐の予感。しかし、ななは何事も無かったように「構わないけど。」と一言だけ言ってそのまま箸を進めている。その光景に未来の頭の中には?マークが飛び交う。なんで今のでななが怒らなかったのか気になってしょうがない。この二人の関係がまったく掴めないい未来だった。ゆえにその間にどうやって入っていっていいのか全く分らない未来には、黙って二人を凝視している事しか出来なかった。

 テーブルに注文した品物が運ばれてくる。未来は口には出さなかったがこういう食堂の定食にしては結構おいしそう、と思った。険悪そうな二人の事はとりあえず忘れて、無理にでも食事を楽しもうと思った未来は吸い物に箸をつける。ふと、未来が横目で隣の二人に目をやると、レオナが自分のサラダに入っていたツナをニコニコしながらななの皿に捨てている光景が目に入る。それを目撃した未来は一瞬噴出しそうになるが、それをこらえるのと同時に「なんてことしてるんだ!」と頭の中で叫んだ。ななの次の反応が怖くて戦々恐々としていたが、意外にも何事も起こらずに二人は食事を続けている。しかもななは普通に皿に捨てられたツナを食べているではないか。再び未来の頭の中に?マークが飛び交う。何なのこの二人は・・・・・と心の中で呟き、冷静に考えをまとめてみるが、やはり答えは出なかった。「ほら、食べて食べて。」とレオナに食事を勧められるが、すぐ横で展開される「ダモクレスの剣」劇場を見せつけられて未来の食欲は減退していた。

 食事を終えたななは箸を置くと「森永さんはどこの出身なの?」と尋ねてきた。未来は咀嚼していたものを呑み込むと「奥多摩町です。一応東京都出身です。」と短く答える。「そうなんだ。奥多摩町も広い所だけど、どの辺り?」と聞き返される。「多摩湖の湖畔に丹夏堂っていう食堂があるんですけど、そこが家です。」それを聞いたななは少し考え込むと「あの湖畔の周りって何にも無いイメージだけど、食堂があったんだ。」と率直な感想を述べる。「私も学校が終わったら手伝ってるんです・・・・・ああっ・・・これからは手伝いできなくなっちゃいますけど・・・・・」と言葉を詰らせる未来。「心配しなくてもいいよ。森永さんの自由は最大限優先させるよう配慮するから。自宅にも出来るだけ帰れるように考慮させるよ。」その言葉を素直に受け入れた未来は少し安堵した。

 3人は食事を終え、トレーを食堂の隅の食器回収所に置くと、レオナに着いてハンガーベイへと足を運ぶ。ハンガーに着くと「ここがWITO日本支部の武装のすべてが揃っているハンガー。そこそこ広いでしょ?」とレオナが言う。ななはそそくさとハンガー奥のUCLSを格納しているベイ4へと向かって歩を進め、遅れまいと未来もそれに続き、レオナは少し離れたところに放置され取り残される。ななと未来がベイ4へと入ると、そこには米軍から供与されているMQI-07/Bレッドアイがずらりと並べられていて、数機には整備の兵が所狭しとフロアーにパーツを並べて整備していた。「ここにあるのがレッドアイ。正式にはMQI-07/B、MK5とも呼んでるわ。現在30機配備してて、これからもっと増える予定なの。あなたにもこれと同じ機体を使ってもらうことになるんだけど、多分母機の方を与えられると思う。少し仕様変更したものなんだけど基本は同じものよ。でも、もしかしたら、後々新型のMQI-08/Bに機種転換するかもね。適性とかクリアしたらの話だけど。」とななに言われたが、専門用語の嵐に呑まれて未来はこれっぽっちも理解していなかった。「まあ、それはいいとして、その前に森永さんにはあの恥ずかしいオーバーオールを着てもらう事になるから、最初の第一関門はそこね。」と言ってななはハンガーの隅に吊り下げられているCWU-X94/Pを指差す。ななの指差す先には黒い厚めのスパンデックス製のオーバーオールが洗濯されて干されていた。それを間近に見に行った未来は「着ないです。着たくないです。絶対。」と答えた。「まあまあ、そんなこと言わないで、何事もチャレンジだよ。ハッハッハッ!」と、完全に人事だと言わんばかりにレオナが笑った。

 

 時刻は15時40分、「南月はづみ」の通う学校の終礼の時間。はづみは荷物をまとめて帰り支度をしていた。そこへ松浦先生が数枚のプリント用紙を携えてはづみの席へとやってくる。「これ森永さんに渡して欲しいんだけど、できるかな?」と言ってプリントを差し出した。特に考える事も無くプリントを受け取るはづみは「はい、渡すだけなら多分平気です。」と答え、渡されたプリントを鞄にしまった。

 

アイアン・バイト へ続く

 

 


 
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