話があるということで、千冬についていく光牙にアヤ。行き先は一年の寮の寮長室だ。
「少し待っていろ」
一年の寮長を勤める千冬は寮長室を自室にしている。寮長室の前で二人に待つよう言って部屋に入り、光牙とアヤは話とは何かと考える。
「私のことでしょうか。二葉先生も知っていましたし」
……ガガーーーッ。
「もしくは、全く別のこととかね。例えば……」
ガガガーーーッ。
色々と話し合う。
ガシャン、ゴシャン、ドガッ。
「「………………」」
……なんと言えばいいのだろうか。
「待たせたな。入ってくれ」
「先生。あのブルドーザーみたいな音はなんですか」
「滝沢、世の中には知らなくてよいこともあるんだ」
ということらしいが、寮長室に入りやたらと綺麗……というか何もない部屋や、壁には立て掛けられたテーブルの板。洗面所に繋がるドアやふすまがミシミシいってるからを嫌でも分かってしまう。何があったかお分かりだろう。
「逆にやくたあもないことになってるんですがこれは」
思わず素でツッコミを入れてしまう光牙。……スペースだけ、はあるので適当に座る。千冬が持ってきたのでそれに飲み物に手をつけ……。
「何故に茶碗でジンジャーエールですか」
「……これしかなかったのだ」
誰もが思った。
……慣れないことはするもんではない。
でも話が進まない気もしたので、とりあえず一口飲んでから、話は始まる。
「話というのは……ボーデヴィッヒのことだ」
その名前でセシリアや鈴のことを思い出して光牙は表情を強張らせた。
「あんな事件があっては気になってるだろうし、私とて無関係でもない。だから知ってほしくてな」
「それならば、私はいていいんですか?」
「構わん。チャールズさんには世話になったし、ケントンにも聞いて欲しい」
「分かりました」
アヤが確認すると、千冬生は語り出す。
「ボーデヴィッヒと出会ったのは三年前。第二回モンド・グロッソの決勝を棄権した年だ」
千冬は一夏の誘拐場所について情報提供をしてくれたドイツ軍に恩を返す為、一年間ドイツで教官につくことになり、その時にラウラと出会った。軍人であるラウラはISの登場により、左目にISとの適合率を上げる手術を受けた。殆ど失敗は有り得ない筈のそれ、でも手術は失敗してしまい、暴走状態となってしまったラウラの左目は金色に変色。左目の眼帯はそれを隠す為だという。手術失敗により、トップの成績だったラウラは落ちこぼれてしまい、周囲からは侮辱される毎日を送っていた。
けど千冬が教官についてからはみるみると力を取り戻しいき、トップに返り咲く。だから千冬を慕い、尊敬している。心の底から。自分を救ってくれた織斑千冬という存在に。
だから光牙に突っかかってきた。ラウラからすれば、憧れの人にベタベタしているようで面白くなかったのだろう。
「ボーデヴィッヒさんの中では、織斑先生は最強の存在という認識になっているんでしょうね」
「正確には、私の強さにだ。ブリュンヒルデとしての私のな。だから、危険なのだ」
険しい表情で千冬は断言する。ブリュンヒルデの圧倒的強さ、救われたことが曲がり合わさって解釈されてしまい、強さ=攻撃力という歪んだ考えがラウラに生まれてしまった。
「……なんだよそれ。おんなじじゃないか」
「……すまなかった、滝沢」
「へっ?」
「お、織斑先生?」
いきなり千冬が頭を下げる。本当にいきなりだったから、アヤもびっくりだ。
「オルコットや凰、そして滝沢に迷惑をかけたのは私にも一因がある。私が、ボーデヴィッヒをもっとしっかり指導していれば……」
「頭を上げて下さいよ。先生が謝る必要なんかないです」
「だが……」
やりきれない表情の千冬。一夏の時のように、まだ何か出来たのではないかと気にしているのだ。また頭を下げそうな千冬を制しながら、今度は光牙が話す。
「ボーデヴィッヒにもそういうことがあった。それを知れただけでも良いです」
ラウラという少女を知った光牙には、ある光景が脳に浮かんでいた。
相手を殴り付け、痛め付ける。相手を見下し、高笑う。まるで英雄か、世界の中心になったかのように。
(同じじゃないか。誰かさんと……)
ふぅと息をつく光牙を、アヤと千冬は不思議そうに見た。
「光牙?」
「色々言いたいことはあります。今すぐにでも押し掛けてぶちまけてやりたいくらいさ。……だから、今度のトーナメントでぶつけてやる。アイツに全部ね」
「滝沢……」
事件によりトーナメントまで私闘は禁止されている。ここぞとばかりにあるトーナメントで、光牙はラウラに全力でぶち当たってやると心に決め、拳を握りしめた。
「……すまんな、滝沢。ボーデヴィッヒを、ラウラを頼む」
「はい、任されました」
千冬からもそう言われ、気持ちを固めて、ふんすと光牙は気合いを入れた。
「頼もしいな。なら、ペアは当然決まっているんだろうな」
「…………んっ?」
その瞬間。
光牙の中でザ・ールドかなんかで時間が止まったような感じがした。
目が点になった光牙はギギギと首を千冬に向け聞き返す。
「ペア?」
「タッグリーグだと言っただろう。二人一組での参加だ」
「二人一組?」
「決まらんかったら当日の抽選で決まるが……滝沢、まさかまだ相手を決めてないのか?」
光牙はというとペアとか二人一組とか相手とかの単語が頭ン中でぐーるぐーる回っててそれどころではない。
だって……。
「ペア、いるんですね……」
「うぉいっ!? そこからか!」
「あ、アハハハハ……」
もう笑って誤魔化すしかないこれは。
「……ボーデヴィッヒへの私の気持ちを返せ……」
ガックシと千冬。全くその通りである。
「それならば、問題は解決済みのようなものですよ」
「アヤ?」
「はい。私が光牙のペアになりますから」
「え、いいの?」
「勿論。お互いに知ってる人物の方がやりやすいでしょう」
「助かるよ。じゃあよろしく頼む」
「はいっ♪」
光牙的には忘れてたペアの問題が解決したから良かったのだが、アヤは嬉しそうに光牙の腕へ抱きつく。
……誰の目の前かも忘れて。
「あ、アヤ? なんで抱きつくんだよ。ていうかなんか当たって……」
「もう、それを私に言わせる気ですkぬごぉ!?」
文字通り魔の手。
すりよろうとしたアヤの頭をアイアンクローが襲う!
「ケントン〜? ぬぁにをしているんだキサマァ」
「別に。ただ光牙に甘えようとしただけですが?」
「チャールズさんから光牙とのことは聞いてるが……少し近すぎるだろうに。離れろ」
(……遊戯王みたいに顔凄いことになってるんですが)
アイアンクローされたまま無理矢理向かい合うアヤと、やたら濃い表情で威圧する千冬。顔芸対決がここにあった。
「にゃべしっ!?」
千冬が無理矢理に光牙をアヤから引き剥がそうとして、両者同時に瞬間移動で飛び退く。余波で壁に叩きつけられ奇声を発した光牙を他所に、距離を取った二人が鋭い眼光を燃やしてぶつけ合う。
「それは織斑先生もでしょう。そのブラコン、大人としてどうなんですか」
「私は純粋に光牙を思っているだけだ。貴様こそ親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らんのか。知らんのなら知っとけ」
「知識として理解してますよ? 勤勉ですので。誰かさんと違ってお酒なんか飲めませんし、酔いもしませんから」
「ほーぅ? 酒を飲んだこともない上、日が浅い癖によう言うわ。小娘」
「どういたしまして。センセイ?」
(あ、なんかヤバそう)
とっくにヤバい状況であるぞ光牙。
殺気というかハイパーになりそうなオーラをぶつけあう光牙LOVEとブラコン(アヤに千冬)。世界が違えば氷の小太刀と炎の大剣が顕現しそうである。
自分が止める? 絶対無理だし命を大事にしたい光牙にそんな考えはない。その頭には師匠が一人、神隼人の教えが閃く!
『光牙。戦いは、ただ相手とぶつかるだけじゃない。時には引き際を見極め、退くことも重要だ。その戦いだけで、全てが決まるなんてのはそうそうありはしないんだからな』
「なんか分かった気がします、隼人さん」
「……年増」
「……ナイチチ」
プッツン×2。
「今がその時だあああああ」
こんなんで理解していいのかは置いとき全力逃走光牙。
そんで直後。
――オーバーフリーズバレットォォォォ!!
――ダイナミックファイヤァァァァ!!
ド ワ ォ !!
「ふぉああああああ!?」
逃げようと巻き添えを食らうものは食らう光牙。
寮長室が半分吹っ飛びかけて夜中に騒ぎになったがそれは別の話。
ちなみに原因を作った二人と巻き添えの光牙は一応無事だったとさ。
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第24話です。大体いつものノリですね。どうぞ!