7月24日、早朝――――
~トリスタ・第三学生寮~
早朝、リィン達はラウラとフィー、レンより一足早く玄関に集合していた。
「さてと、一足先に集まったのはいいけど……正直、何かしてあげられるアイデアが浮かばないよね……」
「ああ、僕達の時と違って彼女達はお互い弁えている。先月の実習にしたって良い結果とは言えなかったが、トラブルは無かったからな。」
「マキアス達との時と違って理由がわからない分、逆にどうすればいいのか、全くわからないんですよね……」
「ああ、だからこそ何とかしてやりたいと思うんだけど……アリサたちによれば、あの二人はお互いの存在を”戸惑っている”みたいだな。」
エリオット達の話にリィンは静かな表情で頷いた。
「うん、そんな感じはするね。別に嫌っているわけじゃないけど納得が行っていないというか……」
「片や武門として知られる由緒正しい貴族の嫡女……片や猟兵団に拾われて育った戦場で生きてきた少女……考えてみればお互い全く違う世界で育ったわけか。レンに関しては……よくわからないけど。」
「ああ。もしかしたらそこに―――」
エリオット達の意見に頷いたリィンが言いかけたその時
「―――待たせたな。」
ラウラがリィン達に近づいてきた。
「ああ……おはよう、ラウラ。」
「コホン、待ち合わせよりずいぶん早いじゃないか?」
「―――余計な心配は無用だ。波風を立てるつもりはないし”戦術リンク”についても何とか物にしてみせよう。我らとして決していがみ合っているわけではない。……そうだろう、フィー、レン?」
心配するリィン達の答えたラウラは自分達に近づいてきたフィーとレンに視線を向け
「……ん。実習の邪魔はしないから安心していいよ。」
「というかレンは最初からラウラお姉さんを嫌っていないわよ?」
ラウラの言葉にフィーは頷いて答え、レンは不思議そうな表情で首を傾げて答えた。
「そうか……」
「うーん、その辺りについては全然心配してないけど……」
「……とにかく準備を済ませて駅に向かうとするか。一足先にB班も出たはずだ。」
二人の答えを聞いたマキアス達がそれぞれ不安を抱え込んでいる中、リィンは気を取り直し、仲間達と共に駅に向かい、切符を買った後列車に乗り込み、実習地であるヘイムダルの事を良く知るマキアスやエリオットから説明を受けていた。
~列車内~
「――さてと、時間が無いから簡単に説明しておこう。ヘイムダルは言うまでもなくこのエレボニア帝国の首都だ。すなわち現エレボニア皇帝、ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世陛下がいらっしゃる都だな。」
「そんな事はわかっている。教科書的な知識ではなく、もっと実のある情報をよこせ。」
向かい側の席でマキアスの説明を聞いていたユーシスは呆れた表情で指摘した。
「ぐっ…………」
「えっと、ヘイムダルは16の街区にわかれてるんだ。それぞれが地方都市並みの規模を持っているんだけど……帝都全体の人口は80万人を超えているって話だね。」
「80万……想像もつかんな。」
ユーシスの正論を聞いたマキアスが唸り声を上げて黙り込んでいる中マキアスの代わりにエリオットが説明し、説明を聞いたガイウスは目を丸くした。
「たしかゼムリア大陸でも最大規模の都市だったわね?」
「ええ、近隣諸国でいうと、巨大貿易都市として知られているクロスベルですら50万人……南にあるリベールの都も30万人くらいだったはずです。」
「さすがは二大国の首都って所ね。」
アリサの質問に答えたエマの話を聞いたレンは静かな表情で呟いた。
「そう言えば……レンはリベールのどの地方の出身なんだ?」
その時レンの出身場所が気になったマキアスは不思議そうな表情でレンを見つめて訊ねた。
「レンの故郷?レンの故郷は”ロレント地方”よ。」
「ええっ!?ロ、”ロレント地方”!?い、意外……レンって、都会の女の子って感じに見えるからてっきり出身は王都かボースあたりかと思っていたわ………」
「そのロレント地方はどういう所なんだ?」
レンの答えを聞いたアリサが驚いている中、初めて聞く単語が気になったガイウスはリィン達に訊ねた。
「”ロレント地方”というのはリベールの地方都市の一つで、主要な産業は農業と七耀石(セプチウム)の採掘である事から、リベールの他の地方都市と比べるとあまり栄えていないんです。」
「ま、はっきり言って田舎よ。生活で使っている導力関係のものといったらせいぜい灯や通信、後はストーブくらいだもの。でもその代わり田舎特有である人々同士の連帯感が強いから、他の地方都市と比べたら町のみんなの仲はとってもいいわよ♪」
「ハハ……まるで俺の故郷――――ユミルのような所だな……」
エマとレンの説明を聞いたリィンは苦笑した後懐かしそうな表情で自分の故郷を思い出していた。
「確かにロレントは田舎だったね。だけどあまり導力に頼らない生活をしていたお陰で”リベールの異変”が起こった時も、導力が使えない状況の割にはほぼ普段通りの生活をしていたね。」
「”リベールの異変”……2年前にリベール全土で起こった”導力停止現象”ね。」
「確か私達B班が最初に行った特別実習地―――パルム地方も”異変”の影響によって、”導力停止現象”に陥っていたそうですね……」
「原因はリベールに突如現れた謎の浮遊都市だったとの事だよな?」
「ああ。それと確か”導力停止現象”を起こしている浮遊都市を無力化する為に集められたリベールの精鋭達の中にオリヴァルト皇子殿下が領地の一部が”導力停止現象”の影響を受けた帝国の代表として参加して、リベールの精鋭達と共に事件解決に貢献したという話だったな。」
フィーの話を聞いてある事を思い出したアリサは静かな表情で呟き、マキアスの確認の言葉に頷いたリィンは自身が知る知識を口にした。
「…………………」
一方ラウラは真剣な表情でフィーを見つめた。
「……なに?」
ラウラの視線に気付いたフィーは首を傾げてラウラを見つめた。
「いや……それほど大きな都で行われる今回の”特別実習”。どんなものになるのか皆目見当もつかないと思ってな。」
「そ。」
そして二人のやり取りを聞いていたリィン達は冷や汗をかいた。
「ま、まあ確かに課題をまとめてくれる人や宿泊場所も聞いていないしな。もしかして、エリオットやマキアスの実家に泊まるのか?」
「あはは……僕の家はそんなに大きくないし。やっぱり帝都知事をやっているマキアスの実家とかじゃないの?」
「いや……それこそあり得ないな。父も官舎に住んでいるし、実家には誰もいないはずだ。サラ教官曰く、帝都駅に着いたら”案内人”が待っているらしい。」
「そうなんですか……」
「まったく、毎度のことながら説明不足にも程があるわ。」
「ま、サラお姉さんだから仕方ないわね♪」
マキアスの話を聞いたエマは驚き、呆れているアリサの言葉に続くようにレンはからかいの表情で呟いた。そして列車はヘイムダルに到着し、列車から降りたリィン達が改札に向かっていると意外な人物が声をかけてきた。
~帝都ヘイムダル中央駅~
「―――時間通りですね。」
「え……」
女性の声に気付いたリィン達が驚いて声が聞こえた方向を見つめるとそこにはクレア大尉が鉄道憲兵隊の隊員と共にリィン達を見つめていた。
「ええっ!?」
「あら………」
「…………あなたは……」
「”鉄道憲兵隊”だったか。」
「たしか……クレア大尉、でしたよね。」
「はい、覚えて頂いたようで何よりです。3ヶ月ぶりくらいでしょうか。」
クラスメイト達がクレア大尉の登場に驚いている中リィンの言葉に頷いたクレア大尉はリィン達を見回した。
「こ、この人がリィン達が言っていた……」
「フン、泣く子も黙る”鉄道憲兵隊(T・M・F)”の将校殿か。」
「……あの、もしかして……貴女が今回の”特別実習”の課題などを……?」
「いえ、あくまで今日は場所を提供するだけです。正式な方は……あ、いらっしゃいましたね。」
アリサの疑問に答えたクレア大尉は後ろから近づいてくる気配に気付いて振り返った。
「―――やあ、丁度よかった。」
「こ、この声は……!」
そして聞こえてきた男性の声を聞いたマキアスが驚いたその時、スーツを身に纏った眼鏡の男性が秘書らしきスーツ姿の女性と共にリィン達に近づいてきた。
「と、父さん!?」
「え……」
「て、帝国時報で見た……」
「革新派の有力人物、レーグニッツ知事……」
「マキアスのお父上か。」
「フフ、まあ一応は自己紹介をしておこうかな。―――マキアスの父、カール・レーグニッツだ。帝都庁の長官にしてヘイムダル知事を務めている。よろしく頼むよ、士官学院・Ⅶ組の諸君―――」
眼鏡の男性―――レーグニッツ知事は自己紹介をした後、クレア大尉の案内によってリィン達と共にある場所へと向かった―――――
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第113話