~第三学生寮~
「………どうやらエリゼ様の説得は成功されたようですね?」
「ええ♪今頃エリゼお姉さんは狼さんになったリィンお兄さんに食べられちゃっているのでしょうね♪」
「うふふ、さすがはあのユウナ様の姉君だけあって、性格もユウナ様とそっくり……いえ、それ以上の方ですね。」
笑顔でとんでもない事を口にしたレンの答えを聞いたシャロンは微笑みながらレンを見つめ
「あら、いいの?レンの前であの娘を知っている事を口にしちゃったら、シャロンお姉さんの”もう一つの顔”を自分からバラしているようなものよ。」
シャロンの口から出たかつて”身喰らう蛇”の”執行者”であった大切な妹の名前を聞いたレンは目を丸くして妹の名前を口にしたシャロンを見つめた。
「ふふっ……何の事やら。”今の私”の”愛”と”献身”はアリサお嬢様とイリーナ会長の為にあるもの…………それ以外の私等存在しませんわ。」
「ふぅん?その割には2年前にサラお姉さんと”色々”あったみたいだけど?」
シャロンの答えを聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべてシャロンを見つめて問いかけた。
「……?何の事でしょうか?」
しかしレンの問いかけに対して本気で意味がわからないかのように、シャロンは不思議そうな表情で首を傾げた。
「…………―――ま、”あの件”はレンには関係ない話だから別にいいけどね。――――それよりも他に聞きたい事があるのだけどいいかしら?」
シャロンを少しの間ジッと見つめたレンは気を取り直してシャロンに別の質問をした。
「なんなりと。」
「アリサお姉さんを大切にしているのに、何でレンの頼みに応じてリィンお兄さん以外のみんなに遅行性の睡眠薬を混ぜた紅茶を出してくれたのかしら?エリゼお姉さんの恋が叶っちゃったら、シャロンお姉さんの大切なアリサお姉さんの恋が叶わない可能性が出てくるのに。」
「ふふ………恋は障害があればある程燃え上がり、女性を積極的にさせるものでしょう?レン様のご家族であられるエステル様とヨシュア様がその例ですし、リィン様は貴族の子息の方の上”あの性格”の為複数の女性との結婚の可能性は十分に考えられますから、お嬢様にもまだまだチャンスは残っていますわ♪」
「なるほどね♪要するにアリサお姉さんを焚き付けるためにあえてエリゼお姉さんという恋の最大の好敵手(ライバル)を作ったって訳ね♪でも、よかったの?アリサお姉さんがリィンお兄さんの童貞(ヴァージン)を貰えなくなっちゃって。」
シャロンの答えを聞いてシャロンの狙いを察したレンは笑顔になった後ある事に気づき、不思議そうな表情で訊ねた。
「うふふ、お嬢様はリィン様のファーストキスを頂いたのですから、お互い様ですわ♪」
「クスクス、その様子だとレンがあげたあの映像―――――ノルドの集落のレン達が泊まっていた家に仕込んでおいた携帯型ビデオに写っていた映像――――アリサお姉さんがリィンお兄さんにキスしている所の映像やレンが録ったリィンお兄さんとアリサお姉さんが夜空の下で語り合っている映像が凄く気に入っている様子ね♪」
「ええ、私にとっては一生の宝物に値する映像ですわ♪それにしてもどのようにしてエリゼ様を説得されたのでしょうか?幾らリィン様に対して恋心をお持ちでも、さすがに告白もせずにいきなり操を奪われる覚悟はできないと思われるのですが………」
小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にシャロンは微笑みを浮かべて頷いた後ある事が気になり、不思議そうな表情でレンに訊ねた。
「うふふ、それはレンの長年の交渉術の賜物って所かしらね♪」
「なるほど………でしたらその交渉術でアリサお嬢様に、もっと積極的になるように説得して頂けないでしょうか♪」
「クスクス、考えておくわ♪」
そしてレンとシャロンが少しの間談笑した後シャロンが退室し、レンはエリゼが帰ってくるのを待ちながら携帯型の導力端末を操作していた。
~3時間後・リィンの私室~
「お、俺はなんてことを………父さんと母さんに合わす顔がないよ……それに俺は何であんな事をしてしまったんだ………!?」
3時間後レンの目論見通り”全て”が終わった事で正気に戻ったリィンは自分のベッドで自分の隣で寝転んでいる生まれたままの姿になったエリゼから視線を逸らして顔色を悪くして頭を抱えていた。
「兄様…………」
その時エリゼが目を覚まして起き上がり、リィンを見つめた。
「エ、エリゼ!?その…………すまない……!俺はとり返しのつかない事を……!」
エリゼに声をかけられたリィンはベッドから降りて土下座をして謝罪したが
「謝らないでください………これは私が心から望んでいた結果ですし……それに、謝るのは私の方です。」
「へ………それは一体どういう事なんだ?」
大切な操を奪われた側であるエリゼが謝罪する側であると口にすると呆けた表情でエリゼを見つめて訊ねた。そしてエリゼはレンが自分の為にリィンに疲労回復に役立つと嘘をついて強烈な効果の媚薬入りの紅茶を飲ませた事や、クラスメイト達を睡眠薬で眠らせた事等を説明した。
「…………………」
説明を聞き終えたリィンは驚きのあまり口をパクパクさせ
「その……先に言っておきますがレンさんを怒ったりしないでください。私は兄様に媚薬を飲ませたり、私を焚き付けたりしたレンさんを怒ったり恨んでなんていませんし、むしろ感謝しています。」
「なっ!?………何でなんだ?」
エリゼがレンに感謝している事を知ると驚き、エリゼに訊ねた。
「レンさんのお陰で、私の兄様への想いを兄様に気付いてもらえる事ができたのですから………それに………兄様に純潔を捧げたあの時……私は天にも昇るような幸せを感じましたし………兄様に何度も求められた時も本当に嬉しかったです………」
「そ、それって…………本当にエリゼは俺の事をそんなにも想っていたのか……?」
エリゼの話を聞き、エリゼが自分に対して恋心を持っている事にようやく気づいたリィンは信じられない表情でエリゼを見つめた。
「……まさか兄様は私の事を幾ら仲がいい兄妹とは言っても、恋心も抱いていない殿方にファーストキスや純潔を捧げるような淫らな女性だと思っているのですか?」
「いやいや!?そんな事は全然思っていないぞ!?」
ジト目のエリゼに見つめられたリィンは必死に首を横に何度もふって答え
「……兄様。ここまで答えたのですから私と兄様が半年前に会った時に私がよそよそしかった理由や最近すれ違う事が多かった理由もわかりますよね?」
気を取り直したエリゼは静かな表情でリィンに問いかけた。
「あ…………も、もしかしてエリゼが俺の事を”兄”じゃなくて”男”として見ていたからか………?」
エリゼの問いかけを聞いて心当たりを思い出したリィンは気まずそうな表情でエリゼに訊ねた。
「……………………」
リィンの問いかけにエリゼは頬を赤らめて頷き
「え~と……その……今まで気づけなくて本当にすまない………」
エリゼの頷きを見たリィンは言葉を濁した後申し訳なさそうな表情で謝罪し
「その事はもう気にしていないので謝らなくてもいいです。それに兄様が恋愛事に関して致命的なまでに鈍感な事は昔から”よく”わかっていますし。」
「う”っ。」
エリゼの自分に対する毒の混じった答えを聞くと冷や汗をかいて唸り声を上げた後ある事を思い出し、恐る恐る訊ねた。
「その…………大丈夫か?何度も中に出してしまったけど……」
「ええ。レンさんが用意してくれた避妊薬を兄様の部屋を訪れる前に前もって飲んでありますから、問題ありません。」
(睡眠薬や媚薬といい、何でレンは学生で、しかも子供なのにそんなものを持っているんだよ!?)
そしてエリゼの答えを聞くと疲れた表情でレンの顔を思い浮かべて心の中でレンに指摘した。
「兄様。」
「な、何だ?」
エリゼに呼ばれたリィンは戸惑いの表情でエリゼを見つめ
「順序が逆になりましたが……この際言っておきます。私――――エリゼ・シュバルツァーは一人の女性としてリィン・シュバルツァーを心から愛しております。この心は一生変わりません。」
「……エリゼ…………」
妹からの告白を聞いたリィンは返す言葉がなく、黙り込んだ。
「今まで兄妹だったのですから、すぐに私の事を女性として見る事には無理がある事は重々承知しております。ですから少しずつで構いませんので、どうか私を”妹”ではなく一人の”女性”として見てください。」
「エリゼ…………わかった……………これからはそうなるように努力するよ。」
エリゼの嘆願を聞いたリィンは呆けた後真剣な表情で頷いた。
「それと……その……いつか私の事を兄様の妻として娶ってくれるのですよね……?」
「うっ…………あ、ああ……事故とはいえ、俺はエリゼにとんでもない事をしてしまったんだ。その責任は取るつもりだ。」
顔を真っ赤にしたエリゼの問いかけを聞いた唸り声を上げた後真剣な表情で答えた。
「フフ、よかった。それと兄様。兄様に私以外の愛する女性ができても、祝福するつもりですので、他の女性と恋愛をなさっても別に構いませんよ。」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待て!それだとエリゼの言っている事や希望と矛盾していないか!?」
しかしエリゼの口から出た驚愕の提案を聞いたリィンは驚いて反論した。
「―――――何を勘違いなさっているのですか?私と兄様が将来、夫婦(めおと)になる事は”決定事項”ですよ?その中に私が兄様の妻として共に結婚する事を承知する寛大な心を持つ女性が入るだけです。なので、もし私以外の女性と恋人同士になった時、私の事は予め説明しておいてくださいね?」
「…………………………え、えっと………エリゼ?一体何の事でそんなに怒っているんだ?」
膨大な威圧を纏って微笑むエリゼの説明を聞いたリィンは冷や汗をかいて黙り込んだ後恐る恐る訊ねた。
「怒りたくもなります。何せ入学早々にアリサさんの胸に顔を埋もれさせるという淫らな事をしたのですから。」
「ブッ!?ご、誤解だ!あれは不可抗力だったんだ……!―――って、それ以前に何でエリゼがその事を知っているんだよ!?」
そしてエリゼの答えを聞いて噴きだしたリィンは慌てた様子で言い訳をした後ある事に気づき、驚きの表情でエリゼに訊ねた。
「レンさんが教えてくれました。」
「………………(何でエリゼにあの事を教えたんだよ、レン!?というかレンは入学式のオリエンテーションの時はいなかったのに何であの事を知っているんだ!?)」
エリゼの答えを聞いたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、その間にエリゼはベッドから降りて脱いでいた下着や寝間着を着直し
「それでは私は今夜はこれで失礼します。おやすみなさい、兄様。―――ん。」
リィンの唇にキスをした後リィンの部屋から出て行った。
「………………こ、これからどうすればいいんだ……!?というか、何でこんな事になってしまったんだ…………!?ハア………………」
エリゼが部屋を出ると兄妹同士でありながら肉体関係の間柄になってしまった事にリィンは頭を抱えてこれからの自分の将来に悩み続けた。
~空室~
「あら、お帰りなさい、エリゼお姉さん。」
エリゼが自分が泊まっている空室に戻ったその時、携帯型の端末を操作していたレンが端末を閉じて出迎えた。
「レンさん………まだ待っていらしてくれたのですか……時間も時間ですから、既に自室に戻って休まれているのかと思っていたのですが……」
レンがまさ起きて自分の部屋で待っていた事に驚いたエリゼは目を丸くしてレンに近づいて声をかけた。
「うふふ、エリゼお姉さんの恋の行方がどうなったか気になって、結果を聞くまで逆に眠れないわよ♪――――それで?首尾はどうだったのかしら?」
「………はい。レンさんのお陰で兄様に私の想いを知って頂く事ができました……!そ、それに……その……結婚の約束までしてもらいました……!」
「あら。うふふ、一体どういう経緯でそうなったのか説明してもらえるかしら?」
そしてレンはエリゼから事情を聞いた。
「………なるほどね。それにしても正直レンも驚いたわ。エリゼお姉さんの事だから、自分の事は妾でいいからずっと傍に置いてもらって、後はリィンお兄さんの子供を孕ませて貰えればそれで満足みたいな事で納得すると思っていたもの。」
「そ、その……私も最初はそのつもりだったのですけど、気づいたら自分でも驚く程強気に出て、勢いで兄様に将来妻にして頂くように迫っていたのです。」
事情を聞き終えた後興味ありげな表情で自分を見つめるレンに対してエリゼは顔を真っ赤にして答えた。
「クスクス、リィンお兄さんと結ばれた事で度胸がついたか、もしくはリィンお兄さんの”初めて”のお相手になれたという自信で言えたのじゃないかしら♪」
「ど、どうでしょう………?」
レンの推測を聞いたエリゼは頬を赤らめて嬉しさを隠せない様子で答えを濁したが
「もしくはアリサお姉さんの件で、リィンお兄さんに遠慮する必要がないと無意識に感じてそんな風に強気に出たかもしれないわね♪」
「…………その可能性はあるかもしれません。」
更なるレンの推測を聞くと一瞬石化したかのように固まってすぐに我に返ると静かな表情で頷いた。
「うふふ……ちなみにエリゼお姉さん。リィンお兄さんと結ばれた時は”どっち”が”主導”だったのかしら♪」
「そ、それは…………さ、さすがに恩人のレンさんでもそれだけは絶対に教えられません!」
からかいの表情で問いかけたレンに対して言葉を濁していたエリゼだったが顔を真っ赤にして答えを拒否した。
「あら、残念♪ま、いいわ。―――おめでとう、エリゼお姉さん。レンはエリゼお姉さんとリィンお兄さんが結ばれた事に心から祝福するわ♪」
「あ、ありがとうございます………」
レンに祝福の言葉をかけられたエリゼは頬を赤らめて嬉しそうな表情で答えた。
「―――それじゃあ、レンも今夜は失礼するわ。おやすみなさい、エリゼお姉さん。」
「おやすみなさい。………レンさん、旧校舎の件も含めてレンさんから受けた御恩は一生忘れません。今日は本当にありがとうございました………!」
「ふふっ、どういたしまして♪」
そしてレンはエリゼが泊まっている空室から出た。
(…………うふふ、さっき読み取ったエリゼお姉さんの記憶によるとエリゼお姉さんとリィンお兄さんの両方にそれぞれかけた暗示はちゃんと成功したみたいね♪お陰でレンの暗示が使える事が証明されたわ。レンの暗示の実験に協力してくれてありがとう、リィンお兄さん、エリゼお姉さん♪)
部屋を出たレンはエリゼとの会話の間で”グノーシス”の力で読み取ったエリゼの記憶を思い出して二人にかけた暗示が成功した事を確認し、意味ありげな笑みを浮かべてエリゼが泊まっている空室に視線を向けた後自室に戻って明日に備えて休み始めた。
翌朝、エリゼはリィン達に見送られ、数日後に実技テストの日が来た――――――
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第110話