6月23日――――昼休み
~帝都近郊都市・トリスタ・トールズ士官学院・廊下~
「……………………」
「あ、あはは……」
掲示板に貼りだされてある順位を見た眼鏡をかけたⅦ組の男子生徒――――”革新派”の有力人物、カール・レーグニッツ知事の息子であるマキアス・レーグニッツは呆け、Ⅶ組の眼鏡をかけ、長い髪を一房に結っている女子生徒――――首席入学者でもあるエマ・ミルスティンは苦笑していた。
73位 フィー・クラウゼル(544点)
37位 エリオット・クレイグ(802点)
21位 ガイウス・ウォーゼル(870点)
18位 ラウラ・S・アルゼイド(895点)
9位 アリサ・ラインフォルト(924点)
8位 リィン・シュバルツァー(932点)
4位 ユーシス・アルバレア(952点)
2位 マキアス・レーグニッツ(975点)
2位 エマ・ミルスティン(975点)
1位 レン・ブライト(1000点)
「よ、よかった~……そんなに悪い順位じゃなくって。それにしても、まさか委員長とマキアスが同点2位なんてね!」
自分の順位が下位じゃなかった事に安心した赤毛のⅦ組の生徒――――エリオット・クレイグは安堵の溜息を吐いた後味ありげな表情でマキアスをエマを見つめ
「さすがだな、マキアス。」
「はは、ちゃんと有言実行を果たせたじゃないか。」
背が普通の生徒達よりも高く、肌が黒いⅦ組の生徒――――ノルド高原に住む民族”ノルドの民”であり、留学生でもあるガイウス・ウォーゼルと黒髪の生徒――――ノルティア州の辺境”ユミル”の領主の息子であるリィン・シュバルツァーは感心した様子でマキアスを見つめた。
「あ、ああ………何と言うか、さすがだな、エマ君。」
一方マキアスは戸惑いの表情で頷いた後エマに感心し
「いえいえ、お互い頑張った結果だと思います。」
マキアスに感心されたエマは微笑んだ。
「それにしても……みんな、いい線行ってるわね。」
Ⅶ組の金髪の女子生徒―――巨大工業メーカー”ラインフォルトグループ”の会長の一人娘でもあるアリサ・ラインフォルトはⅦ組全員の順位を見て驚いていた。
「うん、私も入学試験より順位が上がっているようだ。」
「まあ、こんなものか。」
凛とした雰囲気を纏っている青髪のⅦ組の女子生徒――――クロイツェン州のレグラム地方の領主であり、帝国でも双璧を誇る武門――――”アルゼイド流”の伝承者でもある”光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイドの娘、ラウラ・S・アルゼイドとⅦ組の金髪の男子生徒――――クロイツェン州を統括している統括領主にして”四大名門”の一角”アルバレア公爵家”の次男でもあるユーシス・アルバレアはそれぞれの成績に満足している様子を見せていた。
「ユーシスはユーシスでさらっと余裕そうだし……リィンも10位以内に入るなんて、相当頑張ったみたいね。」
「はは、みんなと試験勉強をばっちりやったおかげだよ。」
「……ちょっと疎外感。」
それぞれが試験結果に明るい表情をしている中、自分だけ順位が圧倒的に下の銀髪の女子生徒―――フィー・クラウゼルは不満そうな表情をし
「ふふっ、フィーちゃん、頑張ったと思います。」
「基礎学力のことを考えると十分すぎるほどの結果だわ。次はもっと上を狙えるはずよ。」
エマとアリサはそれぞれ感心した様子でフィーに声をかけた。
「ん、気が向いたら。そういえば、そっちにも何か書かれてるけど。」
アリサの言葉に頷いたフィーはクラスごとの平均点と順位が書かれてある紙が貼られている掲示板に視線を向けた。
1位 1-Ⅶ(887点)
2位 1-Ⅰ(843点)
3位 1-Ⅲ(770点)
4位 1-Ⅱ(735点)
5位 1-Ⅵ(675点)
6位 1-Ⅴ(650点)
「わあっ……!」
「ほう、我らⅦ組が首位か。」
「ふふっ、1位から4位までいるしちょっと予想はしてたけど。」
「フン、俺が属するクラスが負けることなどあり得んがな。」
「だから君は何でそんなにも偉そうなんだ……」
自分達のクラスが一位である事にクラスメイト達が喜んでいる中喜ぶ事なく、自慢げな様子でいるユーシスにマキアスは呆れた表情で指摘し
「クスクス……」
入学当初険悪な仲であった頃とは比べものにならないくらい改善されている二人の様子にエマは微笑ましそうに見守っていた。
「……いや。実際みんな頑張っただろう。」
「ああ、誇ってもいいと思う。」
「V(ブイ)、だね。」
そしてガイウスの言葉にリィンとフィーはそれぞれ頷いた。
「1位と言えば………1位の人って一体誰なんだろうね……?」
「――――全教科満点のレン・ブライトか。」
「所属が1-Ⅶって事は私達のクラスの人よね……?なのに、どうして今までいなかったのかしら……?」
「何か事情でもあるのでしょうか……?」
個人成績1位の人物であると同時に自分達のクラスメイトでもあるレンの事が気になったエリオットは不思議そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟き、アリサとエマは戸惑いの表情でそれぞれ考え込んでいた。
「………………一体何の為にこのクラスに来たんだろう、レンは。」
「………?フィーはこのレンという人と知り合いなのか?」
その時フィーは静かな表情で呟き、フィーの呟きがクラスメイト達と共に気になったガイウスはクラスメイトを代表して訊ねた。
「………ん、そんな所。レンはわたしより一つ年下の女の子だけど、実戦技術は相当な実力を持っている。多分レンが”本気”になれば最低でもサラと互角………――――もしかしたらサラより強いかも。」
「何だと!?」
「フィーより年下の女の子で、しかも無茶苦茶な強さのあのサラ教官と最低でも互角で、もしかしたら教官よりも強いって、一体どんな女の子なんだ!?」
フィーが答えたまだ見ぬ謎のクラスメイトの強さを知ったユーシスは驚きの表情で声を上げ、マキアスは信じられない表情をした。
「そんな滅茶苦茶強くて中間試験も全教科満点って、とんでもなさすぎよ………」
「まさに”文武両道”な女の子ですね………」
「…………………」
アリサは疲れた表情で呟き、エマは呆けた表情で呟き、”猟兵”であったフィーに対して何か思う所があるラウラは真剣な表情でフィーを見つめていた。
「クッ、何という屈辱だ……!」
「帝国貴族の誇りをあんな寄せ集めどもに……!」
一方1年Ⅰ組の貴族生徒達は自分達のクラス平均点が”Ⅶ組”より下である事に悔しがり
「そ、それに……アリサさんのあの家名は……」
アリサの家名を見た1年Ⅰ組の女子生徒―――フェリスは信じられない表情をし
「……………………」
1年Ⅰ組の男子生徒――――”四大名門”の一角である”ハイアームズ侯爵家”の三男のパトリックは怒りの表情で”Ⅶ組”の面々を睨んでいた。
午後―――実技テスト
~グラウンド~
「いや~、中間試験、みんな頑張ったじゃないの♪あのイヤミ教頭も苦虫を噛み潰したような顔してたし、ザマー見なさいってね♪」
グラウンドに集合したリィン達を見回したワインレッドの髪の女性教官――――サラ・バレスタイン教官は嬉しそうな表情でリィン達を称賛した。
「別に教官の鬱憤を晴らすために頑張ったわけでは……」
「というか、教頭がうるさいのは半分以上が自業自得ですよね?」
サラ教官の称賛を聞いたリィンとアリサはそれぞれ呆れた表情で指摘した。
「まったく、あのチョビ髭オヤジ、ネチネチうるさいっての……やれ服装だの居酒屋で騒ぐなだのプライベートにまで口出しして……おまけに婚期がどうだの、余計なお世話だっつーのよ!」
サラ教官の愚痴を聞いたリィン達は冷や汗をかいた。
「―――コホン、それはともかく。早速、実技テストを始めるとしましょうか。」
「はい。」
「フン、望むところだ。」
「はあ、中間試験よりはちょっと気がラクかなぁ。」
「――――その前にサラ。レンの事をわたし達に黙っていた事を詳しく説明して欲しいんだけど?」
クラスメイト達がそれぞれ実技テストを受ける覚悟を決めている中フィーはジト目でサラ教官を見つめて問いかけた。
「そ、そう言えば……」
「教官、レン・ブライトという人は俺達のクラスに所属している生徒なのに、何で今までいなかったのですか?」
フィーの指摘でレンの事を思い出したマキアスは目を丸くし、リィンはサラ教官に訊ねた。
「あ~………あの娘の”Ⅶ組”への留学は入学前から決まっていて、実は入学式からあの娘の籍自体は存在していたのだけど、色々と事情があって通学はできなくてね~。その事情も終わったから、予定では今日来るはずなんだけど………まだ来ていないのよね。全く、どこで油を売っているのかしら?ブツブツ………」
レンの事を訊ねられたサラ教官は困った表情で答えた後ジト目になって小声でブツブツと呟きだし、その様子にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「”留学”……と言う事はそのレンという人物はオレと同じ外国の出身者なのか?」
「ええ。ちなみにレンの出身はリベール王国よ。」
その時サラ教官の話の中に出てきたある言葉が気になったガイウスの質問を聞いて我に返ったサラ教官は答えた。
「リベール王国………!」
「二大国と隣接した小国でありながらも、遥か昔からの古き伝統を誇る帝国よりも昔に存在し、帝国のように君主制を布いていながらも貴族制は廃止されているかの王国か。」
サラ教官の答えを聞いたアリサは驚き、ユーシスは真剣な表情で呟いた。
「リベール……”ブライト”………――――!まさか……レンという人物はあの”剣聖”カシウス・ブライト卿のご息女なのですか……!?」
一方ある事に気づいたラウラは真剣な表情でサラ教官に訊ね
「ええっ!?け、”剣聖カシウス・ブライト”って言ったら……!」
「12年前の”百日戦役”で活躍したあの有名なリベールの”英雄”じゃないか!」
「ああ………そして俺が扱っている剣術――――”八葉一刀流”の皆伝者の一人でもある。」
ラウラの口から出たある人物の名前が出るとエリオットとマキアスは驚き、リィンは真剣な表情で頷いてマキアスの説明を補足した。
「はいはい、今は授業中なんだから詳しい事は本人が来てから放課後にでも聞いてみなさい。―――それよりも今は実技テストに集中しなさい。」
サラ教官は手を叩いて話を中断させた後、指を鳴らした。すると実技テストの際に毎回現れる謎の人形兵器が姿を現した。
「……現れたか。」
「また微妙に形状が変わっているな……」
現れた人形兵器を見たガイウスは警戒し、マキアスは疲れた表情をし
(これは……)
「……気付いた?」
何かに気付いた様子で真剣な表情で人形兵器を見つめたリィンの様子に気付いたフィーは視線をリィンに向けて問いかけた。
「ああ……フィーもか。色や形状は違ったけどどこか似ているな……」
「素材の雰囲気が近いんだと思う。ひょっとしたら――――」
リィンの意見に頷いたフィーは何かを言いかけようとした。
「……?どうしたのだ?」
「別に。こっちのこと。」
しかしラウラに尋ねられると視線を逸らして答え
「……………………」
(またか……)
フィーの答えを聞いて厳しい表情でフィーを見つめ始めたラウラの様子にリィンは呆れた表情をした。
「フン……面白そうなことをしてるじゃないか。」
するとその時Ⅰ組の貴族生徒達が現れ、声をかけてきた。
「Ⅰ組の……」
「な、なんだ君達は?」
Ⅰ組の登場にエマは目を丸くし、マキアスが戸惑っていると貴族生徒達はリィン達に近づいてきた。
「あら、どうしたの君達。Ⅰ組の武術訓練は明日のはずだったけど。」
「いえ、トマス教官の授業がちょうど自習となりましてね。せっかくだからクラス間の”交流”をしに参上しました。―――最近、目覚ましい活躍をしている”Ⅶ組”の諸君相手にね。」
サラ教官の質問に答えたパトリックは不敵な笑みを浮かべてレイピアを取りだして構え、リィン達を見つめた。
「そ、それって……」
「得物を持っているということは練習試合ということか……?」
「フッ、察しがいいじゃないか。そのカラクリも結構だが、たまには人間相手もいいだろう?僕達”Ⅰ組”の代表が君達の相手を務めてあげよう。フフ、真の帝国貴族の気概を君達に示してあげるためにもな。」
リィンの質問に答えたパトリックは自分自身の腕に自信があるかのように勝ち誇った笑みを浮かべ
「フッ……」
「フフン……」
パトリックに続くように貴族生徒達も口元に笑みを浮かべた。
「……君達は……」
「………随分、挑発的じゃない。」
「……………………」
パトリックたちの挑発にマキアスとアリサは真剣な表情でパトリック達を見つめ、ユーシスは目を細めた。
「ふむ、真の帝国貴族の気概か。」
一方ラウラは興味ありげな表情で考え込み
「フフン。なかなか面白そうじゃない。」
サラ教官は口元に笑みを浮かべた後指を鳴らして人形兵器をその場から消した。
「―――実技テストの内容を変更!”Ⅰ組”と”Ⅶ組”の模擬戦とする!4対4の試合形式、アーツと道具、魔術の使用も自由よ!リィン―――3名を選びなさい!」
「りょ、了解です。」
その後リィンはメンバーを選んだがパトリック達は何かと理由をつけてリィンが選んだメンバーの参加を認めない事を指摘し、その結果、メンバーはリィン、エリオット、マキアス、ガイウスの4人のメンバーに限定された。
(あの男、小物の割に剣の腕はそれなりのものだ。取り巻き達も剣術の英才教育を受けた者が多い。くれぐれも油断はするなよ。)
準備を整えたリィン達にユーシスは忠告し
(……わかった。)
(た、確かにフェンシング部に所属しているくらいだもんね。)
(フン、あの高慢ちきな鼻、絶対にへし折ってやる……!)
(とにかく全力を尽くそう。)
ユーシスの忠告にリィン達はそれぞれ頷き、パトリック達と対峙した。
「では、これより、Ⅰ組とⅦ組の代表による模擬戦を開始する。双方、構え。」
サラ教官の指示によって互いのチームはそれぞれの武器を構え
「―――始め!」
サラ教官の号令を合図に模擬戦を開始した!パトリック達はそれぞれ宮廷剣術でリィン達に襲い掛かり、リィン達は傷つきながらもARCUSの戦術リンクの機能やチームワークの良さで協力し合い、パトリック達を戦闘不能にして勝利した。
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