~中央広場~
「―――ああ、こちらにいらしていたのですね……!」
レンを乗せた列車を見送った後駅を出て支援課のビルに戻るセルゲイ達と別れたロイドが警察本部に向かおうとするとロイドを見つけたハロルドが明るい表情をしてソフィアと共にロイドに駆け寄った。
「ハロルドさん。それにソフィアさんも。こんな朝早くにどうされたのですか?」
自分に近づいてきたヘイワース夫妻に目を丸くしたロイドは二人に訊ねた。
「そ、その……実はロイドさん……いえ、支援課の方々に御用がありまして……」
「もしかして支援要請ですか?その……申し訳ありませんが、現在特務支援課は休止中でして、現在支援要請は請けていないんです。ですからお手数ですが遊撃士協会に依頼を出した方がいいかと思います。」
答えを濁しているソフィアの話を聞いて二人が特務支援課に支援要請を出しに来たと判断したロイドは二人に謝罪した。
「いえ、今日訊ねた理由はその件ではありません。その………まずはこの記事の写真を見てもらってもよろしいでしょうか……?」
「ハ、ハア………?えっと………?―――――!!」
ハロルドの答えの意味が理解できなかったロイドは戸惑いながらハロルドから”クロスベルタイムズ”の新聞の記事の一部を切り抜いた記事を受け取って、その記事の写真に写っている人物―――――クロスベルで遊撃士として活動していた時に取材されている様子のレンの写真を見ると目を見開いた。
(これは…………だからレンは昨日の夜、俺に”あんな事”を頼んだのか………)
「………その記事に写っている写真の女の子は以前私達が皆さんに話した私達が亡くした姉妹の姉の名前と同じである事もそうですが、容姿もそっくりなんです……!」
「記事によりますとその娘はかつて”特務支援課”に出向していたそうでして……1ヵ月前皆さんが”D∴G教団”という組織の司祭に操られた警備隊に追われていたあの日の夜にもその写真に写っているその娘が皆さんと一緒にいたのを見た時は見間違いかと思っていたのですが………」
クロスベルから去る直前の日の夜にレンが自室を訪ねてある事を自分に頼んだ事を思い出し、レンの意図を理解したロイドは複雑そうな表情で考え込み、ソフィアとハロルドはロイドの様子に気づかず、ソフィアは必至の様子で、ハロルドは辛そうな表情でロイドを見つめて話を続けた。
「そうだったのですか…………ええ、この写真に写っている女の子――――レンはついこの間まで”特務支援課”に所属していました。」
「!!」
「ああ……!その……今その娘はどちらのいるのですか……?」
ロイドの答えを聞いたハロルドは目を見開き、ソフィアは明るい表情で声を上げた後懇願するかのような表情でロイドを見つめてレンの所在地を訊ねた。
「その………大変申し上げにくいのですが、レンは今朝の列車でクロスベルから去り、俺はつい先程まで課長達と一緒にレンの見送りに行っていたんです。」
「!そう………ですか………」
「………………」
ロイドの話を聞いて、レンは既にクロスベルから去った事を知ったハロルドは辛そうな表情で肩を落とし、ソフィアは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「………その。実は以前お二人から亡くなった姉妹の話を聞いていながらもレンの存在を今まで黙っていた事もそうですが、その件以外でもお二人に謝らなければいけない事があるんです。」
「え……?」
「一体何なんでしょうか?」
「実は――――」
そしてロイドはヘイワース夫妻にかつて夫妻の息子―――コリンが迷子になった際、捜索した時に手伝ってくれたある少女がレンの妹であるユウナであった事を説明した。
「そんな……!あの娘が…………ユウナがコリンと出会った上コリンを助けてくれたなんて……!」
「ああ……!女神(エイドス)よ、貴女が与えてくれた奇跡に感謝いたします……!」
話を聞き終えたハロルドは驚き、ソフィアは涙を流して喜んでいた。
「……すみません。本当でしたらもっと早くにお話しすべきでしたけど、レンとユウナ、二人とも絶対に自分達の事をお二人に話さないようにと、念を押しましたので……」
2人の様子を見たロイドは申し訳なさそうな表情で謝罪したが
「そんな……!皆さんは何も悪くありません!全て私達が悪いのです!」
「はい………あの娘達をこの手から離してしまった私達が悪いのです……そんな私達にあの娘達が会いたくないのも当然の事です…………」
ハロルドは真剣な表情で否定し、ソフィアは悲しそうな表情で答えた。
「ハロルドさん……ソフィアさん…………その……実はお二人に渡すものがあるので、俺についてきてもらってもいいですか?」
「?は、はい。」
ロイドはヘイワース夫妻と共に支援課のビルに入って自室に入り、鍵をかけていた机の引き出しの鍵をあけて一枚の封筒とスーツケースを取り出した。
~特務支援課~
「………これを。」
「この封筒は一体……?」
ロイドに封筒を手渡されたハロルドは不思議そうな表情をし
「………レンがお二人宛に書いた手紙です。もしお二人が自分の生存を何らかの方法で知って支援課を訪ねてきた時に渡して欲しいと頼まれていました。」
「!!」
「え………!」
ロイドの話にソフィアと共に驚いたハロルドは急いで封筒に入っている手紙を出して手紙の内容を読み始めた。
―――パパとママへ
この手紙を読んでいる頃にはレンが生きている事に気づいているのでしょうね。ちなみにロイドお兄さんから聞いているとは思うけど、レンだけでなくユウナも生きているわ。パパとママの事は今でも大好きだけど……レンとユウナは新しい家族に引き取られて幸せに生きているから、パパとママの所に戻る事はできないわ。
あまり長々と書くのはレンの主義じゃないし、手短に終わらせるわね。―――――レンはパパとママの娘として産まれて本当に幸せだった。それはユウナも同じよ。
短い間だったとはいえ、4人で過ごした時間はとても暖かく、”幸せ”だった…………――――――パパとママは悪くないわ。全ては不幸な偶然が重なっただけ。だから……レンとユウナの事は後悔しないで、2人は”幸せ”になって。それが”レンとユウナの願い”だから…………
追伸
ロイドお兄さんに保管してもらっているスーツケースの中身は今までレンとユウナを育ててくれたお礼だから、全て遠慮なく貰ってね。
レンより
「う、う、ううっ…………!」
「レン…………!ロイドさん……レンの手紙によるとロイドさんはレンからスーツケースを預かっていると書いてあるのですが……」
短い内容ながらも自分達を気遣い、レンとユウナは自分達を恨んでいない事を知ったソフィアと共に涙を流したハロルドはある事に気づくとロイドに訊ねた。
「ええ、俺も中身は知らないのですが…………」
ハロルドに訊ねられたロイドは答えた後レンから預かったスーツケースの鍵を使ってスーツケースを開けると何とケースの中にはかなりの数のミラの札束が入っていた!
「なっ!?ミ、ミラの札束……!?しかも一万ミラ札の……!一体幾らあるんだ……!?」
ミラの札束を見たロイドは驚き
「ど、どうしてあの娘がこんな大金を………何か心当たりはありますか?」
ソフィアは信じられない表情をした後ロイドに訊ねた。
「そ、そう言われましても…………――――あ。」
訊ねられたロイドはどう答えればいいかわからなかったがレンが”Ms.L”である事から目の前にある大金を簡単に用意する事が出来る事に気づくと呆けた声を出した。
「何か知っているのですか………?」
「えっと………さっきの記事を読んだ際に既に知ったとは思いますけどレンは遊撃士協会に”特例”で規定年齢に達してもいないにも関わらず遊撃士を務める事を許可されていまして。以前遊撃士の仕事の関係で”とある富豪”を偶然助けた事があって、その富豪は自分を助けた事に非常に感謝し、その富豪から”報酬”として目が飛び出るような大金を受け取った事があると話していた事がありました。」
ソフィアに訊ねられたロイドは咄嗟に思いついた嘘を答えた。
「それで……幾ら入っていたのですか?」
「………今数えますので、少々お待ちください。…………そ、そんな!?この金額は……!」
そしてロイドに訊ねられてスーツケースの中に入っているミラの札束を数え終えたハロルドは信じられない表情で声を上げた。
「…………全て合わせて3000万ミラが入っています。」
「え……………そ、その額は………!」
「………何か心当たりがあるのですか?」
ハロルドの答えを聞いて一瞬呆けた後信じられない表情をしたソフィアの様子を見たロイドはハロルドに訊ねた。
「はい…………3000万ミラは8年前、私達が負ってしまった債務の額と一致しているんです……」
「!そうだったんですか…………あれ……?その封筒は一体………」
ハロルドの説明を聞いて目を見開いて驚いたロイドは札束が入っていない方のスーツケースの裏側に張り付けてある封筒に気づくいた。
「今中を開けますので少々お待ちください…………―――!これは………!ソフィア、お前も読んでみなさい………!」
「は、はい…………え――――――」
ロイドの指摘を聞いて裏側に張り付けてあった封筒を取り、封筒の中に入っている一枚の紙を見て驚いたハロルドに呼ばれたソフィアはハロルドと共に紙に書かれてある内容を見て呆けた後震える声でハロルドと共に紙に書かれてある内容を読んだ。
――――スーツケースの中にあるお金はレンとユウナを”幸せ”にしてくれた二人とレンとユウナの弟のコリンがお金のせいで2度とレン達のような不幸な出来事に巻き込まれない為に用意したお金よ。大切に使ってね。
「うあああぁぁ…………!レン……ユウナ………!」
「ありがとう………ありがとう、レン…………ユウナ………!」
「レン………(ハハ、借金の額と同額だなんてレンの事だから絶対狙ってやったんだろうな………)」
紙に書かれてある内容を読み終えたソフィアとハロルドは涙を流し、ロイドは心の中でレンの気遣いの仕方に苦笑しながら今朝クロスベルから去ったレンの顔を思い浮かべていた。
~列車内~
「――――クシュン!………んもう、誰かしら?レンの噂をしている人は。」
一方その頃列車内の席に座って膝に置いたノート型の導力端末を操作していたレンはくしゃみをした。するとその時導力端末から音が聞こえてきた。
「あら?……………フフ、もう気づいてロイドお兄さんから渡してもらったのね。」
音を聞いてそれが何であるかを端末を操作して調べた結果、ハロルドとソフィアの手に渡ったスーツケースに仕込み、スーツケースが開けられた際に反応するように仕掛けられた装置が発信しているものである事に気づいたレンは苦笑した。
(どうか幸せに………パパ………ママ………コリン………)
そしてレンはまるで本物の”天使”が浮かべるような慈悲深さが溢れている優し気な微笑みを浮かべて窓からクロスベルの方向を見つめて実の両親と弟の幸せを祈った―――――――――
──《エレボニア帝国》。
ゼムリア大陸西部において最大規模を誇るこの旧き大国では近年、2つの勢力が台頭し、国内における緊張が高まりつつあった。
一つは《貴族派》──
「四大名門」と呼ばれる大貴族を中心とし、その莫大な財力によって地方軍を維持し、自分たちの既得権益を守らんとする伝統的な保守勢力。
もう一つは《革新派》──
平民出身の「鉄血宰相」を中心とし、巨大な帝都や併合した属州からの税収によって軍拡を推し進め、大貴族の既得権益を奪わんとする新興勢力。
両者の立場はどこまでも相容れず、その対立は水面下で深刻化し、皇帝の仲裁も空しく、帝国各地で暗闘が繰り広げられるようになっていた──。
そして、それは帝都近郊にある伝統的な士官学校でも同じだった。
──《トールズ士官学院》。
帝国中興の祖「ドライケルス大帝」によって創設され、身分に囚われない人材育成を目指してきたこの士官学校においても、貴族派の理事と革新派の理事が対立を深め、生徒たちに影響を与えていた。
あらゆる面で優遇され、また実力も兼ね備えた白い制服の貴族生徒たち。優秀ながらも下に見られ、理不尽感を抱き続ける緑の制服の平民生徒たち。
制服の色や学生寮が違うことも相まって、両者は事あるごとに反発しあい、学業成績や武術訓練、クラブ活動などでも火花を散らし合うのだった。
そんな中、貴族生徒や平民生徒の制服の色と違う深紅の制服を身に纏った学生たちが少数ではあるが、今年度に設立された新たなクラスに集められた。
――――《特科クラスⅦ組》。
そのクラスに所属する生徒達は新型戦術オーブメント《ARCUS》の試験運用目的の為に集められた為、そのクラスに所属している生徒たちは誰もが《ARCUS》の適性が高いという特徴と、ある特徴があった。それは平民や貴族などと身分に分別せずさらには留学生も迎え入れているというトールズ士官学院始まって以来の変則的な特徴だった。
Ⅶ組は通常の授業に加えて一ヵ月に数日の間、遠方の実習地に赴きそこでの任務を自分達がどう行動すればいいのかを判断する事で生徒達の判断力を高める事を目的とした実習――――『特別実習』を行っていた。
身分関係なく集められた事から入学早々から生徒同士で喧嘩やすれ違いが起こったが、それぞれ生活や特別実習を通して互いを理解して和解し、共に協力し合う仲へと発展しつつあった。
目の回るほど忙しい日々と、ついて行くのでやっとの授業にようやく慣れてきた頃……かねてより告知されていた自分達の日頃の成果が試されるイベント――――”中間試験”が行われた。
互いに協力をして試験対策をして試験に挑み、その数日後に中間試験の結果が戻り、廊下の掲示板に順位が貼りだされたが、Ⅶ組の生徒達はそこで驚愕の事実を知る事になる。
それは全教科満点首位の生徒――――レンがⅦ組の生徒である事であった。
それが――――クロスベルを去り、エレボニア帝国の士官学院に編入したレンの波乱に満ちた学院生活の幕開けであった。
”聖なる焔”によってその運命が改変された菫の天才少女の新たなる舞台と新章、開幕――――――!
これにて菫の軌跡の零篇完結です!次回からは閃篇になります。
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外伝~双子の天使の願い~(零篇終了)