「何が起きたんだ」
「光牙は知らなくていいことです」
そう言われるも知りたくなるもの。光牙が朝起きたら倉持技研の前にチャールズらしき何かが地面に刺さってたんだからそうも言いたくなる。でも他の皆は知らんぷりで、聞き出そうとしてもアヤの眼力と無言の圧力に敵わず、非常〜に気になるがスルーしておく。
「それじゃあ滝沢君。今日からベーオの改修をさせて貰うよ」
「お願いします!」
「ケントンさんは後で私の所に来てね〜」
「はい」
遂に始まるベーオの改修。学園には既に連絡し、二週間倉持技研に滞在することになっている。それはアヤもで、チャールズはキサラギがなくなった後、アヤがISに乗り続けるのも考えていて倉持技研と話をつけていたそうだ。アヤは倉持技研のテストパイロットとなり、体のことがあるので治療しながら今まで通り学園に通う。流石にディープ・アイはオーバードライブシステムを外され、全検することになっているが。
ちなみにチャールズは別で仕事を見つけたので問題ないという。
「滝沢君のベーオを改修するのに使うのは……これだね」
「はい。これでお願いします」
ケンツがタブレットを操作し、画面に改修に使われるISが表示される。
それは、欠陥機として倉庫の奥で眠っていた機体。かつて、最強を目指し作られるも羽ばたくことの出来なかった翼にして偽りの刃。
登録名『イミテーション・ブリュンヒルデ』。
世界最強に輝いた織斑千冬、その愛機『暮桜』。それを再現しようと開発されたが、キモである単一仕様能力(ワンオフアビリティー)の再現ができずお蔵入りに。スペック等から光牙はこれを選んだのだが、倉持技研側のケンツ達は大いに不思議がった。まさかこれを選ぶなんて、と。
「千冬君から連絡を聞いてたけど、千冬君に関わるこれを選ぶとはね」
「ある種の因果じゃね? もしかしたら、光牙君の立場だった奴がこれに乗ってたかもしんないし」
「ハッハッハ。有り得そうじゃのー」
「本当に有り得そうなんですがそれは」
メタはともかくとして、倉庫からイミテーション・ブリュンヒルデ、以下IBが引っ張り出され、洗浄とチェックが行われるとベーオの改修が始められる。
「こりゃ酷い。パイプにオイルが詰まって、全部ダメになってる」
「両脚は全部取り替えじゃ。他の所もガンガン行くぞー!」
内部機器をISに使う新品に変え、破損した装甲はこの世界では精製出来ない『ゲッター合金』なので同じくISのものへ。ズタズタのゲッターウイングは外され、イミテーション・ブリュンヒルデ搭載の大型ウイングスラスターが取り付けられる。機体が形になると光牙が装着。調整を行いつつ場合に応じて新規パーツを作成し組み合わせる。
武装面では折れた葵の代わりにイミテーション・ブリュンヒルデの刀。マシンガンの代わりに引山博士が見繕ってくれた、ISでは使えずにいるロマン武装シリーズよりアサルトライフル、試作レールガン、各種弾丸を搭載。充実した内容となる。
日に日にベーオは形を取り戻していき、光牙はそれを見て、やはり専門の力とは侮れないものだと感じていた。
「おっしゃー! またいいデータが取れたわい」
「次は武装と、それに伴う機体のテストだ。三十分後に第四演習場に来てくれ。遅れないように」
「は、はいぃ……」
機体が形になってからはテストの連続。ほぼ機体を作り直したので当たり前だが、一日のほぼ全部がテストというのが続くと光牙も疲れてくる。合間の時間で休憩。休憩室のソファーにどっかりと座り込む。次のテストは三十分後にと言われたから、移動や準備を考えると十分位の休憩。
けど文句は絶対に言わない。倉持技研の職員は光牙以上に動き、働いてくれている。ベーオを甦らせてくれようと。だから自分も頑張らねば。職員の人に答えるように、それ以上に。
「………………」
でもずっと気になっていることが光牙にはある。
『貴方が……好きだからです』
アヤの言葉が頭の中に反響する。直後にカオスとなったが、光牙の耳と頭にはしっかりと聞こえていた。以来、頭から離れず何回も何回もリピート再生され、彼を悩ませていた。
「………………」
面と向かって言われればいくら光牙でも意味は分かる。
(アヤが、僕を好き?)
思い出したばかりの彼女。小学生の時はずっと側にいていたからか、異性として意識したとかは多分……ない。それがいきなりどう思うとか、考えても分からない。
けど今はあの時ではない。光牙もアヤも成長している。アヤの容姿は、勝手にだが結構いいと思ってもいるし。
思い浮かぶアヤの顔。頬を紅潮させ、上目遣いでこちらを見上げるアヤは、本当に綺麗だと感じた。
「……かわいかったなぁ。アヤ」
「そうだろうそうだろう。光牙……」
ふぅ〜〜。
「おっぴょぉぉぉぉっ!?」
いきなり耳たぶを襲う吐息! たまらず飛び上がって光牙は身をよじって震え上がり、休憩室からガッシャーンと周りにいた職員が「なんだなんだ」と出てくる。
「おうおう。反応がいいなァ」
「ち、チャールズさん何をしますか!」
「娘のことで悩んでいたのを感じたのさ」
俺のセンサーがNA☆と自分を親指で指すチャールズ。
「かわいくなったろ、アヤは。光牙も結構になりやがって」
「いやそれは……って顔が近いんですが顔が近い顔近い!」
止まることなく、チャールズの顔が接近していく。
「どれ。少し確かめてやるよ」
「えっ……」
倒れた光牙に、覆い被さるような態勢へチャールズは移行していく。
次にどうなるか……お分かりだろう。
「よく見りゃ、まだ可愛いじゃねえか……」
「アッ……!」
IS ゲッターを継ぐ者
完
「ってコラァァァァァ!! ナニで終わってんだ!!」
完の文字、光牙により粉砕☆デストロイ!
「まさかの二回目の完ネタ!? しかもなんつー終わり方だよ! 死んでも嫌だわ!」
「ハハハ。ちょっとしたジョークじゃあないか」
「二回目ってことは前にもあったのか?」
「確かにありますね。第二話で」
「二回もやったならもうないですね」
「お姉ちゃん、それフラグなんじゃ……」
「なんならワシが手を貸すぞ? ヘイ、イデ」
「マジでやめて下さい」
完ネタで盛り上がる倉持技研。引山のイオンはケンツのチョップで砕かれ話を切り替えさせる。
「イデが砕けおったー!?」「んなもん出さんといて下さい。めでたいのに」
めでたい。確かにそうだ。テストを繰り返し、遂にベーオの改修が完了したのだ。時間は二週間のほぼいっぱいいっぱい。関わった全員が疲労困憊だったが、最終確認テストで夜空を駆け抜けるベーオを見た瞬間、吹っ飛んだものだ。
「はっはっはぁ! やったじゃねえかぁ、坊主!」
「機体を合わせるなんて、初めは無茶だと思ったけど上手くいったわね!」
「み、皆さんの協力があってこそです。ありがとうございました!」
「謙遜しやがって、こんにゃろうめ〜!」「あだだだだだ!」
ほろ酔いで大柄な男性スタッフにヘッドロックを決められる光牙。倉持技研の一同、皆笑顔に溢れていた。元々、倉持技研は女尊男卑の影響が薄い数少ない場所で、故に一緒に改修をする内に、光牙と倉持スタッフの間には信頼関係が生まれていた。男性も女性も関係なく。
改修の完了記念というので焼肉屋に繰り出し、今は賑やかな宴の真っ最中。
「滝沢くぅん。楽しんでる〜?」
「うわっ、リエさん酒くさ!」
「もう、飲み過ぎなんだって。……ヒック」
「アミさんもかよ!」
アミ、リエ姉妹が光牙に絡み付いてくる。ぽわ〜んとなってて頬は真っ赤。完全に酔っている。助けを求めようとしたがサキは酔いつぶれ、ヒカルノは酒を注ぎまくり職員を沈めていて、引山とチャールズなんか褌一丁で踊ってるからもうてんやわんやだ。
「あ〜そんじゃ気分も乗ってきましたので歌いまーす!」
「おー、やれやれー!」
「一番、目戸祖明日次(めどそ あすじ)! ――ビウのをえて」
備え付けのカラオケで始まったカラオケ大会。最初に歌うのは面長で茶髪のおじさん。
デレデーデーデー、デレデン♪
「確かに抜け出せない……酒と二人の輪から」
「滝沢くぅぅぅん……」
「二番! 猿三城戸(さるさ きど)! ――DEM」
次はキャップを被った少年。
――テ〜テレテ〜テ〜♪
「んもー、私も高校生に戻りたいー。滝沢君と学園に……ヒック」
「なんでアミさんの夢がそれ……?」
「三番! 碓手(うすて)アイン! oype」
――ひいいいいいいいいいいいい〜。
「空耳かよっ!」
「うにゅー」「ふにゃー」
酔いつぶれアミ&リエよりようやく脱出できた光牙。
「はい、滝沢君」
「あ、どうも」
酒はあまり飲めないので酔ってないケンツにジュースをお酌してもらい、カチン、と改めて小さく乾杯してから飲む。
「なんだかんだあったけど、できてよかった」
「まだこれからですよ。頑張らないといけないのは」
「確かにそうだね」
麦茶を啜りながらケンツが笑う。光牙もコップのオレンジジュースを飲んでいると、ぴとっ、と頬に冷たい感触。
「ほぉわぁっ!?」
「おぉ、カマ君みたいな反応。伸ばすと赤い司令官かな」
どうでもいい意見のケンツ。で、光牙にそんなイタズラをしたのはというと……。
「あ、アヤ」
「はい。貴方の好きなコーラのカルピス割り。丁度飲みたかったでしょう?」
「……小学生ン時なのによく覚えてるね」
まあ飲みたかったのは本当なので、受け取りグビッと。光牙が好きな割合6.4:3.6で完璧。思わず目を剥く。
「ずっと貴方のことは覚えてましたから♪」
無邪気にそう言ってのけるアヤ。恐るべし。
「………………」
その表情が可愛かったと思ってしまった光牙は、ジュースを飲みつつ、思わず顔を反らす。
「おやおや」
「?」
ケンツがそれを見て察しニヤニヤし、アヤは首を傾げていたが。
「ヒャッハー! ワシも歌うぞい! の使 人8」
デデデー、デデデデー、デーデー♪
カラオケの方は盛り上っており、引山まで熱唱中だ。
「敷島違いだ……」
「光牙は歌わないんですか。盛り上がってるのに」
「お、滝沢君何か歌えるの?」
「特定のアニソンなら上手かったですよね」
「いや、今はよしとく。……雰囲気的に」
お前は一体何を歌う気だったんだ。
「ノリ悪いですね」
「次に歌う機会あったら歌うからさ」
「なら約束ですよ」
「あったらね」
そうして、宴はしばらく楽しく続いていったのだった……。
――次の日。
「これで最後、よし……と」
所長室で書類を確認し判子を押すケンツ。
「はい、書類はこれで終わり。お疲れ様」
「こちらこそ。本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる光牙。ケンツはホチキスで閉じられた冊子を光牙へ渡す。
「これに所属についての制約とかが書いてあるから、しっかり読んどいてね」
「分かりました」
倉持技研の所属、テストパイロットについてが冊子にはまとめられている。これは光牙の所属についてだ。
光牙はイレギュラーな男性操縦者ということで、委員会や各国が激論していて無所属のままだった。しかかし今回、改修でお蔵入りとはISを使ったのだから、そこまで深く関わって無所属ではいられない。だからこの機に乗じて、光牙は倉持技研に所属することを決めたのだ。ケンツが判子を押していたのもその書類。仮の、だが。
とりあえず光牙の意見と書類を委員会に提出することになっている。学園と千冬にも許可を貰っての上で。
「帰りは家の車で駅まで送ろう。ケントンさんも一緒にね」
「本当に、ありがとうございました」
「これから、だろう。滝沢君? そして機体は大切に! OK!?」
「は、はいっ!」
ケンツの迫力に頷き、肝に命じる。
倉持技研の人達に見送られ、用意された車で光牙はアヤと共に倉持技研を後にした。ちなみにサキは一足先に戻り、チャールズは別の用事で何処かに行っている。
こうして光牙の、初めて学園から離れた二週間は終わった。
その間にたくさんのものと出会い、知り、再開した。
力になってくれたケンツやヒカルノ、アミにリエ。
協力してくれた倉持技研の人達。
思わぬ再会、アヤにチャールズ。
新たな信条や皆の力、懐かしい気持ちやな思い。
「じゃあ戻ろうか。ベーオ改」
そして新たな相棒と共に、光牙は波乱の学園へと戻るのであった。
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第二十二話4です。