【 苛立ち の件 】
〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 にて〗
義清達が全力で向かう先は、小高い丘がある場所。
その距離は、今いる義清達の場所より一里(約400㍍)程、緩やかな丘の頂きに向かっている。
先頭は左近が走り、その後ろに付かず離れずの距離を空けて、義清が追い掛けて行く。 左近が前の理由は、体力に余裕があるから。
理由は簡単。 動き始めた場所から今の場所まで、距離は僅か。 また、旧主筒井順慶を背負って来たといえど、左慈の足止めで少し長い休息を強制的にしたようなもの。 身体においての負担は、既に無い。
それに比べ、義清は味方の左翼陣地から右翼陣地へ走り抜いた。 しかも、自分の背丈より遥かに長い槍を持ち、向かって来る敵を討ち取りながらだ。
そうなれば、どちらを先頭にした方が生き残り易いかなど、幾多の修羅場を乗り越えた二人なら、直ぐに理解できよう。
ーー
左近「………………ふう、一息つけそうだ。 少し休むか、義清殿?」
義清「左近殿! 何故、順慶殿など………この地に連れて参った! 左近殿も存分に知っておろう! 私達に……兄者に! 何度──煮え湯を呑まされたことかっ!?」
ーー
白装束が行く先々で現れたが、太刀を煌めかせ左近が斬りつければ、瞬時に数名が倒され地に伏せた。 その横から義清が、更に襲い掛かって来る白装束相手に槍を一振り二振りすれば、纏めて吹き飛ばされて消えていく。
そんな流れを数回繰返し、周囲より敵が消えたのを見てとった左近は、義清に休息を提案するのは自然の流れだった。
ーー
左近「…………すまん、順慶殿を連れて来たのは………私の責だ………」
義清「そんな事、そんな事を聞いているのでは──」
左近「だが、私は悔いは無い。 順慶殿の目の中に決意した光が浮かんでいるのを理解したんだ。 順慶殿が最後に、颯馬へ何かしら大事な事を伝えようと………しているのが………」
ーー
周辺を警戒しつつ腰を下ろした左近は、先程の義清からの問いを返したのだが、その言葉は義清の求める答えでは無かった。
義清は槍を大きく振り回すと、その遠心力を利用して地面に勢いよく突き刺し仁王立ちとなり、その勢いのままに──左近へと更に喰って掛かる。
ーー
義清「…………私は順慶殿が嫌いじゃ! 表面的には礼儀正しく人当たりも良いが、その目の中に潜む嫉妬の炎までは隠せん。 私や謙信殿、他にも兄者へ近付く女子衆全てを目の敵にしている、そんな視線がありありと感じておる!」
左近「……………」
義清「筒井順慶………まるで古の両面宿儺のような二面性を持つ化物じゃ! 左近殿、これで兄者に………もしもの事があれば、どうなさるつもりか!?」
ーー
義清の鋭い眼光は左近を射貫く。
だが、左近は 意に介さず義清に淡々と言葉を返した。
ーー
左近「義清殿…………貴女の住んでいた所は、余程幸せな場所だったようだな?」
義清「な、何を急に!? 私も領地争いで槍を幾度も振るったぞ!」
左近「やはり、信濃は武力での制圧が主か。 まあ、私も前に順慶殿へ仕えていた身だから分かるが、大和国こそ日ノ本屈指の戦場だと思う。 そこに居たのは──三好家、しかも家宰を司る松永久秀が構えていた場所だ!」
義清「───っ!」
左近「順慶殿の性格に二面性が現れたのは、奴が隣で構えていたのが原因。 善と悪──その両面尽くさねば、梟雄と言われし松永に対抗する事なぞ、難しかった。 ……………それだけだ」
ーー
左近の言葉に──思わず声が裏返る。
『松永久秀』……悪辣な謀略を得意し順慶と手を組んでいた、もう一人の敵。
天城颯馬を求めて、数々の謀略を企てた恐るべし姫武将。
だが………彼女達は未だに知らない。 その久秀は颯馬に看取られて、安らかに息絶えた事を。 本当の願いを死ぬ間際で覚り、満足して逝ったと。
ーー
左近「だいたい…………順慶殿だって、昔からあんな人柄じゃないんだ」
義清「──そうなのか?」
左近「………昔は、まだ大人しかった。 大人に囲まれて顔色を窺い、当たり障りのない状況で本人は満足していたんだ。 信頼できる臣下も一握りしか居ない……筒井家当主としては、頼りない人物だったんだよ」
義清「そ、それが………彼処まで……」
左近「松永の謀略に対応する為に……力を付けなけれならなかった。 目には目を、歯に歯を、謀略には謀略を! 敵が残虐無道ならば、更に上回る非道さを現し、戦を仕掛けられれば、最悪再起ができるように手を廻さねばならない! それが筒井家当主としての役割と責任だったからさ!」
義清「───!」
左近「…………そうしなければ、筒井家の一族郎党は全員四散していたんだ。 領地も城も、命さえも………全て毟り(むしり)取られていたんだろうな」
義清「むう………確かに私達も久秀殿相手に苦戦を強いられてばかりだ。 それがこうも拮抗できるのも──兄者が手助けしてくれたおかげ。 私の力が頼りないばかりに………申し訳ない気持ちでいっぱいじゃ……」
ーー
その言葉に、義清の顔が俯いた。
順慶の生立ちを聞いて思わぬ事も無いのだが、その前に自分の働きを省みた。
今でも久秀や左慈達の策謀で困難な状態に陥っているが、最悪の状態までには陥っていない。 それは久秀達の策謀が幾つか阻まれた為である。
その阻んだ者は、大陸の平和を望み指揮する為政者、神算鬼謀を操り名を轟かせた名軍師、戦場で縦横無尽に活躍した勇将。
そして………救国の為、難敵へと挑んだ行った数多の名も知れない英雄達。
天に煌めく綺羅星の如し集まりし英傑の中で、中心となり数多の危機を悉く跳ね返した天の軍師──天城颯馬。
これらの力が、敵の鬼謀を押し止めた形だ。
その中に、義清自身の活躍は幾つあったのかを数えてみれば、五指にも満たない。 日ノ本で自分と同じく颯馬を慕う宗茂と、共に誓い合った護衛の件も未だ成し遂げたなど……到底言えぬ状態。
そんな義清の考えをよそに、左近は順慶の話を続ける。
ーー
左近「そんな苦難を背負う順慶殿が、戦場で颯馬を見掛けたんだ。 魅入るのも無理も仕方ない。 本人は無頓着だが、采配一つで数千の軍勢を手足の如く動かす。 魅入っても可笑しくは無いし、私も好ましいと見ているのさ」
義清「───!」
左近「それに、今の順慶殿が狂気に身を委ねるだけとは思えないんだ。 捕らえられた時に覗き込んだ目に……淀みなどなかった。 まあ、私の信じる男が順慶殿に討たれるなど……少しも思ってなどないのだが──ん?」
義清「……………………」
ーー
左近が満足そうに笑みを浮かべると、義清が対照的に頬を膨らます。 妹としての我が儘か、女としての嫉妬かは知らぬが、面白くない様子。
その様子に思わず顔を引締めた左近は、義清に続きの話しを語り始める。
ーー
左近「おっと、話が逸(そ)れたな。 順慶殿の性格は、つまり……そういう事だ。 隣の領地に松永と接していた関係もあり、どうしても権謀術数にも関わってしまう。 ───特に松永の手管は、巧妙かつ卓越している」
義清「う、うむ………」
左近「信頼すれば寝首を掻きに来るような相手さ。 何年も……騙し騙されを繰り返せば………誰でも自分の本心を隠したくもなる………」
義清「つまり、私の居た国は………単純明快な者達だらけの国だった訳じゃな。 些か腹立たしいが……確かに久秀殿筆頭とした陰険な国に比べれば仕方なしかの。 ふん、納得しておいてやろう。 私は兄者の妹なんじゃから、恥ずかしい所など見せられん!」
左近「…………………」
義清「じゃが……否定などせぬよ。 武力の喧嘩なぞ何時も行っていたがな、それでも終われば………直ぐに元通りの関係に戻る。 権謀術数など……難しい事を行う者など誰も居なかった。 信玄……殿が攻め寄せて来るまでは……」
左近「義清殿の国ならば、蝶よ花よと順慶殿も育てられた身だ。 しかし、先にも言ったが順慶殿の隣には………松永が構えていた。 自分の身を楯にして、国人を守らなくてはならなかった……順慶殿の事も察してくれ……」
義清「…………………………」
ーー
その後、疲れを癒した二人は丘の頂きを一気に目指して向かう。 頂き周辺は、少し背丈の高い雑草と幾つかの低木が囲んでいる。
その辺りに身を潜ませると、事前に相談していたのだが義清達だが、まさか辿り着いて、そのまま颯馬達に直接向かう事態になろうとは───流石に考えてはいなかった。
ーー
「───そこまでだ! 『縛』!!」
「───しまった!」
「こ、これが───かの不動金縛りの術………か!」
「ふ、不覚! ようも──敵に背を向ける不利を……考えなかったとは! ぜ、是非も無い!!」
ーー
何らかの術を操る裂帛した掛声、仲間達の戸惑いと怒声。
───義清と左近は、思わず顔を見合せた。
丘の頂き付近までは来てみれば、身を潜ませるどころの話ではない。 事態は焦眉の急となってしまい、緊迫感溢れる事柄が既に始まっている。
ーー
左近「───何やら形勢不利な様子、急ぐぞっ!」
義清「うむっ!」
ーー
双方で声を出さず確認し、足を早めて残りの距離を一気に駆け抜けた!
◆◇◆
【 最後の力 の件 】
〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 にて〗
息急いて義清、左近の二人が颯馬達の居る場所に駆け付けた時………戦場よりも何倍も濃い殺気が漂い、その先では言い争う者達の声が聞こえる。
ーー
光秀「颯馬 ぁぁぁ───っ!!」
信長「お、おのれぇ! このような妖し如きぃ!!」
凪「天城様! 天城様ぁぁぁ!!」
ーー
颯馬と連理の枝である光秀が滂沱の涙を流しながら叫び、他の仲間達も怒声や悲鳴等を上げる。 しかし、そんな狼狽する彼女達だが一向に動く気配が無い。 いや、動く事が出来ないという理由は、瞬時に理解できた。
───術による、身体動作の停止。
仲間達と敵対する者は、大陸の宗教施設で使用する道服を着こなし、彼女達の想い人『天城颯馬』を殺すように命じた──外史の管理者『左慈』と『于吉』である。
ーー
左慈「………想定以上に手間を掛けさせやがる。 貴様ら人形如きが、どう足掻こうが俺の術より逃れる事など無駄だ!」
于吉「あ、あの………左慈? 私の頭に刺さっているコレを………」
左慈「ふん、気にするな。 そんな小さな刃物の一つや二つ──」
于吉「………じ、地味に痛いんですよ……」
左慈「……ったく、五月蝿い奴だ! ──ほらよっ!」グイッ!
于吉「──あ、あぁん♪」
左慈「…………貴様、わざわざ抜いてやったのに……そんな気色悪い声なんかぁ出すんじゃねえっ!!」
于吉「あぁぁ………癖になりそうですね。 これは………」
ーー
……………一見、危ない会話をしているが、その実力は御覧の通り。
そして──
ーー
義清「───あ、兄者ぁあああっ!? つぅ、筒井、順慶ぃ! 貴様ぁ──兄者に……私の兄者に対して何を行っているっ!!」」
左近「──順慶………殿!」
ーー
義清の目は大きく見開き、槍を持つ手に思わず力が入る。 左近もまた、二人の様子を注視して、僅かだが呆然自失してしまう。
義清達の目に映るものは───
力なく弛緩した身体を……抱きしめる相手に委ねる『天城颯馬』
そんな颯馬を力強く抱擁し、唇を押し重ねる『筒井順慶』
今は敵対関係の二人が、何故か濃厚な口付けを交わしている。
───いや、明らかに意識が無い颯馬を、無理矢理に順慶が襲い掛かっている場面。 狂愛で執拗に颯馬を狙う順慶、自分を慕う光秀を必死に護る覚悟を示す颯馬、この二人の行動を省みれば容易い推測だ。
ーー
義清「………順慶! その穢れた身、兄者から疾く疾く離れ──」
左近「───待ってくれ、義清!」
義清「さ、左近殿っ!?」
ーー
怒りを露にした義清は、颯馬を抱える順慶に槍の穂先を向けて、殺気を放ちなち愛槍の穂先を向けた。 だが、義清の傍に居る左近は、有無を言わさぬまま義清の槍を掴み、攻撃をしないように引き止める。
驚いた義清が、槍を急速に動かしたり左右へ大きく振っても、万力の如く槍を掴んで最小の動きで阻止。 まるで、敵対する順慶を守るような動きを見せる左近に、義清は声を荒らげて睨み付ける。
ーー
義清「な、何をする!? このままだと───兄者がぁ!!」
左近「頼む! この場の責は私が取るゆえ……暫し時間をくれ! 順慶殿と話をしたいんだ!!」
義清「し、しかし──兄者の身がぁ!?」
左近「そこを曲げてだ! どうか………私を信じてくれ!!」
義清「~~~~くうぅぅぅっ!」
ーー
義清の邪魔をした理由は、敵である順慶と話がしたいという理由。
左近と順慶、二人が元主従の間柄である事など、颯馬を始め日ノ本出身の将ならば大なり小なり知っている。 しかも、一度順慶に殺されかけ、鹿介、義清、翠、蒲公英達により助けられた身だ。
それなのに、義清に向かい土下座をしそうな勢いで左近が頭を下げる為、義清としてはホトホト困り果てていた。
────だが、その問答も唐突に終わる。
ーー
順慶「…………………颯馬………様……」
左近「───順慶殿!!」ダッ!
義清「あ、兄者!!」ダッ!
ーー
凪「………筒井の身体から………膨大な氣が……消えました」
光秀「───えっ!?」
ーー
左慈「───!?」
ーー
敵味方、双方が息を呑んだ。
颯馬から顔を離した順慶は、まるで一気に歳を経たような老婆のような姿と変貌していた。 顔には多数の皺、多少露出している肌も明らかに血色が悪く、骨と皮ばかりの状態に近い。
だが、そんな身体になっても颯馬の身体を丁重に扱い、地面にユックリと寝かせる。 寝かした後、颯馬の顔色を確かめていたようだが、安心したのか静かに頬笑む。 聖母の様な──優しい頬笑みで。
その直後………順慶の身体が急に弛緩し、糸の切れた操り人形の如く傾いたと思えば、自重により地面へと倒れ伏した。
◆◇◆
【 復活 の件 】
〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 にて〗
颯馬「しっかりしろ、順慶殿! 順慶殿!! ────順慶!!」
順慶「……………………」
ーー
順慶の目は、固く閉じたまま開かない。 もし、意識があれば……狂喜乱舞したであろう事は間違いないが、今は何も反応が無い。
そんな順慶を抱きしめ、必死に大声で呼掛けるのは──天城颯馬である。
───彼は、順慶が倒れた直後に目覚め、一瞬事態が把握できなかったようで、周辺を見渡して状況確認を行った。
その視界には──愛しき者、信頼できる者、敵対する者が入り、特に注視したのが、自分の側で倒れ伏す筒井順慶の姿。 氣を急速に失い、まるで見目麗しい生花が急に枯れ果てたような状態で、息も絶え絶えで伏している。
ーー
颯馬『────順慶………殿!?』
順慶『……………………』
ーー
それから順慶の姿を一目見て黄巾賊の戦いの時を思い出し、なおかつ順慶の氣の枯渇した状態を不審に感じた。 氣の枯渇は順慶にとって死に直面する行為と理解していた筈。 それが何故、こんな有り様に───と。
そこで気付いたのは三つの要因。
一つは、颯馬の身体が大分軽くなっている事。 あれほど酷かった倦怠感、腹部を中心に走る痛み、軍師として大事な思考力を邪魔する頭痛も、倒れる前より大幅減少している。
次に、光秀の顔。 光秀との付き合いも足利学校以来ゆえ結構長い。 それと同時に相思相愛の絆も伊達では無い。 涙に濡れる目に感謝の念が宿るのを颯馬は気付き、その視線が誰を見ているのかは明らか。
最後に、颯馬は自分の服に懐かしい残り香がある事に気付いていた。
『───この香は、わたくしが独自に調合した物なんですよ。 颯馬様にも気に入って頂き、嬉しいです──』
今も鼻孔を擽(くすぐ)る残り香は、その香を颯馬が気に入って褒めた相手が恥じらいつつ微笑んで発した言葉。
つまり、颯馬の賞賛を得た者『筒井順慶』曰く、『この香は独自の調合』──自分にだけしか作り出せない一品だと言っていたのだ。
これらの情報を合わせるて、筒井順慶の姿を再度確認すれば───颯馬に何を行ったかは容易く理解できた。
自分の倒れた状態、受けた傷の重さ、仲間達の様子から、自分は死ぬ一歩手前まで近付いていた事。
その危機を経緯不明ながら──順慶が命と引き換えに自分を救ってくれた事。
直ぐに飛び起きた颯馬は、順慶に駆け寄り声を掛けた。
命を救ってくれた感謝もあるが、今まで久秀と共に颯馬の命を奪う段取りをしていた順慶が、何故命を救うのか、直接問い質しかった理由もあったのだ。
★☆☆
義清「…………一体、何が………起きておる……?」
左近「これが………あの糞野郎共が関与した──結果だ!!」
ーー
颯馬の傍に駆けつけた二人は、すぐに颯馬を護衛しつつ
二人の様子を窺う。
順慶の様子を間近で見て更に驚く義清を置き、左近は仲間と対峙する白装束の少年達──『左慈&于吉』を睨み太刀を構える。
だが、その鬼気迫る様子を見ても、左慈と于吉の表情は変わらない。 いや、表面的には………と言うべきか。
その場所に居た順慶の姿は……十代の少女とは、到底思えない姿に成り果てていた。 少なくとも、義清や左近より遥かに歳上のように思える。
順慶に意識が戻ると同時に左近達も我に返り、左慈に対する怒りと牽制、順慶の容態を交互に見ている。 義清も左近を補佐するように、左慈達を警戒した。
だが、そんな最中ならばこそ相互の意見交換が大事。 二人は警戒しつつも小声で会話を始める。
ーー
左近「……………………」
義清「───信じられんが……事実なのじゃな?」
左近「………誰かに何度も聞かされても、信じられない物は信じられないさ。 自分が実際に見るのが一番信用できる。 それが理解できるかは別にしても………」
義清「兄者より………黄巾賊の争いの際に聞いてはいたのじゃが。 やはり、自分自身で見定めなければ、納得できぬ。 百聞一見とは、よく言ったものじゃ」
左近「ほう? 颯馬は、あの状態の順慶殿を見たことが………………っ!?」
順慶「………………そゥ……ま……サまァ……? ど、どコぉ……に……?」
ーー
会話の途中で左近は、か細い順慶の声を聞き付け──その場所に視線を移した。 声に気付いたのは左近だけではなく、義清も光秀も……この場に居た者全員が注視する。
近くに居た颯馬が、震える手で順慶を優しく持ち上げ、自分の顔に寄せる。
これは順慶の語る言葉を……真摯に最後まで聞こうとする颯馬の誠実な対応だが、颯馬は知らない。 順慶が心底から望み、最後まで叶えられないと諦めていた──颯馬から積極的に接触して貰いたい──という願いを実行していた事に。
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義輝記の続編です。