「俺はね、華琳。元の世界を捨ててしまったんだよ」
魏王・曹孟徳を前にして一刀は悲哀に満ちた声で、あまりにも哀しい言葉を紡いだ。
普段見せようとしない故郷を喪失したことへの悲しみを発露させながら。
「きっと二度とは帰れないし、もう元の世界にあったものも俺の記憶の中にしかないんだ。確かなものはもう持っていないんだ。大事だったものも、なくしたくなかった物も数え切れない。その全てを失ってここに立っているんだ。でもさ、それが平気だってわけじゃないんだ。なにも感じないはずないだろ?自分を取り巻いていた全てを失ってしまったんだから。だから、少しでもあの世界のものを再現したいと思うんだよ。それは世界の発展には何の効果もないかもしれないけど、俺の心を満たしてくれるんだ」
その悲しみの深さは計り知れない。
故郷に戻ることも目にすることもできなくなってしまうなどという残酷な事実を誰が嘆かずにいられるだろうか。
「少しでも、無くしてしまったものを取り戻したかったんだ。もう二度と目にすることができない悲しみを埋め合わせたくて」
そんな一刀を華琳も何も言わずに見つめている。
「だから俺は、心に空いた空洞を埋めるために。失ったはずのものをまた再現したくて」
それでも顔だけは愛しい少女からそらさずに、心の内をさらけだす。
前を向き、自らの本心を口にする。
「…そのために、秋蘭にスーツを着せたんだ」
「…ちょ、ちょっと待って。どこからそんな話になったのかしら?」
「はぁ、華琳。ちゃんと聞いていてくれよ。こっちは真剣なんだよ。本気と書いてマジなんだよ。主様といえど部下の言葉をちゃんと聞いてくれよ」
「え、ええ。ごめんなさい。もう一度聞かせてもらえるかしら」
華琳には理解できなかった。いつからこんな話になったのか。もしかしたら一刀にからかわれているのかと思ったが、目の前の一刀からそんな色は窺えない。まるで戦を目の前にした将軍のように真剣で、譲れない何かが見て取れた。
華琳は頭がいい。それは自他ともに認める事実で相手の言っていることが理解できないなんて経験はほぼ皆無だった。それゆえにこんな状況に戸惑わずにはいられない。
そんな華琳を尻目に一刀はため息をつくともう一度はじめから言葉を繰り返した。
「俺はね、華琳。元の世界を捨ててしまったんだよ」
先ほども聞いた、あまりにも哀しい言葉をもう一度耳にする。
さっきとは違ったところと言えば、華林はほとんど間違い探しをしているような心境でいるところだ。
「きっと二度とは帰れないし、もう元の世界にあったものも俺の記憶の中にしかないんだ。確かなものはもう持っていないんだ。大事だったものも、なくしたくなかった物も数え切れない。その全てを失ってここに立っているんだ」
この言葉も理解できる。喪失を味わう悲しみは華琳にも覚えがあった。
それはそうだろう。一刀がこちらを選んでくれたということは、あちらを選ばなかったということなのだから。
ここまではいい。
「でもさ、それが平気だってわけじゃないんだ。なにも感じないはずないだろ?自分を取り巻いていた全てを失ってしまったんだから」
一刀は優しい人間だ。華琳はそれをだれよりも理解している。彼が悲しまずにいられるはずがないことも。
まだおかしいところはない。
「だから、少しでもあの世界のものを再現したいと思うんだよ。それは世界の発展には何の効果もないかもしれなけど俺の心を満たしてくれるんだ」
それも仕方がないことだろう。消えていく思い出を形にしたいと思うのも当然だ。
おかしいことではない。
「少しでも、無くしてしまったものを取り戻したいんだ。もう二度と目にすることができない悲しみを埋め合わせたいんだよ」
聞き覚えのある言葉になってきた。
華琳は聞き洩らさないように集中した。
「だから俺は、心に空いた空洞を埋めるために。失ったはずのものをまた再現したくて」
次だ。華琳はそう思った。
先ほど一瞬にして置いてきぼりにされてしまった言葉はもうすぐに迫っている。
「…そのために秋蘭にスーツを着せたんだ」
「だから、なんでそうなるのよ!」
過程をすべてぶっ飛ばした意味のわからない発言は今度も華琳は理解できなかった。
そんな当然の反応をする華琳に対して、事の張本人である一刀はまるで自分には何の非もないかのようにできの悪い子を見る目つきで自らの主を見つめる。
「おい華琳。聞く気がないんじゃないのか。何度言えばいいんだよ」
「違うわよ!話がつながってないって言いたいのよ。元の世界と秋蘭にすーつという服を着せるのにどんな関係があるって言うのよ」
「ちゃんと言っただろう。もう取り戻せない大切なもの。俺のベッドの下にある大切な宝は二度と俺の手には戻ってこないんだよ。俺が集めた夢の詰まったDVDは失われてしまったんだ。そんな悲しいことはないだろ。それを秋蘭に再現してもらうことの何が悪いっていうんだよ」
「ああ、もう。何を言っているのかさっぱりわからないわ。頭に故障を抱えているようだし真桜にでも修理してもらってきなさい」
あまりにもどうしようもない一刀を前にしながら華琳はため息をつき、事の発端となった一刀とのの会話の始まりを思い返す。
「だからぁ、かりんさま、おこづかいちょうだい」
「だから、という接続詞の意味がわからないのだけれど、それよりも気色悪いわ。その妙に甲高い猫なで声をやめなさい。寝る前に聞こえる虫の羽音のように不快だわ」
クリスマスのプレゼントを夢見る少女のように瞳を輝かせ、しなを作っておねだりをする一刀にかけられた言葉には多分に毒素と冷却剤が含有されていて、しかも言い放った本人はその一刀を虫けらでも見るかのような眼で見ているという有様だった。
そんな恋人を見ているとは思えない視線にさらされ、「ふっ、駄目だったか」と言いながら一刀はクールを装っている。
しかし、彼は心の内で自信を打ち砕かれ半端なく傷ついていた。
一刀は金欠に困っていた。それを打開しなくてはならなかった。
そして先ほどの猫なで声は、そんな一刀が一晩中寝ずに考えた作戦だったのだ。
一刀はずっと考えていた。自分にも他人にもアホのように厳しい華琳からどんなふうにお願いすればお小遣いをもらえるのかを。
頭の中で様々な言葉でシミュレートし、時には呆れられ、時には怒られ、時には切り捨てられ。
脳内ですらBADENDにしか行けない状況をいかに覆すかを一刀はひたすら考え続けていた。
そして空が少しずつ白んでいく中、ついに一刀は究極の作戦を思いついた。
それがさっきのアレだ。
華琳は俺が好き。
そしてかわいい女の子が好き。
あれ?それなら俺が女の子の振りすれば完璧じゃね?
もし第三者が聞けば、まず正気を疑い、ぎこちない笑顔で「こちらです」と華陀の下へ案内してしまうだろうその作戦を一刀は名案と信じ切っていた。
普段ならさすがにおかしいと感じるその作戦でさえ徹夜によるナチュラルハイの状態では、自分はもしかしたら孔明にも匹敵するのではないかと自画自賛するほどの作戦に思え、安心した一刀はその後穏やかに眠りに落ちた。
そしてそこで一度冷静になればいいものを、引かぬ媚びぬ顧みぬ我らが種馬は昨晩考えた作戦を起きてすぐに何一つ疑うことなく実行した次第だった。
誰もが蛮勇と受けとるだろうその生き様は勇敢に昇格されることなく華琳の視線で砕け散った。
「んだよ。せっかく華琳の好みに合わせてやったのに」
「待ちなさい。どこをどう考えたらそんな風に思ったのかしら?あなたが普段私をどんな風に思っているのか恐ろしく思えるのだけど」
「そんなのどうだっていいだろ。とりあえずお小遣いください。いや、前借りさせてください、ぎぶみーまねーぷりーず」
だだをこねる一刀。彼にもそれがみっともないのは分かっていた。
まさかこんな若い身空で恋人にお金をねだるなんて思ってもみなかった。
恐妻に財布を握られてしまった哀れで儚い企業戦士が、どうにか僅かにでも持ち金を増やすため立ち向かう姿に共感を覚えるなんて誰が想像できただろうか。
「まぁ、あなたは今までも給金をあまり求めなかったわね。そのことを踏まえると構わないのだけれど、理由をまだ聞いていないわ」
「いや単純に食事代が無くなったんだって。愛する華琳に無償でご奉仕したいのはやまやまなんだけれど、さすがに燃料が切れたらフェラーリだろうがBMWだろうが動かないだろ。それと同じだよ。燃料なしで動く車なんてチョロQくらいのもんだよ。俺はチョロQじゃなかったってことなのさ」
「今まで不足していなかったのになんで急に金欠になったのかしら」
「いや、服ってこの時代でも高いもんだな。馬鹿なブランドがあるわけでもないのに。まぁさすがに自分の注文通りに作ってもらうとなると料金上がるのは仕方がないんだけどな。オーダーメイドはいつだってセレブの特権さ」
「服?生意気にも色気づきでもしたのかしら」
「華琳さん華琳さん。どう考えても年下が言う言葉じゃねぇよ。それはめんどうくさい親戚のおっさんの台詞だ」
明らかに不審そうな視線を向ける華林。
それも仕方がないだろう。年齢的に着られなくなったから今は着ていないが、あちらへ一度帰るまでの間、一刀はほとんど制服で過ごしていたからだ。
例え一刀のイメージ的に白よりも脳内色通りのピンク色が似合うと満場一致しようとも、今でも天の御遣いのイメージを崩さないために白い洋服を着ている。そんな一刀が衣服で金欠になるなんて春蘭が学習本を欲しがる、桂花が一刀へのプレゼントを買うというようなもので、普通に考えて信じられるものではなかった。
「というかそうじゃなくてさ、自分のを買ったんじゃなくて」
「ふふっ、つまりあなたは他の女に服を貢いだから金をよこせというのね。面白いじゃない、ずいぶん偉くなったものね一刀」
「違う違う!貢いだとかじゃなくて」
そこで言葉を区切り、一刀は言葉通り表情を真剣なものへと変えた。
「真剣な話なんだ」
そんな風に前置きをして語りだした。
そして冒頭に舞い戻る。
「秋蘭を見てたらこう…なんかビビッと来ちゃったんだよ。似合うんじゃないかなっていう電波的なアレが。いやあれはマジで電波だって。きっと俺のアンテナが宇宙意思を受け止めてしまったんだ。しかたないだろ。宇宙の意志を曲げるなんて壮大なことが伝説の剣も与えてもらえない代わりにマグナムを腰に装備しているような主人公にどうにかできるはずがないだろ。そりゃ宇宙意思に従うさ。どう考えても似合うと思うわないか。秋蘭がスーツなんて着たらもうあれですよ。エロさ爆発だよ。ああもう完璧だったよ。想像以上だぜ。もう今はもう見ることができない、滲み出る知性と色気がコラボレートした秘書モノのAV。まさにその実物を目の前にしてしまったんだ。何度もお世話になったそれを再現してくれる人材がそこにいるのなら、俺はどんな代償を払ってでもそれを着せるよ。それが、秋蘭だったんだ」
あまりにもまっすぐな瞳で、まるでイチローになりたいと少年が夢を語るかのような調子で語りだす一刀。もしこの一刀のこの情熱が国の発展に向けられていたら魏はアジアを支配してしまうほどの大国になっていたかも知れないと思わせるような説得力があった。
その純粋すぎる姿に怒りを通り越し、華琳は呆れてしまった。
しかしながら呆れと同時にわずかに不満も感じていた。
一刀の言っていることはしょうもないことだが、仕方がないと思わないこともない気持ちがわずかばかり存在しないでもないとして、華琳はそれが自分に向けられなかったことが面白くなかった。
「どうして私じゃなくて秋蘭なのよ」
「いやいや、適材適所という言葉があるだろ」
華琳がスーツを着ても秘書じゃなくてちびっこギャングにしか見えないよ。
口にしたら命の灯があっさりと吹き消されてしまう言葉を一刀は何とか飲み込んだ。
冗談で済む言葉とそうじゃない言葉があり、華琳の法律に従うなら間違いなく後者で聞くだけでも恐ろしいような地獄が待っている。
しかし華琳の機嫌がそんなことで直るはずもない。
「ふん。結局あなたも大きい方がいいということね」
「何言ってんだよ華琳。そんなはずないだろ」
一刀は何を言い出すのか、と呆れたような表情をした。
やれやれ、とでも言いたそうなオーバーなジェスチャーをするその姿は特別気の長いわけではない華琳にとっては十分すぎるほどの挑発だった。
今にも溜息をつきそうなその顔は、いつも一刀が春蘭を見る時の少し可哀そうなものを見るような視線で、常に人の上に立ち続けてきた華琳にとってこの上無い屈辱だった。
しかしこの男の仕草はともかく、華琳の言葉を否定したのだから、心のどこかで欲しがってしまっている言葉をもらえるかもしれない。そんな期待が彼女を我慢させた。
「ポテトチップスはコンソメパンチもうすしお味もうまい。だからその時の気分によって買うんじゃないか。あっさりとした素材の味を生かしたうすしお味も十二分にうまいぞ」
「…知らない言葉ばかりであまり理解できないけど」
期待とはとにかくよく裏切られる。
よくわからない事を言っているが少なくともロクなことじゃない事だけは下半身で生きているようなこの男の今までが嫌って言うほど証明していた。
一刀が天の国の言葉を使う=しょうもないこと(下ネタ的な意味で)
この事はすでに魏の共通の認識になりつつあった。
「とりあえず首を刎ねてもかまわないみたいね?」
「華琳、ちょっと待とうか。何を言っているのかわからないのに罰するのはどうかと思うぞ?疑わしきは罰せずというだろ」
「そんなことは知らないわ。私は王なのだから私が掟なの。私が黒といったら全てのものは黒になるの。胸なんて脂肪の塊だって私が言えばそれが真実なの」
「そうだな。ちょっと素敵で幸せを運んでくれる脂肪の塊だな」
「その前に一刀、あっさり、とか、うすしお、とか妙に癇に障る言葉が出て来たのだけど気のせいかしら」
「ははは、気のせいだよ、華琳。きっと激務のせいで疲れてるんだよ。俺の腕でいいなら空いてるからゆっくり休みな」
ほら、と言いながら孫を見守る祖父のような慈愛溢れる表情を保ち、ゆっくりと腕を広げ近づいてくる一刀。
「死になさい」
その股間を華林はおもむろに蹴り上げた。
声にならない慟哭が聞こえた気がした。
悶絶した。それはもう悶絶した。亀のように体を丸めながら床に這いつくばるその姿はひどく滑稽だったが、その姿を笑える男はいないだろう。
その瞬間の一刀の顔はまるで次々と倒れいく仲間を目にした勇者のような絶望的な表情だった。
「…ちょ、ちょっと待て…洒落にならないぞ、これ。い、今お前が恐れ多くも足蹴にしたものは、お、お前の夜のお友達でもあるというのに…」
「あらまだ余裕がありそうね。ふふっ、あなたのそういう表情も悪くないわね。次は春蘭にでも蹴らせてみようかしら」
「いやいやいや、マジで無理だって!これ以上の攻撃を受けたらさすがの暴れん棒将軍も活動を自粛してしまう!!」
地べたに這いつくばったまま必死になって叫ぶ一刀。一刀がそんな状態から回復するまでの間、嗜虐的に、どこかすっきりした表情で華琳は微笑みながら見つめていた。
ひどいめにあった、そうぼやく一刀のことを華琳は平然とスルーした。まるで暴力事件なんてありませんでしたと言わんばかりに。
しかし怪我の功名とでも言うべきか一刀の主張は可決された。
そもそも信賞必罰を旨とする魏において一刀の功績を当てはめると給金は不当に低いものだった。
それは一刀自身に物欲が乏しいことと、高い給金を与えても季衣や役満しすたーずにたかられてしまうだろうという華琳の考えによってだったので、一刀が申し入れればその分を渡す準備はしてあったからだ。
それはそうと結果としてこの男がはじめて給金の増額を申し出た理由がプレイ用のコスチューム代による食費の圧迫となるとは誰が予想できただろうか。
「それにしても最近のあなたの種馬ぶりは異常ね。真剣に去勢を考えないといけないかしら。誰にでも噛みつく駄犬は処分してしかるべきでしょう」
「おい、さっきの今でその台詞は洒落にならないぞ。小さいほうの天の御遣いが怯えている。獰猛そうに見えて実に繊細な奴なんだから注意してくれ」
「なら少しは配慮なさい。最近あなたは私のものだという自覚が欠けているんじゃないの?」
「いや、俺が華琳のものだて言う自覚はちゃんとあるよ。でも、ほら…英雄色を好むって言うだろ」
「自分で言う台詞でもなければそもそもあなたは英雄じゃないわ。知識はともかく、武はまるでなってないじゃない。とりあえず…そうね、季衣に素手で勝てたら認めてあげるわ」
「つまり俺に死ねと言うのか」
季衣は一刀を慕っていて敵対心など持ち合わせていない。
しかし悲劇はそんなことを考慮してはくれない。
猛獣にとってじゃれついているだけなのに、それだけで人間は死にそうになることが多々ある。
飛びついてきた季衣を受け止めようとしたら、あまりの衝撃に吹っ飛び、腰をしたたかに打ち付けてしまい絶叫した経験のある一刀にはよく分かっていた。
余談だが、彼の腰が回復するまでの一週間が『種馬のいない日々』として城内がいつになく平和だったと謡われていたのは記憶に新しい。
そんな華琳の死刑宣告を誤魔化そうと考え込んだ後、一刀はしたり顔でサムズアップして見せた
.
「閨の中なら天下無双だよ。魏武の象徴である夏候姉妹だろうとたやすく組み伏せて良い声で鳴かせて」
「またやられたいみたいね」
「すいません、マジ調子乗ってました」
声音に少し本気の色を感じ取った一刀の謝罪は早かった。
「そう…アレだ。俺はタンポポみたいになりたいんだよ、息を吹きかけると空へと種を飛ばすタンポポに」
そして少し考えた後、夢をみるかのようなどこか遠い目をしながら歌うように理想を語り始めた。しかし言っていることと言えば、子種をまき散らしたいと言っているようなものである。
「風の吹くままに、一瞬にしてどこまでも飛んでいける。自分の生きた証がこの大陸に飛んで行く。自分の遺志を受け継いだものが世界中に広がるんだ。俺はそこに自由とロマンを見出した。そんな存在に、俺もなりたい」
「へぇ」
華琳は意味ありげに微笑んだ。
それは一刀にとっては予想外。
一刀は最近喋っている最中にいつでも謝罪できるよう準備をする癖を身につけていたからだ。
その魔女の様に蠱惑的微笑みは、綺麗なはずなのにどこか巣を張る蜘蛛を思わせて、一刀の背中を冷たい汗が伝った。
「つまりあなたは雑草のように踏みにじられても構わないってことね。ふふふ、それは悪くないわね。ええ、本当に悪くないじゃない。それなら今すぐ這いつくばりなさい。思う存分踏んであげるわ」
「あれ、ちょっと待って。これは予想外。なんでそんなに嗜虐的に笑っているんだ、華琳。お前がヘテロじゃないことなんて俺は知っているんだよ?俺は男だぞ。いじめても楽しくないぞ」
「最近あなたには一方的にされるばかりで不満だったのよね。そろそろ立場をもう一回はっきりさせた方がいいと思うの。あなたのような節操のない駄馬でも体に教え込めばきっと学習するでしょう?」
「ブレイク!ブレイク!華琳一回離れよう。そりゃ俺はSもMもどっちもイケるのは確かだけど、その二つを組み合わせたプレイはまだ早いと思うんだ」
「申し訳ないけれど天の国の言葉は私にはわからないの」
「いやいや、華琳。付かず離れずが恋の術だって誰かが歌ってただろ。俺もそう思うんだ。だからそんなにおもむろに近づいてくるのはどうかと思う。ほら女の子は貞淑じゃないと。こんな時代だからこそ人々は大和撫子を求めてやまないんだって!」
ヤバい、これはマジだ。そう感じた一刀は恐怖に後ずさった。
再会してから一刀は穏やかになった華琳ばかりを見ていたが、みんなご存じのとおり彼女の本質はドSだ。
あまりにも似合いすぎる女王様の微笑みは一刀をたやすく追い詰めていった。
「ちょっと待て、おまえ鞭なんてどっから出した、いやいや、華琳なんでこんな時代にハイヒールなんてあるんだ、っていいからその縄をしまえってなんでそんな楽しそうなんだよ、や、やめろ縛るなって無理だって」
「思う存分鳴きなさい。今日は一晩中可愛がってあげるわ」
その日からしばらくの間、北郷一刀の女性問題は少しだけ控えめになった。
あとがき
正直4ページ冒頭のセリフを書きたくて書いた。後悔はしていない。
でも秋蘭に女性モノの黒いスーツはたまらなく似合うと思うんだ。
というかそもそも春蘭と秋蘭含めた、4人の馬鹿長いssを面倒になって二人だけのssに変えようと思って無理無理削ったのが無謀っすね。
最近7000字を超えると書く気が萎えるのは問題だと思うんだ。
余談ですけど、こういうss書くときタグが使えないって微妙ですね。
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途中で飽きていつも通りの投げっぱなし。
オチなんてありません。
一刀と華琳のマンツーマンの会話。