(夕方 クリプトン王国とインタネ共和国の国境付近 ヴェロス峠)
クリプトン王国全土で使える“馬車”で移動していたテルのパーティーは途中ランチ休憩を挟んだ物の、旅は至って順調で、馬車の歩みを止めるような問題は全く起こらずに、クリプトン王国とインタネ共和国の国境付近にある『ヴェロス山』の麓、『ヴェロス峠』に差し掛かっていた。国境付近で更にここから山登りのため、馬車が使えるのはこの峠の入り口までであり、更に、そろそろ日が傾く時間だったので、当然、今日の移動の終点は、この峠の宿屋であった。
カチャ
馬車から降りた、テル、リン、イアの面々は、小さいながらもそれなりの設備がある“ヴェロスの町”をキョロキョロ眺めていた。
テル:後発パーティーとルートを変えたから、この峠と町は初めてかも知れないな
リン:今日はここに宿泊なんですね
イア:旅行での宿泊は初めてなので、ちょっとワクワクします
テル:昨日誕生したのだから、やはりそうだろうな。夕食もここで取るが、何か希望はあるかい?
リン:私は特に。好き嫌いもありません
イア:私も特にないです。ただお昼が普通でしたので、何か名産の物でもあれば、私の知識の元になるのですが…
テル:名産か…
テルが町を眺めると、少し入った所に看板があり、色々な情報が書かれた紙が貼り付けてあったのでした。
テル:あのガイドを参考にするか
しかし、日も傾いた頃になって、イベントは発生する物である。実に間が悪いというか…
ザッ! ザッ! ザッ!
テル達の前に、同じく旅人風の三人組が現れ、テル達の行く手を阻んだのでした。
大人の女性:お急ぎの所すまないね、ちょっと私たちに協力してくれるかな?
大人の男性:場合によりけりだが、金銭目当ての強盗ではないぞ?
子供の女の子:おとなしくしていれば、何もせずに立ち去っちゃうから、安心しろ!
テル達は、今までが順調すぎたので、まぁ1回位は起こるだろうと、比較的静かに目の前の彼らを眺めていました。
テル:ここに来るのは初めてだが、それでなくても、君たちとは初対面だ。物取りでなく、協力して欲しいのなら、せめて名前と用件くらいは最初に言うべきではないか?
子供の女の子:こいつ、生意気~!
大人の男性:こらこら、“こいつ”とかいうな。それに、この人が言うことももっともだ。初めて冷静に協力してくれるみたいだから、言うとおりにしよう
大人の女性:そうだな。こちらも大事にはしたくないからね。私の名は、瑞樹(ミズキ)。このパーティーの元締めをしている
大人の男性:私は、勇馬(ゆうま)。家業は剣術師だ。それなりの腕は持っているぞ
子供の女の子:は!は!は! アチシこそ、大魔法使いの“りおん様”だ! フルネームは“兎眠りおん”(トネリオン)だ! どうだ! 参ったか!
テル、リン、イア:ぜんぜん
りおん:゚(∀) ゚
テル:だから、初対面なんだって…。君が言う通り“有名”なんだったら、初対面の前に見ただけで、“あーあの有名な~”、とか言うでしょ?
りおん:うぇーん! ゆうま~、こいつらやっぱり生意気だ~!
ゆうま:だから“こいつら”とか言うなって…
ミズキ:ま、まぁ、そう言うわけだから、以後お見知り置きを
テル:…わかった。で、用件は? 我々もこれから食事に宿泊と色々忙しいのだ
ゆうま:大丈夫だ。1回だけ君たちをスキャンさせて頂ければいいだけです。あ、スキャンってのは、この機械を通して、あなた達を見てみるだけでいいんです
ゆうまが取り出したのが、赤いレンズが付いたサングラスの様なメガネだった。
りおん:言って置くけど、“ぬーど”、を見るとか、そういうのじゃないぞ! えっち!
リン:(あなたが勝手に言っただけなのに…)
ミズキ:ある素材の反応をみたいだけなんです。ホントそれだけだから、協力してね?
テル:まぁ、その程度なら時間もかからないし。じゃあ、ここで並んでいるから、さっさと終わらせてくれ
ミズキ:協力感謝します。では、ゆうま! お願いね
ゆうま:ま、まぁ、これまで1回も反応が無かったから、今回もダメだと思うけど、スキャンさせて貰いますね
そういうと、ゆうまは、そのサングラスをかけてテル達を見ながら、横のボタンをカチッと押した。
ぴ・・・・・・ぴ・・・・・・ぴぴ!
そのいつもと違う音は、イアに視線が当たった時に鳴ったのでした。
ゆうま:ん? なんだ? この音は…。反応があった時の音ではないけど、いつもとは違うなぁ…
ミズキ:どうした? ゆうま? まさか反応があったの?
りおん:お! 遂にビンゴか!
ゆうま:い、いや、そうではないんだけど、反応無しの時とは音が違ったんだ。ちょっとノーパソに繋いで詳細を見てみる
なんと、この謎の3人は、『ノートパソコン』、を持っていたのだった! ゆうまはサングラスにケーブルを繋ぎ、更にノートPCにも繋いで、ソフトを立ち上げ、サングラスが入手した情報を解析したのだった。
イア:(ちょっと、どういうこと!? なんでこっちの世界の人間が、“ノートパソコン”、とか特殊機械を持っているの!?)
ミズキ:あ、すみません。ちょっと反応があったみたいなので、ちょっと待ってください。こういうのは初めてなもので…
テル:あ、はい。でも手早くお願いしますよ
3人は声をひそひそ声に変え、テル達から少し離れた位置で、結果を見ていたのだった。たぶん目の前の人物達は、『わからない』、だろうが、一応のためである。
ノートPCの画面:クグツらしき女の子から、素材から作られた錬成後の素材の反応を確認。逆方向錬成を行うことで分解すれば、目的の素材を入手する可能性が高い。入手できる可能性が高い素材は、『イアちゃんフィギュア』
ゆうま:お・・・おい、これ・・・・ビンゴに近いんじゃないか? 今は錬成されて別の物質で安定しているけど、我が国の錬金術を使えば、素材に戻せるぞ?
りおん:や、やった…、これでアチシ達の長い旅も終わるのだぁ~
ミズキ:・・・・・・・・・・・いや、今回はマーカーを付けるだけで、泳がせておこう
ゆうま&りおん:え?
ミズキ:我々の行動は、これから“探索”から“尾行”に変える。このバッジは、付けた段階でマーカーが塗布されるから、外されても反応を見失う事はない
りおん:ちょ、ちょっとミズキ、目の前にアチシ達があれだけ探していた物があるかもしれないんだよ? こんな奴らぶっ飛ばして、さっさと奪っちゃうべきなのだぁ!
ゆうま:・・・・・・確かに今は分が悪いな。相手があの“テル”では尚更だ
りおん:テルって、あの男?
ミズキ:そうだ。あの事件に関わっていた重要人物で、魔力は我々総掛かりでも勝てん。勿論りおん、お前ではグゥの音も出ないぞ
りおん:ぅ・・・・そうなの?
ゆうま:ああ。さっきこいつで検索したら、出てきたよ。今は手出ししないほうがいい
そうこうしているうちに、10分が経ってしまったのでした。テルも困って、近づいて話しかけようとしたが、ミズキ達3人の方が先に近づいてきたのでした。
ミズキ:すみません、大変お待たせしまして
テル:い、いや良いけど、そろそろ終わった?
ゆうま:はい。終わりました。データも取れました。協力感謝致します
リン:それじゃ、私たちはそろそろ行くよ?
そういうのと同時に、ミズキは1つの赤いバッジをイアに差し出したのでした。
イア:(! そうきたか…)
ミズキ:あ、これ、ご協力のお礼です。私の国で流行っているバッジです。別に無理にというわけではないですが…、受け取って頂けます?
イア:・・・・・・はい、お礼ですからね
そういうとイアはバッジを受け取り、服の左胸にバッジを付けたのでした。
ミズキ:(ほぉ、あっさり受け取ってくれたか。少し注意が必要だな)
ゆうま:それでは、私たちはこれで
りおん:協力有り難うなのだぁ~♪
こう言うと、謎の三人組はテル達の元を離れて、町の奥に消えていきました。
テル達も色々予定もあったので、看板まで移動し、宿と食事処をチェックした後、とりあえず宿泊先にチェックインして、部屋に荷物を置くと、部屋の鍵をかけてから、町の食事処まで移動しました。
(夜 ヴェロスの町の食事処)
テル、リン、イアの3人は、食事処で夕食を食べてました。テルとリンが、これから先の色々な予定やルートを食べながら話している横で、イアは黙って考え事をしながら食事をとってました。
イア:・・・・・・・・
リン:? どうしたの、イアちゃん?
テル:今日の三人組の事か? スキャンとかいう事をされたくらいで、特に何もされなかったぞ?
リン:そのバッジ、気味が悪いなら捨てちゃったら?
イア:・・・・順番通りに答えます。まず私が黙っていることからです
テル:あ、ああ。頼むよ
イア:あの三人組が怪しいと確定したのは、彼らが、私の世界の機械、“ノートパソコン”を持っていた事がわかってからです。あれから私、ずっと考えていたんです
テル:な、なに! 君の世界の機械を持っているということは、彼らは既に君たちの世界の素材を持っているということなのか!? それは一大事だぞ!
イア:サングラスみたいなスキャン装置で私たちをスキャンして、私の所で止まって、それからノーパソで分析し始めて、最後にこのバッジを渡した位ですから、彼らは『まだ該当の素材を持っていないから、私に目を付けた』のでしょう。だから、あのノートパソコンもサングラスも、この世界の物でしょう。テルさんから聞かされた“あの事件”とは無関係の人物なのに、なんであんな物がこの世界にあるのかは、全然わかりませんが
テル:そうか…、まぁとりあえず素材を向こうが持っていないのなら、まだ手の打ちようがあるからね
リン:でも、イアちゃん、狙われているって事だよね
イア:はい。このバッジ、おそらく捨てても、私に追跡機能が付いてしまう類のマーカーでしょうね。彼らは今も私を追跡していて、おそらくこの近辺にいるでしょう
テル:ちょ! それはまずい! とにかくそのバッジは保険のために捨ててしまって、すぐに出発して…
イア:いえ、どうせマーカー機能が残るなら、このバッジはそのままにします。向こうが追跡できるなら、こっちも向こうとはぐれずに移動できる事を意味しますからね。私も彼らの正体を突き止めたいです
テル:了解だ。とにかく、解ったことは、こっちの世界の素材で作った向こうの世界の機械を持った謎の三人組と遭遇し、イアさんは追跡されている。彼らの目的はイアさんソノモノで、向こうの世界の素材を欲しがっている
リン:そして、彼らは今もこの近辺にいるかもしれないわけね
イア:テルさんの力量を分析で入手できたからこそ、あの時、無理に私に手を出さず“追跡”を選んだんだと思いますから、ここの食事とか宿泊の間を襲う事は、近くにいてもやらないでしょう。予定通り、明日出発して、とにかくインタネ共和国に到着しましょう
テル:そうだな。めぐみの所で少し対処を錬ろう
リン:私、イアちゃんを守るからね!
さすがこの3人、こんな一大事になっても、警戒は強めるが冷静に対応して、本来の目的から離れないのは、さすがの一言だった。
しかし、色々目的が重なっている“この旅”に、また大きな目的が増えてしまったのは否めなかった。この事はアペンドのパーティーやめぐみにも伝えないといけないし、それなりの追加警戒も考えないと行けなかった。
彼らの目的が、“イアの素材”であることは明白。しかもノートパソコンやサングラスなどの機械を持った相手、更に気が抜けない旅になってしまったのだった。
(夜中 クリプトン王国とインタネ共和国の別の国境付近 ダイナム峠のダイナムの町の宿)
ルカ姫:ぐかーーーーーーZZZZZ
その頃のアペンド達は、クリプトン王国に近い方の、別ルートから国境を越える峠に入り、町に到着して食事をした後、全員グースカ寝ていたのでした。
どうやらインタネ共和国までの道のりで“ドラマ”があるのは、テル達だけのようでした。
(続く)
CAST
イア:IA-ARIA ON THE PLANETES-
ルカ姫:巡音ルカ
魔導師アペンド:初音ミクAppend
魔導師テル:氷山キヨテル
僧侶リン:鏡音リン
勇者レン:鏡音レン
異国の剣士 神威学歩:神威がくぽ
裁判官 勇気めぐみ:GUMI
謎の三人組
瑞樹(ミズキ):VY1
勇馬(ゆうま):VY2
兎眠りおん(りおん):兎眠りおん
カイト王:KAITO
メイコ王妃:MEIKO
テルの助手ソニカ:SONiKA
家庭教師ピコ(ピコ):歌手音ピコ
メイド・ネル(ネル):亞北ネル
その他:エキストラの皆さん
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※今回からの新シリーズは、前作「Dear My Friends! ルカの受難」の続編です。ナンバリング的には2期になります。
現在ピアプロで連載投稿中の最新シリーズとなっております。
☆当方のピアプロユーザーネーム“enarin”名義で書いていました、ボーカロイド小説シリーズです。第16作目の第4話です。
☆今回も1話分を短めにした、ファンタジーRPG風味の長編です。現在もピアプロに続きを連載投稿しており、完結しておりません。
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