休日。
私は灯花と連れ立って、今日もお爺さまがいるであろう別荘に赴いた。
「お爺さまー!」
「お邪魔します」
後ろから入ってくる灯花を感じながら来意を告げる、が…
…………
「…あら?」
反応がない。
「お留守、でしょうか?」
「いえ、そんなはずないわ」
スリッパが一足ないし、何よりお爺さまの大きな靴がある。
上がっていいわよ、と灯花に言い残し、私はいつもどおりズカズカと中へ。
「お爺さま?」
リビングに入れば適温の空調、デスクの上には散らばった書類。
そして、お爺さまの形にへこんだソファー。
今の今までこの場にいたことは明白だ。
「…お爺さま、出ていらっしゃい」
少し語気を強める。
案の定、ガチャリと音を立てて隣の部屋の扉がゆっくりと開く。
「お、おう…ハルか。なんじゃまたサボりか?うん?」
ひょっこりと顔だけ出して、一気にまくし立てる。
そのくせ、私と目を合わそうとしない。
なんとも滑稽な格好だ。
「お爺さまこそ何?その浮気現場に踏み込まれた間男みたいな様は。それと、きょう学園は休みよ」
「どうも、おじ様。ご無沙汰しておりますわ」
「え゛……うぉっほん!これは灯花くん。お恥ずかしい姿を。よく来たね。ゆっくりしていきなさい」
灯花がいると分かるや、すぐに部屋から出て姿勢を正すお爺さま。
さすがに世間体は気にするみたい。
「それで、何の真似だったのかしら?」
「な…なんのことじゃ?」
私に対して顔を直角にしながら、ダラダラと脂汗をかいている。
「惚けないの」
さらに上から圧をかける。
久々の圧倒的優位に、私のS心がメラメラと熱くなる。
お爺さまは私と灯花をチラチラと見比べていたが、ややあって観念したように肩を落とすと、重そうに口を開いた。
「その……この前、ハルにその…すまんことを、言ってしまったと思うての……」
大きな身体を小さく窄めながらモジモジしている姿は、灯花から見たらそれは奇怪に映っていることだろう。
「神狗郎くんのことを諦めるな、という気持ちに嘘偽りはないが、金で…家の力でどうにかしようと口走ってしまったのは、完全に儂の間違いじゃった。
ハルを傷つけたこと、そして神狗郎くんを愚弄してしまったことを…どうか謝らせて欲しい。申し訳なかった」
大きな身体を二つに折り曲げるように深く、深く頭を下げるお爺さま。
「……なに?そんなことでウジウジしていたの?」
「なっ…」
私の言葉に、ガビーンとでも効果音が出そうな顔になる。
「ハルルコさん。お爺さまにそんな物言いはどうかと思いますよ」
「……分かってるわよ」
いちいち口に出す灯花が
「…ありがとう、お爺さま。私のこと、真剣に考えてくれて」
「ハル…」
「でも、私はもう大丈夫。お爺さまの言葉もあったし、何より…私には、最高の
「ほ?」
「今日は改めて紹介に来たのよ」
「ハルルコさんのデュオ兼ライバルを務めております、秋月灯花です。改めて、お見知りおき下さいませ」
「…素直に友達って言いなさいよ」
「友達は友達でも、喧嘩友達のようなものですから」
「言うわね…」
私と灯花の間にチリチリと小さな火花が散る。
「ホッ…フォッフォッフォ!そうか、そ~かっ!」
急にお爺さまが笑い出す。
「灯花くん。見ての通り、ハルは跳ねっ返りのじゃじゃ馬で引きこもりじゃが、根はとても良い子なのじゃ。どうか、末永く仲良くしてやって下され」
「えぇ、跳ねっ返りのじゃじゃ馬で引きこもりなのに寂しがり屋なのは、重々承知しておりますわ。こちらこそ、重ねてよろしくお願い致します」
「あなたたち……ずいぶんとエッジの利いた挨拶してくれるじゃない?」
「あら、そうでしたか?申し訳ありませんね」
棒読みで優雅に微笑んでみせる灯花。
慇懃無礼、ここに極まれりだ。
「……ふふっ」
だが、それすらも全てが心地よい。
「ねぇ、お爺さま。前に私言ったわよね、お金で買えないものはないと思ってたって」
心が軽い。だから口も軽い。
「でもね、気付いたの。そんなモノでどうにかならないからこそ、この気持ち…喜びも悲しみも、恋する乙女の特権、なのよね」
「ハルルコさん…」
「それにね……御子神の女は欲張りなの。お金で買えるモノも買えないモノも、欲しいモノは全て手に入れてみせるわ」
「ハル……立派になって…」
目を潤ませるお爺さま。
やっぱり、ちょっと柄に無かったかしら?
「さて、お金で何でも解決できると思ってるお爺さまは、ひ孫の顔を見てくれるのかしら?寿命も健康も、お金じゃどうにもならないみたいだけれど?」
「わぁーっはっは!なぁに心配するな。ひ孫の顔を見るまでは、例えお迎えが来ても力尽くで追い返してみせるわぃ!」
お爺さまは莞爾として笑うと、丸太のように太い両腕に力瘤をグッと作ってみせた。
この人ならやりかねないわね。
天界は毘沙門天を派遣しなくてはならないだろう。
そんなお爺さまの様子に、私と灯花は顔を見合わせて苦笑いを浮かべるのだった。
………………
…………
……
「それじゃお爺さま、また来るわね」
「お邪魔致しました」
その後、軽くお茶をして別荘を辞した私たち。
「ん…んん~~~!!あぁ…暑いわね」
「本当、良いお天気ですね」
微妙に噛み合わない会話。
だけど、灯花の言うとおり。
雲ひとつ無い青い空。
それを映し出す碧い海。
そして、それらを照らし出す真っ白い太陽。
世界はこんなにも美しかったんだ。
こんなにも胸がときめくのは、生まれて初めてかもしれない。
隣には友がいる。
「さぁ、ハルルコさんが溶けてしまわないうちに、早く帰りましょうか」
例えどんなエピローグになろうと、きっとあそこには、素晴らしい毎日が待ってるに違いない。
「えぇ、そうね。帰りましょう…」
「ロイヤルガーデンへ!」
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DTKです。
普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。
今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『ロイヤルガーデン』の二次創作を投稿します。
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