No.838001

ロイヤルガーデン if ~非・御子神ハルルコ√~ 『ソワレ』

DTKさん

DTKです。
普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。

今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『ロイヤルガーデン』の二次創作を投稿します。

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2016-03-18 23:44:34 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2399   閲覧ユーザー数:2182

 

 

 

ザザーン…ザザーン……

 

潮騒が聞こえる。

正面には大きな赤い太陽。

もうすぐ、水平線に沈もうとしている。

常夏の陽気も、少しひんやりとしてきた。

 

「…………」

 

私は誰も通らない海沿いの道で一人、沈みゆく太陽をぼんやりと眺めていた。

それが、今の私にはとてもお似合いのような気がして。

 

 

 

「……こんな所に、いたのね」

「え――」

 

俄かに聞こえた声へと振り返る。

階段の上には、ハルルコさんが膝に手をつき、肩で息をしながらこちらを睨んでいた。

どうして、ここに…?

 

「…何か私にご用ですか?赤の他人のハルルコさん?」

 

思わず口から出たのは、先ほどの皮肉。

こんなことを言いたいわけではないのに…

 

「別に、アンタに用なんか無いわよ。この嘘つきサボり魔さん?」

 

サボり魔、ということは、私も学園を休んでいたことがバレたのでしょう。

 

「嘘はついてませんよ?私はお仕事とは、一言も申しておりませんもの」

 

そう。和服姿を見て、ハルルコさんが勝手に勘違いしただけ。

もちろん、そう仕向けたのは私ですけど。

 

「……何の真似よ」

「なにが、ですか?」

「惚けてんじゃないわよ。学園をサボってまで私のこと…心配、してくれたんでしょ?」

「…………」

「何故あなたが私にそこまでするの?クラスメイトだから?デュオだから?それとも、何か他に理由でもあるの?」

 

詰問するように、一歩ずつ階段を降りてくるハルルコさん。

そして私の前に立つと、

 

「答えて」

 

そう言って、私をまっすぐ正面から見てくれた。

初めて、私の(舞台)にハルルコさんが上がってくれたような気がする。

その瞬間、胸の奥でことりと歯車が動き出し、本音を隠していた心の緞帳が上がり始めた。

 

「…これは、少し昔のお話でございます。あるところに、一人の女の子がいました」

 

そして私はハルルコさんに背を向けると、あの劇のナレーションのように語り出した。

突然の語りにも、ハルルコさんが止める気配は無い。

私は続ける。

 

「その子は、ある由緒正しい家に生まれ、小さい頃から色々と厳しく躾けられました。

 そのおかげもあり、その子は華道で才能を開花させ、齢十を数える頃には自分の流派を興し、多くの弟子を抱えるほどになりました」

「…………」

「その子は何不自由ない生活を送っていました。でもただ一つ、その子が他の子とは違うところがありました。

 その子には一人も、友達と呼べる人がいませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――――

――――――

 

 

 

「お~い!秋月がまた変な服着てるぞ~!」

「きゃははっ!変なの~!」

「こら!皆さん、変な服ではありませんよ。秋月さんの着ている服は和服といって……そもそも秋月さんは――」

 

 

 

…………

……

 

 

 

「秋月さん、今日の放課後遊びに行かない?」

「え?あ…」

「ダメだよ。秋月さんはお花のお稽古があるんだから」

「あ…ごめんなさい、秋月さん…」

「……いえ。お誘い頂いたのに、申し訳ございません」

「ううん、お稽古だもん。しょうがないよ」

「しょうがない」

「しょうがない」

「しょうがない」

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

空しい、無色透明の記憶。

だからこそ、色鮮やかなお花が面白かったのかもしれません。

 

「…そんな子が、ある時、親から携帯電話を持たされることになりました。

 いつでも連絡が取れるように、という理由でしたが、そのケイタイのおかげで、その子の世界が格段に広がったのです」

 

クラスメイトの間でよく話題に上がっていたゲーム、というものがある事は知っていた。

前から興味はあったので、毎日少しずつ操作し、何とかダウンロードすることが出来た。

 

「家人が寝入った頃、布団の中で光る小さな画面には、胸躍る世界が広がっていました」

「…………」

「ただ、初めてのゲームでしたので四苦八苦しました。何とかアカウントを作ってログインしたものの、何をしていいか分からず最初の広場で右往左往。

 そこに『初めてですか?』と、私に声をかけてくれた方がいました。見るからに強そうな格好をした剣士の方…」

 

一つ、大きく深呼吸。

 

「お名前を、英語でH・A・L…『HAL』さん、といいました」

「――っ」

「そのお方のおかげで、最初のチュートリアル、といわれる部分は無事に終わりました。

 HALさんに導かれるまま異世界の街を歩き回ったあの高揚感は、今でも忘れられません」

 

辺りを行き交う色々な種族の、様々な武具で彩られたキャラクターたち。

支給された武器や防具を装備すると、連動して変わる私のアバター(分身)

ミッションを受け、街の外で初めて倒したモンスター。

日常では味わえない体験に、胸の高鳴りを抑えられなかった。

 

「…ちょうどキリもよく、時間も時間でしたのでお別れ、と相成ったのですが、最後にHALさんが

 『よければまた明日、同じ時間に遊ばない?』と仰って下さったのです。

 その子にとって初めての遊ぶ約束…フレンドという欄には、HAL、というお名前がありました。

 HALさんが……私の、初めての友達でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

灯花の物語り、いや、回想が唐突に終わる。

これが全て、ということなのだろう。

 

そういうこと、だったのね…

今まで不可解だった灯花の行動も、これで合点がいった。

だから自然と、私の口も動いた。

 

「……HALにとっても『しゆうけつ』は、かけがえのない、特別仲の良い友達だったわ」

 

面白い名前だな、と思って声をかけたのがきっかけで仲良くなった、とあるネトゲでよく一緒に遊んだユーザー。

双方向でレスポンスがある、という意味では、初めての友達。

ほんの些細な行き違いで疎遠になったのだけれど…

まさか、こんな近くに居るなんて、ね。

 

こちらに背中を向けてる灯花の顔は見えない。

だけど、確かに空気が変わった。

 

私はゆっくりと、灯花の隣に並ぶ。

 

「そのHALって子も、小さい頃は度重なる親の転勤で、友達のいない子だったの」

 

今度は、私の物語りの番、かしら。

 

「HALにとっての初めての友達で、初めての恋の相手は…テレビの中で活躍している、ある男の子だった」

 

ゴメンね、神狗郎……

 

「その子の名前は、月宮神狗郎、といったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

「……こうして、HALの長年の恋は成就せず、振られてしまいましたとさ。おしまい」

 

灯花の語りから始まった舞台は、これにてエンディングを迎えた。

 

「……ずいぶんと、長い物語でしたね。まだ高かった陽が、もう沈みきってしまうくらいに」

 

そう。私たちを照らしていた太陽(スポットライト)沈み(消え)今日(舞台)の終焉を告げる。

 

 

 

陽が沈み、微かに明るい水平線を灯花の……友達の、隣で眺める。

どちらからともなく、手を取りあう。

 

 

 

 

 

「「……泣いて、いるの?」ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りを闇が包み込むと同時に街灯が点く。

 

その光がピンスポットのように、二人を優しく、照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 


 
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