No.82743

恋姫無双~魏の龍~第拾参話

タンデムさん

さぁ!やってまいりました、反董卓連合!
今回は一気に、汜水関突破編までもって行きます!
仕様で華雄が漢√並に強いです。
今回で、鮮血の龍全員そろいます。
長いですが、どうぞご覧ください。

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2009-07-06 00:07:55 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:17302   閲覧ユーザー数:12040

「華琳様! 袁紹の陣地が見えました! 他の旗も多く見えます!」

 

龍翠が、華琳たちのもとより出て約一月華琳たちは、反董卓連合の陣地へと向かっていた。

皆、龍翠が居ない事に、士気が低下するかと思ったが逆にそれが彼女等と兵達にやる気を生み出した。

武将達は、龍翠が戻ってくる前よりも、もっと自分を磨こうと。

新兵達は、そんな武将達に触発されて。

皆己を磨き、士気も高く良い状態だと言えた。

 

「『黒地に紅い字の龍と書かれた旗』はある?」

「遠目で見た限りでは、そのような旗は見当たりません。」

「分かったわ。」

 

華琳は、そう言うと後は何も言わず、袁紹の陣に向かった。

 

 

 

 

「曹操様! ようこそいらっしゃいました!」

「曹操殿、お待ちしておりました。」

 

出迎えたのは、華琳の元に使者として来た、おかっぱの少女―顔良―と、童顔巨乳の少女―張郃―である。

張郃がお辞儀をすると、その大きな物が揺れてしまう。

その様子を見て華琳は自分の胸に思わず、手を当ててしまうが、

ハッとした顔になり顔良と張郃に礼を返す。

 

「ひ、ひさしぶりね。顔良、張郃。 文醜は元気?」

「はい!」

「元気すぎるくらいで、困るときもありますが……。」

 

華琳の動揺した様子に、気付かず話をする二人。

 

「結構な事だわ。……で、私達はどこに陣を張れば良いのかしら? 案内して頂戴。」

 

これ以上、話していて傷を抉られてはたまらないと、華琳はさっさと陣に案内させた。

 

「分かりました。 ですが、曹操様、麗羽様が直ぐに軍議を開くとのことですので。本陣までおいで願えますか?」

「分かったわ。 凪、真桜、沙和。張郃の指示に従って陣を構築しておきなさい。

桂花は、何処の諸侯がが来ているのかを早急に調べなさい。」

「御意。」

「分かったのー!」

 

自分の部下達に華琳は指示を出したあと、思い出したかのように張郃のほうを向いて、

 

「あぁ、それと張郃。」

「はい?」

「私の陣の隣にも天幕をしておいて。 後で其処を埋める人物が来るから。 規模は其処まで大きくなくて「すまないが、操姫。 それは私がしよう。」あらもう来ていたの。」

 

華琳と張郃の会話に割ってはいる様に、後ろから男声が飛んできた。

二人は後ろを振り返ると、そこに居たのは身の丈7尺程で年は30ほどの大男が立っていた。

そして龍翠と同じく全身紅い色で、彼の場合は隠密のような服装に、両手に黒い龍が掘ってあるこてをしていた。

彼こそが、鮮血の龍の最後の一人『鮮血の龍隠密役』だ。

華琳は、その男を見ると、笑みを浮かべてこう言った。

 

「うむ。 龍翠様より、操姫の部隊について行って、連合で陣を立てろと言う文を頂いてな。」

「そう。 それにしても、久しぶりね臧覇いえ、今は、奴寇だったかしら?」

「今の私は、臧覇だ。 それに、操姫は真名で呼んでくれても構わん。」

 

男くさい笑みを浮かべてそう言う彼は、姓は臧、名は覇、字は宣高、真名を颶柳と言う。

 

「なら貴女も真名で呼びなさいよ。 颶柳、まだ貴方しかきていないの?」

「うむ、分かった華琳殿。 もうそろそろ、来ると思われる。 ついたら、軍師と共に天幕へ行かれるよう言っておこう。 では、張郃殿案内を頼む。」

「は、はあ。」

 

話の内容についていけないが、華琳が言おうとしていた人物の連れだと言う事は彼女にも分かった。

こうして、一通り指示が終わると、華琳は春蘭秋蘭をつれ、顔良に案内を頼み袁紹の元に向かった。

「おーっほっほっほっほ! おーっほっほっほっほ!」

 

袁紹の陣まで行くと、華琳の耳に久しく聞いていなかった馬鹿笑いが響いて華琳は顔を顰めた。

隣に居る顔良は、聞こえる声に額に掌を当て溜息をついていた。

 

「はぁ。」

「貴女達も大変ね。」

「いえ、もうなれました……。」

 

その表情は、物凄く疲れたような顔をして、遠い目をしていた。

今は居ない、張郃に問うても、おそらく同じ返事と様子が返ってくるだろう。

華琳は、この連合が終わったら彼女達に何か慰労の品でも贈ろうとなどと考えながら、

顔良は外に置いたまま天幕に入った。

 

「久しぶりに聞いたわね、その耳障りな笑い声……麗羽。」

「華琳さん、良く来て下さいましたわ。」

「はぁ……。」

 

久しぶりに、袁紹こと麗羽の相手をして一刻も経っていないのに、

もう疲れたといった感じの溜息が出た。

そんな華琳様子など露知らず、麗羽は華琳に向かってこんな事を言う。

 

「これで主要な諸侯はそろったようですわね。華琳さんがびりっけつですわよ。びりっけつ。」

 

こんな事を言うもんだから外に居た顔良は、気が気でなかったが、

 

「はいはい……。 残念だけど、私がビリではないわ。 後で貴女の言うそのびりっけつの人が来るから、その人に言ってあげなさい。(言えるものならね。)」

 

と、大人の対応を見せる華琳に顔良は安堵し、何もしない自分の主のために、早々と次の仕事場に向かった。

 

「あ~ら、そうなんですの? まぁ、そんな事はどうでも良いですわ。

それでは、最初の軍議を始めますわ。知らない顔も多いでしょうから、

まずそちらから名乗っていただけますこと?

ああ華琳さんは最後で結構ですわよ。おーっほっほっほ!」

「はぁ……。」

 

彼女の声でとりあえず端から、挨拶する事になった。

 

「幽州の公孫賛だ。 よろしく頼む。」

 

先ず挨拶をしたのは、赤い髪を後ろで束ねた白い鎧をつけた公孫賛。

彼女に続くように、其々が挨拶を始めた。

 

「平原郡から来た劉備です。こちら、私の軍師の諸葛亮と龐統。」

「よろしく、お願いします。」

「よ、よろしく、お願いします。」

 

次は、公孫賛の隣に居た大きな胸の女の子劉備とその軍師二人。

龐統と紹介された子は、やや緊張気味だ。

 

「涼州の馬超だ。 今日は、馬騰の名代として此処に参加する事になった。」

「あら、馬騰さんはいらっしゃいませんの?」

「最近、西方の五胡の動きが活発でね。袁紹殿にはくれぐれもよろしくと言付かってるよ。」

「あらあら、あちらの野蛮な連中を相手にしていては、中々落ち着く暇がありませんわね。」

「ああ、すまないがよろしく頼む。」

 

次は、錦馬超と名高い西涼の馬超が挨拶をした。

特徴は、その太い眉毛だろう。

 

「袁術じゃ、河南を治めておる。 まぁ皆知っておるじゃろうがの! ほっほっほ!」

「私は、美羽様の補佐をさせてもらっています張勲ともうしますー。」

 

次に紹介を始めたのは、この茶番劇の主用各の一人の袁術。

従妹だけあって、馬鹿笑いは同じのようだ。

 

「じゃ次はウチの番かしら。 呉国の孫策よ。こっちは軍師の周瑜。」

「よろしく頼む。」

 

次は、雪蓮たちが挨拶をしたようだ。

その視線は華琳に向かっていたのに気付いたのは華琳だけだろう。

その視線も、決して悪い物ではない、と華琳は思った。

 

「では、華琳さんお願いしますわ。」

「はぁ、典軍校尉の曹操よ。この二人は、我が軍の夏侯惇、夏侯淵よ。」

「よろしく頼む。」

「同じく。」

 

と、華琳たちの紹介が終わった所で、袁紹が前に出て、

 

「さて、最後に私が「ガヤガヤ!」もう! 何ですの!? 私が挨拶をしようとしているのに! 騒がしいですわね!」

 

袁紹が最後に自分の挨拶をしようとしたとき、天幕の外がなにやらうるさくなった。

華琳たちは、誰が来たのか確信した。

そして、天幕の入り口が広げられ、そこに居たのは、

 

「すみませんね。 遅くなってしまったようです。」

「でも、まだ間に合っているようね。」

 

紅い死装束を着た龍翠と司馬徽こと水面だった。

司馬徽の服の形は振袖に近い物だ。

龍翠の姿に、雪蓮や他の諸侯も目を丸くしている。

 

「久しぶりだね。麗羽ちゃん、美羽ちゃん?」

「あ、えと、お、おひさしぶりですわね。」

「う、うむ。 ひ、ひさしぶりなのじゃ。」

 

龍翠の姿を見るなり、二人は何故かしおらしくなってしまった。

龍翠は気付かないが、他の諸侯は目を見開いて驚いていた。

そんな中、華琳だけが何とも思わず龍翠にはなしかけた。

 

「遅いわよ兄さん。 今、皆が自己紹介が終わった所よ。」

「そうですか。 では、僕たちもしましょうか。」

 

華琳の方を向いていた二人も諸侯の方を向いて、

 

「初めましての人が多いですね。 僕は、帝直属特殊小隊、鮮血の龍小隊長曹朋錬鳳です。」

 

彼の、言った鮮血の龍の言葉でみんなの目つきが変わった。

鮮血の龍は余りにも有名だった。

今まで普通の民だった劉備は流石にその功績は知らないが名前は聞いた事があった。

 

「そして私は、軍師の司馬徽徳操……、あら?」

 

と水面が、自己紹介をしている途中で、彼女はある二人の人物に目がとまった。

 

「はわわ……。」

「あわわ……。」

 

その見られている少女達は、何故かオロオロしているようだが、彼女はその二人に向かって軽く笑顔を向け、

 

「よろしくね。 小さな軍師さんたち。」

 

そう言った。

周りも、先ほどと同様の順に自己紹介を続けていった。

一通り、挨拶が終わった事で、また麗羽が挨拶を続けようとしていたが、

 

「あら皆、貴女の(馬鹿な)ことは知っているんだから良いんじゃない?」

「だな。 (馬鹿さ加減で)有名人だから皆知っているだろう。」

「そうですよ。 麗羽ちゃん。 (御馬鹿な)有名税だと思って名乗りは、無くても良いですよ。」

 

と、華琳、公孫賛、龍翠が別にいらないと言ったら、渋々諦めた。

失礼な事を思っていたりもするのだが、そこはスルーで。

 

「おほん。 では、軍議を始めさせていただきますわ! 僭越ながらこの私! このわ、た、く、し、袁本初が行わせていただきますわ! おーっほっほっほっほ!」

「いいから早くはじめなさい!」

 

華琳がイライラした感じに、進行を促す。

 

「さて最初の議題ですけどこのわ……。」

「まって、麗羽ちゃん。」

 

と、その進行に龍翠は待ったをかけ、何処から出したのか徳利を二つ手に持っている。

「久しぶりに会ったから、僕から麗羽ちゃんと美羽ちゃんに『お土産』だよ。

麗羽ちゃんには僕特製のお茶、美羽ちゃんには、僕特製の蜂蜜水だよ。これで喉を潤すと良い。」

 

といって、その徳利を二人に渡した。

贈り物と言う言葉をわざと強調して言い、なおかつ龍翠の目が笑っていたのに、二人以外の諸侯が気がついた。

そんな事には気付かない御馬鹿二人は、龍翠がなおも説明を続けているのも気にせず、

受け取った徳利をその場で開けて、麗羽は即効で口に含み、美羽は張勲にもおすそ分けをと杯居にいれて、一緒に飲んだ。

 

「ですがそれは、鎮静薬も入って「「「バターン!」」」人の話はちゃんと聞きましょうね♪」

 

と、とんでもないことを笑顔で宣う龍翠に華琳たち以外の全員が思った。

 

(((((((彼だけは、敵に回してはいけない!)))))))

 

華琳たちは龍翠の悪戯が成功したような笑顔を見て溜息をついていた。

皆が恐怖に震える中、龍翠は、天幕の外にむかって、

 

「おーい斗詩ちゃーん!」

 

事もあろうに、今気を失っている人物の配下を呼んだ。

顔良は、自分の真名を呼ばれて厳しい顔をして来たが、龍翠だと分かると笑顔で挨拶した。

 

「久しぶりだね。 斗詩ちゃん。」

「はい! お久しぶりです、龍翠様! ところで何故私を? はっ! まさか麗羽様がまた何か粗相を!?」

 

二人は、軽く挨拶し何故此処に呼んだのかを聞いている途中で、

悪い想像を爆発させ、袁紹の御馬鹿は知っているので、心なしか顔が蒼い。

 

「いえ、僕達は迷惑は無いんですが、久しぶりにと 『お土産』 を渡したら

 『説明も聞かず』 にその場で、 『僕の制止』 も振り切って、

本当は 『10倍に薄めて飲まないといけない鎮静薬』 も入っているのに、

原液を飲んでしまったんですよ。 ですから、何日か起きないかも知れないので、

彼女達を天幕に運んでくれませんか? 

だいたい軍議も 『終わった』 事ですし。」

 

と、嘘八百を顔良に話した。

周りは、それに何も言わず、黙っていた。

 

「分かりました、まぁ麗羽様達ですから大丈夫ですよ。(起きてようと、寝てようと役に立たないのは同じですし。)」

「ごめんね。 彼女達が起きない間は、君と張郃ちゃんとで指揮を執ってくれないかい? 彼女達が起きた後は、僕の名前を出してくれれば良いから。 あ、それとこれを後で張郃ちゃんと猪々子ちゃんと一緒に読んでてくれないかな?」

「はい、わかりました。 では、私はこれで失礼します。」

 

斗詩は、とりあえず龍翠に何も危害がないとわかると、女性兵達を呼んで彼女達の天幕に運んだ。

その指示を出すと、斗詩は龍翠から巻物を受け取るとそれをもって、次の仕事場に行ってしまった。

「さて、御馬鹿ちゃんたちも眠ったことですし、仕切り直しと行きましょうか?」

「はぁ。 そうね。」

 

何事も無かったかのように、笑顔で言う龍翠に華琳は溜息をして呆れながらもそう応えた。

 

「では、まず現状と目的の確認です。 今回、彼女が集めた反董卓連合ですが、実はこの連合は茶番劇としか言いようが無いんですよ。」

「如何いうこと?」

 

龍翠のその言葉に、そこに居た水面以外全員が首をかしげた。

 

「僕の隠密に、調べさせた所。 董卓は前の為政者達よりも良い政治をしており、帝を傀儡などにしていない。」

「「「「「「!」」」」」」

 

龍翠の話に、一同の表情が驚きに変わる。

鮮血の龍の隠密の情報と言うのは、『千里眼』と言われるほどに、信憑性が高いからだ。

だが、その話に公孫賛が異議を唱える。

 

「でも、火の無い所に煙は立たないっていうじゃないか?」

「ええ。 確かに火の無い所に煙は立ちません。」

 

その言葉に龍翠も肯定を表すが「ですが」とつづけ、

 

「董卓達のもとに『何者』かが、『捏造した噂』と言う『種火』を点けて、

『十常侍』がその噂に、これ幸いと自分達の行っていた『悪政』と言う

『火の点いた松明』を投げ入れ、其処にさらに、『有りもしない真実』と言う

『油』をぶちまけることはできます。」

 

その言葉に、全員は驚きで何もいえなくなった。

つまりは、誰かが董卓たちの捏造した噂を流し、

十常侍は其処に自分達の悪政をなすりつけ、

さらに大げさに、着色しまくったと言う事だ。

一呼吸置いて、龍翠が口を開く。

 

「ここに集まっている、皆に知っておいて欲しいのは、董卓達は、言われも無い罪で、真に裁かれなければ成らない人物達の、隠れ蓑にされているんです。 しかも民草の深いところまで嘘の噂が真実として、言われているため収拾も付けられない状態にまで陥っているんです。」

 

その真実に、一同は悲痛な表情を浮かべた。

そして、また一呼吸置いて龍翠はまた話を続ける。

 

「そして、僕の隠密が調べた所、その種火を点けたのは……袁両家だという事が分かりました。」

「「「「「「「「な!?」」」」」」」」

 

驚愕の事実に一同は、絶句せざるを得なかった。

 

「じゃ、じゃあ、発端の張本人達が有りもしない噂を捏造して、私達を集めさせたってのか!?」

「そうです。」

「ふざけやがって!」

 

龍翠に向かって公孫賛は、大きな声で問いただし、

馬超は怒りのあまり拳を、机に振り下ろしていた。

彼女達だけではない。

其々が怒りと、悲しみを表情に表している。

 

「もう止める事は、出来ないの?」

 

搾り出すような華琳の声に、隣に居た水面が華琳の方を見て応える。

 

「無理よ。 彼女等は大陸全土に草を放っていた様だから、此処で連合を解散にしてしまっては、どの国の民達も不満を持つでしょうね。 真実を話しても、民達は信じてくれない。 それに豪族達にも広まっているから、もし董卓達を生き残らしてしまったら、暗殺しようとする者が出るかもしれないわ。」

 

此処に居る者達は、平和を願って集まった物たちばかりだ。

龍翠と水面の話に悲痛な表情を隠せない。

「ですが、董卓たちの命は助ける事は出来ます。」

 

だが、その龍翠の言った言葉に、皆が首を傾げる。

 

「向こうに居る僕の親友、何進将軍に文を送っています。 彼の武は中々の腕がありますから、董卓達や帝についても心配する事は無いでしょう。」

「だが、関に居る兵達はどうなるのだ? 武将達は生け捕りにすれば良いが、それまでには絶対に兵達と戦わねばならない。」

 

進行するとしても、是だけの大きさの部隊となると、

それだけ大きな街道を通らなければならず、

必然的に関のある場所を通る事になる。

と言うことも含めた、冥琳の意見に、隣に居た水面は「大丈夫よ。」といって、こう続ける。

 

「隠密の情報によると、今関に居る兵達は殆どが十常侍達の兵達だけで、

董卓の兵達は親衛隊以外、故郷に返したそうよ。

しかも、こいつらは欲に目のくらんだ者たちばかりだから、

賊を相手にしているのと変わりはないわね。 好きに暴れてくれてかまわないわ。」

「なるほど。 ですが、董卓さんを知っている人はいるんですか? 出ないと、助けようにも助けられませんが……。」

「その点も問題ないわよ。 彼が直に彼女達に会ったこともあるから。 それに誰も知らなければ、どんな人物でも董卓と言う事になるしね。」

 

軍師達は、水面の言葉に、驚き感心していた。

 

「でも、此方の兵のことは如何するの? こんな無益な争いのために私達は兵を失いたくないわよ?」

「そのために、僕達が居るんですよ? 相手の将と兵達はすべて僕達が倒しますから、手柄が欲しい人たちは開けてあげますから、適当に関に入ってください。」

 

雪蓮が疑問に思った事を言うと、龍翠からとんでもない返事が返ってきた。

だが、その言葉からは絶対の自信が感じ取れた。

そして、「当たり前の事だよ」とでも言っていたかのようにも聞こえた。

とりあえず、汜水関は劉備軍、虎牢関は孫策軍、洛陽一番乗りは華琳達が務める事に決まった後、解散となった。

各諸侯は思っていた、たった四人で何が出来るのだろうと、

全員が不安に思っていたが、この後に不安が綺麗さっぱりと無くなることになる。

逆鱗に触れられた、怒り、荒れ狂う龍の姿を垣間見ることによって。

 

 

 

 

~同時刻別の天幕の中~

「そ、そんな……。」

「嘘だろ!?」

「うう……だから言わんこっちゃ無かったんですぅ……。」

 

顔良達は、龍翠に貰った巻物を見て途方にくれていた。

中に書かれていたのは、完全に証拠を掴んでいるから、然るべき処置を覚悟せよと言うもの。

しかも、間諜の名前と流した情報内容までびっちりと書いてあった。

さらに、これ以上状況を悪くしたくなければ、大人しくしている事、

開戦の銅鑼は龍の旗が左右に振られてから鳴らせ。

という内容も書かれていた。

 

「もうこれ以上、悪いことにならないように、何もしないで居よう……。 そして袁紹殿の行動も、厳しく取り締まろう……。」

「「うん……。」」

 

張郃こと巴の言葉に、二人は唯頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

~龍翠たちの天幕~

 

龍翠達は、軍議が終わった後、天幕に戻ってゆっくりしていたが、

 

「曹錬鳳殿はいらっしゃるか!」

 

不意に龍翠の事を呼ぶ声が聞こえた。 この声からすると、馬超の声だと思った。

龍翠は外に出ると、そこに居たのは馬超と彼女に似ている少女だった。

 

「はい、居ますよ? どうかいたしましたか?」

「先ほどは、軍議の手前挨拶も出来ずにすまなかった。 この前のお礼も、まともにしていないのに。」

 

と頭を下げて来た。 龍翠は、放浪している間に西涼にも寄っており、

そのさいに、五胡の大群を退けるのに加勢した事もあり、

その時滞在した時に馬騰の病に必要な薬を、調合して彼女は一命を取り留めた。

そのあと、日が昇ると共に龍翠たちは姿を消していて、

馬超としては礼が言いたくてたまらなかったのだ。

 

「いえ、良いですよ。 それより、お母様のご容態は如何ですか?」

「はい。 あの後より快方に向かい、今では現役時代と変わりなく槍が振るえる様になっています。 本当にありがとうございます。」

「そうですか、それは良かった。 ところで、そちらは?」

 

と、龍翠が話を振るとやっと話に加われると言った感じに、

 

「初めまして! 私は馬岱、馬超の従妹です! よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね。」

 

元気良く応える馬岱の頭を龍翠は優しく撫でる。

 

「えへへ///」

 

馬岱も擽ったそうにしているが、嫌そうには見えないが、

 

「……。」

「そんな顔しないで? ほら、よしよし。」

「え……あ///」

 

隣に居る馬超が羨ましそうな視線に気がついて、龍翠は馬超の頭も撫でてあげた。

撫でられて何だか嬉しそうな表情をしていたのは、本人も知る所ではなかった。

「本当に大丈夫なのですか?」

「うん? 何がだい? 関羽ちゃん。」

 

汜水関に向けて劉備軍と共に行軍していると、劉備軍の将関羽が龍翠に向かって心配そうな声を掛けてきた。

 

「戦いのことです。 相手の数は約五万、対する此方は二万と四人。 我等は加勢しないことを考えると、五万対四人ですぞ?しかも相手は関にこもることが出来る。通常その場合は3倍の兵が必要といわれているのですぞ?」

 

龍翠の疑問に答えるように、劉備軍のもう一人の将趙雲が、心配そうに応える。

そんな様子の彼女達に

 

「まぁ、何とか成りますよ。」

 

とまるで人事のように応える龍翠。

その様子に、とても周りは心配になってくる。

 

「それにしても、水面さんの教え子がこんな所に居るなんて驚きですね。」

 

さっきまでの話をすり替え、水面のほうを向く。

 

「そうね。 私が一番驚いたわ。」

 

水面は両脇に居る諸葛亮と龐統に視線を移して、そう言う。

当の視線を移した先には、

 

「はわわ……。」

「あわわ……。」

 

何故かオロオロしていた。

そんな仕草に保護欲が湧きたてられた龍翠は、

 

「う~ん。 な~で、な~で。」

「はわわ!?///」

「あわわ!?///」

 

可愛いものや、保護欲が湧き上がるものを見るとついなでてしまう癖が発動してしまい、最終的に―――。

 

「う~……。 もう無理!」

「はわ!?///」

「あわ!?///」

「はぁ……。」

 

ぎゅっと、少女達を抱きしめてしまった。

そんな様子に、変わらないなと言った感じに溜息をつく水面。

 

「そ、曹朋さん!?」

「あ~、大丈夫だぞ劉備。 あいつはああ言う、保護欲を駆り立てられるような奴を見つけるとな、ああなっちまうんだ。」

 

龍翠の行き成りの奇行に、劉備は目が飛びでる位に驚いたが、焔に心配ないと保証されて何とか納得した。

ひとしきり、抱きしめたり、撫でたりした後二人を其々の馬に戻した。

是で終わるかと思えたがその様子を、何だか頬を膨らませてみている人物が一人。

 

「むぅ~。 朱里達だけじゃなくって、鈴々も撫でて欲しいのだぁ~!」

 

その人物名を張飛と言う、見た目は子供だが、これでも立派な将軍。

構って欲しいオーラみたいなのを出して、龍翠にしてとせがむ。

その様子に関羽は、額に手を当てて天を仰いでいた。

勿論、龍翠は

 

「うん。 いいよ。 な~でな~で。」

「にゃは///」

 

構わず撫で、抱きしめて撫でての繰り返し。

そして一頻りし終わると、龍翠は張飛を元居た馬に戻した。

 

「さて、そろそろ着くようですし、関を護っている武将の事位知っておきましょうか。

では水面さん自慢の、伏龍鳳雛の二人に聞きましょう。」

「は、はわわ! え、えっと、汜水関を護っているのは華雄将軍でしゅ!」

「あ、あわわ! えと、董卓軍の中でも猛将で知りゃれ、兵達にょ人気も高かったようでしゅが、曹朋しゃんの言った通り兵が交代してしまった今でも、強敵である事は間違いないでしゅ!」

「「あう、かんじゃいました……。」」

 

二人の緊張気味の、かみかみの説明に龍翠はクスッと笑い、ありがとうと伝える。

そして前を見ると、もう目と鼻の先に汜水関があった。

龍翠は、持っていた龍の牙門旗を立ててから、左右に振った。

 

ドーン!!

 

それと同時に、開戦の銅鑼が鳴った。

一応、龍翠の指示にはしたがっているようだ。

 

「さて、それじゃあ、行くよっ!」

「ええっ!」

「応っ!」

「御意っ!」

 

龍翠の声に、水面、焔、颶柳が反応し凄まじい速度で、関まで走っていった。

「で? 実際の作戦は如何すんだ?」

 

走りながら、汜水関に向かっていると、焔が水面に話しかける。

 

「今回の作戦は、私じゃなくて龍翠君が担当しているわ。」

「うん? 作戦立案でお前が龍翠に譲るなど珍しいな。」

 

それはそうだ、彼は隊長であっても軍師と言うわけではない。

大分近付いて来たので、適当に先行するのをやめる。

 

「彼が、面白い事を言っていたのでね。 だから任しちゃったのよ。」

「面白い事?」

「ふふ、それでは作戦を始めましょうか。」

 

二人の会話に、龍翠がそう割り込むと、大きく息を吸い込み、

 

「菖蒲(しゃうほ)っ!!!! 僕はここに居るぞっ!! あの時の約束を果たしに来たっ!!」

 

と叫んだ。

 

 

 

 

 

~少し時間を戻して、汜水関~

「華雄将軍、敵陣営が進軍を開始しました。」

 

借りて来た親衛隊の兵が、報せを持ってやって来た。

 

「ああ。 しかし少数だな。 ……将は誰だ?」

「斥候が調べた情報によりますと、平原の相、劉備と言う者らしいですが……。 信じたくない情報も一緒に持ってきたようです。」

 

途端に暗い顔をしている親衛隊の兵に、眉を顰めて疑問に思った。

 

「言ってみろ。」

「『漆黒の龍の牙門旗』が有ったとのことです。」

「なっ!?」

 

確かにそれは信じたくないものだった。

十常侍の兵達は欲に目がくらみ、遊び呆けていた物達が殆どだから、知らないだろうが親衛隊である彼と、将である華雄は勿論知っている。

 

「もしそれが本当だとしたら、前線に旗が立って……「ドーンッ!」ん?」

 

銅鑼の鳴ったほうを見ると、先ほどまで緑色の劉旗しかなかったのに、漆黒の龍の旗立っていた。

 

「……か、華雄将軍。」

「我等の斥候は優秀だった様だ。」

 

外を見ると、4人が突出してきて殆ど目と鼻の先程の場所で止まり、その場所に旗を立てた。

そして緑色の髪の人物が大きく息を吸い込む仕草をしたかと思うと、

 

「菖蒲(しゃうほ)っ!!!! 僕はここに居るぞっ!! あの時の約束を果たしに来たっ!!」

 

と、叫んだ。

 

「なんだ? 何がしたい……「ははははっ!」か、華雄将軍?」

 

親衛隊の兵は、何がしたいのか分からなかったが、隣で行き成り笑い出した華雄に目を開いて驚き、彼女が笑い終わると、自分の方をむき、

 

「いや、すまない。 何故、守る事が得意ではない私が、ここに配置されたか今やっと分かった。 くくっ、何進将軍も人が悪い。」

「は、はぁ。」

 

その言葉に、要領を得ない親衛隊兵。

だが次の言葉は、さらに予想外だった。

 

「私は是より、十常侍の兵を全て連れて戦場に出る。

お前達親衛隊は、私達が出払った後門を閉めて鍵をかけたら、此処から撤退しろ!」

「な! 何故ですか!?」

「是は命令だ。 お前達は、戻って我等が将軍の策を成功させるのだ。 行けッ!」

「は、はっ!」

 

そう言うと、親衛隊兵は走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~汜水関前~

 

SIDE劉備陣営

 

 

劉備陣営は、どのようにして敵を出すのかと言うことで論じていたのだが、

その時、たまたま汜水関の方を見ていた趙雲が汜水関の変化に気がついた。

 

「んむ? なぁ愛紗よ。 汜水関の方に動きがあるようだが?」

「動き? ふむ、華雄将軍が突出してくると言うのだろうか?」

 

関羽のその言葉に、趙雲は眉を顰めてこう答えた。

 

「そうなれば、楽なのだが砦という絶対有利な条件を捨ててまで突出してくるなど、まさか其処までの愚考は犯すまい。」

「それはそれで難儀な事だがな。……とりあえず様子を見るか。」

「ああ……と言っている間に、開門したな。旗は……華、の一文字。 華雄だな。」

 

龍翠の言葉に誘われて、砦より出て来た華雄を見て関羽は溜息を一つついて、

 

「……なぁ、星よ。」

「なんだ?」

「我等が、今頭を捻って作戦を考えようとしていたのが、こうも無駄になるとは空しく無いか?」

 

その言葉に、趙雲も同じく溜息をついて

 

「贅沢を言うな。 敵が突出してくれるなら、それこそ大助かりではないか。 だが、確かに空しくは有るな。」

「「はぁ……。」」

「溜息をついている場合ではありませぇん!!」

「このままでは、五万の軍勢にあの四人があの中に飲み込まれちゃいますよぉ!」

 

と溜息をついている二人は、ちびっ子軍師二人の声にハッとなり群を纏めて助太刀に意向としたが、行軍の途中に目の前に広がる風景に足を止めざる終えなかった。

SIDE鮮血の龍

 

 

「ね? 言った通りになったでしょう?」

 

得意げに話す龍翠に周りは、溜息をつき、水面は軍師として龍翠に解を求める。

 

「でも、さっきの真名でしょう? 何で貴方が彼女の真名を知っているのよ? しかも約束って何?」

「真名を知っていたのは、僕が……まぁ、色々と有って僕が彼女に真名を付けてあげたんだ。

その時に彼女が僕の弟子になりたいって言い出して、根気に負けて弟子にしたんだけど。

そんで約束と言うのが、『また会ったときには、強くなって僕と一対一の一騎打ちをしようね』って言う師と教え子の約束てことかな?」

 

ととんでもない事を、何でも無い様に言う龍翠だが

龍翠の武と知を知っている彼等は目を見開いて驚いている。

 

「なぁ龍翠。 もし俺達が此処に居なかったら後ろの連合どうなってた?」

「多分、菖蒲との戦だけで、劉備軍と、公孫賛軍は壊滅的打撃を受けて、連合の兵は総数の5分の1は失って、虎牢関か都の真ん前で壊滅。 しかも、是は菖蒲は生還したと仮定して。 菖蒲の生還を考えないのなら、この戦いで3分の1は居無くなって、同じく虎牢関で壊滅していただろうね。」

 

とさらっと恐ろしい事を言う龍翠。

どちらにしろ、自分達が居なかったら連合は壊滅していたと言う事だ。

 

「ま、今は過程の話より現実の話しだ。」

 

そう言って前を見ると、其処には華雄こと菖蒲が立っていた。

 

「……師匠。 お久しぶりです。」

「ええ。 本当に。」

 

5万の軍勢など無視して、対峙する二人。

不意に華雄が、龍翠の方に行き、龍翠もそれを笑顔で迎え、こう言う。

 

「さて、一人頭1万って所だけど、大丈夫?」

 

その龍翠の言葉に、何やらざわめき出す十常侍の兵達。

そして、龍翠の周りにいる3人は、

 

「戻ってきて来たばかりの私達に、行き成り1万? 冗談きついんじゃない?」

 

水面は笑ってそう言って、大きさは四尺程もある愛用の黒い鉄扇『龍翼(ロンユィ)』を構える。

 

「はぁ。 ま、勘を取り戻すくらいにはなるんじゃねぇ?」

 

焔は苦笑しながら、大きさ一丈半はある黒い鉄鞭『龍尾(ロンウェイ)』を肩に担ぐ。

 

「私は、鮮血の龍を離れても鍛錬をして来た。 肩慣らしにもならんだろう。」

 

颶柳は無表情にそう言って、両腕につけてある真っ黒い籠手「龍爪(ロンザオ)」で拳を握る。

そして、菖蒲も五万の軍勢の方をむき

 

「私は、誇りある董卓軍の将だっ! 貴様等腐った十常侍の犬どもなど、1匹たりとも生かしてはおかんっ!!!」

 

菖蒲のその言葉に、鮮血の龍全員がそして菖蒲自身も、五万の軍勢めがけて殺気をぶつける。

どうしてだろうか、たった5人に五万の軍勢がざわめき動揺している。

そんな敵軍の様子など気にせず、菖蒲の言葉に満足した龍翠は、笑顔を向けその後、

漢の顔へと変えてこう言う。

 

「よく言った、菖蒲。 さぁ、……始めようかっ!」

 

龍翠の掛け声に、全員は五万の軍勢に突っ込んで行った。

SIDE司馬徽

 

 

「さぁ、私の舞を御覧なさい。」

 

水面は悠然と敵の前まで行くそして、彼女は舞う。

 

その巨大な鉄扇を自在に操り、敵を斬る。

 

その瞳も表情も、氷のように冷たく、彼女は何も言わない。

 

「ひいぃ……」

「た、たすけ……。」

 

彼女の舞に慈悲など無い。

 

「ひぃあ……。」

「ああぁぁ……。」

 

有るのは、殺戮と粛清。

 

彼女が舞うたびに、紅い雨と共に人だったものの肉片が降り注ぎ大地を紅く紅く染め上げる。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!、向こうに抜け……。」

 

彼女を振り切って行こうとする者たちも居たが、殺された事を理解しないまま肉片に変わる。

 

誰も、彼女の舞からは逃れる事は出来ない。

 

「くそっ!! 開けろ!! 門を開けろっ!!」

「何でだっ!何で開かねえんだっ!!」

 

戻っても関の扉は閉まったまま開かない、中には開ける者が居ないのだから。

 

彼女の舞はとまることは無い。

 

ただただ、舞の流のままに敵を切り裂き、物言わぬ肉片へと変えて行く。

 

彼女こそが鮮血の龍軍師『舞龍』。

 

龍の翼の前には、何人たりともその姿を維持できず、唯逃げ惑うだけ。

 

 

SIDE太史慈

 

 

 

「おおっりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ブォォンッ!!

 

彼は、敵の集まっている場所に、その大きな鉄鞭を振るう。

 

「がっ!」

「ぎぇっ!」

 

彼の一振りは、雄雄しく、荒々しい。

 

彼の表情から伺えるものは、怒り。

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

ヴゥンッ!!

 

「ひいぃっ!」

 

まるで燃え上がり噴出す様な、怒り。

 

たとえるなら、彼は焔。

 

「ああああああぁぁっ!!」

 

グォンッ!!

 

「ぎっ!」

「げぇっ!」

 

その一振りに、吹き飛び散らす命は100ではすまない。

 

それは正に、彼の得物の巨大さ故、立ちはだかる巨大な暴力の壁。

 

その壁を超えて行こうとする者達は、忽ちに肉片へと姿を変える。

 

「おおおおあああぁぁぁぁっ!!」

 

とどまる事を知らぬ、粛清の鉄槌が、全てを押しつぶす。

 

彼こそが鮮血の龍切り込み『暴龍』。

 

荒れ狂う龍の尾の力の前に、唯ひれ伏すしか術は無い。

 

 

 

SIDE臧覇

 

 

 

「ふんっ。」

「ぎゃっ!!」

 

彼は、適当に敵の兵をその手に掴み、振るう。

 

「はっ!」

「がぁぁっ!!」

 

そして、武器として使えなくなったら、それを敵の固まっている所に向かって投げ飛ばす。

 

脇を通っていこうとする者は、彼本来の隠密の速度によって掴まり、武器にされる。

 

「ふっ!」

「ぐぎゃっ!!」

 

だが彼の表情は、無表情。

 

宛らそれは、変化の無い闇。

 

掴み、

 

「ふんっ!」

「ひいぃっ!」

 

振るい、

 

「そらっ!」

「あがっ!」

 

投げ、

 

「はっ!」

「ぐあっ!!」

 

握りつぶす。

 

「おらっ!」

「が……。」

 

其処に広がる絶対無慈悲の恐怖。

 

彼の侵攻を阻める者は、今ここには居ない。

 

彼こそが鮮血の龍隠密『恐龍』

 

迫り来る龍の爪の恐怖からは、誰一人とて、逃れる事はできない。

 

 

 

 

SIDE龍翠

 

 

「破ぁぁぁぁぁっ!!」

 

彼の戦い方は美しくも荒々しい。

 

彼の新武器『玖頭龍牙龍』これは、鞘と鎖と剣からなる。

 

剣のみの場合の名は、壱頭龍と言い、形態によって頭の数字が変わる。

 

今は、剣のみしか使っていないが、それでも敵の兵は

 

「にげ……。」

 

避ける事も、

 

「があぁぁっ!!」

 

受け止める事も出来ない。

 

だから彼は戦場を、縦横無尽に翔ける。

 

走り抜けるのではない。

 

飛び、跳ね、翔ける。

 

宛ら、龍が天を翔け抜け獲物を食い散らしているようだ。

 

彼こそ、鮮血の龍小隊長『天龍』。

 

後に残っているのは、龍の牙に食い散らされた、肉片と血の池のみとなる。

SIDE劉備軍陣営

 

 

劉備の陣営は目の前に起こっている現状に、そこに居た全員がついて行くことが出来ずに呆けていた。

 

「何を全員で呆けているの。」

「やっほー。 劉備ちゃん。」

「そ、孫策さんと、曹操さん。 と、そちらは?」

「孫策の母の孫堅よ。」

 

其処に、孫策こと雪蓮が黄蓋と冥琳を、華琳が夏侯姉妹を連れてやって来た。

ちゃっかりと、母の美蓮も来ているが。

彼女達も、やはり龍翠のことが気になったのだろう。

 

「しっかし、強い強いとは思っていたけど……。 まさか鮮血の龍とは分からなかったわ。」

「鮮血の龍は色々有って全員、兄さんが集めたのよ。 私達曹魏の軍の中でも、知っているのは私と、夏侯姉妹と我が軍師の荀彧ぐらいだったもの。 知らなくて当然よ。」

 

苦笑しながら言う雪蓮の言葉に、華琳はさも当たり前のように言う。

 

「私も、長年武将をしているけど……鮮血の龍なんて誰も服装以外、顔も知らないから、眉唾の物だと思っていたわ。

しかも、あの華雄ちゃんが龍翠君の弟子とはねぇ。」

「うむ、儂もじゃ。 一人一人が3万の軍勢を相手に出来るなんて、堪った物ではない。と、思っておったが、本当にとんでもない……お? そろそろ決着が着いたようじゃな。」

 

孫堅が年をかんj「それ以上言うと殺すわよ?」……け、経験豊富な言葉を言い、黄蓋も当時、噂になっていた鮮血の龍を思い出しながら言葉を発する。

そして丁度その時、十常侍の全兵が片付け終わっり、菖蒲と龍翠が対峙していた。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……し、しょう、い、ま、やく、そくを、は……たし……ます。」

 

なぜか、菖蒲は物凄く疲弊していた。

全身で息をし、体中からは汗が吹き出ていて、立っている足は震えており、

得物を杖にやっと立っている状態で、今にも意識を手放してしまいそうだった。

 

「分かった。」

 

龍翠はそんな状態の菖蒲に近付いて、首の後ろに手刀を叩き込む。

 

「あ……。」

 

崩れ落ちる菖蒲を、片手で抱きとめ、背と膝の裏に手を入れて抱える。

所謂お姫様抱っこと言う奴だ。

そして、彼女を抱えたまま、劉備の陣営に歩いて行く。

龍翠は菖蒲が意識を手放し、崩れ落ちる瞬間、彼女の耳元に顔を寄せこう囁いていた。

 

「僕の勝ちだよ菖蒲。 後は任せて。」

 

 

SIDE連合軍

 

疲労困憊の菖蒲の様子に首を傾げる周瑜こと冥琳。

 

「何故、華雄は、ああまで疲弊していたのだ?」

「華雄は兄さんを師と仰いでいるから、兄さんの使う『業』を使っているからだと思うわ。」

 

その冥琳の呟きに、華琳が応える。

華琳の言葉を聞いて、

 

「『業』? 『技』じゃないの? 曹操ちゃん?」

「華琳で構わないわ。 あの書には、貴女達の真名が書かれていたのだから、私が教えないのは不公平だもの。」

「そう。 じゃあ私も美蓮で構わないわ。」

「私も、雪蓮で構わないわよ。 で? もったいぶらずに教えてよ。」

 

好奇心の強い孫親娘(おやこ)が、興味津々といった感じで聞いて来た。

その様子に、周りに居た臣下達は溜息を付きそうになったが、ちゃっかりと耳をそば立たせている。

勿論、それは劉備の陣営でも興味津々に盗み聞きしていた。

 

「兄さんの業は、『龍技』と呼ばれる名で、兄さんが独自に編み出したものよ。」

「『龍技』か。 それでそれで?」

「『龍技』の基礎は、先ず『無拍子』が戦っている間、常に発揮出来る様になる事から始まるのよ。」

「「!?」」

「何? その『無拍子』って?」

 

華琳の話した内容に、孫堅、黄蓋は驚き、周りのものは何のことか分からないで居た。

雪蓮の発した言葉に、母の孫堅が口を開いた。

 

「無拍子、それは行う動作の予備動作を完全に無くし、次の動作に移る事よ。 華琳ちゃんが『業』と証したのも頷けるわ。」

「「「「「「!?」」」」」」

 

孫堅の言った事に、そこに居た曹魏以外の全員が驚く中、

 

「??? 鈴々ちゃんわかる?」

「分かん無いのだ!」

 

誰とは言わないが、劉備軍のあんまり頭の良くない組が、頭の上に?を浮かべる。

そんな様子を見て、家臣の関羽は溜息を一つつき、美蓮は苦笑をして説明を付け加える。

 

「つまり、直立不動の状態から、いきなり全速力で走り抜けたり、飛び跳ねたり、

振り下ろした剣を振り下ろした瞬間に、また振り上げると言った物よ。 勿論、威力はそのままにね。」

「あ、あのお兄さんそんな事が出来るの!? すごぉ~いっ!」

「にゃ~。 なんとなくしか分かん無いけど、凄いのだぁ!。」

 

美蓮の話に、劉備は大げさに驚き、張飛はなんとなくわかって此方も大声を上げる。

と、そんな事をしている間に、龍翠たちは彼女等の元に戻って来た。

「ただいま。」

「お帰りなさい。 兄さん。」

 

帰ってきた龍翠を迎えたのは、家族の温かい笑顔だった。

その笑顔に、龍翠もまた、笑みをこぼす。

 

「とりあえず、華雄はウチが預かる事にするわ。 春蘭、秋蘭、彼女を我が軍の天幕に。」

「「御意。」」

 

龍翠の抱えている菖蒲を、華琳は春蘭と秋蘭に命じて、自軍の天幕に運ばせた。

そんな時、おずおずと龍翠に劉備が、話しかけて来た。

 

「あ、あの錬鳳さん……。 お疲れ様でした。」

「ああ、ありがとう。」

 

労いの言葉をかけてくれた劉備に対して、龍翠は笑顔で返事を返すと、

 

「うぅ……///」

「あ……うぅ///」

「にゃ~///」

「ほぉ……///」

「はわわ///」

「あわわ///」

 

劉備陣営の武将と軍師達は顔を真っ赤に染めていた。

そのことに龍翠に首を傾げていたが、華琳たちは、またかよと思っていた。

と、龍翠が、何か分かったような顔になり、そして悲しそうな顔になった。

 

「やはり、怖いですか?」

「え?」

「いえ、皆が大人しくなっていたようなので……。 やはり僕は怖いのかと……。」

 

何を勘違いしたのか、龍翠は自分の鬼神のような戦いぶりを見て怖がらしてしまったと感じたようだ。

 

「そ、そんな事はありませんっ!!」

「え?」

「あ、えと、行き成り大きな声を出してすいません。」

 

そんな龍翠の言葉を大きな声を出して、否定する劉備。

龍翠は、意外だったのか少し驚いていた。

 

「えと、確かに少し驚きはしました。 でも、錬鳳さんは怖がってなんて居ません。」

 

劉備達は龍翠の武を見ても決して怖がっては居なかった。

それを笑顔で、龍翠に伝える劉備。

そして、劉備は「それに」と続け、

 

「綺麗な笑顔が出来る人を怖がるなんて、ありません。」

 

と、笑顔で言う。

その劉備の言葉に、龍翠は面食らったようになり、そのあと笑いながらこう言った。

 

「くすくす。 貴女みたいな人は、この大陸には希少なんですが……僕の周りにはそんな人が多いようですね。」

 

と、龍翠は、そんな"希少な人たち"を見ながら言う。

その視線に、その人物達は、何を当然な事をと言った表情だ。

こほんと龍翠は居住まいを正すと、劉備の方を向き、

 

「心地よい思いをさせてもらったお礼に、1つ『伝説』を見せてあげるよ。」

「『伝説』?」

「うん。 汜水関の門の前に来て。」

 

そう言って、龍翠は汜水関の門の前に歩いて行く。

そんな龍翠を追いかけるように、劉備たちは軍を整えついて行った。

勿論、華琳たちもそれについて行った。

 

 

 

 

 

 

高く聳える巨大な門の前に、龍翠は一人立っていた。

 

「一体何を始める気かな?」

「多分、アレね。」

 

劉備が呟いた言葉に、華琳は律儀に答える。

 

「アレって、何ですか?」

「言ってしまっては面白くないでしょう? 大丈夫。 見ていれば、分かるわ。」

 

何人かは、華琳の発言で龍翠が何をしようとしたのか分かった者が居たが、

聞いたのにはぐらかされた劉備は、不満そうに頬を膨らませて講義するが、華琳には聞き入れてもらえなかった。

 

「はぁぁぁ……。」

 

ゆっくりと龍翠は、息を吐き自然体の状態で、目を瞑る。

 

カッ!

 

そして、カッと目を開くと、龍翠の身体から金色の氣の様な物が噴き出て来た。

 

「な、何と言う氣じゃ!?」

「凄いわね。 こんなの私じゃ出し切んないわよ。」

 

龍翠の身体から噴き出る氣の量、密度に元呉王と宿将は舌を巻いていた。

そんな後ろの、様子など気にせず龍翠は、門に手をつきそして

 

「はあああああああっ!」

 

押した。

その様子に、劉備の兵達は何してるんだ? と言う視線を向け、中には失笑している物も居たが、次の瞬間―――。

 

「おあああああっ!!」

 

ギ、ギ、ギィィィィィ……。

 

閉まっている鍵をひしゃがせながら、門が動き出したのだ。

その様子に、全員が驚愕の表情に染まる。

 

「う、うそぉ~~~っ!!!」

「な、なんとっ!」

「にゃ、にゃ~~っ!? も、門が動いてるのだっ!?」

「……この趙子龍、こんなに驚いたのは、今まで生きて来た中で始めてだ。」

「はわわ! 凄いでしゅっ!」

「あわわ! 凄いでしゅっ!」

「相変わらず凄いわねぇ、龍翠君。」

「流石に、切り込み役の俺でも、是は無理だな。」

「と言うより、龍翠殿以外にアレは無理だろう。」

「……ねえ祭。 貴女私と一緒にあの門開けてみる?」

「馬鹿を言わんでくれ。」

「……ねえ冥琳。」

「二度ネタはダメだぞ雪蓮。」

「ちぇ。」

「始めてみたけど……是ほどなんて。 どれだけ非常識に成れば、気が済むのよ、兄さん。」

 

其々が、驚愕の余り、大声を上げるか、呆けて見入っている。

 

「んあああぁぁぁっ!!!」

 

ギ、ギ、ギ、バキッ!

 

「ああああああぁぁぁぁっ!!!!」

 

ギィ~~~~。

 

恐らくかぎが折れる音だろう。

それが響き渡った後、スムーズに門が動き、

 

「はぁっ!!」

 

ガゴォォォンッ!

 

完全に開いた。

龍翠は後に語られる、『魏龍伝』に、また新しく伝説を記したのだった。


 
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