No.823897 遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・一話月千一夜さん 2016-01-09 00:28:18 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:4159 閲覧ユーザー数:3756 |
深い・・・深い微睡の中
声が、聴こえた気がした
“おい!
大丈夫か!?
しっかりするんだ!”
それが誰のものなのか
“彼”にはわからない
今までとは違う・・・夢とは違う、知らない声
“いかんな・・・相当弱っておる”
“なんじゃと!?
な、■■、何とかするんじゃ!!”
“そ、そんなの無理ですって~!”
これは、いったい何なんだろう?
何が、起きているのだろう?
“ええい、慌てるな!
ひとまず街へ・・・天水へと戻るぞ!!”
“よし、それなら儂が抱えて・・・い、いかん”
“おい、どうした■!?”
“酒が切れて、手が震えて・・・”
“うおおおおぃぃぃぃぃいいいい!!!??
お前、もう酒禁止いいぃぃぃぃぃいいいい!!!”
“なんじゃとおおぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!??”
わけが、わからなかった
何も、わからなかった
“ええい、何を言い争っておるかーーーー!
早う、街へと帰るのじゃ!!”
“■■様の言うとおりですよ!
急がないと、手遅れになっちゃいますよ!?”
ただ何もわからないままに、慌ただしく進んでいく会話
“彼”はその状況の中、ふと思い出す
繰り返す、夢の中
出会った・・・一人の“少年”のことを
“彼”は、思い出していた
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第一章 第一話【そう、呼ばれていたから】
ーーー†ーーー
「ん・・・」
漏れ出した声
か細く、小さな声
それが自分のものだと気付くのに、“彼”はしばらくの時を必要とした
「ぁ・・・」
それから“彼”は、恐る恐るその両目を開いていく
ジワリと、光が目に沁みた
そうして広がっていった視界の中・・・“彼”は、ある光景に目を奪われる
「むにゅ・・・」
それは“黄金色の髪”
日の光を浴びキラキラと輝くその色に、“彼”は見とれてしまったのだ
それと同時に、彼は声を漏らしていた
「■■・・・」
直後、“彼”はそれを“忘れてしまう”
今自分がなんと呟いたのか
“誰の名前を呼んだのか”
それを・・・“彼”は、忘れてしまったのだ
「んむ・・・?」
そんな“彼”の視線の先
ふいに、金色の髪をした少女はモゾモゾと体を動かした
しばらくして、少女は短い欠伸と共に体を起こし・・・
「・・・」
「ん?」
その視線を、“彼”へと向けた
無言のまま見つめ合う二人
やがて・・・口をパクパクとさせたまま、少女は“彼”のことを指さした
「・・・?」
“彼”はというと、その意味がわからずに首を傾げている
そんな“彼”を見つめたまま、少女はゆっくりと口を開いた
「目を・・・覚ました」
「・・・?」
「七乃!!
目を覚ましたのじゃーーーーー!!」
相変わらず、首を傾げたままの“彼”もそのままに少女は慌てた様子で部屋を飛び出していく
ポツンと、一人残された“彼”
“彼”はどうしたものかと、スッと視線を窓へとうつした
「ぁ・・・」
そこに広がっていたのは、何処までも広がる青
“蒼天”
“彼”はそんな空を見上げたまま、ポツリと小さく呟く
「行か・・・なくちゃ」
“行かなくちゃ”
そう呟き、“彼”はグッと自身の体に力を込める
ゆっくりと、起き上がる体
いける・・・そう思い、彼はその場から立ち上がろうとする
だが、次の瞬間・・・
「駄目なのじゃーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「っ!!!!???」
“ゴッ!”と、腹部に激しい衝撃がはしった
それが先ほどの少女によるものだと気付いたのは、“彼”がその衝撃のあまり倒れていった先
寝台の角へと思い切り後頭部をぶつけた後のことだった
ーーー†ーーー
「ごめんなさいなのじゃっ!!」
部屋の中
一人の少女が、“彼”に向かい大きく頭を下げていた
金色の美しい髪が、フワリと揺れる
その少女の様子を見守るように、三人の女性が苦笑しながら立っていた
一人は青い髪をした、ニコニコとした表情の女性
もう一人は銀色の髪をした、目つきの鋭い女性
最後の一人は胸元に痛々しい傷をもつ、妙齢の女性だった
そんな状況の中、謝られている“彼”はというと・・・
「・・・?」
相変わらず、首を傾げていた
ただし、先ほどぶつけたところをおさえながらだが
「その・・・許してくれるかの?」
「・・・」
少女の言葉
“彼”は無言のまま、少女を見つめていた
「駄目、かの?」
「・・・」
その反応に、不安そうなまま少女は問いかける
しかし、“彼”は未だ無言のままだった
「あ、あの・・・」
「・・・」
無言・・・
「その、な?」
「・・・」
無g・・・
「七乃~~~~!!」
「あらあら♪
美羽様、嫌われちゃいましたね~♪」
「・・・?」
やがて・・・この無言の空気に耐えられなくなったのか、少女は半泣きのままニコニコしたままの女性へと抱き着いた
その様子を、“彼”はまた首を傾げながら見つめている
「そう、怒らないでやってくれないか?
アイツも悪気があって、お前に突っ込んでいったわけじゃないんだ」
「そうじゃぞ
ただ起きたばかりのお主が無理に歩こうとしたから、慌てて止めようとしただけなんじゃ」
そんな彼の傍に、二人の女性が歩み寄りそう言った
“彼”は、その言葉に返事をしない
ただ黙って、歩み寄る二人のことを見つめていた
「・・・」
「お主・・・どうかしたのか?」
流石に様子がおかしいと思ったのか、二人のうち一人・・・妙齢の女性が眉を顰め尋ねる
もう一人の女性も、その様子に心配そうに“彼”を見つめていた
「・・・って」
「む?」
やがて、ようやく“彼”は口を開いた
だがしかし、その声はあまりに小さく聞き取れない
そのことに気づいたのか、“彼”はスッと二人の瞳を見据えた
「「っ・・・!?」」
瞬間・・・2人は身震いする
何故?
その理由は、彼女達自身にもわからない
ただ気づいた時には、2人とも一歩足を引いていたのだ
「・・・だ」
そんな二人のこと様子など知らぬまま、彼は再び口を開いた
その口から紡がれた一言が、さらに二人のことを驚かせるなどと気づかないままに・・・
「“怒る”って・・・なんだ?」
「え・・・?」
それはいったい、誰が漏らした声だったのか
それすらもわからないほどに、その場にいた彼女達は驚いていた
今、“彼”言った言葉
その意味が・・・彼女達には、よく理解できていなかったのだ
「お主、今なんと・・・」
恐る恐る・・・震えた声のまま、女性は“彼”へと声をかける
しかし、“彼”は無表情のまま窓の向こうを見つめていた
何事かと女性も合わせるよう視線をうつす
そこには、気持ちの良い蒼天が広がっていた
「行かなくちゃ・・・」
「!?」
ふいに、再び“彼”は呟いた
それと同時に、寝台から立ち上がろうと体を起こし始める
その体は、小さく震えていた
やがて・・・耐え切れなくなったのか、“彼”はその場で倒れそうになる
「ぁ・・・」
「な、何をしておる!?」
そんな“彼”の体を慌てて支えたのは妙齢の女性だった
彼女はそれからすぐに、“彼”の体をゆっくりと寝台へと寝かせ深く息を吐き出す
「お主は、まだ歩けるような状態ではないのじゃぞ?」
「行かなくちゃ・・・」
彼女の言葉に反応しないまま、“彼”は先ほどと同じように呟いた
グッと、再び立ち上がろうと体を起こしながら
それに、女性は表情を歪めた
「なんじゃ?
お主は、何故そこまでして・・・」
言葉は、そこで止まってしまった
“彼”が、見ていたからだ
真っ直ぐと、女性の瞳を・・・
「忘れてきた・・・ものが、あるんだ」
「忘れてきた・・・もの?」
ポツリと、こぼれ出た言葉
“彼”はそれから、震える手を窓へと・・・その先に広がる蒼天へと伸ばした
「遥か彼方・・・蒼天の向こう
俺は・・・取り戻さなくちゃ・・・いけないんだ」
ふいに・・・ガクリと、“彼”の手が下がる
一体なぜ?
そう思ったのは、他ならぬ彼自身だった
“彼”は不思議そうに自身の手を見つめていたが、その様子に女性は我に返り溜め息を吐きだした
「理由はわからんが、お主の体は相当弱っていた
それこそ、何年もの間眠っていたかのような・・・そのような状態で、三日前に森の中で倒れていたのじゃ」
「・・・?」
首を傾げながら、“彼”は再び体を動かそうとする
しかし、中々思うように動かない
その様子に、彼女達は苦笑を浮かべていた
「その様子では、お前自身もよくわかっていないようだな」
「ですね~、先ほど気になることも仰ってましたし」
二人の言葉に、“彼”は無表情のまま息を吐きだしていた
それから、再び窓の向こうに広がる空を見つめる
「あの・・・のう?」
「・・・?」
ふと、“彼”は自身の耳に入ってきた声に首を傾げた
声は“彼”のすぐ傍・・・寝台の前に立つ、先ほどの少女からだった
「さっきは、すまんかったのじゃ」
「・・・」
申し訳なさそうに、頭を下げる少女
それに対し、“彼”は困ったように眉を顰める
どうしたらいいのか・・・わからないのだ
“彼”は、少女の言葉に対してどう返したらいいのか
何も、わからなかった
だがしかし、そんな“彼”に対し・・・少女は、眩いばかりの笑顔を向けたのだ
それはさながら、温かな光の様で
“彼”は、知らずのうちに目を細めていた
「妾はえんj・・・コホンコホンッ!
“美羽”というのじゃ!
お主の名は、なんというんじゃ?」
言って、少女はまた笑う
“彼”はその一言に、スッと瞳を閉じた
そして、思い出す
あの、繰り返してきた夢の中
その最期・・・出会った、一人の“少年”のことを
「俺は・・・」
その少年が呼んでいた、自身の名前のことを
“彼”は思い出す
あの蒼天の下・・・交わした握手を
託された、温かな想いを
そして・・・“彼”は、その瞳を開いたのだ
「“一刀”・・・そう、呼ばれていた」
窓から差し込んだ光りに照らされ、“彼”は・・・“一刀”は答える
その名は、本当に自分のものなのか?
一刀には、それすらもわからない
しかし、今はこれでいい
彼はそう思い、一人蒼天を見つめた
“夢・・・じゃ、ない”
そして、彼は思う
ここは違う
今まで見てきた夢なんかじゃない
これは、間違いなく・・・
「うむ、良い名じゃな・・・一刀♪」
「・・・?」
晴れ渡る、蒼天の下
眠っていた“彼”は、ようやく目を覚ました
そしてこれが、何を意味するのか
今はまだ・・・彼らには、わからない
わからないままに、物語のページは新たに紡がれていく
今、この外史に・・・白き光が、静かに灯ったのだ
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改訂版、一章の一話です
これを書いたのは、今から三年くらい前らしいですよ、怖いですね(震え)