恋姫†無双
~乗り越えなければならないもの~
『忘れ物と置き土産』
目的地の最寄りのバス停には昼前に到着した。
当初はバス停自体残っているかどうか心配だったが、それは杞憂に済んだようで何よりだった。
当然のことだが、今はほとんど使われずに寂れてしまったバス停で自分たち以外に降りる人はいない。
そこからは少し長めの徒歩だ。
ありがたいことに、バス停から先の道はまだ誰かが整備してくれていたようだ。
雑草こそ生えているものの、獣道よりはマシな道が顔をのぞかせていた。
そこからしばらくして、俺は遂に………主観時間にして実に二十数年ぶりに、そこに足を踏み入れた。
とある片田舎の森の奥深くに、小さな、とても小さな村…『南郷の里』がある。
かつて畑が広がっていた場所は、今では雑草が生い茂り、ほぼ完全に自然に還ろうとしている。立ち並ぶというほど多くもなかった旧時代的な家々が、帰ってくる主のいないもの悲しさを語るように、その身を時間に蝕まれながら今も静かに建っていた。
そんなかつての村のはずれに、ひときわ目立つ建物がある。
かつて立派な武家屋敷だった建物だ。
そして………そこがかつて、北郷一刀と南郷拳無が切磋琢磨し、己の全てをぶつけ合うように試合った場所………幼少時代の何割かを過ごした南郷本家の跡地だ。
一刀はそのまま南郷家の敷地、塀の向こう側に入っていく。
愛紗は廃村という言葉がしっくりくるような場所が、この国にあるという事実にいささかショックを受けていたようだが、一刀に置いて行かれると彼女は帰れなくなってしまうので、彼女は慌てて一刀の背中を追っていく。
もっとも、一刀が愛紗を置いて行くことなどあり得ないし、愛紗も別に本当の意味で帰れなくなるわけでもないが、彼女の「怖いものが苦手」という性格が、僅かながらにでも彼女を焦らせているようだ。
家には入らなかった…というより、正確には入れなかった。当然のことだ。いくら人がいないとは言っても、ここは元南郷家の建物なのだし、そもそもどこの廃村であっても鍵がかかっているものだ。
だからと言って一刀は別に落ち込んだりするわけもなかった。少し残念ではあったが、そもそも望みが薄いことぐらいわかっていたことだ。一刀の目的はこの建物の裏だ。途中に古風な蔵が建っていたが、今はそこに用はない。
一刀が向かったのは雑草の生い茂る、少々広めな裏庭だった。
愛紗に「ちょっと待ってて」と言うと、一刀は雑草の海に身を投じ、ものの数秒で姿を消してしまった。
残された愛紗はといえば、誰もいない廃村に一人取り残されたようなものなので、怯えていた。ちょっとした風の音や、虫の鳴き声で過敏に反応する姿はとても可愛いらs…ゴホンッ!とても保護欲をそそらr…ゴホンッ!とても身悶えしたくなるy…ゴホンッ!とても女の子らしかった!!
「ごめん愛紗、待った?」
ようやく姿を現した一刀にほっとした愛紗は、一刀の手に握られている物に気付いた。
「ご主人様、それは…?」
「ん?ああ、これ?鉈。この先には絶対必須だろ?」
そう、一刀は鉈を持っていた。鉈と言っても、錆付いているし、正直言ってボロボロすぎる。何年も雨風に曝されてきたのだろう。愛紗は知らないことだが、一刀はこの先にある秘密基地から鉈を取ってきたのだ。思い出の場所…大切な親友と作った秘密基地から。
既にその機能を全損寸前の鉈ではあるが、もしも一刀の目が向いている山が目的地なら、丸腰でいくのはあまりに無謀だ。主に道を塞いでいる植物的な意味で。草や多少の植物なら問題ないが、木やそれに類するレベルの植物の枝が道を塞いでいる可能性もある。
青龍偃月刀は現在北郷本家で絶賛待機中だ。愛紗達、外史組は自身の平和ボケに危機感を抱いてはいたが、「それが現代の普通だ」と一刀に言われてしまえば、慣れようと努力してしまうものだろう。だが今回に関しては、いささか以上に後悔している。青龍偃月刀なら鉈以上の性能で道を塞ぐ、仮にコンクリートの壁であっても問題なく破壊して通れたはずだ。
そこまで考えて、愛紗は一刀の手が小刻みに震えていることに気付いた。よく観察すれば、顔色も悪く、呼吸も心なしか早くなっている。一刀を良く知る愛紗でしか気付けないだろうが、一刀の汗に暑さや疲労とは違う種類の、言いようのない感情の含まれたものが混じっていた。その感情は恐怖、焦り、不安、悲嘆、哀愁のどれでもあり、どれでもないもの。
愛紗は一刀のその顔を過去に二度見たことがあった。
一度目は外史で彼が初めて戦場に立った日の夜。偶然通りかかった愛紗だけが見た顔。何度となく胃の中身を吐き出し、疲弊しきった顔。彼は初めての戦場で初めて人を殺めた時、決して目を逸らさなかった。常人なら目を背け…当たり前のことだと、必要なことだと自己に強固な暗示をして忘れようとするそれらを、北郷一刀は直視し続けていた。
二度目は外史での最終決戦前夜。陣から抜け出し、人気のないところでただ黙々と愛刀・平原北国白勇を手入れしていた彼の姿を見つけたのは、偶然ではない。彼を愛している愛紗だから見つけられたのだ。彼は見られたことに僅かに動揺しながらも、それでもそこを離れそうになかった。愛紗はただ、彼の隣に静かに寄り添った。何かをするでも、何かを話すでもなく…ただ一刀の隣にいた。
そして愛紗はこのとき、今や彼が
一刀が泰山の戦いの為にどれほどの策を練り、どれだけの伏線を張り、どれだけの手を打っていたのか…それは北郷十字軍の筆頭軍師、伏龍・諸葛亮孔明、朱里ですらその末端を把握し切れていない。常に隣に寄り添っていたはずの愛紗達の持つ情報を揃えてなおも、だ。
あの日、静かに隣に寄り添った愛紗は、今…………………
ギュ………!
「さあ行きましょう、ご主人様!急がないと日が暮れてしまいますよ!」
晴れ渡るほどの笑顔で、愛紗は一刀の手を取った。
突然のことに驚いた一刀だったが、彼の内にある感情が、手のひらを通じて別の暖かな感情に包み込まれていくのを感じた。
「…ああ、行こう愛紗。」
ザシュッ!
彼は鉈を一振りする。
それで周囲にあった邪魔な植物は一掃された。
彼の見上げたのは南郷家の裏山…北郷一刀と、南郷拳無の最後の思い出の場所だった。
だが当然、かつての獣道はほとんど面影を残していなかった。
獣たちが日々使う以上、道そのものがなくなっていたりはしなかったが、それでも道そのものは大分違う形をしていた。
時間と共に、地形も少しずつ変わっていくうえ、あのころと違って村に人が住んでいないのも関係しているだろう。
一刀は仕方なく、うろ覚えのかつての順路をひたすら切り開くことになった。
「愛紗…大丈夫?主に雑草とか虫的な意味で。」
「大丈夫です!と、言いたいところですが…今度はもう少し、まともな道を探しましょう…私も手伝いますから!」
「うん…俺も同じことを思ったよ…。」
仲良く手をつないで森の中を歩いているから歩きにくい………などという理由ではなく、本当にこの道はまともではない。
彼の幼いころには気付きもしなかったが、ここは何故だか異常に虫や雑草が多い。蜂の巣も見かけただけで既に5つもあった。登頂しきる前なのにこの頻度は異常だろう?実際、一刀が昔遊び場にしていたこの山の中には、人の立ち入りを禁止している場所もあり、幼少時代にそこに遊びに行こうと拳無を誘って拳無自身のゲンコツをもらったこともある。
「愛紗、ちょっと目を閉じてもらっていい?」
「はい?」
突然だった。
一刀は道の途中…だと思われるところで突然立ち止まった。
明らかに周りには何もない。だが愛紗に彼の言葉を拒否すると言う選択肢は湧いてこなかった。
「はい…。」
僅かな期待を胸に秘めながら静かに目を閉じる。
肩を抱かれ………………………どこかへ優しく引かれていく。
若干肩すかしのような気持ちになりながらも、大人しく彼について行く。
そして、彼が愛紗の背後に回った。
「愛紗、目を開けてもいいよ。」
この声を耳元で囁くのは間違いなく反則だと思う。
そんな愛紗の思いと関係なく、目の前の光景は衝撃的だった。
「これは………!」
彼女の目の前に広がっていたのは先程の村だった。
ここは村を一望できる最高のポイントであり、絶景という言葉がしっくりくる最高のデートスポットである。惜しむらくは、ここまでの道のあまりの険しさと、村が廃村になっていること、そして…この場所を知っている人間の少なさだ。
「良いとこだろ?」
一刀はまるで悪戯が成功した子供のような邪気のない笑顔で愛紗に言った。
だが愛紗は、その笑顔の後ろに隠されて微かな影を見逃さなかった。
「あの…ご主人様?」
「ん?」
「ここに来た理由を聞いても、よろしいでしょうか?先程の…村?かと思っていたのですが、人のいた気配が希薄ですし…最低限の手入れはされているようですが、十年近くは人が住んでいないように見えました。」
愛紗の疑問ももっともだ。むしろ、ここまでよく何も聞かずについてきてくれたものだ。洞察力も素晴らしいレベルだ。一刀はきちんと答える。愛紗に知ってもらいたい。愛紗と一緒になら乗り越えられると信じているから。
かつて日本の『武』を二分した二つの流派があった。
武器の北郷と無手の南郷…同じ起源をもつ二つの流派は、いつの時代でもこの国を守護する重要な『力』だった。
戦乱の時代を経ても世界最古の王族がその血統を守って来られたのも、遥かに進んだ力を持つ異国の使者に植民地にされずにこの国を維持できたのも、常識を遥かに逸脱したたった二つの流派の存在故だった。
しかし北郷と南郷はお世辞にも良好な関係とは言い難かった。
長く続いた反目の歴史…それに終止符を打ったのは、今から僅か半世紀ほど前…北郷陽天裂斬流、第三十七代当主北郷直刀と南郷陰地貫打流、第四十九代当主
時は、この世界における十年ほど前…北郷一刀の主観時間にして二十数年前の『あの日』まで、さかのぼることになる………。
「そこまで!勝者、南郷拳無!」
審判をやっていた眼帯の男性、
二人の少年、当時まだ子供だった一刀と拳無は距離を取り、互いに一礼した。
「二人とも、その歳の中ではそれなりに強い方になったようだな。」
拳仁はどこか不満げに二人の試合をそう評価した。
「「ありがとうございます。」」
二人は声を合わせて礼を言った。だが彼らの内心は全く違うところを向いていた。
二人はこの後、遊ぶ約束をしていたのだ。しかも、拳無がこの間見つけたという『とっておきの場所』を教えてくれるというので、一刀など全身から『楽しみオーラ』が出ている。
拳仁はそのことに当然気付いていたし、ずっと道場の片隅で座っていた白髪の男性、北郷直刀も言わずもがな。だが彼らはあえて触れなかった。ちなみに拳無は隠すことが不可能であると悟っていたので、この歳にして悲しすぎる無の境地に立っていた。
「今日の鍛錬はいい。この後は好きにしなさい。」
「「はい。ありがとうございました。」」
道場を背に、一目散に駆け出していく子供たちには、一切の穢れのない純粋な笑みが浮かんでいた。
山の中に入り、道もないのにどこかしっかりとした足取りで、先程の無手の少年、南郷拳無は先導していく。竹刀の少年、北郷一刀はその後ろから、おっかなびっくりについてきた。
そこには先程までの、年不相応な技量を持った少年たちの面影は既になく、年相応などこにでもいるヤンチャな子供たちだった。
「一刀!お前、強くなったな!さっきのアレ、かなりヤバかったぞ!」
拳無は草木をかき分けながら、一刀に先程の試合の感想を伝えた。
「ううん、拳兄ほどじゃないよ!っていうか拳兄、いくらなんでも強すぎるよ!さっきの必殺技、おじさんの技のアレンジじゃない?」
一刀はまだ自分の実力に自信がないようだ。だがしっかりと拳無の技を見ているあたり、十分に素質はある方だと言っていいだろう。
拳無としては、なぜ一刀が自分の実力に、素質に自信がないのかと首を捻じ曲げそうになりつつも、自分の強さを驕らない長所でもあるとも理解していた。だがそれでも、もうほんの少しでも自信を持ってもらいたいと、そう思ってしまうのは仕方がないだろう。
「バレちゃったか?特に隠す気もなかったけどな!一刀のほうこそ、なんかさっき、新しい必殺技使おうとしてなかったか?…不発だったけど。」
拳無はカハハ~ッと笑いながら、試合の最後に一刀が使おうとした技に興味を示す。
「うん、新しいの思いついたんだ!でも内緒!いつか完成させて、拳兄倒すんだ!!」
「言ってろ!絶対その頃には、俺の方が強くなってるって!っと…言ってるうちに、着いたぞ一刀!」
拳無はそう言って、一刀を手招きし、自分が今立っていた場所に立たせた。
「う、わぁ~~~~………!!!!!!」
一刀の眼下には、先程まで自分達が試合をしていた武家屋敷や、畑などが広がっていた。つまり村全体を一望できる最高の穴場だったのだ。
「俺のとっときの場所だ!誰にも内緒だぞ?」
拳無は竹刀の一刀に気を良くしたのか、フフンと胸を反らして誇らしげだ。
「これ、拳美姉に見せたら喜びそうじゃない?鞘にも見せてあげたい!」
拳無には一刀のこの反応は予想できたが、予想通り過ぎて面白みがなかった。
「バッカだなぁ~一刀は!いいか?こういうのは、男同士の秘密にしとくもんだろ?お前は前にもそう言って秘密基地を拳美に取られたじゃねぇかよ。鞘ちゃんに教えるのは…まあ俺も、別に反対はしねぇけど…そもそもここまで登って来れねぇだろ?」
「そっか~…。」
拳無の言葉には一刀も反論はなく、残念そうに俯くだけだった。一刀の妹、
「そういや一刀、お前北郷家、やっぱり継がない気か?」
どこか重くなりそうな空気を、拳無は別の話題で振り払った。もっとも、この話は何度もしていて、答えはわかりきっていた。
「うん。僕、戦うのとか苦手だし、今はもう、必要ないでしょ?拳兄だって「それ以上言うな一刀。」…拳兄。」
この時、拳無は今までにないような真剣な声で一刀の言葉をさえぎった。
「いいか、一刀。北郷家と南郷家は根本的に目指してるもんが違うんだ。お前がまだ知らないのは知ってる。でも多分…それもいつかは教えられると思う。俺も、北郷の化け物ジジィが教えるまでは教えない。悪りぃな、でも俺なりのケジメなんだ。」
拳無はどこか遠くを見るような目をして、そう言っていた。そしてそれが、一刀の覚えている、拳無との最後の思い出だった。
北郷流と南郷流…二つの流派の友好の証として幾度か行われていた交流試合。
一刀の代からは幼少時代から交流試合が行われ、北郷流と南郷流の友好はさらに深まっていき、次代へ受け継がれるだけの土台を作り上げ、少しずつ打ち解け合い、徐々に過去の因縁も忘れていき、次代の…そのまた次代への友好を守っていく…………………………………………………………はずだった。
だが因果は巡る。
まるで膨大な過去が壮大な未来を飲み込もうとするかのように。
彼らが長い時間をかけて、ようやく歩み出せた共存の道も、長く続くものではなかった……………………。
時は、それから二年後に進む………。
いつものように剣道部の練習を終え、帰宅した北郷一刀は、家の中に足を踏み入れた段階で違和感を感じた。
「誰も…いない?」
当時、父母共に仕事に明け暮れていた北郷家ではあっても、月に一度…もしくは二週間に一度程度の頻度で彼の祖父、北郷直刀が一刀の稽古を見に来ていた。そして、その日はちょうど、祖父が一刀の稽古をつける日だった。
祖父は良くも悪くもは非常識だし、道場などではよく気配を消すが、実生活では来客や一般の人を驚かせてしまうため、ちゃんと気配を消さずに過ごしている。
したがって、今北郷家から気配がしないということは、誰もいないと断言できるのだ。
「じいちゃんが約束の時間にいないなんて…天変地異の前触れか?」
祖父は非常識な人間ではあっても、約束を違えるということは、ただの一度たりともしたことがない。だが、そんな祖父が約束を守っていない状況でも、一刀はとても楽観的に考えていた。だからこそ本人がいないからと、ここぞとばかりに陰口を叩いていたのだ。
ぶっちゃけると、反抗期真っ盛りの時期に剣の稽古で人生の大半を潰されそうになっていること思えば、この程度で済んでいるのが奇跡だと思っていただきたいというのが一刀の主張である。
だが夜になっても誰も帰って来ないとなると、さすがに心配になる。どれだけ強いと言っても祖父も歳だし、家族の誰も帰宅が遅くなるという連絡を忘れるタイプではない。
そして悪い予感とは、往々にして良くないほうに当たるものなのだ。
夜遅くになって両親と一緒に帰ってきた祖父から、想像もできなかった言葉を聞かされることになった。
「一刀、落ち着いて聞きなさい。拳無君が…南郷一家が亡くなられた。」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
あまりにも衝撃的な言葉に、一刀はとっさに言葉を返せなかった。
その言葉を理解できなかったわけではない。
その内容を理解できなかったわけでもない。
その意味を………………理解できなかったのだ。
物心つく前ならいざ知らず、この世の誰であろうとも、『初めて体験する親しい知人の死』を前にしたとき、そこに衝撃を伴わないはずがない。
そしてその衝撃を前に、人間はあまりに無力なのだ。
多くの人間は、そこでその衝撃を受け止められない。
たとえその場は受け流すことまではできても、受け止めることなどほとんどの場合出来ない。
それはとても長い時間をかけて、ゆっくりと飲み込んでいくものなのだ。
だが………『初めて体験する親しい知人の死』が、そのものにとって『最も親しい人間の死』であれば、果たしてどうなるというのだろう?
少なくはない人間が体験する、『初めて体験する最も親しい人間の死』を前に、多くの人間は逃避する。
そして………まだ
祖父の言葉を聞いたとき、一刀から現実味というものが一切消滅した。
祖父の話は続いた。
一刀の記憶にほとんど残りはしなかったが、南郷一家は水難事故で行方不明となり、現在も発見されていないということ。そして、既に事故から数日の時間が過ぎていて、生存の可能性は非常に低いということだった。
その時一刀は、祖父の言葉をほとんど理解できなかった。
俺より強い拳兄が死ぬわけない…。
拳美姉は水泳の全国大会に出場したことあるんだぞ…?
発見されてないだけだ…。
もうどこかで助かってて連絡が取れないだけじゃないのか…?
おじさんだって強いじゃないか…。
俺はまだ拳兄に……勝ててないんだぞ…………?
あまりにも無力で、あまりにも非現実的な…無意味且つ無力な現実逃避。
数日後、南郷一家の遺留品らしきものが発見されても…そして、葬儀が終わり、数年の時が過ぎてなお、一刀は最も親しい親友の死を受け入れられていなかった。
そして…時は進み、今から数か月前の………北郷一刀の運命を変える、世間的に見てとても小さな、しかし世界一つにも匹敵する重大な『窃盗事件』が起きる。
「誰だ貴様。俺に何のようだ?」
それは、自分と同じ服を着た少年から発せられた初めての言葉だった。
「何のようも何も。お前、その手に持ってるやつ、なんだよ?」
「………。」
一刀は、その少年が小脇に抱える鏡のようなものを指して問うた。
答えなどわかっている。聞きたいのは、なぜそんなものを盗んだのかだ。だが質問にも順序というものがある。
「どっから持ってきたんだよ?っていうかお前、この学校の生徒じゃねーだろ?」
一刀は恐怖心を無理やりに押し込んだ。
わかるのだ。目の前の少年の立ち振る舞いを見れば見るほど、昼間見かけたときよりも鮮明にわかってしまった。
この少年は最低でも、『あの日』の拳無より強い。
対して一刀は『あの日』以来、自分の中で何かが止まったように、実力が伸び悩んでいた。
当然『あの日』の自分より強くはなっているが、目の前の少年を相手取るには実力不足は否めない。
だが、だからと目の前の悪に背を向けたら、自分は一生取り戻せない大切な何かを永遠に失ってしまう………そんな気がしていた。
だから一刀は場違いだとは思いつつも、年上(?)として説教をすることにした。だが少年に言葉は届かなかった。
少年の答えは鋭い蹴りだったのだ。そして、それを躱せたのは子供のころの経験のおかげだ。拳無が攻撃の瞬間に発していた『気迫』と、この少年の発した『気迫』が似ていると気付いたのだ。
そして同時に気付く。『今の一撃は、下手をしたら骨折じゃすまなかった』と。だから一刀は怒った。そうやって無意識の内に心が折れないようにしたのかもしれない。
「……邪魔だよ、お前。」
「うわ……っ!ひ、人の話を……っ!」
少年の攻撃を何とか避けながら、それでも一刀は説得を続けようとした。それを甘さだったと、愚かだったと………人は本当に彼にそう言えるだろうか?
「聞く気はない。死ね。」
無造作に繰り出される数多の蹴りの一つ一つが、雑草を刈り取る鎌のような鋭さで、一刀の急所を的確に狙ってくるのだ。
その状況下で、相手に改心させようとできる人が、そんな命懸けなことを今日初めて会った赤の他人の為にできる一般人が、一体どこの世界に、どれだけいると言うのか?
「く……っ!」
一撃でも食らえば確実に骨が折れるであろう重い蹴りを何とか捌き、一刀は後ろに飛び退って少年と距離を取った。
「チッ……しつこいな。」
悪意に満ちた暴力をほんの一瞬防いだだけで、まるで短距離マラソンをしたあとのように息が上がり、気管に斬りつけるような痛みが湧きあがる。
そう、一刀がいくら強かろうとも意味はない。なぜなら彼にとって、これは『初めての実戦』とでもいうべき、純粋な敵との戦いなのだ。ケンカや試合とは完全にわけが違う。彼は、初めての戦いに言い知れない恐怖を感じていた。
「しつこいじゃねぇ……っ!てめぇ一体何者だ?どうして盗みなんてしやがるっ!?」
一刀は恐怖を振り払うように怒りを爆発させる。
「盗み?……ああ、これのことか。」
少年はさも何でもないように手の中にある鏡を指した。
「これはお前らには必要ないものだ。必要ないものを奪って何が悪い?それにこれは貴様には何の関係もないものだろう。死にたくなければ尻尾を巻いて失せろ。そして今日起こったことを全て忘れろ。」
あまりに身勝手で、稚拙な理屈。そしてなにより、悪人でありながら腹立たしいほどに傲慢な態度。
それゆえに一刀は言葉を一瞬失った。そして同時に胸の奥にあった怒りを抑えるリミッターが………外れた。
「泥棒如きが偉そうに言うんじゃねえよ!盗人たけだけしいっ!」
「あくまで邪魔をするのか?ならば殺してやろう。……突端を開かせる鍵が無くなれば外史は生まれず、このまま終わることができるのだからな。」
「はぁ?なんだよそれ……っ!?」
「もう語る言葉は持たん。死ね。」
それは、文字通り最後通告だった。
「うらぁーーーっ!」
四方から繰り出される打撃が、禍々しい風切り音とともに襲い掛かってきた。
「うわ――――っ!?」
目を、眉間を、こめかみを、喉を――――あからさまに急所だけを狙ってくる。それは先程までとは明らかに違う意思、殺意が込められていた。
「くっ……!」
武器も持たず素手だと言うのに、一つ一つがまるで真剣のような鋭さを持っていた。その一つ一つを必死に避け、受け流し――――なんとか体勢を立て直そうともがく。
「チッ……本気でしつこいなお前。」
「う、うるせぇ!いつまでも調子にのんなよ、このぉ……っ!」
いつか、拳無との交流試合の時に編み出した、流れのまったく違う複数の攻撃組み合わせた連撃を繰り出し、攻勢に出る。
「ワケ分からんことばっかほざきやがって。とっ捕まえて警察に突き出してやる!」
「……やれるものならやってみろ。」
「やってやらぁ!」
気合を乗せた木刀を、渾身の力を込めて振り下ろす。これは以前「人に軽々しく使うな、特に一般人には」と祖父に止められた技だ。当然手加減はしているから、死にはしないが骨折はするかもしれない。だがそれは、相手を甘く見過ぎていたようだ。
「ちょ……拳で木刀を受けるなんて、お前、正気かっ!?」
「ふんっ。それぐらい造作もないわ。……しかし、このままではラチがあかんな。お前に付き合うのも飽きた。さっさと消えろ。」
苛立たしげに言葉を放ち、少年は腰を落として拳を構えた。それは、長く武術の世界にいた北郷一刀が、北郷流の正統後継者なりうる資格を持つ唯一の存在が、未だかつて見たこともない特殊な構えだった。そして、構えた途端、少年の雰囲気がガラリと変わった。まるで全身が抜身の日本刀にでもなったような、息が詰まるほどの殺気が伝わってくる。
周囲の空気が、その温度を急激に下げたかのような錯覚に襲われる。
再三にわたって襲ってくる恐怖心。
得物を狩る猛獣のように息を潜め、少年は俺の動きを観察していた。
その視線に晒されているだけで鼓動は高鳴り、恐怖による息苦しさで目が眩む。そんな中で、一刀は掌の中の木刀の感触に意識を集中させ、『あのころの感覚』を今一度呼び覚ます。
「どうやら覚悟は決まったらしいな。……ならば苦しまないように殺してやる。」
「やれるものなら……やってみろよっ!」
相手を飲み込もうとする静かな殺意を、勇気を奮って拒絶する。もしもここで一刀が恐怖に打ち勝てず、強力な殺意に飲み込まれていたら、おそらく一つの世界が始まる前に滅んでいた。
だが、そうはならなかった。
「良い度胸だ。なら死ねよーーーーーーーーっ!」
地面をける力強い音と共に一気に距離を詰め、流れるようなコンビネーションで放たれる蹴りに、感情を爆発させながら、八双に構えた木刀を力一杯振り下ろした。
地に足がめり込むほど強く踏み込み、打ち込んだ木刀は、少年の蹴りより一歩早く、肩口に吸い込まれていく木刀の軌跡に勝利を確信し、一瞬…油断した。
死角から襲いかかってきた少年の蹴りが、木刀を振り下ろした一刀の肩に叩きつけられたのだ。
ここで、一つの偶然が起きた。それは神の悪戯か、運命の必然か…あるいは確定されたプロットが走ったのかもしれない。
少年の蹴りが木刀の軌跡をずらしたのだ。そして、その軌跡は少年にとって予想外のものだった。その隙を逃さず、一刀は崩れた姿勢のまま少年に身体を投げ出した。もつれ合うように倒れこむなか、銅鏡が少年の懐から零れ落ちた。
一瞬の永遠…瞬きにも満たない無限の時間、二人はまるで高重力下の水中で体を動かすような
地面に叩きつけられ、砕けた銅鏡は、焦る少年の思いを横に、眩い光を発し始めた。そして、その光に一刀は飲み込まれて行った。どこかに落ちていく、生命の原始的な恐怖の一つになんとか抗おうとするが、それは人の手で抗えるものではなかった。
「飲み込まれろ。それがお前に降る罰だよ。その世界の真実をその目で見るが良い。」
そして………その言葉を最後に、北郷一刀は『普通の人間』という本来最も大切であるはずのステータスを、永遠に失うことになった。
そして、時は進み、現在………北郷一刀は、長い時を越え、実に二十数年ぶりにここ…南郷の里にやってきた。
話を終えた時、俺は愛紗の顔を見るのが恐ろしかった。
そう、怖かった。
間違いなく失望させただろうから。
それでも…知っていてほしかった。
大切な
間違いなく我が儘で、それでいて人が抱える共通のジレンマ。
そして……………できることなら………………………………………………………………
「ご主人様。」
「ん?」
愛紗の声に、俺は振り返れなかった。
まだ怖い。だから…まだ直視できていない。
本当は次に続く言葉を聞きたいのか、聞きたくないのか、それすらもわからなかった。
「話してくださって、ありがとうございます。」
「え………?」
『ありがとうございます』?
「ご主人様が、何か暗いものを背負っていることには、実は………割と最初の方からわかっていました。」
俺はその言葉に驚く他ない。
『割と最初の方からわかっていた』?
その言葉に、俺は思わず振り返っていた。幸か不幸か、愛紗は南郷の里を見つめたままだった。
「お話したことがあったかと思いますが…私には兄上がいました。」
知っている。
いつだったか、あの外史で愛紗から聞いたことだ。
「兄上は、誰よりも武芸に秀で、誰よりも学問に明るく、温和で、いつも村の中心に立って、嬉しい時も、悲しい時も、共に笑い、共に泣き、そして………賊が攻めてきたときには、誰よりも前に立って戦っていました。兄上が死んだあの日も………。」
今度は俺が聞く番になったようだ。俺は静かに、真剣に愛紗の言葉に耳を傾ける。
「兄上は…私を庇って死にました。いつも通り賊を追い払っていたとき、私がつい気を抜いてしまったがために………。私は怒り狂いました。賊を根絶やしにするために、悪鬼となって暴れまわり…そして、私は村を出ました。兄上との思い出の詰まったあの村に、居続けることに耐えられなかったのです。」
愛紗の語る過去。かつてと違い、概要ではなく、自身の想いも含まれたそれは、とても重く、胸の奥に響いてきた。
「村を出てからは、ひたすら賊を退治するために旅を続けました。そんな中、私は一人の小さな女の子と出会いました。」
愛紗は、とても懐かしい、大切な…暖かな記憶を掘り起こすように、とても優しい笑顔で語っていた。
「その子供は、どこも他の子供と変わらない…欲を言えば、もう少し女の子らしさを覚えてほしい、腕白で、純真で、誰よりも強く優しい…今では私達の自慢の義妹になった鈴々でした…ご主人様には義妹というより、恋人の一人でしたね。」
愛紗は悪戯っぽく笑う。
愛紗のこの表情は珍しい。まるで悪戯が成功したシャオみたいだ。
「鈴々は、ちょっとした名家の跡取り娘でした。名家とは言っても、『地元では』という注意書きが必要ではありましたが…それでも鈴々は、優しい母親と、逞しい父親、良き隣人たちに囲まれて、当時の私までも、すぐに友達にして………いつも幸せそうでした。」
そこまで言って、愛紗の表情が苦痛に歪む。
「あの日、鈴々と一緒に山に遊びに行かなければ、あるいは賊の手から、あの村を守れたかもしれません。私達が戻った時、全てが終わっていました。村は火の海…鈴々が自分だけが登れると自慢していた村の象徴の巨木は、もう誰も登れないほどボロボロな炭になり…鈴々の住んでいた家は、原形すらとどめずに焼け落ちていました。焼け跡から出てくる骨は…もう誰のものかすらも、わからない。でもそれが………あの外史の日常でした。」
そう言って、愛紗はようやく正面から向き直った。その顔は、とても優しく、とても儚げだった。
「私はご主人様を尊敬します。私達は大切な人の死を、『仕方なかった』『そういうものだ』『どこでも同じだ』と自分に言い聞かせて………そうやって大切な誰かの死を無理やり納得していました。名もない敵兵や、共に笑いあった部下の死ですらも………。でもご主人様は違いました。」
愛紗はここで大きく息を吸った。まるで自分の中で何かに整理をつけるかのように。
「見知らぬ賊の死すらも背負って、それでも大陸を…外史に平穏を齎してくださいました。」
「でも………俺は、拳兄の死すら…乗り越えられていない………!!」
ここにきて、一刀の胸の奥にあったものが爆発する。
『初めて体験する最も親しい人間の死』を乗り越えられていない…………………………それは、『初めて体験する人間の死』を乗り越えられていないことと同義だと、彼は考えていたのだ。
つまるところ、『初めて体験する人間の死』を乗り越えられていないとするなら、『以降に体験する多くの人間の死』も乗り越えられているはずがない。
数多の屍の上に外史に平穏を齎した北郷一刀は、その死を誰よりも重く、確かに背負いながら…背負えていないと、その命の重さを欠片しか理解できていないと、そう考え、苦しんでいた。………いや、
それはもはや、聖者のという名の愚者の愚行。
「ご主人様にとって南郷拳無さんは……………本当に、誰よりも大切な…身近な親友だったのですね…。」
愛紗には今の一言だけで、一刀が外史でどれだけ苦しみ続けていたのかを理解できた。
でも、だからこそ……………………………………………………………………………
「ご主人様、私は…あなたに問います。もしもご主人様が、死んでしまって…私達がその死を乗り越えられなかったとしたら………私達は、外史で散っていった多くの命からも逃げたことになりますか?」
それは、立場を入れ替え、順番を変えただけの質問。
ただそれだけなのに、一刀は咄嗟に答えることができなくなった。
答えられるわけがないのだ。そう、彼は勘違いをしているのだから。
『初めて体験する最も親しい人間の死』を乗り越えられていないという事実を、『初めて体験する人間の死』を乗り越えられていないと見るか、『最も親しい人間の死』を乗り越えられていないと見るか………たったそれだけで、意味は全く変わってしまうのだ。
「ご主人様は、優しすぎます…もしも人がそれを愚かだと笑う日が来たとしても、私達はそんなあなたに仕えることができたことを…心から誇りに思います。」
一体この世の誰に、北郷一刀の背負うものの重さを理解できるというのだろう?
一番長く一刀の隣に寄り添った愛紗ですら、その片鱗すら背負えている自信がないのに…現に今、北郷一刀が外史の戦いの中でずっと背負っていたものの一端を、たった今初めて知ったというのに………。
だが、だからこそ愛紗は願うのだ。
愛する彼の背負うものを、愛しい彼の全てを知りたいと。
なにより………大切な彼と共に生きていきたいと。
愛紗の言葉に、一刀はようやく少しだけ…本当に少しだけだが、『死』という無形のものに向き合えたような気がした。
彼が本当の意味でそれを理解するには、まだ…決して少なくはない時間がかかることだろう。
だが、それが北郷一刀なのだ。
誰よりも心が強く、誰よりも優しく、誰よりも隣に居たいと思わせる存在。
神話に出てくる神や歴史に名を残す王、はたまた偉大な宗教指導者のように隔絶したところにいるのではなく…隣に立ち、人類が存在するうちに到達できるかすらも定かでない遥かな理想郷を指し示しながら皆と共に歩んで、誰かの喜びを我が事のように分かち合い、誰かの悲しみをまるで己の事のように泣ける歴史に名を残さないような偉人。
彼は今ようやく、最も大切な親友の死に向き合えた。
一刀は再び、南郷の里に向き合う。
ギュッ…
繋いでいた愛紗の手が、隣にいると勇気づけるように少し強めに握ってくれた。
俺は、もう誰もいない南郷の里に向かって話し出す。
この場所を教えてくれた、かけがえのない親友に届くと信じて。
「久しぶり。元気に…してるわけないね、死んでるし。俺の方は見たまま元気だよ。ずっと来れなくて、ごめん。どうしても、信じられなかったんだ。拳兄が、死んだだなんて。」
本来、こう言った言葉は墓の前で言うべきなのだろう。
だが、辛うじて見つかった遺品しか埋まっていない墓よりも、なぜだかここのほうが、彼に届くとそう思ったのだ。
「俺の方は…普通とは言えないな。多分さすがの拳兄も信じてくれるかどうかわからないんだけど、俺、並行世界に行ってきたんだ。外史って言うらしい。どんなところかっていうと、三国志の世界…かな?有名な武将とか軍師とか王とか、皆女の子になってたけど。」
説明するうちに、我ながら、とんでもない事態になっていたものだと思う。
乃川に言ってみようものなら、一発で変人扱いされた上に、卒業までそのネタで弄られ続けることだろう。
「大変だったよ…。ただ盗人を止めようとしただけだったのに、まさか異世界に飛ばされるなんて思ってなかったし、異世界に行ったら行ったで、突然賊に殺されそうになるし。」
まったく、あの時あの盗賊に殺されていたら本当に死にきれなかっただろうな。
「紹介するよ。この娘はあい…じゃない関羽だ。あの有名な関羽。俺の…彼女だ。ぶっちゃけるけど、俺の第一婦人にする娘だ。」
この言葉に、愛紗は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめん、惚気に来たわけじゃないんだけど…。そうそう、彼女達は普段は真名っていう、そのものの本質を示す名前を使ってる。関羽なんて、名乗ったら大変なことになるだろう?彼女と張飛が俺の、最初の仲間だ。信じられる?俺、あの世界で劉備のポジションについて王様やってたんだぜ?挙句世界の命運背負って神仙に戦いを挑んだり………ともかくすごい経験をしたんだ。多分拳兄なら、もっといろいろと上手くやれたのかもしれない。ひょっとしたら、あの外史を救えたかもしれない…。けど、彼女達を幸せにできるのは俺だけだ。俺は、彼女達とこの世界で生きていく。彼女達の生きていくこの世界を彼女達が幸せに生きていけるようにする。」
ここでようやく、俺は愛紗に真っ向から向き合う。
「愛紗、俺は――――、――――――――――――――。―――――、―――――――――――――。―――――――――――――――――。――――――、――――――。――、―――――――――――。――――――…―――――――。―――………――――――――――。」
俺は、この世界で自分が何をしたいか、どうしようとしているかを彼女に伝える。
拳兄が眠るこの場所でそれを話したのはその決意表明だ。
そして…それは同時に世界に対するある種の宣戦布告。
それを聞いた愛紗は一瞬目を見開いて、まるで最初から全てわかっていたかのような、慈愛に満ちた優しい笑顔で頷いてくれた。
「ありがとう。」
たった一言、感謝の言葉を告げて、俺はもう一度、南郷の里に向き直る
「拳兄、俺はまだ、全然未熟者だけど………いつか、必ず拳兄よりも強くなって…あの日の技でも披露しに来るよ。……………まだ未完成なんだけどね?」
軽くおちゃらけて、ここでいったん言葉を切る。
過去を引きずり、あまりの重さに止まっていた歩みを踏み出すために、俺はわざと普段よりも軽い言葉で、あくまで一時的な言葉を使う。
「また今度…もう試合はできないけど、次に来るときは、拳兄が生きていたとしても絶対勝てないくらい強くなってるから…。
決別とは違う、再会の約束で言葉を締めくくった彼は、愛紗と共に無言で南郷の里を去っていった。
その背に感じたそよ風が、なんとなく………拳兄に背を押されたように感じたのは、あくまで錯覚だろう。
こうして北郷一刀は、
だがそれは、愛する
彼はこのあと、とても長く険しい道のりを歩んでいくことになる。
だが、それでいいのだ。
彼は足を止めない。たとえ彼の前に何が立ちはだかろうとも………たとえそれが巨大な悪意や強大な力の前であろうとも、彼はもう…何度膝を屈そうとも何度でも立ち上がれるのだから。
あとがき
ども~、心は永遠の中学二年生です。
書き直しました!
今日(大晦日)も明日(元旦)も仕事です。
毎回コメントお待ちしております!
コメントが作品を書く原動力になってますので。
アンケート、ターーーーイムッ!
特に何かを企画してるわけではありませんが、好きな恋姫のキャラを一名お教えください!
次回あたりに集計してみます。
もしも気分が乗れば、専用で単発のヤツ書いてみるのもありかも・・・期待しないでください。
ではまた次回に~
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遅くなりました
改訂版です
内容的には大きな差異はありません