恋姫†無双
~乗り越えなければならないもの~
『過去と今と、背負うもの』
田舎は基本的に都会より少し肌寒い。
いや、今のは正確な言い回しではないだろう。都会が田舎より暑いのであって、田舎の気温がおかしいわけではないのだから。
とはいえ、そこそこに過ごしやすい陽気であることは否定しようもない。都会にはない不便や、面倒がそこかしこにあっても、日々死の恐怖に怯えることを民草に強いる1800年の過去を過ごした俺からすれば十分に快適な環境だった。
俺は昨晩翠から打ち明けられた、彼女達の背中に重くのしかかるものについて考える必要があった。だから今日は一人で散歩に出かけている、といっても近所を軽く歩いて回る程度だが。
昨晩………俺には、翠が、一体何を言っているのか、理解できなかった。
『ここにいていいのかな?』などと聞かれて、俺の頭の中は混乱していたのだ。
当然だろう?だってそれは………彼女達の絆を、彼女との想いを…否定しかねない言葉だったのだから。
それは…『あの戦い』すらも否定しかねない、そういう言葉だったのだから。
「翠………一体、何を、言ってるんだ?」
喉が、嫌なくらいカラカラになりながら、それでも俺は問いかけることを止められなかった。翠は、俺の言葉にはすぐに答えずに、話を続けた。
「ご主人様、天の国ってすごいよな。未来なんだから、すごいのは当然だけど…なんていうかさ……平和だよ。少なくとも、今のこの国はさ。」
そうだ。この国は平和だ。今のところ、外交上それほど険悪な国があるわけでもないし、危険思想な国が近隣にいるわけでもない。当然戦争状態にはないし、そうなる可能性も今のところは低いと言っていいだろう。
「それに食糧難になりそうにないし、賊が村を襲わないか心配しなくても生きていける。」
そう、現代のこの国は、外交で問題でも発生しない限り貿易などで食糧難にはなりにくいし、犯罪がないと言うわけではないが、あの時代に比べて遥かに低頻度だ。賊と呼ばれるものなど、この二、三百年近くこの国には現れていない。
「誰も…死ぬのに怯えなくていい。ご主人様が目指してた国って多分……ここだろ?」
そうだ。俺の手本、俺の教科書になった国はこの国だ。
「でもさ………なんていうか、違うんだよ。あたしらがさ、死ぬ気で目指してたものって、この国にあるのか…?」
「翠が目指していたものは…涼州の奪回、だったよな?それからは…」
「あぁ…それからはご主人様に影響されて、大陸の平和の為に、皆の笑顔の為に、戦ってきたよ。」
あのころを懐かしむように、まるで聖母のような慈愛に満ちた笑みを見せる翠が、隣にいるのに、今はとても…遠い存在に見えた。
「あのころは皆、必死だったよな…愛紗が真面目にやって、鈴々のだらしないのを叱ってたら、星はすぐそこで飄々と酒飲んでて、朱里が『はわわ』って慌てて、紫苑が宥めて、あたしも、そこにいて………そんでもって、皆に中心に、ご主人様がいた。でも……………!」
彼女の顔は、不意に酷く苦しく、辛いものに歪んだ。
「あの日…!あの日全部…全部なくなっちまったッ!!」
そうだ。俺達はあの日、俺達以外の全てを失った。
守るべき国も、愛すべき民も、支えてくれた文官達も、そして………あの日、真実を伝えられなかったが、それでもついてきてくれた彼ら………共に絶望に立ち向かい、俺達の進む道を…あの神殿までの道程を、その命を対価に支払って切り開いてくれた140万もの名もない兵達さえも………。
『御使い様!行ってください…ッ!!』
『どんだけ湧いてくんだよ!クソが!!』
『ここは我々が引き受けます!!』
『あの時の御恩…確かにお返ししましたよッ!!!!』
『北郷国、バn、ざ、ぃぃィィィッ!!!!』
『お先に、失礼します………!』
『御使い様!信じてますぜ!!!!』
『生きて戻って、また飲みましょうやッ!!』
『まだだ!まだ死ぬなよ!勝つまで死ぬな!!』
『に……任務、かn…了…………!!!!』
『め、冥土の土産に……テメェらも一緒に来いやぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』
『おい相棒……この道、死守するぞ!!!!』
『こっから先は……地獄行きだぁぁぁぁッ!!!!!!!!!』
瞼を閉じれば、耳を澄ませば、今でもあの日の光景が、あの日の叫びが蘇える………。
あの日、俺達が泰山の頂上まで進めたのは、彼らのおかげだった。彼女らがいかに一騎当千の猛将であっても、彼女らがいかに神算鬼謀の軍師であっても、彼らがいなければ………俺達は、あそこに辿り着けなかった。
そして、彼らの命を踏み越えて辿り着いた神殿で………俺達は敗北した。
俺にできたのはせいぜい…彼らの魂を次の世界へ繋ぐことと、彼女らとこの世界へ渡ってくることだけだった。
翠の涙は…痛いほどよくわかる。
いや………わからないと言う方が、本当は正しいのだろう。俺は故郷を、たとえもう二度と帰れないとしても、失ってはいない。俺も大陸を失った。確かに辛いが、故郷を失った苦しみに匹敵しているのか、正直わからない。対して彼女は間違いなく、二度も故郷を失ったのだ。一度目は涼州を、そして二度目は世界全てを全員で…永遠に。
「わかってるよ!だから皆の分まで笑って生きなきゃ駄目だって………!!でもさ、あたしらを信じてついてきてくれた、託してくれたあいつらはもう、いないんだぜ………?」
俺は無力を噛みしめるように翠を抱きしめた。せめて彼女のこの苦しみから一時でも、解放されるように。
「ご主人様、あたしら………ここにいていいのか?皆と一緒に笑ってていいのか?皆いなくなっちまったのに………皆、大陸ごと無くなっちまったのに………!」
「いてくれ。」
「………え?」
俺は、彼女の想いに応えなければいけない。ここで応えられないようじゃ、君主以前に男として失格だ。そんなの、死んでも彼らに顔向けできないッ!!
「俺の隣に、いてくれ。翠がいない世界なんて、俺には考えられない。」
思えば彼女達は、ずっと遠慮して生活していたのだろう。
『自分達は、この世界の住人では、ないから』
『自分達の世界は、もう、ないから』
『この世界で自分達が居られる場所は、北郷一刀のそば以外に、ないから』
『世界一つ守れなかった自分達に、笑う資格なんて、ないから』
俺にはただ翠を抱きしめて言葉をかけることしかできなかった。それが情けなくて悔しくて、俺の方が泣きそうになった。でも泣けるわけない。俺は、彼女達を支えなきゃいけない!俺は彼女達の君主だろう!!
そもそも俺はなぜ気付けなかったのだろう?
彼女達が順調にこの世界に馴染んでいたから?彼女達が俺の前では笑っていたから?
違う。
彼女達が泣いていなかったから?
……………………………………………………………………………………………………………………………ふざけるな。
俺は愚か者だ。こんな簡単なことにすら気付けていなかったなんて。これで君主だと?笑わせんなよ
情けない。
回想の海から顔を上げた俺は、そのまま空を見上げた。
そして、この道の先に『ある場所』があるのを、唐突に思い出した。
それはとても古い記憶。
北郷一刀という一人の人間の持つ記憶の中で、おそらくもっとも古い記憶の一つ。
『一刀、半人前のままでは、そこまでじゃぞ?』
じいちゃん、まさかあんたは…ここまで見越してたのか?
『いいか一刀、ねぇもんってのはな…作るしかねぇだろうが?この世に本当に作れねぇもんなんてねぇよ。失敗しても、また作りゃいいしな?』
ああ…そうだな。本当に、その通りだよ。
俺はポケットから携帯電話を取り出した。それは、とても小さな…とても大きな一歩。
ボタンを押す指が、恥ずかしいほど震えている。
覚悟を決めろ。
あの外史では、もっと大変なことが、辛いこととか悲しいこととか、本当にたくさんあったじゃないか!!
トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……
『も、もしもし!?』
あ、出てくれた。愛紗は相変わらず電話でテンパるな。そこもまあ、可愛いんだけど…今はそういう場合じゃないかな。
「あ、えっと愛紗?」
『つ、壺はいりません!化粧品も、あと変な便利ぐ…ぐっずとか、特に新しい契約だとかは考えていません!!』
あーーーー………愛紗、この間テレビでやってた電話詐欺特集見てたんだっけ?あの時俺、乃川から電話があって見てなかったけど、多分星あたりに盛大に脅されたんだな?気持ちはわかるが星…俺個人としては、星の方がメンマの関係物で詐欺に遭わないか心配なんだよ?
ついでになぜか皆、未だに横文字は苦手だよな?英語の成績はそこそこにまでなってきてるのに…。
だがここまでテンパっていると悪戯心も湧いてくる。
「愛紗、俺だよ俺。」
『俺って誰ですか!?人違いです!私は愛紗ではありませんし、あなたのような人とは知り合いではありません!!』
………悪戯心の代償はあまりに大きいな。精神的にダメージが大きすぎる。
あ、ヤベッ…涙出そう。
「って俺だよ愛紗!北郷一刀!」
『ご、ご主人様!?こ、これは失礼しました!!電話だと、相手の顔が見えずにどうも………』
しまった、愛紗が何となく落ち込んでいるオーラを発しているぞ!?
「あー…気にしなくてもいいよ、愛紗。それよりも、今時間大丈夫?」
急いで話題を切り替える。でないとかなり深く落ち込むからな。
『はい。こちらに着いてからというもの、本当にのんびりさせていただいています。何か、ご用でしょうか?』
「………愛紗、今ちょっと出てこれる?多分帰りは、夕方とかになると思うんだけ『行きます!』……早いな。一つ謝罪しとくけど、今日はデートじゃなくて…本当にちょっと付き合ってほしいだけなんだ。俺の完全な私用だ。それでもいい?」
そう聞くと愛紗が電話越しになんとなく不機嫌なオーラを発している気がする。
『私達は、いついかなる時でもご主人様のそばに居たいんです。でーとでないのは残念ですが、それでも一緒に居たいという気持ちに嘘などあるわけがありません!』
そうだった。緊張しているとはいえ、彼女達に、特に愛紗に、そんなことを聞くのは間違ってたな。
「ごめん、配慮が足りてなかった。」
『いえ、そんなことは………あ、どちらに向かえばよろしいですか?』
「ああ、今俺は……………」
俺は簡単に今いる場所を伝えて電話を切った。
時間を確認する。ちゃんと夕方には戻って来れるはずだ。
しばらく待っていると愛紗が若干小走り気味にやってくる。
「お待たせいたしました、ご主人様。」
「うん、突然呼び出してごめん。」
「いえ、そのようなことは………バスで移動、ですか?」
愛紗が俺達の進行方向にある、バス停が見えて顔色を悪くする。
やっぱり愛紗達はバスが苦手のようだ。
「それは………ごめん。バスで移動じゃないと、さすがに今日中には着きそうにない。」
「ご主人様?どちらに向かわれるのですか?」
愛紗は今になってようやくその話題を持ち出した。電話で聞き損ねたのだろうが、それでも今の今まで切り出すタイミングがなかったのかもしれない。
「んー……なんて言うかな?ちょっと、昔の知り合いのところに。」
「昔の知り合い?」
オウム返しに聞いてくる愛紗に、俺は胸の奥の緊張をなるべく隠しながら頷く。
「俺が昔、兄のように慕っていた人の……………………
あとがき
ども~、心は永遠の中学二年生です。
ごめんなさい、またもや遅いですね~・・・。
マジで仕事忙しんですよ!?
どうしよう!?!?
それと、ついに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バレてしまった!!!!!!!!!!!!!!!!
外史書の秘密が!!!!!!!!!!!!!!!!!
以下省略さまに指摘されてしまったことなのですが、今秘密を暴露します!!
外史書は、三国志の英雄たちが『男だ!』という認識の上でも読めるように書いてあります!!
気付いてた人、実は他にもいたり・・・?
あ、次回はちょっと過去回想とか混ぜて読みにくくなるかもしれません。
そして、愛紗のしゃべり方がちょっとぎこちない気がするのは私だけ?
私の実力不足ゆえに申し訳ござらぬ!!!!
ではまた次回に~
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どうも~
ごめんなさい!
遅くなっちゃいました!!
来月から本気出せなかったよ・・・
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