No.81624

真・恋姫†無双 終わらぬループの果てに 第9話

ささっとさん

大きな変化をもたらした20周目の世界。
その世界もいよいよ終焉へと向かい、一刀は別れの時を迎える。
そして、次の世界で一刀が見たものは……

2009-06-29 09:54:23 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:38580   閲覧ユーザー数:26508

 

光り輝く衣服を身に纏い、何処までも続く荒野に立っている男の人。

 

出会った切欠は、風の見た夢でした。

 

普段は内容なんて目覚めたらすぐ忘れてしまうはずなのに、その夢は何故だか頭に残っていて。

 

気付けば何かに導かれるかのように、風は一人街の外へと歩き出していました。

 

後になって冷静に考えればこれは無謀極まりない行為。

 

現に荒野の真ん中で野盗と思われる3人組に襲われてしまいました。

 

でも、そんな私を救ってくれたのがお兄さんでした。

 

まるで一陣の風の如く現れたお兄さんは風が夢で見たのと同じ格好をしていました。

 

そして目にも留まらぬ速さで周りに居た3人組をなぎ倒したのです。

 

それからお兄さんとの日常が始まり、それは風にとって幸せに満ち溢れた日々でした。

 

天然で女の子に甘くてついフラフラっと勢いに流されてしまうヘタレなお兄さんでしたが、

そんなお兄さんがいつの間にか風にとってなくてはならない存在になっていたのです。

 

お兄さんを本気で怒らせてしまった時に感じた恐怖も。

 

初めてお兄さんと身体を重ねた時に感じた喜びも。

 

妖術というお兄さんの抱えている闇を知った時に感じた愛おしさも。

 

仕事が忙しくてなかなかお兄さんと会えなかった時に感じた寂しさも。

 

他の女にデレデレしているお兄さんを見る度に感じた殺意…じゃなくて嫉妬心も。

 

色褪せる事無く、大切な思い出として今もなお風の心で輝き続けています。

 

だから、きっと大丈夫。

 

例え今見た夢が現実になったとしても、風は進んでいけると思うから………

 

 

 

 

恋姫†無双 終わらぬループの果てに

 

 

第9話 20週目~21週目

 

 

これまでの世界との相違点を考慮すると、

覇道の行く末を左右するような出来事において何らかのイレギュラーが発生する可能性が高い。

 

恋(とねね)という心強い味方を得た反面、俺は不安も感じていた。

 

しかし涼州遠征、定軍山、呉への侵攻、赤壁と最終決戦までに起こる重要な戦い全てがこれまでと同じ。

 

鄄城における袁紹軍との戦いや劉備軍の侵攻とは違って何の変化も起こらなかったのである。

 

むしろ恋達の存在があった分、これまで以上の良い結果が出ているくらいだった。

 

そしていよいよ目前に迫った最終決戦。

 

腑に落ちない点はあるものの、ここまでくれば余計な事を考えるのは全部終わってからでいい。

 

考える時間なんて有り余るくらいにあるのだろうから。

 

 

「……お兄さん、ここにいたんですね」

 

 

そんな感じで一人思案にくれていたところへ風がやって来た。

 

 

「天幕に行ってもいなかったので、随分探してしまいました」

 

「ゴメンゴメン、何だか眠れなかったから少し歩いてたんだ」

 

「意味もなく夜更かしするのは良くないですよ~?」

 

「その言葉、そっくり風に返させて貰うよ」

 

 

俺も風も今夜は夜襲警戒のために夜通し起きている必要はない。

 

だからこそ本当はしっかり眠って、明日の戦いに備えてないといけないんだけどね。

 

 

「そういう訳でお兄さん、少しご一緒させていただきますね~」

 

 

そう言って風は俺の隣…ではなく、俺の膝の上に腰を下ろした。

 

相変わらずの行動に思わず苦笑してしまうが、すぐさま異変に気付く。

 

後から抱きしめた風の身体が微かに震えていたのだ。

 

 

「……どうかしたのか?」

 

 

俺の問いには答えず、風は俺の回した手に自分の手を重ねてきた。

 

彼女の手を通して伝わってくるのは微かな温もりと、そして何かに怯えているかのような恐怖。

 

こんなにも弱々しい風を見るのはこの世界…いや、これまでのループにおいても初めてだ。

 

俺は何も出来なくなってしまい、そのままただ時間だけが過ぎていく。

 

 

「……聞いてもいいですか?」

 

「なんだい?」

 

 

そして長い沈黙の後に口を開いた風は、思いがけない言葉を口にした。

 

 

「この戦いに私達が勝ったら、お兄さんは天の国に帰ってしまうんですか?」

 

「!」

 

 

この時の風が何を思ってこんな事を言い出したのかは解らない。

 

もしかしたらここ最近の俺の様子からそんな空気を感じ取っていたのかもしれない。

 

疑問というよりも半ば確信しているかような……そんな印象を受けた。

 

だから俺は風の問いかけに対して正直に答える。

 

適当な嘘や誤魔化しで今の風から逃げたくなかったから。

 

 

「……ああ。そうなるかな」

 

「っ……やっぱり、そうなんですね」

 

 

俺の答えを聞いた風の身体が一瞬だけ強張り、そして震えが止まる。

 

 

「お兄さん。風にとって華琳様は生涯たった一人の主君です。

 華琳様の望みを成就させるためならば、風はどんな労力だって惜しむつもりはありません。

 初めてお会いした時から今日まで、そしてこれからもそれは絶対に変わりません」

 

「風…」

 

「でも、風にとってお兄さんは掛け替えのない大切な存在なんです。

 初めて会ったその時から、お兄さんは風の心の真ん中にいました。

 そして積み重ねたたくさんの思い出が、お兄さんへの想いを大きく強く育んでいったんです。

 もう忘れる事なんて出来ないくらい、風の心はお兄さんでいっぱいなんですよ?」

 

「………」

 

「だからもしこの戦いで華琳様が勝ち、その結果としてお兄さんが消えるのだとしたら。

 華琳様とお兄さんのどちらかしか選べないのだとしたら……風は迷わずお兄さんを選びます。 

 その結果待ち受けているものが風自身の死だとしても、後悔はありません」

 

 

膝の上で体勢を入れ替え、俺の方に顔を向ける風。

 

その表情からは覇王として歩み続ける華琳に勝るとも劣らないほどの強さが感じられて、

これまでに見たどんな風よりも綺麗だった。

 

 

「お兄さん………風と、ずっと一緒にいてくれませんか?」

 

 

そんな言葉で締めくくられた風の告白。

 

こんなにも真っ直ぐ自分への想いをぶつけられた事なんて、これまでにあっただろうか。

 

今ある全てを捨ててでも、風は俺と一緒に居る事を望んでくれている。

 

それがどれだけの苦難をもたらすか知っていてなお、俺の方が大切だと言ってくれているんだ。

 

 

「……ありがとう」

 

 

俺は手に力を込めて風を更に強く抱きしめる。

 

何度も繰り返してきたループの中で、華琳以外の誰かにこんな気持ちを抱いたのは初めてだった。

 

だからこそ、俺は彼女に本気で応えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例えそれが彼女の願いを否定にする結果になるのだとしても……

 

 

 

 

三国同盟成立を祝う大宴会が行われている最中、俺は華琳と共に最後の瞬間を迎えていた。

 

 

「帰りたくないのなら、ずっとここに居ればいいじゃないのっ!」

 

 

俺との別れを目前に控え、一人の少女として感情を爆発させている華琳。

 

流れ落ちる涙を拭おうともせず、ただ俺という存在を求めてくれていた。

 

 

「華琳……」

 

 

それに応えることが出来ない自分が情けなくなる。

 

どれだけ強くなっても、何度繰り返しても変わることのない非情な現実。

 

既に存在の薄れ始めた俺では、もはや彼女を抱きしめる事すら叶わない。

 

 

「ごめん、華琳」

 

「謝らないでっ! 謝るくらいなら……ずっと、私の傍にいなさいよぉ………」

 

「それ以上はみっともないですよ、華琳様」

 

 

そして聞こえるはずのない第3者の声。

 

俺と華琳が声のした方を向くと、そこには風が立っていた。

 

 

「っ、風?!」

 

「風……」

 

「ふふっ。昨日の時点でお別れは済んでましたけど、やっぱりお見送りに来ちゃいました」

 

 

驚いている俺達を前に少し笑みを零し、ゆっくりと俺の方に歩み寄ってくる風。

 

そんな彼女の前に華琳が立ちはだかった。

 

 

「……風、貴女一刀が天に帰るということを知っていたの?」

 

「はい。昨晩その事でお兄さんともお話しましたし」

 

 

僅かに怒りを滲ませている華琳の様子を気にする様子もなく、風は淡々と語る。

 

その態度が華琳の琴線に触れたのか、俺に向けていた激情を風へとぶつけた。

 

 

「なら、どうして平気な顔をしていられるの? 貴女にとって、一刀はその程度の存在なの?!」

 

「大切だから……掛け替えのない存在だからこそですよ」

 

「……っ」

 

 

しかし風は全く動じる事無く、逆にたったの一言で華琳を黙らせてしまう。

 

 

「もし泣き喚いてお兄さんが留まってくれるのなら、風だってとっくにそうしています。

 でも、それは叶わぬ願いなんです。

 お兄さんだってそれを全部わかってて、それでもここまで戦ってきてくてたんですよ。

 ならせめて、せめて最後の瞬間くらいはちゃんとしたいんです」

 

「風……」

 

「そういう訳ですので華琳様、申し訳ありませんが風と交代していただきます。

 今の華琳様ではお兄さんのお見送りには相応しくありません」

 

 

立ち尽くす華琳の横を素通りし、風は俺の正面に立つ。

 

その表情は普段と何も変わらない彼女のまま。

 

特別に悲しさも感じなければ、涙を堪えて無理している様子もない。

 

ただ、目の前の現実から逃げず真っ直ぐに向き合っている強さがあった。

 

 

「お兄さん」

 

「……なんだい?」

 

「風はお兄さんに出会えて…お兄さんを愛することが出来て、本当に幸せでした。

 もう二度と会えなくなってしまうのだとしても、風は絶対にお兄さんの事を忘れません」

 

「……俺もだよ、風。君を愛する事が出来て本当に幸せだった。

 君と一緒に過ごした思い出は、決して忘れない」

 

「出来ればそのまま風達に操を立ててくれると嬉しいのですが、お兄さんに限ってそれは無理でしょうね」

 

「………おいおい、ここでそんな事言うかい?」

 

「出来るんですか?」

 

「………ゴメンなさい」

 

 

何故にこの場でこんな発言が出てくるか。

 

まぁ、ある意味では否定できないので素直に謝るしかないのだが。

 

まったく……最後まで風らしいというか何というか。

 

 

「それからお兄さん、もしこちらに帰って来れるようでしたら是非戻ってきてくださいね」

 

「ああ、可能な限りそうさせてもらうよ」

 

 

やがて俺自身もペースに巻き込まれたのか、いつもと変わらない口調で話していた。

 

確かに別れは悲しいし辛い。

 

でも、今回はそれだけじゃない。

 

それ以上の何かが俺の心の中に存在していた。

 

今まで悲しさや空しさしかなかったのに、どうしてこんな気分になるんだろう………なんてな。

 

そんなの風が居るからに決まってるじゃないか

 

 

「………どうやら、これまでのようですね」

 

「………ああ、そうみたいだな」

 

 

そしていよいよ訪れた瞬間。

 

もうほとんど消えかけた俺に向けて、風はとびっきりの笑顔で最後の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで本当にありがとうございました。いってらっしゃい、お兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とても永遠の別れとは思えない彼女の言葉に、俺もまた自然と笑顔で言葉を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、こちらこそ色々ありがとう。いってくるよ、風」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来て以来、俺は初めて『さよなら』じゃない別れを経験した。

 

 

 

 

目を覚ました俺の前に広がっていたのは、21回目となる荒野だった。

 

感覚的に数年ぶりの光景なのだから当たり前なのかもしれないが、今回は特に懐かしく感じる。

 

 

「おう兄ちゃん。珍しいモン持ってるじゃねぇか」

 

 

ふと気付くと、いつの間にか俺の目の前に例の3人組が立っていた。

 

その事実に何処か落胆している自分がいるのに苦笑しつつ、当然のように3人を殴り倒す。

 

前の世界とは違った意味で余計な力が入ってしまった。

 

 

「前の世界、か」

 

 

結局、20周目の世界で起きた変化には何の意味があったんだろう。

 

ループの条件だと思っていた事柄のいくつかを覆してたどり着いた終着点。

 

これまでとは全く違った世界との、皆との別れ。

 

でも、それだけの変化を生み出した最初の要因がこの世界では存在していない。

 

きっとこの世界もまた、19周目までの世界と同じ道を辿る事になるのだろう。

 

 

「………風」

 

 

ぽつりと、無意識に口をついて出た彼女の名前。

 

これまでのどの世界の誰よりも長く濃密な時間を共に過ごした彼女はここにはいない。

 

それだけで俺の気持ちは暗く………

 

 

「呼びましたか?」

 

「っ?!」

 

 

突如として掛けられた声に慌てて振り向くと、そこには不思議そうに首をかしげている風がいた。

 

彼女の姿を見た途端に前の世界での思い出が次々と脳裏を過ぎり、涙が零れそうに……って、俺の馬鹿!

 

こんなところでいきなり泣き出したらどう考えたって怪しいじゃないか!

 

そもそもこの世界の風とはまだ面識がないんだから………

 

 

「それより他人の真名を勝手に呼ぶなんていけない事ですよ、北郷 一刀さん」

 

「あ、ああ、その事については本当に悪いと………えっ?」

 

 

………今、何て言った?

 

 

「もっとも、お兄さんには既に真名を預けていますから何の問題もありませんけどね♪」

 

 

そう言って無邪気に笑い、俺の胸に飛び込んでくる風。

 

何だ? 一体何が起こってるんだ?

 

 

「あの、えっと………あっ」

 

 

そんな混乱の極みにあった俺に向けて、

いつの間にか涙を流していた風の口から決定的な一言が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会えて、本当に嬉しいです。おかえりなさい、お兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20周目の世界で起きた大きな変化。

 

それは収まるどころか、さらに大きな形で俺の目の前に現れたのだった。

 

 

 

 

あとがき

 

 

どうも、『ささっと』です。

 

お待たせして申し訳ありませんでした。

 

ようやく第1章完結です。

 

ベタといえばベタな展開ですが、だからこそ迷わず突き進む!

 

次回からは風と共に歩む新たなループの物語が始まります。

 

 

 

コメント、および支援ありがとうございました。

 

次回もよろしくお願いいたします。

 

 

PS.華琳様の扱いの悪さに反省……でも、華琳様より風の方が好きなんだから仕方ないじゃん!!!

 

 


 
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