No.811900

魔法幽霊ソウルフル田中 ~魔法少年? 初めから死んでます。~ 少しお話しようか、な33話

次回の投稿は長くなりそうなので、ひとまず区切ります。

松来未祐さん、突然の訃報に大変衝撃を受けています、
貴女と、貴女が声を吹き込んだキャラクターたちの事を忘れることはありません。
一人のファンとして、本当にありがとうございました。

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2015-11-05 01:29:14 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1483   閲覧ユーザー数:1439

「いやぁっ! 痛いっ! 痛いよ! ああっ!!」

 

 

ピシィッ! ピシィッ! と鞭がしなり、跳ね返る音が華奢な少女の身体から響いていた。

音が鳴り響くたびに、少女の体は腫れ上がり、傷つき、目からは涙が、口からは絶叫が漏れ出す。

 

 

私は地獄にいる。

それが、死んでもなおこの世に留まり続けていた私の感想だった。

 

生前交わした約束通りに、フェイトとアルフを見守っていた私は、余りにも残酷で、変わらない現実を延々と見せられ続けていた。

 

 

私が居なくなれば、プレシアは長生きが出来る、フェイトと仲直りをする機会がきっとくる。

 

しかし現実は違った、フェイトとプレシアの関係は何も変わらないまま、フェイトはプレシアによる理不尽な虐待を受け続けていた。

 

フェイトを支える存在もアルフしかいない、でも下手をすればアルフにまでプレシアの鞭が向けられる。

そうならないようにフェイトが懇願するから今の所は大丈夫だけれど、いつまで保つか。

 

「なんで貴女はっ……! なんでもっと早くお母さんの言う通りにできないのっ!?」

「ぅああっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

 

これでは、まるで自分はフェイトを長く苦しめるために消えてしまったのではないか?

 

こんなはずじゃなかった。

 

プレシアがフェイトに目を向けてくれるように、自分は教えられることを全て教えたつもりだった。

 

でも、プレシアはフェイトに見向きもしない。

彼女は相変わらず、かつて失ったもう一人の娘の幻影を追い求め続けていた。

 

こうしてフェイトが虐待を受けるたびに、私は生前に行ってきたこと全てが無意味なものだったのだと、そう突きつけられている気がして、絶望する。

 

ピシィッ!

「うあっ!」

 

いやだ。

 

ピシィッ! ピシィッ!!

「ひぐっ……、っあっ!?」

 

もうやめてください。

 

ピシィッ! ピシィッ! ピシャァッ!!

「ごめ……ん、……かあ、さん」

 

これ以上は見たくもないんですだからやめてくださいフェイト達が悪いんじゃないんです悪いのは私なんですだからおねがいしますフェイトを傷付けないで罰なら私がいくらでもうけますからやめてやめてやめてやめてやめてやめて------

 

 

-----誰か、助けて下さい。

 

 

 

「リニスさーん? 大丈夫ですか? ちょっと痛いですけどすんません一応治療なんで……」

 

 

バチコーンっ!!!

 

「あいたっ!?」

 

俺、田中太郎はリニスさんの額に渾身のデコピンを一発お見舞いした。

かなりいい音がしたから、相当痛かったのだろう、リニスさんは打たれた額を抑えて女子トイレの床にうずくまってしまっていた。

 

「やっぱり強すぎたかなぁ……」

「田中、強くしなきゃダメなんだよ。あんたは優し過ぎるんだから、アタイにまかせればいいっていうのにまったく」

 

力加減を間違えたかと後悔する俺に、花子さんがフォローしてくれる。

確かに他人に対して、それも知り合いに治療とはいえ暴力を振るうのはいい気がしないから花子さんに任せた方が良かったかもしれない。

 

「で、でもですね。リニスさんをやったのは俺ですし、ついでに傷のイメージを上書きする治癒のやり方も練習しておきたかったんですよ」

 

ただまあ、花子さんに任せたら腹パンでリニスさんのダメージを回復するだろうから、特殊な趣味を持ってない俺としてはネコミミ美人が腹パンされているのをあまり見たくはないのである、ありのままには言えないからもう一つの理由で誤魔化すけども。

んで、妥協に妥協して『幽霊の傷は別のイメージで上書きする』ために全力のデコピンをリニスさんにぶちかましたのだった。

 

「う、うう」

 

リニスさんはまだ痛いらしく、額を抑えたまま涙目でぷるぷると震えていた。

……い、いかん、不覚にも少し可愛いと思ってしまった。

普段は落ち着いた雰囲気の彼女から、こんな姿を想像出来なかったからだろう、所謂ギャップ萌えというやつか。

 

 

 

あの真夜中の決戦から一時間くらいたち、俺はなのはちゃんのディバインバスターの嵐という悪夢のような惨劇を死に物狂いで潜り抜け、なんとか三人とも聖祥小学校の女子トイレに逃げ込むことができた。

 

もうホント怖かった、山を貫通して迫り来る桃色ビーム、花子さんは終始叫びっぱなしだし、リニスさんは結局エクトプラズマをリバースするし、全部俺にかかるしで死にそうだった、死んでるけど。

逃げる事だけを考えてたから思い当たらなかったけど、アレ後始末できるのかな……確実に地形が変わって……うん、ユーノくんならなんとかしてくれるさ!

 

とまあそんな感じで現実逃避気味に今までの事を思い出していると、花子さんがリニスさんを見て口を開いた。

 

「それにしても……リニスだったかい? こいつかなり弱ってるね。傷一つ付いてない筈なのに消滅寸前まで消えかかるなんて……精神的に疲れ果ててるみたいだね」

「えっ!? そんなにマズイ状態だったんですか!?」

「うん。イメージで上書きするだけじゃあ根本的な精神疲労までは回復できないからね、精々、酔い止めにしかなってない」

「そ、そんな……!」

 

おかしいとは思っていたのだ、俺は傷一つつけてないのにリニスさんは弱っていたのだから、まさかどこか怪我をしてるんじゃないかと思ってデコピンしたのに……。

これじゃあせっかくリニスさんを説得できると思ってたのに、説得どころか永遠に話すことさえできなくなってしまうじゃないか!?

 

「田中、そんなに心配そうな顔をしなくてもいいよ。別にこのリニスとやらは今すぐ消えるわけじゃない」

「え、でもマズイって」

「『あくまで消えやすくなってる』だけさ、ダメージがない限りは消滅しないし、時間が経てば少しは回復するだろうし。……大方、さっきの戦いで人魂を使い過ぎたんだろうね」

「なるほど……」

 

つまり、分かりやすくいえばゲームの体力の上限値が低くなってるみたいな感じだろうか。

意識の塊である俺たちは、精神的な疲労がそのまま体力の疲労と同じだから納得できる。

 

とりあえず、リニスさんが消滅しないということが分かってほっとした、あーよかった。

 

 

「ふぅ……ほっとしたら眠くなってきた…….」

「こらこら、アンタも寝たらお終いだよ」

 

ズドムッ!!

 

「おごぉ……っ!」

 

花子さんのパンチが腹にクリーンヒットして、俺は身体の傷のイメージを吹き飛ばすことができた。

……いや、確かに俺も回復しないといけないなーって思ってたんですけどもうちょっと準備というか声くらいかけて貰えませんか。

このままだと危ない趣味に目覚めてしまいそう……あれ、ダメージ受けて快感を得るぐらいのドMになれば攻撃されながら精神を回復するという永久機関になれる可能性が……!?

 

「つまりドMこそ幽霊の可能性なのかもしれない……?」

「いきなりどうしたんだい!? わ、悪かったから、いきなり殴ったのは謝るから戻ってこい!?」

 

俺が幽霊の可能性について考察していると、なんか花子さんがすごい必死に謝ってきた。

頭を殴った訳じゃないのにーとか涙目で言ってる姿は見た目相応に可愛らしい女の子だ。

だが忘れてはいけない、ヘヴィ級ボクサーのパンチを受けたような腹の痛みは花子さんが生み出したのだということを。

あんまり考えこんでると不安げな様子で頭あたりを叩かれるかもしれん、花子さんを心配させたくないし首ともおさらばしたくないから考察はやめよう。

 

「大丈夫ですよ花子さん、俺は異常ないです。確かにいつも腹パンされたり化け物に体当たりされたり雷やピンクの魔法に撃ち抜かれかけたりしてますけど、流石に変な趣味に目覚めたりなんかしませんって」

「その言葉を聞いてると目覚める前にそのうち永遠に目覚めなくなりそうで逆に怖くなってきたよ」

 

改めて今までの戦いを振り返ってみると、花子さんの不安もあながち間違いではない気がする。

いやほんと、よく生き残れたなぁ俺、死んでるけどさ。

 

 

「い、痛った……」

 

さて、そうこうしているうちにリニスさんが復活してくれた。

俺は一時の休息で緩んだ心を引き締める。

まだ終わってはいないのだ。

リニスさんに勝っただけじゃあ、俺はこの戦いに勝ったとは言えない。

これから始まる第二ラウンド、リニスさんの説得を始めようじゃないか。

 

 

「う、ぁ……ここは……っ!?」

 

リニスさんはハッキリと意識を取り戻すと、状況確認をするために視線を辺りに向けるや否や、険しい顔つきになる。

そりゃそうだ、なんせさっきまで戦ってた俺が目の前にいるんだから当然だ。

だからと言ってもう一度戦うつもりは欠片も無い。

花子さんに聞いた通りにリニスさんが弱ってるなら尚更だ。

 

 

 

「無駄な抵抗は諦めな、あんたはもうアタイの領域にいる」

「っぐが!?……っあ!?」

 

その一言、花子さんがたった一言喋った瞬間、リニスさんはまるでプレス機にかけられたように床にへばりつく。

かつて花子さんがマジ切れした時と同じ現象が、リニスさんに襲いかかっているのだ。

リニスさんの説得にこの場所……『女子トイレ』を選んだ理由はこれ、俺一人じゃ安全にリニスさんと対話できる状況に持って行けないから、『学校の怪談、トイレの花子さん』の力を借りるというわけだ。

 

やっぱり花子さんすごいなぁ……あの時と違って、あの圧力をリニスさんだけにかけているみたいで、俺は何も感じていない。

しかもこの圧力がただの凄みだっていうから驚くしかない、まるでバトル漫画みたいだ。

 

「アタイを誰だと思ってる? 学校外ならいざ知らず、学校内なら良い子も悪い子もみーんな知ってる、学校の怪談、トイレの花子さんだよっ!」

 

ビシッ、と自分を親指で指して高らかに見得を切る花子さん。

俺もいつか、あんな感じでかっこよく名乗ってみたいなぁ……。

 

さて、これでリニスさんの動きは封じ込めたから反撃はこないだろう。

というか反撃されるとリニスさん自身が危ない、今の状態のリニスさんが無理矢理でも戦おうとすれば自滅しかねないのだ。

俺は動けないリニスさんにゆっくりと近づいていく。

 

「くっ、う、動けな……」

 

近づく俺に気づいてリニスさんは必死に逃れようと足掻くが、無駄な抵抗だ。

なんせ同じ都市伝説級の幽霊でも、花子さんの領域じゃあまともに動くことができなくなるのだから。

いくらリニスさんとはいえ、逃げることはできない。

 

リニスさんの目の前に立った俺は、ゆっくりと膝を追って座り、両手をすっと前に並べて差し出すと。

 

 

「誠にっ! 申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!」

「……………へ?」

 

全身全霊、魂の土下座を決行した。

 

「今更こんな事を言っても信じられないとは思います! でも、俺たちは貴女に対して敵意は全くありませんっ!」

「えっ、ええ……?」

「こんな手荒な方法になったことは幾らでも謝ります! どうか、俺の話を聞いてください!」

 

謝る、ただひたすらに謝る。

地面に触れることができるなら額から血が出るほどに頭を下げ続ける。

ごちゃごちゃと言い訳のように説得をしてみても、リニスさんはきっと信じてはくれないだろう。

ならばもう、俺にできることは土下座して、敵意がないという事を理解してもらえるのを期待するしかなかった。

 

「てっ、敵意がない、なら、何故こんなこと……をっ」

 

あっ、しまった。

花子さんの拘束が裏目に出てしまったみたいで、リニスさんはいまいち信用出来ない様子である。

そりゃあまあ、花子さんのあのプレッシャーは攻撃といっても差し支えないレベルだから仕方ないのだが。

 

「っぷはぁ!? か、体が軽くなった……?」

「田中、もうちょっとマシなやり方はないのかい……。ほら! アタイも拘束を解いてやった、そこのバカはアンタが何か言うまで頭を下げ続けるつもりだよ。これでもまだ戦うつもりかい?」

 

 

花子さんが空気を読んでくれて、リニスさんにかけているプレッシャーを消し去る。

起き上がったリニスさんは肩で息をしていて消耗しているようだが、花子さんも手加減してくれたのか目立った外傷はない。

多分、花子さんの心情的には、敵対心が消えていないリニスさんの拘束を解くのは不本意の筈だ。

それでも拘束を解いてくれたのは、俺にリニスさんの説得を任せてくれているから、いや……俺を信じてくれるからだ。

ならば、その信用に答えなければ。

 

 

「リニスさん、重ねて言います。俺は貴女やフェイトちゃん達に危害を加える気は元からありません。どうしても、話を聞いてもらいたかったんです。『今の貴女自身の事』と『フェイトちゃんのこれから』について」

「…………!」

 

先程まで困惑した様子だったリニスさんが黙り込む。

多分、頭を上げれば真剣な顔つきになっているのが見えるだろう。

リニスさんが一番知りたいであろう事は『幽霊になっている自分のこと』と『俺がフェイトちゃんの何を知っているのか』だと俺は見当をつけていた。

それをとっかかりにすれば、話し合うことができるかもしれない。

俺は予想通りの反応に、内心ガッツポーズをとる。

 

「……条件があります。フェイト達は無事なのか、それと貴方達が何者なのか、まずはそれを話してもらいます」

 

警戒の意思を解かず、隙さえあれば今すぐにでも逃走する気らしいリニスさんだが、俺の話に興味が全くない訳ではないようだ。

一応は話ができる態勢に持っていけただけ良い方だろう。

まずはフェイトちゃん達の事を伝えるとしよう。

 

「フェイトちゃん達は……えーとですね」

「?」

 

あ、しまった。

言いだしてから気付いたけど、なのはちゃんが乱入してきた後の事、全然わからない。

バーサク状態のなのはちゃんの側にフェイトちゃんを置いてきてしまったけど……。

ま、まあフェイトちゃんは幽霊じゃないし、手を出すとは思えない……多分。

 

というかなんて言おう、実は知りません☆なんて言ったら信用がガタ落ちする可能性があるぞ。

花子さんに助けを求めて目配せするものの、『アタイも知らん』と返ってきた。

 

歯切れの悪い俺に、リニスさんも不審そうな顔になってるし、そりゃフェイトちゃんの守護霊だから心配に決まってるし……おお、そうだ!

 

「リニスさん! ちょっと目を閉じて、しばらくじっとしてて下さい!」

「なぜですか?」

「フェイトちゃん達の場所を教えるのに必要なんです!」

 

リニスさんにそういうと、最初こそ疑っていた彼女もフェイトちゃんの居場所を知るためならと恐る恐るいう通りにしてくれた。

 

「成る程ね、その手があったか」

 

その様子を見た花子さんも懐かしそうにしている。

ああ、そういえばそうだった。

俺が花子さんに初めてお話しした時も、これを教わったんだよな。

 

両目を閉じて、何をするでもなくフヨフヨと浮くこと数秒。

変化は直ぐに起きた。

 

スッ……

 

「え?」

 

スススス……

 

「身体が、引っ張られてる?」

「これが、守護霊である貴女とフェイトちゃんの間にある『つながり』です。この引張られてる方向にフェイトちゃん達はいます」

「無事なんですよね!?」

「大丈夫ですよ、生きていれば必ずこの現象は発生しますし。俺も二人には手加減しました。怪我はないですよ」

 

 

『つながり』の事は今話してもリニスさんには分からないだろうけど、一応説明しておく。

リニスさんの引っ張られてる方向を見てみると、海鳴の温泉旅館ではなく隣町の方向へ進んでいた。

どうやら既にフェイトちゃん達は拠点に帰ったらしい。

流石の速さだ、旅館からはかなりの距離があるのに俺より速く帰れるとは。

 

「貴女達は一体……?」

 

リニスさんが驚きの表情のまま問いかける。

恐らく、今までずっと幽霊の特性に気付かないまま過ごしてきたんだろう。

自分がどんな存在なのか、何が出来るかも分からないままフェイトちゃん達を見守る事しか出来なかったのだろう。

 

それが今、自分にできる事があるかもしれないという希望が目の前にあって、それを知る俺たちが何者なのかを問いかけてきた。

かつて一度名乗った事はあるが、あの時とは違う意味を持つ問いかけに、俺と花子さんは堂々と答える。

 

「俺は田中太郎。貴女と同じで一度死に、大切な人を守るために死後も存在し続ける『守護霊』です」

「アタイは花子。コイツの師匠をやってる、日本で一番有名な幽霊『学校の怪談』さ」

 

やっと、リニスさん説得の光が見えてきた。

 

 

 

「私が『幽霊』、ですか……」

「正確にいうなら、フェイトちゃんの守護霊ですけどね。さっきのつながりは守護霊と主人の間にしかないですし」

 

難航するかと思われた説得だが、思いの外順調に進んでいた。

あれだけ警戒していたリニスさんだけど、俺が幽霊に関する知識を教えてあげるととても興味深そうに食いついてきたのだ。

家庭教師をやっていたからなのか、『教育』にはする方にもされる方にも熱心になってしまうらしい。

 

「その『守護霊』と『幽霊』では、出来ることに違いがあるんでしょうか? 先程教えて貰ったポルターガイストとか、守護霊だけに使える他の能力とかは?」

「基本的には使える力に違いはないですね、つながりの有無ぐらいです。人間でいえば善人か悪人かみたいな、幽霊としての性質の話ですから」

「成る程……」

 

というか、リニスさんの飲み込みが素晴らしい。

今の今まで幽霊のゆの字も知らなかったとは思えないほどに、素直に俺の話を受け止めているのだ。

そのことについて聞いてみると『今までも説明ができなかったが思い当たる節があった』らしく、俺の話と今までの経験を照らし合わせていけば面白いぐらいにその疑問の正体がわかった、とのこと。

流石というか、優秀すぎるというか、俺が花子さんに弟子入りしてから教えてもらった知識をスポンジみたいに吸収していくなぁ……。

 

「幽霊が出来ることに違いは無いですけど、未練や生前の記憶から得意不得意はありますよ。リニスさんだったら魔法を使う要領で人魂を扱えてますし」

「私も無意識に幽霊の力を使えてたんですね……。違和感はあったんですよ、シュートや砲撃みたいな攻撃は使えるのに、プロテクションの類は上手くいかなくて」

「そりゃあ人魂にはあまり強度はないですからね。直ぐに砕けちゃったりしてましたでしょ?」

「はい、その通りなんです」

 

で、まあ、一見順調に見えても何故だか問題は発生するわけで……。

いや、俺とリニスさんとの会話に問題は無いよ?

 

「むぅ〜〜」

 

ただその……なんで花子さん俺たちの方見て苦虫を噛み潰したような顔になっているんだろう。

 

説得を全面的に任せてくれた花子さんは、基本近くで見守ってくれているんだけど……とても口を出したい様子なのだ。

はっ、もしかして俺の話がどこか間違っていて、今すぐにでも訂正したいけど口を出すわけにはいかないとかそんな感じなのか!?

 

「り、リニスさん。今までの話でどこか違和感がある所とかあったら遠慮なく言って下さいね!」

「えっ? 今の所は大丈夫ですが……」

「ホント、僅かな違和感でも言ってくれたら『手取り足取り』教え直しますから!」

 

俺一人じゃあうっかりミスを見落とすかもしれん、かと言って花子さんに直接聞くのは格好が悪い。

というわけで、リニスさんに俺の話に変な所があったら言ってもらうよう念を押しておこう。

 

これで花子さんの機嫌を損なうような事は無いはず。

 

 

「手取り、足取り……。ぬぎぎぎぎぎ……!!!」

 

あっるぇー!? 機嫌良くなるどころか般若の表情になってるんですけどー!?

アカンあれはアカンで、はやてちゃんじゃないけどついエセ関西弁になってしまうくらいアレはヤバイで……学校の怪談級のプレッシャーが発せられる寸前や!?

どうしよう、原因が全くわからない!?

 

「あら? ああ、なるほど……ふふっ♩」

「っ!?」

 

リニスさんはそんな花子さんの様子を見て何かが分かったらしく、なんだか微笑ましいものを見ているような目をしていた。

んで、そんなリニスさんの顔を見た花子さんが凄い気まずそうな表情になる。

余計な事を知られてしまったような顔だ。

 

「えっと、花子さん? 何か、マズイことでも……?」

 

原因が分からないし、これ以上花子さんを怒らせたくない。

最終手段だ、直接聞く事にしよう。

 

 

「それはですね、多分やきもちを「わぁあああっ!? 違う! 断じて違うっ!?」

「「ぺぎゃんっ!?」」

 

何故かリニスさんが返事をしそうになって、慌てて花子さんがそれを大声で遮っていた。

そしてそれと同時にプレッシャーが解放され、リニスさんと、ついでに俺が床に叩きつけられた。

 

「あがががが……なぜ俺までっ」

「う、うご、けな」

 

殺人プレス機のような圧力に死にかける、死んでるけど。

 

「へ、変な事言うんじゃないよっ! アタイはただ、さっきから説得をしてないじゃないかってイラついてるだけだっ!」

 

顔を真っ赤にして否定する花子さん。

可愛いんだけど今死にかけてるからそんな感想を抱く暇すらない。

まあ、花子さんは「はっ!? しまった!?」と直ぐにプレッシャーを解除してくれたから大事には至ってないけどさ。

 

しかし、花子さんが力の制御をミスするなんて珍しいなあ。

日本で一番有名故に超強力な霊力をもっているし、その上力を完全に制御しているから、花子さんは他の都市伝説や怪談の総元締めみたいな立場にあるっていうのに……。

 

よほどリニスさんの言葉に混乱したらしい。

焼き餅とか言ってたけど、一体何に対して焼き餅を焼いていたんだろうか?

まあ花子さんは否定していたし、下手に突っつくと藪から蛇どころか龍が出てくるだろうから黙っておく事にしよう、うん。

 

「いたたた……ほ、本当に貴女の方が強いんですね……。フェイトと同い年くらいに見えるのに」

「ふんっ、伊達に長いこと学校の怪談やってないさ。幽霊になってからを含めりゃ、アタイはこの中で一番年上だよ」

 

起き上がったリニスさんが、信じられないといった様子で花子さんに話しかける。

まあ見かけだけを見れば、とても花子さんが最強の幽霊だなんて想像はつかないだろう。

試す意図は無かったようだけど、これで力の差を知って、少しでも抵抗の意思が無くなってくれるとありがたい。

 

「って、そうだった。説得をしないといけなかった」

 

花子さんに言われて思い出した、リニスさんに教えるのが楽しくて、目的をすっかり忘れてたぜ。

 

俺の第一の目的……というか、リニスさんとこうして話したかった理由は『幽霊でも何か出来ることはある』というのを知ってもらいたかったということだ。

既にそれは達成しつつあると言ってもいい。

リニスさんには幽霊の知識をいくらか教えたから、少なくとも死んでいても何かが出来るというのは分かってくれただろう。

 

ここから先は俺個人ではなく『俺達』の目的。

幽霊にも何かが出来る、リニスさんにそれを知ってもらった上で、俺達と一緒に戦ってもらいたいのだ。

俺が護りたい人達の中には、勿論フェイトちゃん達もいる。

目的が同じならば、リニスさんと共にイレギュラーと戦い、ゆくゆくはプレシアさんも助ける事も不可能じゃなくなるはずだ。

 

 

「というわけでリニスさん、説得をさせてもらいますよ」

「説得ってそんな堂々と宣言するものじゃないと思いますけど……」

「うぐっ」

 

だ、だって人を説得なんて意識してやったことないんだもん!

内心少し緊張しながら、俺は口を開く。

 

 

 

「……リニスさん。今から俺の話すことは、荒唐無稽な作り話に聞こえるかもしれません」

 

リニスさんの説得。

それは、今まで俺たちが戦ってきた理由を、何の目的があって今ここに居るのかを知ってもらわなければならない。

 

「でも、本当のことです。俺たちは、今までずっとこの世界の未来を変えるために戦ってきました」

「未来、ですか……?」

 

幽霊、災厄の種ジュエルシード、なのはちゃんとフェイトちゃん達が辿る未来、イレギュラーの存在。

そして、それら全てを知っている俺の、田中太郎という『転死者』の事を。

 

俺という存在が、どれだけ異質なものなのかはよく知っているし、だからこそ信じてはもらえないだろう。

 

「そもそもの事の発端は、俺です。俺は『この世界が本来辿るはずだった未来』を知っている。誰も、何も手を出さなければ、実現する未来です」

 

それを誤魔化して話そうと考えた事もある。

リニスさんが信じやすいように、俺に関する話を作り変える。

 

でも、それは嘘をつくのと同じだ。

転死者ということがバレる可能性は低くても、偽ったことはいずれ分かってしまうだろう。

 

「貴方は、予知のレアスキルを……?」

「いいえ、俺はスキルなんて無い普通の人間です。今も、昔も」

 

リニスさんの予想を否定する。

そう、偽るつもりは無い。

リニスさんを裏切りたくはない。

ありのままを話して、受け止めてもらおう。

 

「俺は、この世界の人間じゃあありません。生前の俺がいた世界は、この次元世界全てを探したって存在していない。そういう意味で、次元が違う世界にいました。……この世界に来た経緯も、後でお話しします」

 

 

全てを信じて、受け止めてもらえるとは思っていない。

一部でも、たとえ妄言に聞こえたとしても、俺たちがフェイトちゃん達を救うために動いていることだけは信じて欲しいから。

 

「その世界では、なのはちゃんとフェイトちゃんが辿る未来が映像として民衆の娯楽になっていました。その未来を変えるために、俺は花子さん達と一緒に戦っているんです。なのはちゃんの守護霊として」

 

自分の思いは正直に!

伝えたいことは相手の目を見てはなす!

 

「俺は、俺が知っている未来と、既に変わりつつある現状から皆を護りたい。だから、力を貸してください。リニスさん」

 

リニスさんの目をまっすぐ見ながら、俺は右手を差し出す。

頼む、信じてくれ……!

 

 

「…………」

「リニスさんっ……!」

 

しかし、リニスさんはその手を取ろうとはしてくれない。

駄目、なのか?

やっぱり、本当の事を話すべきじゃあなかったのか……?

 

 

「貴方は、無茶苦茶な人です」

「……え?」

 

目を伏せ、俺の視線を外したリニスさんはぽつりと言った。

め、滅茶苦茶?

 

「私と貴方は、数時間前まで戦ってたんですよ? あれだけフェイト達を追い詰めて。初めて会った時は私が一方的に痛めつけて。……それで、今度は仲間になって欲しいなんて、おかしいじゃないですか」

「うっ」

 

言葉にして言われると確かに滅茶苦茶だった……。

そうだ、リニスさんとはついさっきまで全力で戦ってたんだよな。

俺は勝つために手段を選ばなかった、その結果が俺の印象を最悪にしてしまうあの作戦だったし、それを決行した後で仲間になって欲しいなんて普通はあり得ないだろう。

分かっていたとはいえ、もっと他に手段がなかったのかを考えるべきだった。

 

「……でも、それも全部、こうやって私と話がしたいだけだったんですよね。最初に会った時も、さっきの戦いも、私を傷付けないように貴方は手加減してくれていた」

「いやその、それは……」

 

あれは俺の性質みたいなもんで、決して手加減をしたという感覚はないんだけど……。

でも確かに、傷付けたくないという意識はあったんだろう。

俺の守るべき人の中には、リニスさんもいるのだから。

 

最初は攻めるような口調だったリニスさんは、だんだん穏やかな言葉遣いになっていく。

 

「最初から、貴方は私の敵じゃなかった。敵であろうとしても、敵になりきれなかった。早とちりで攻撃したこと、すみません」

 

そして、ぺこりと頭を下げて謝ってくれた。

勿論俺は気にしていなかった。

リニスさんの今までの境遇を想像してみれば、初めて会った時からずっと余裕がなかったんだと分かるから。

まあ最初の戦いでトドメを刺されてたらやばかったのだけど、今が無事だから良しとしよう。

 

顔を上げたリニスさんは、何か憑き物が落ちたような表情で続ける。

 

「まだ全てを信じることはできません。でも、話してください。私が信じることができるまで」

「!」

 

そ、それって、もしかして、俺のことを信用したいってこと?

驚いたままリニスさんを見返すと「お願いします」と言われた。

 

 

「はい! もちろん、任せてください!」

 

活き活きと返事を返す。

やった! やったぞ!

これで、リニスさんが仲間になってくれるかもしれない!

 

「田中の説明をあれだけ真剣に聞いてたくせに、なーにが『まだ全てを信じることができません』だよ」

「あうっ。そ、それはその……」

 

花子さんが笑いながら嫌味ったらしいことを言うと、リニスさんはあわあわと顔を赤らめて焦ってしまった。

どうやら幽霊の説明部分については本気で信じてくれていたらしい。

なんというか、一見完璧にみえる彼女も意外と抜けたとこあるんだなぁ。

 

「たっ、太郎さんも笑わないでくださいっ!」

「え? あ、すんません」

 

どうやら微笑ましさからにやけてしまった顔が出ちゃってたようで、真っ赤になったリニスさんに怒られた。

でも、必死になればなるほど微笑ましい状態に陥ってることにリニスさんが気付かない限り、このにやけ顏は止められそうにない。

 

花子さんもそれが面白くなったようで、俺に一瞬視線を送る。

『面白いから暫く見守る』という意見を察知した俺も、それに追従した。

 

「「…………」」

「もうっ! は、早く話の続きを!」

 

花子さんと二人で生温かい視線を送ってると、やっと気付いたリニスさんは話題を変えてきた。

もうちょっと弄るのも良かったけど、確かに話さなきゃいけない。

 

「わかりました。なら、最初に俺がこの世界にきた経緯から話そうと思います」

 

俺たちの事を少しでも信じやすいようになるには、先ずは事の発端である俺の事を話した方がいいだろう。

 

 

 

「俺が生前いた世界は、神様が間違って大地震起こして滅んじゃいました。んで、俺はそれに巻き込まれて死んで、この世界で生まれ変わる筈が伝達ミスで死んだまま来たんです」

「…………………………」

 

あれ? リニスさんの目が100パーセント疑いの眼差しになっちゃったぞ?

 

「……あの、冗談ですよね?」

「ちょっ!? さっきまで信じる雰囲気でしたよねコレ! いやホントです! ホントなんですって!」

 

リニスさんはまるでかわいそうな物でも見るような目をしている。

いやまって、これは真実だから!

確かに一番荒唐無稽な作り話に聞こえるかもしれないけどまごう事なき実話だから!?

 

必死に弁明する俺をよそに、花子さんは「直球に言い過ぎだ馬鹿……」と頭を抱える。

 

なんだか、リニスさんの説得をやたら難しくしてしまった気がする……。

 

 

それから俺はリニスさんにこれまでの経緯を懇切丁寧に伝える事数十分。

 

この世界に来てからの5年間、一度死んだ後に訪れた天国のこと、果ては生前の俺の個人的な情報まで一生懸命に話していたらリニスさんはなんとか納得してくれた。

 

正確には「どう聞いても作り話にしか聞こえない内容だけど、それしか言えないくらい必死に話すから、多分、嘘ではないだろう」といった感じだ。

……俺、説得向いてないなぁ。

 

「さて、じゃあ次は俺のいとこの友達の叔父さんの話しですが」

「もういいですから! 貴方の情報どころか赤の他人の事まで話が脱線してますよ!?」

「アタイと会った時もそうだけど要らない事しゃべりすぎだよ……」

「ええ〜」

 

これからが面白い話なのに。

2人に突っ込まれる、どうやら必死になり過ぎてしまった。

 

とはいえこれで漸く、理解を得ることは出来た筈。

理解が出来れば次は協力だ。

 

後にプレシア・テスタロッサ事件と呼ばれるこの出来事の中で唯一救われない彼女。

失った娘を取り戻す為に狂う母親。

プレシアさん救う為には、彼女に一番近しい人物……つまり使い魔であるリニスさんの協力が得られれば、その可能性は大幅に高まる筈だ。

 

「リニスさん、一応一通り説明は終わりましたが……。今後は、俺たちと一緒に行動しませんか?」

「貴方達の仲間になれ、ということですか」

「や、そこまで強制するつもりはないんですが……」

 

もちろん、これはあくまで提案なのだ。

俺としては勿論そうなって欲しいけど、リニスさんとはお互い対等な立場でいたいのである。

命令して協力させるより、自分から協力すると言ってくれた方が信頼できるし。

 

「アタイとしちゃあ、負けたんだからとっとと従えって言いたいんだけどね」

「花子さん」

「わかってるよ田中、勝ったのはアンタだ。だからアタイは、断られても一切手出しはしない」

 

花子さんが本音を漏らしつつも、リニスさんがもし断った場合でも攻撃はしないことを宣言してくれた。

というか、俺の意図を汲んでくれたみたいだ。

できる限りリニスさんが自由に選択出来るように、もし俺たちにに不利な回答をしても何もしないと遠回しに言ってくれたのだ。

 

「……断った場合は、どうするんですか?」

「その時は、お互い協定を結びましょう。一緒に行動は出来なくても、目的は一致してるんですから」

 

一応、断られた後の事も考えている。

今後も別行動をとる事になったとしても、極力ぶつかり合わないように『最低限の約束』を交わしておくのだ。

大雑把に言うなら、協定は4つ。

 

1.今後はお互いの主人、身近な人物には危害、干渉を加えないとする。

2.お互いの主人が、生死を問うような事態に発展した場合は、1.の協定を無視し干渉して良い。

3.原作の悲劇を回避する為に干渉するのなら、お互いにその行為を伝えた上で、理解を得られた場合干渉してよい。

4.何があっても、お互いの主人の命をうばわないこと。

 

「……こんな感じの協定です。これならまた俺とリニスさんが戦う事もなくなるでしょう」

「確かに……でも」

「でも?」

 

腑に落ちない、といった様子のリニスさん。

何処かおかしいところでもあったのだろうか。

そりゃあまあ、大雑把に言っただけだから何かしら穴はあるだろうけど……。

 

「あ、いえ。これから先に起こる未来を知っている割には、積極的に干渉しない。と思っただけです」

「ああ。なるほど」

 

リニスさんの言う事にも一理ある。

先の事を予知できているのに、行動はあまり起こさないような協定、確かに不思議だろう。

未来予知ができる人間がいたら、普通なら既に結果の分かったギャンブルに大勝ちしたり、先の事を知っているのを武器に自分に益が出るよう動く。

何ならなのはちゃんがフェイトちゃんとの戦いで、コッソリ手助けをしたり、先にジュエルシードを全部集めたりだって、やればできる。

 

だけど俺は敢えてそれをしない、というか『する必要がない』のだ。

 

「それはですね、俺は基本的に『原作』の通りに未来が進んでも良いって考えてるからです。……あ、勿論最悪の事態は避けるようにしますよ?」

「ええ、それは分かってますけど……。どうして? やろうと思えば『原作』よりもずっと安全に、簡単にこの事態は解決するかもしれないのに」

 

まあ確かにそうだろう、でも。

 

「それじゃあ駄目なんですよ、きっと」

「?」

 

俺は安易になのはちゃん達に手を貸すべきじゃないと思っている。

俺が知ってる未来は、『本来俺達がいない場合』の未来の話だ。

下手に干渉すれば、この世界はどんどん原作から外れていくだろう、それだといくら未来を知っててもその未来が訪れないんじゃあ意味がなくなってしまう。

それに、何よりも。

 

「なのはちゃんもフェイトちゃんも、結局この困難を乗り越えていけるんですよ。俺たちが何も干渉しない未来で、悲しんだり、苦しんだりしながらでも進んでいける強さがある。……いや、寧ろ困難に立ち向かったからこそ強くなった。なら俺がその機会を奪う訳にはいかないでしょう」

「フェイト達の為に、ですか」

 

なのはちゃんの成長の為に、必要以上には手を出さない、この協定の根本にはその考えがある。

もちろん、イレギュラーの発生や、なのはちゃん達じゃあ対処しきれない事があれば迷わず助けに行くつもりだ。

 

「どうしますか? 本音は、俺たちと一緒に動いてくれるのが一番なんですけど」

「…………」

 

しばし考え込むリニスさん。

俺は協力してくれる事を、内心祈りつつ、再び手を差し出す。

数秒経って、リニスさんは顔を上げる。

 

 

「協力します。私はフェイトを助けたい。その為ならば、全力を尽くしましょう」

「っ………はい!」

 

伸ばした腕は、今度こそしっかり届いた。

やっと、分かり合うことができたんだ。

 

「よくやった田中。ま、アタイは初めからあんたならできるって思ってたけどね」

「はい、花子さんも、本当にありがとうございます!」

 

花子さんに深く礼をする、ほんと、俺のわがままを通させてくれたり、一緒に特訓に付き合ってくれたりと、この人がいなかったら俺はこの瞬間を迎えることはできなかっただろう。

俺の一生をかけても返しきれないぐらい、恩があるといってもいい。

幸いにも幽霊には寿命がないのがありがたい。

どれだけ難しくて、時間がかかろうが、絶対に花子さんも幸せにするぞ。

 

「……も、もしかしてですけど。最初からずっと、私を仲間にするのが目的だったんですか?」

「? ええ、そうですよ」

「ああ……そうだったんですね……だとしたら、私はなんて面倒なことを……」

 

俺たちの目的を正しく理解したリニスさんは、くらっと頭を抱えて落ち込んでいた。

ま、まあ……初めから争う必要もなかったわけだからなぁ。

その場の流れで敵対してしまって、こじれにこじれて、なんだかライバルっぽい宿命のバトル的なことまで発展しちゃったし。

 

「ほんっっっと、面倒くさいったらありゃしなかったね。弟子は殺されかけるわ、その弟子は殺されかけた相手と手を取り合いたいなんて言うわで、アタイも苦労したってもんじゃない」

「あうう、ごめんなさいぃ……」

 

すかさず花子さんはリニスさんをなじりだす。

殺しかけたことはリニスさん自身も罪悪感があったみたいで、涙目になってしまっていた。

しっかしまあ流石花子さん、あのリニスさんをこうも手玉に取るとは。

 

「確かに、俺も何度も雷に打たれましたからね。喰らうたびにショック死するんじゃないかってくらい痛かったですよー。まあ最終的に和解できたからいいですけど」

「うう、太郎さんまで……ホントにすみませんってば……」

 

ついでだし俺も弄っておこう。

だって、リニスさんの人魂はマジで痛かったもん、よく雷に打たれるとバットで殴られたような衝撃が走るって言うけど、あれはダンプに撥ねられたの間違いじゃないのかってぐらいやばかった。

初めから話が出来ていれば、戦うことも避けれた筈なのは明白だしね。

 

「いやーマジ痛かったわー。打たれた箇所の感覚が無くなってたのもマジ怖かったわー」

「だからごめんなさいってぇ……」

 

この人弄って遊ぶの滅茶苦茶楽しい。

えぐえぐと泣きながらひたすら謝ってくるだけだから嗜虐心に駆られてしまう。

 

とまあそんな感じで、俺と花子さんとリニスさんは親交を深めていった。

 

そして、それがひと段落ついたら時だ。

 

「ぐすん……では、協力も決まった訳ですし。今後私達がどう動くのか聞かせてください」

 

最初に見せた冷静な先生キャラのイメージはとうの昔に崩れ、涙声でこれからについて聞いてきたネコミミ女性ことリニスさん。

 

ああ、楽しかった楽しかった。

しかし、ここからは真面目にしないといけない。

なんせ今後の課題、原作をどうブレイクするかについてをリニスさんに聞かれているのだから。

 

プレシアさんを救うための鍵、彼女の過去を知っているであろうリニスさん。

これから待ち受ける悲劇、この世界の未来を知る俺。

そして、あらゆるイレギュラー要素にも対応できる、圧倒的な力を持つ花子さん達都市伝説の皆。

 

ようやく、役者は揃った。

 

「私に出来ることなら、何でも協力します。あの子達のためになるなら」

「アタイもちょうど、気になってる事がある。もしかしたらイレギュラーの手掛かりかもしれない」

 

やる気に満ち溢れた二人の顔、これ以上に頼もしいものはないだろう。

これなら、フェイトちゃんも、プレシアさんも助けられる、そう確信できる。

そして、そんな二人に対して俺は……。

 

 

 

 

「えーっと……そのですね……。今後の事なんですが、一度都市伝説の皆と話してから決めた方がいいかなーって。…………正直何も考えてないんですごめんなさい!」

 

「「………は?」」

 

実はリニスさんと戦う事に必死で、それ以降の予定なんて何一つ立ててませんでした!

もうちょっとリニスさん説得の余韻に浸らせて貰いたかったんですよ!


 
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