呉国首都・建業城の中庭に面したとある一室で2人の褐色の肌をした見目麗しい女性が小さな円卓を挟んで顔を突き合わせていた。
一人は先の呉王・孫策こと雪蓮。もう一人は雪蓮の親友にして元大都督・周喩こと冥琳。職から退いたとはいえ未だに国の決定権に大きな影響のある2人は、西にいるある人物を話題にしていた。
「そういえばさ冥琳。桃香の所の放蕩息子、今年で元服ですってね」
「放蕩・・・?ああ、劉永殿のことか。めでたく元服の御年を迎えられたそうだぞ。成都城では連日お祭り騒ぎだったとか」
何気に元呉王に気に入られている蜀王の次子は『放蕩息子』と呼ばれて可愛がられているのだ。
「元服をしたってことはもうお嫁さんを迎えてもいいわよね~♪そこでさ」
「だめだ」
「ええ~、なんでよ!まだ何も言ってないのに!」
親友の即座の却下に頬を膨らませてブーイングを行う雪蓮。冥琳は溜息交じりに告げる。
「どうせ自分が行くとか言うのだろう?いいか、お前は退いたとはいえ呉の王の姉君なのだ。そのお前が蜀に嫁いでなどみろ、呉の民はこう思うぞ―――『呉は蜀に人質を出した』と」
すなわち平等であるはずの三国同盟に歪みが出てしまいかねない、そう冥琳は言っているのだ。しかし雪蓮はちっちっちっ、と指を振る。
「違うわよー。確かに一刀のところに行けるのは魅力的だけど、嫁ぐのは私じゃなくて孫喩―――円(まどか)よ」
「孫喩様を!?」
冥琳の驚愕。
孫喩は雪蓮・孫権・孫尚香の孫家三姉妹の従妹の姪に当たる少女だがかなり年が離れており、それこそ雪蓮とは親子ほど年が離れている。真名を円。
呉国の民からは、活発な性格で、城下町の子供を率いては山野を駆け巡って泥だらけの姿になる事から『獣姫』の名で呼ばれて親しまれている。
「あの子ももうお年頃だしね。そろそろお婿さんを迎えてもいいと思うの」
「たしかにそうだが・・・しかし円様が了承するか?」
「その辺はわかってるわよぅ。あの子ともよく話して―――」
「その必要はないぜ、雪蓮様!」
いきなり割り込んできた第三者の声がした方向にぎょっとして2人が顔を向けると、そこには―――
屋根の端から逆さに顔を出している少女の顔があった。
褐色の肌に翡翠色の活発そうな印象を相手に与える瞳。彼女こそ今話題に上がっていた孫喩こと円である。「とうっ」という掛け声とともに屋根から飛び降りて見事な着地を見せ、2人のもとに駆け寄る。
「話は大体聞いたぜ!」
「円あんた今日もすごい格好ね・・・」
相変わらずの姪の泥だらけの恰好に苦笑する雪蓮。円はあいていた椅子に座って会話に参加する。
「あれだろ、蜀の皇子様をオレの魅力でメロメロにしちまえばいいんだろ!?」
「ま、まぁその通りですが・・・」
元気良く発言する円に冥琳は内心冷や汗を流す。その目線は彼女の間っ平らな胸に当てられていた。
(雪蓮や蓮華様は円様の年頃にはすでに今の半分くらいの大きさはあったものだが・・・まぁ、北郷殿の血をひく劉永殿は胸の大小で女の好みを決めはしないだろう)
内心の不安を押し殺し、冥琳は劉永の嫁候補に呉からは孫喩を出すことに決めた。そこでふと気になることが浮かび上がった。
(華琳殿の魏からは誰か嫁を出すのだろうかな?)
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今回は呉編です!
劉永に恋する朱莉にライバル登場です!短めですがどうぞ~