『マシナリーシフト』
「え……」
気付いた時には、もう終わった後だった。
そこには血だまりの上で、胴体に大きな切り傷を負って倒れているデバッカがいた
そしてもう一人、担いだ大斧共々返り血を浴びた大男がいた。
大男の身体の半分は人間ではなく、まるで竜のようだった。
「……何時の日も虚しい物よな、戦いの後とは……だが」
一目見ただけで誰でもはっきりと分かる、コイツがデバッカを……
私は弓と矢を大男に構えて射ろうとしたその時
「……止めておけ収霊の巫女、貴様ごときの矢で傷つくわけがなかろう……加えて貴様は」
そう言って大男は、私の左腕を指そうとした指を射った
大男が何を言いたいのかわかっていた、自分の左腕に亀裂のような模様があることを
私はそれが何か分かっていた、自分の身に何が起きているのかを。だからこそ、今はその現実を受け入れたくなかった。
せめてデバッカが……アイツが全部思い出すその日までは考えたくもなかった……けど、目を背けるには大きくなりすぎた
プーちゃんが暴れたあの日のヒビがここまで大きくなったって事は……女神になっても、私の運命と結末は変わらないって事かぁ……
……あーあ、またベーちゃんに黙って勝手に立ち去らなきゃいけないなぁ……とか考えてる暇なんてないか
「……私ね、その子の思い出捜しを手伝う約束しちゃったんだ、けど思い出すなり勝手に行っちゃって……挙句死にそうになったりして本っ当に迷惑」
もし能力使えば寿命縮むかもね、いやホント。
そりゃあ死にたくないよ?やりたい事なんてたっくさんあるよ?女の子だもん。けどさ、けどさ……
「だからさ、今死なれたら、時々寿命削ってでも必死に蘇生させてきた私の苦労が水の泡になっちゃうじゃないか」
「……ほぅ」
くすりと笑う大男、何が可笑しいんだい、ちょっとイラっと来るよ
「口と心は全く別の事を言っておるのに、意味は全く同じとは……その戦士に惚れたか?援したいが朽ち逝く
「ち……違うっての!ただ単に興味があるだけ!基本同種に男がいない女神の性だよ性!だから仕方が無いって言うか……何て言うか……」
(※そんな性はない……多分)
「とにかくそんな訳だから……どいてくれるかな?出来ればアンタのようなトカゲゴリラと戦いたくなんてないんだけど」
「そうはいかん、戦場に立っている以上、阻むのが世の常だ」
そこは融通効かせてよ……戦闘狂の筋肉バカでもこの状況ぐらい空気読んでよ!これだから風の流れは読める癖に生前ボッチなんじゃない!
会話の後のほんのちょっとの沈黙、互いににらみ合いながらも戦いの準備をととのえていた……その時だった
「ヌッ……?」
「え…………」
大男のすぐ後ろにいたデバッカが、重傷を負って起きられないどころか命も危うかったデバッカが、大男を斬った
だがその目は虚ろ生気もなく、覇気もなく、活力もなく、ただただ【動いているだけ】だった。
瀕死のデバッカが何故動いているか……私達は知っている。それは人神に仕込まれている相打ち上等な決戦兵器、『マシナリーシフト』。
一度発動すればリミッターが外れ、本人の意志はなくなり、負担など気にせずあらゆる手を使ってでも敵を倒すまで止まらないマシーンと化してしまう
私は地下に幽閉されてる奴から知っていた、大男は……どうやら一度、この状態のデバッカと戦ったことがあるみたいだわこの反応。
……なのに何さその顔は。後ろから不意打ちされて怒るか、復活して喜ぶかすると思ったら……落胆したような顔をして
「……以前二度、これが襲い掛かった事があった」
突然大男が語り出す、その間後ろでデバッカが何度も何度も切り付けているのに
「一度目は我が人の身であった頃、二度目はあの施設を出た頃……どちらも討ち壊したにも拘わらず……渇いた」
語る言葉は哀愁を含み、纏う雰囲気は静まり返る。その間デバッカの剣撃は加速する
「所詮は傀儡、喜ばしき事もなし、以前は歓喜の思い出だったがしかし、全て思いだした今では最早……退屈の極みでしかない」
デバッカが両手の剣に炎を纏わせ、大きく振り下ろし切り付けたにも関わらず、大男は全く、微動だにせずにいた
「戦士よ、我は萎えた、我は失望したぞ、貴様が再び傀儡に戻ってしまったからな……手を緩めていたとはいえ、貴様の成長に心が躍っていたのだが……残念だ」
「……!」
語り終えた直後、大男は振り返りざまに斧を振り払った。デバッカは後方によけて距離を取った後、大男の横を回り込みつつ切りかかる
けれど大男はかわしもせず、大斧を振り下ろし、抉るように斬り裂いた。
デバッカはまともに受けたにも関わらず、負った傷から血が流れ続けているにも関わらず、カラクリ人形の様に、ただただ敵を排除せんと激しく動き続けた
私はただそれを見守るしかなかった、あの二人の戦いにわりこむ事も止めに入る事も出来なかった
そんな私だったけど、このまま死にゆくデバッカを見てるだけなんて、出来るわけがなかった。
このままだとアイツは死んでしまう、そんなの嫌だ、ならどうする、どうすればいい
想いが、思考が、私の中で渦巻いて、混ざり合って……しかも物理的に私の中で色々渦巻いてて気持ち悪い……吐きそう
とにかくアイツを起こさなければ、今のままだと勝機もない、そして何よりあんなデバッカ私は嫌だ
勝手に飛びだして私を振り回して、放っておくと死にかけるからほっとけなくて……そうやって私の事を引っ張っていくいつものアイツが良い
……そんな時、一つだけ私の中で思いついた、私しかできない、私だけの方法……けど下手を打てば私まで危ないだろうけど、そんな事気にしちゃいられない
こうして覚悟を決めた私は、アイツを内側から叩き起こす為に……自分の胸に矢を突き刺し、一旦死んだ
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