No.802783

ゼロの使い魔 AOS 第29話 少女が見た最期の願い

koiwaitomatoさん

あるところに一人の少女がいました。
彼女は大事なものを持っておらず、残ったものも全て失ってしまいました。
絶望のなかで少女は見てしまいます、かつて幸せだったころの自分を・・・そして。
※前回の予告のタイトルを変えました。

2015-09-17 23:33:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1313   閲覧ユーザー数:1302

 

それは、ある春の日の事だった。

 

ここはどこかの世界の学校の中庭、一クラス分の生徒が集まってみんな期待に胸を膨らませている。

 

これから試験が行われるのだ、進級を賭けた大事な試験が。

 

順番に名前が呼ばれていく、そして呼ばれた生徒が呪文を唱える。

 

しばらくすると異形のものが彼等の目の前に現れる、どうやら使い魔を召喚する儀式のようだ。

 

火を噴く小さなドラゴンや大きな飛竜などの、いかにもモンスターといったものから。

 

黒猫や蛙または蝙蝠といった、使い魔として名が知られているもの。

 

他にもモグラやオオトカゲなどといった、珍しい動物も召喚されている。

 

教師に呼ばれては召喚して確認をしてもらう、この作業が延々と続いていく。

 

少女は、不安な面持ちで自分の番が来るのを待っていた。

 

自分が呼ばれるのはおそらく最後だろう、いつもそうだったから・・・

 

少女は成績がとても悪い、試験になると失敗するか時間がかかるかのどちらかだった。

 

ゆえにこういった試験はいつも最後に回される、そして今日は絶対に失敗できない試験。

 

失敗した場合は問答無用で退学となる、そう・・絶対に失敗は許されない。

 

そして、ついに少女の名前が呼ばれた。

 

ここまで、誰一人として召喚を失敗をしていなかった。

 

周りの目が少女に集中する、劣等生の彼女がどんな失敗をするかを期待して。

 

少女は祈った、どうか召喚が成功しますようにと。

 

少女は祈った、他のみんなに馬鹿にされないような立派な使い魔が出てきますようにと。

 

そして、意を決して呪文を唱える・・・絶対に詠唱を間違えないように。

 

・・・ゆっくりと

 

・・・力強く

 

・・・こっちに来て!と祈りをこめて

 

これは!?来たっ!これが私の・・・えっ?

 

 

そして・・・少女は召喚に失敗した。

 

 

 

 

 

 

少女は実家に戻った、彼女は学校を退学になっていた。

 

実家の両親は彼女を強く叱りつけた、我が家の恥だと・・・

 

一番上の少女の姉は彼女を強くしかりつけた、名家からなんでこんな子が出たのかと・・・

 

一つ上の姉は少女を慰めてくれた、それだけが少女の救いだった・・・

 

少女は悲しみにくれた、どうして自分は魔法が使えないのだろうか?

 

この世の理不尽さを怨み悲しんでいた、いつまでも・・いつまでも・・・

 

 

少女には婚約者がいた、自分より年上の身分の高い貴族だった。

 

国でも名の高い職についていて、自分とはとても釣り合わない婚約だったと思っていた。

 

今回の件で婚約を解消されるのでは?と怯えていた少女だったが・・・

 

彼女の婚約者はそれを気にせずに、いずれは結婚をしようと改めて約束をしてくれた。

 

少女は嬉しかった、こんな私でも受け入れてくれるなんて。

 

これが真実の愛なのかと、幼い乙女心を熱くした。

 

だが・・・それは裏切られる事になる。

 

彼女の婚約者は敵国のスパイだった、同盟国の王を殺害して国を裏切り敵国と共に戦いを仕掛けてきた。

 

大規模な戦いになったがなんとか撃退したらしい、今回の戦争で国がだいぶ傾く事になった。

 

だが少女にはそんな事はどうでも良かった・・・

 

真実の愛だと思っていたものに、あの素晴しい方に裏切られたのだ・・・

 

少女は愛というものを信じられなくなり、深い絶望を感じていた。

 

 

ある日、凶報が国じゅうを駆け巡った。

 

少女が住んでいる国の女王が、戦死したとの事だった。

 

女王は幼いころから殺害された同盟国の王と恋仲だったと聞く、あだ討ちのためかは分からないが激しい戦争に突入していた。

 

そして、大規模な不意打ちを受けて女王は戦火の中で息絶えたという。

 

最近は疎遠だったが幼き日は身分の違いを感じさせないほど仲良く遊んでいた、少女は女王との思い出を胸に泣いた。

 

王を失ったこの国のゆくえは決まったのかもしれない、国の支えである女王を失いこの国は遠くないうちに滅ぶだろう。

 

だが少女にはそんな事はどうでも良かった・・・

 

大切な友を失った、永遠の友情なんて無いという風に自分を残して死んでしまった友を悲しみ・・・怨んだ。

 

少女は友情なんてものを信じられなくなり、深い絶望と悲しみを感じていた。

 

 

国の治安は乱れていた、少女の実家の領地も例にもれずに犯罪が横行していた。

 

姉妹そろって家の中に閉じこもっていたのだが、ある日一つ上の姉が病に倒れて死んだ。

 

もともと身体が弱かったのだが最近の治安の乱れと国が滅亡するかもしれない恐怖からだろうか・・・あっさりと逝ってしまった。

 

少女は嘆き悲しんだ、いつも自分にやさしかった姉が自分を残して死んでしまった。

 

なんでこんな事になったんだろう?誰が悪いんだろう?どうしてこんな悲しい目に遭わなければいけないの?

 

どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?どうして!?・・・どうして!?

 

ついに・・・少女の心は壊れてしまった。

 

 

 

 

 

 

少女は、寝たきりになった。

 

食事も喉を通らない、一歩も歩くことも出来ない。

 

ただ、ベットの上で「どうして・・・」とつぶやくだけだった。

 

身体も痩せこけて、少女の自慢だった柔らかい髪も水分を失ってパサパサになっている。

 

少女はおそらく死ぬ、あと一回眠りに就いたらもう目を覚ます事はないだろう。

 

そして・・・少女は眠りに就いた。

 

 

少女は夢を見た、しばらく見ることの無かった夢の世界を見ている。

 

幼かった日の光景を見た、大好きだった姉の姿を見た、優しかったころの家族の姿を見た、楽しかった親友との姿を見た。

 

これは走馬灯・・・人間が死の間際に人生を思い返すというものを夢の中で見ているのだろう。

 

そして・・・忘れられないあの日に場面が移った、そう・・進級試験の日の事だ。

 

召喚の呪文を唱えている・・・ここで何回も唱えて結局は呼び出せずに・・・えっ!?

 

 

あれは誰なの?召喚には失敗したはずなのに・・しかも人間!?ありえないわ、人間の使い魔なんて!?

 

なにサイトって言うの?変わった名前なのね・・・ええっ!別の世界から召喚されたなんて。

 

すごい・・こんなに強いなんて!人間じゃないみたいだわ・・・ああ、そういえば使い魔だったわね。

 

なにこいつ!?いろんな女の子にいい顔してとんでもない浮気ものじゃない!?ご主人様に尽くさないなんて所詮は人間の男なのかしら?

 

なによ!?やきもちなんか焼いているの?バカね~わたし一筋でいればこんな事しないわよ、もっとやきもちを焼きなさいよ・・・ふふっ。

 

なによ・・なによこれ。これが私なのまさかこんな呪文を使えるなんて・・・この呪文はまるで・・あの伝説の・・。

 

まったく、なんで私に好きって言わないのよ!サイトってバカなんじゃないの!わたしは素直じゃないんだから、お願いだから好きって言えバカ!!

 

やめなさい!やめなさいサイト!!ありえないわよ・・何人・・いえ何万人いると思っているのよ!死んじゃうから!お願い、サイトを殺さないで!!!

 

やっぱり生きていたのね。当たり前だけどね、私の使い魔なんだから。そうよやっちゃいなさいサイト!今度こそ・・・私の前から居なくならないで。

 

キャ~~~~!!!何て格好をしているの私。ちょっとサイト!こんなに私が頑張ってるんだからね、いいわよ!もう行きなさい!私が許すわよ!!

 

貴族になるなんて・・・しかも領地持ちとか。凄いわよ!これが夢にまで見た新婚せ・・くっ!ふふっ・・ふふっ・・・あれ?何か見慣れたメイドが。

 

サイトがさらわれた・・・やっぱり私がいないとダメみたいね!みんなも私を応援してくれている。待ってなさいよ絶対に連れて帰るんだからね!

 

ありもしない夢を見ている。

 

強くて優しい使い魔の少年がそこにはいた。

 

伝説の呪文を使いこなす私がそこにいた。

 

私の周りに大勢の友達がそこにいた。

 

そう・・・少女が経験した事のないような世界がそこにはあった。

 

そして・・・

 

 

───ちゃんと私の所に来なさいよ!ドラゴンじゃなくても良い、犬でもかまわないわ!!絶対に大切にする!!!だから・・・お願い

 

 

───私の使い魔!

 

 

───本当に来てくれた!私の所に来てくれた!わっ私は貴族だもん・・・来るのは当たり前よ!でも・・・ありがとう

 

 

───えっ!?・・・なにこれ、な・な・な・なんで人間・・・しかも、平民?

 

 

・・・少女は見てしまった。

 

・・・最後の時を迎える刹那に

 

・・・自分が呼び出すはずだったものを

 

・・・あの春の日に自分が見たものがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

「・・・そう、あんただったのね。わたしの・・・・を・・・を持っていったやつは。くっくくくっ!あっははははは!!!」

 

「絶対に許さない!絶対に許さないから!・・・は私のものよ!あんたなんかにあげるもんですか!全部返せ~~~~!!!」

 

 

そして少女は呪いとも・・・願いとも取れるような言葉を吐き・・・その短い人生を終えた。

 

 

....第29話 少女が見た最期の願い 終

 

 

 

next第30話 トリスタニアの使い魔

 

 

執筆.小岩井トマト

 

 


 
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