新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第049話「劉表の死」
影村軍の朝の朝礼にて、緊急会議が行なわれていた。
「………白龍さんが討たれたですって?」
一刀は重昌にそう問いかける。
その報告は昨晩の真夜中に遡る。
曹操の軍が着々と長安に迫り来る準備を整え緊張感が続く間、居を街に構えている重昌自身も城に留まっていた。
街の明かりは消え、城も完全に静まり返っている時である。彼は寝具にて寝息をたてており、その隣には同じく裸体で寝息をたてる柑奈の姿があった。
静かな寝息をたてている二人であるが、突然その二人の目は開かれた。
「………思春か?」
彼がそう呟いた瞬間、部屋に一つの影が出現し、思春が膝を着き待機する。部屋が暗いので分からないが、彼女は頬を少し赤めさせている。
重昌は体を起こし、柑奈も寝具から出て、身支度を整えて部屋の油に火を灯す。
「どうした?帰還にはまだ二日早いと思うが………いったい何があった?」
明かりを灯されてようやく気付くであろうが、思春の服は所々砂埃に汚れ、体も汗に塗れている。
「お屋形様、恐れていた事態が起きてしまいました」
それからの思春の報告を聞き、窓から覗く空は朝日が出る前であるのか、若干青みを映している。
「興覇、今すぐ城にいる重鎮を叩き起こして大広間に集めろ。柑奈も手伝え。私も着替えて直ぐに向かう」
彼の命を聞くと、二人は「御意」と返事をして仕事に取り掛かる。
そして時は戻り朝礼。
「興覇、劉表や敗れるまでの経緯と、荊州の現状を諸々報告しろ」
「はっ」
それから思春は淡々と荊州での出来事と話し出した。
荊州の襄陽にて、孫呉軍と荊州軍の戦いは終盤を迎えていた。当初の拮抗していた戦況は、徐々に将が豊富な荊州軍が押し出しており、拮抗していた戦況は後方支援である劉備と公孫瓚が前に出てきたことにより、果敢に攻める呉軍は一枚手札が多い劉表軍に押し戻される。
「不味いわね。戦況的に徐々にこちらが押し込まれているわ」
孫策は冷静に戦場を分析しようとするが、そんなことを許す関羽では無かった。
「でえぇぇぇぇぇっい!!」
関羽の一閃を受け止めると、重く腕にのしかかり、孫策は腕が痺れてくる。
「ふっ!!」
「――っ!!」
それは関羽にも同じことが言えるらしく、孫策の扱う南海覇王の一撃を何とか受け止める。
「……っく、流石『江東の小覇王』は伊達ではない」
「あら、それは光栄だわね。でも、私は貴女の通り名は納得していないけどね」
「………」
「『軍神』だろうが『鬼戦姫』だろうが、私は”本物”を知っている。貴女の様な贋作は目障りなのよね」
孫策は関羽と鍔迫り合いに持ち込むと、関羽は何か話し出す。
「………それもそうだ。そもそも一介の将が何故『軍神』なのか。私自身感じていることだが……しかしこの『鬼戦姫』だけは、我が師より拝謁したもの。……簡単に否定されるわけにはいかないな」
関羽は競り合いより孫策を投げ飛ばし、対する孫策は一回転して着地して見せる。
「………いくぞ小覇王。鬼の本気を見せてやる」
改めて関羽を見直すと、彼女から溢れる闘気の量は、今先程より遥かに上がり、本来視覚出来ない気が、孫策の目には光っている様に思えた。すると孫策は、左に挿している南海覇王の鞘とは別の、もう一つの鞘より刀を抜き取った。
「………ふふふ、ゾクゾクしてきたわね。いいわ関羽、私も本気でいきましょうか。我が
孫策の口より『影村』との言葉が出た瞬間、関羽は少し戸惑いそうになったが、まずは目の前の敵に集中だと判断し、二人の”鬼”の剣戟が再び戦場に響き渡った。
そういった孫呉の大将が一騎打ちに臨む中、荊州の大将である劉表は、部下の黄祖と共に程普を追い詰めていた。
「……ぐっ、はぁはぁ」
「ふふふ、流石にバテテきたか」
始めこそ劉表と黄祖を圧していた程普であるが、三人が剣を混じり合わせて30合を過ぎた辺りから、徐々に程普の動きは鈍くなり、遂には逆に追い込まれて程普は膝を屈した。
両者の剣は既に刃毀れを起こして、それぞれ自身の獲物を扱い、程普は蛇剣を抜いており、対する黄祖は
程普は足元ふらつかせて剣を地面に突き刺してバランスを保つ。
「……その左足、やはりお前の体には大変なる負担を与えているようだな」
劉表は魔的に頬を歪める。その指摘は当たっていた。本来体を支えるべき両足の負担が、全て片足に来ているのだ。それに加えて、年齢により間接の耐久性も格段に落ちている。
それを知ってか知らずか、黄祖は程普の後ろに回りこんだ。
「怨むなよ泊地。いくら手負いとはいえまともにぶつかれば俺達に勝ち目は無い。俺達はずっとこの機会を狙っていたんだよ」
程普の疲労感は現在ピークに達しており、彼の目の前に映る劉表も霞んで見えている状態である。
「……さて、そろそろ終わらせるとするか――」
二人が程普を討ち取ろうとしている策はこうである。
まず劉表が程普の足元に連続で突きや足払いの攻撃を行なう。当然足元のおぼつかない程普はバランスを崩すか、片足一本ででも避けようとするであろう。
そんな時に後ろから黄祖が鉄爪の攻撃にて襲い掛かり、程普の息の根を止めるっという流れである。
劉表は黄祖に目配せを行なうと、二人は同時に動き出した。
黄蓋、凌統は現在趙雲を相手に善戦しており、遠く離れた劉表本陣より喚声が沸き起こったことを察知し、黄蓋は何か嫌な予感を覚えた。
「………公績、暫くここを頼んだ!!」
突然黄蓋は馬に飛び乗り、自らの部隊を引き連れて劉表本陣へと特攻していく。
「さ、祭様!!単独行動は危険です!!」
慌てて凌統も黄蓋に続こうとしたが、そんな行動を簡単に許す趙雲でもなかった。
「おやおや、貴殿までいなくなれば、一体誰が私の相手を努めるというのだ?」
「ちっ、邪魔だ!!去ね!!」
凌統は自らの獲物であるトンファーに懇親の力を込め、右殴りにて趙雲の槍を叩き、力勝ちした彼は趙雲の体を右に逸らせることに成功。
そのまま彼は左のトンファーで趙雲の首下を狙う。
彼が【取った!!】っと思った瞬間に、左腕に感じた感触は人間の首を叩き折る感触では無く、何か鉄のようなものに防がれた感触であり、実際に剣戟も響き渡る。
服の中に隠していたのか、彼女は咄嗟に背中から重昌より譲り受けた青紅倚天で受け止めていたのだ。
直ぐに体勢を整えなおした趙雲は槍を振るい凌統と距離をとる。
「……見たことも無い武器ですが、それは一体・・・・・・?」
「これは剣の名は青紅倚天。影村殿の話によれば、レイピアと呼ばれる突きを基本攻撃とした剣らしい」
「何?それは親父殿から貰い受けた獲物だというのですか!?」
「………なるほど、お主も重昌殿の教え子の一人であったか。ならば相手にとって不足なし!!」
趙雲は青紅倚天の先を凌統に向けて、直刀槍である龍牙を腕に沿わせて握り、持ち手を脇に挟むようにして構える。
「さて、凌公積殿、存分に楽しませてもらうぞ」
【くそっ!!今この場で趙雲の追跡を振り切る事は不可能。仮に振り切れたとしても、本陣には多くの荊州兵を相手の上で目の前の将の相手もしなければならない。祭様、僕が行くまでは無茶な行動は謹んで下さいよ……】
荊州軍本陣では、一つの大きな出来事が起こっていた。
黄祖の喉に程普の刃が刺さっていたのである。
それまでの行動を説明すると、劉表は程普の足元に向けて鋭い突きをいくつも放っていった。
最初こそ程普は反撃を行ないつつ劉表の攻撃を避けていくも、やがて蓄えられた疲労は足にやってき、そのまま倒れかけてしまう。
そこに黄祖は程普向けて鉄爪の鋭い突きを放ち、彼の背中を突き刺そうとしたが、しかし程普は思いがけない方法でその攻撃を防ぐ。
劉表の突きを少し跳び避けて、そのまま戟の先を踏みつけて地面にめり込ませて行動を封じ、さらに背中に放たれている鉄爪の突きに対し、動かない筈の左足で蹴りを放ったのだ。そして左足の裏に鉄爪は刺さる。この鉄爪の一撃はかなり深いところまで刺さったらしく、黄祖は直ぐに抜くことは出来なく、程普はそんな暇を与えずに、そのまま左足を引き寄せる。黄祖の鉄爪は所謂固定式であるために、手から簡単に剥がれないように固定してある。それを狙ってか、引き寄せられた黄祖は体勢を崩し、その崩した瞬間を利用し、程普は体勢の崩れた黄祖の喉下に突きを放ち、黄祖は一瞬のうちに絶命した。
黄祖の絶命により、その体は地面に落ちてしまい、程普自身も劉表の槍の攻撃の時に、跳躍した際に体を横にそらせたことに加え、黄祖の鉄爪が左足に食い込んで身動きが取れず、そのまま地面に倒れこむ。
「……
黄祖の絶命に周りの兵士は負交じりの驚愕の声を上げるが、しかしそんな声も一瞬でかき消される事態に陥る。
突然劉表が口から血を吐いて膝を着いたのだ。
「………ふふふ、とうとう限界が来てしまったか………」
自分の吐血にて血塗られた手を見ながら、彼はしばしの感傷に浸ってしまった。
実を言うと、以前の劉表暗殺事件にて、彼が受けた毒矢の影響で劉表は体の免疫が極端に弱くなり、それに加え彼は老化の影響で心臓が弱くなってしまっていた。
勿論その事実は誰も知らず、唯一長年の付き合いである黄祖のみには看破されていたのだ。
今回、大将である自らが戦場に出た理由とは、自らの死期が近いことを悟った彼が、せめて長年の友との決着を望む為である。
【天よ………頼む。今しばらく私に時間を………】
まわりの兵の気遣いをよそに、劉表は口元の吐血を拭うと、体を起こし倒れた程普に近づいて行く。
それに対して程普は未だ左足の拘束を解けないでいた。
今の左足の蹴りも、股関節を動かして、ただ左足を向けて”たまたま”刺さっただけであるのだが、その割りに鉄爪が深く足裏に食い込んでしまっている。
また左膝から下の機能は完全に失っている故に、容易に抜くことも出来なく、聞こえてくる足音から察するに、劉表がまた近づいてきたのだ。
程普は考える間もなく剣を自らの左太ももに添えて、そのまま自らの足を斬り取った。
生物学的に考えて、動物が一番恐れている事は”痛み”であり、それは人間にも変らない。誰しも痛みを嫌い、どれだけ覚悟をしようとも、自らが自らの肉体に痛みを与える事はまた容易ではなく、”絶対に手加減を起こす”ものだ。また、これも勿論であるが、全力の際に手加減を起こせば、中途半端な結果に終わり、まして自らの肉体を斬り裂くとなれば、途中で力を弱めればそれこそ骨が邪魔して、生殺しの様な激痛が残る。
程普は見事に自らの足を斬り取ったのだ。
大多数の人がやったこと無い荒業であるので、はっきりとした事は言えないが、しかしそこまで行なえる程普の精神力は並大抵のことでないことが窺える。
彼は左足から血を流し悶えながら転がるが、遂には劉表に捕まり、彼は片手で程普の顎を掴む。
「………長かった。俺がどれだけこの時を待ち望んだことか………」
劉表は地面に程普を押さえ付けながら笑っていた。
「思えば俺はお前達に常に劣等感を感じていた。……人を惹きつける才には
「祭を殺す」その一言が聞こえた瞬間、程普は痛みを忘れたかのように目を見開いて両腕を動かし、反撃を行なうように劉表の胸倉を掴む。
今自分が愛し、愛される女性の中にはもう一つの命が宿っている。右手に愛する者の、左手に新しき命の思いを乗せて反撃を試みたが、悔しくもその反撃は劉表に払われて彼は自らの両膝で程普の両腕を押さえた。
「さらば愛しき友よ。
劉表は押さえつけた程普を抜いた腰剣で突き殺そうと大きく背を逸らせて突き刺そうとしたが、その瞬間、突然一条の矢が飛んできて、劉表の胸を貫いた。
突然のことにより劉表も呆然としていたが、胸の痛みと吐血の影響にて戦場の状況を把握していなかったのか、今現在戦場は大きく変っていたのだ。
突然特攻してきた命知らずの呉の精鋭数百にて、本陣手前まで怒涛の進撃を許してしまったのだ。
その先鋒を率いる将は黄蓋であり、黄蓋の放った矢が劉表の胸を刺し貫き、劉表の沿った体はそのまま後ろの地面に倒れてしまった。
劉表討ち死にが荊州兵の頭に過ぎった瞬間を呉兵は見逃さず、咄嗟に程普と劉表の間に割って入り、程普を保護したのだ。
「泊地よ、生きとるか!!?」
黄蓋は彼の頬を叩きながら尋ねるが応答が無い。しかし息をしていることは確認したのでどうやら生きているようだ。
急いで彼を連れて撤退しようと程普の体を持ち上げた瞬間に、劉表の亡骸の方から声が聞こえた。
そこには功を急いて劉表の首を取ろうとした呉兵が、蘇った劉表により逆に討ち取られてしまった光景である。
確かに黄蓋の矢は劉表の胸に刺さっている。しかし現に彼はこうやって蘇っている。だがよく劉表を見ると、彼は過呼吸にて肩で息をしている。
どうやら矢が刺さった位置は心臓から逸れて肺に刺さったようだ。
劉表は生きる屍の様に黄蓋と程普を追いかけ、その友の姿に黄蓋は恐怖すら覚え、程普を担ぎ、馬をひいて戦場より退散した。
黄蓋の撤退を皮切りに、荊州兵の相手をしていた呉兵も今一度相手を押しのけて撤退に成功した。
流石は呉の精鋭とだけあった見事な引き際である。
やがて徐々に遠くなっていく二人の友の背中を、劉表は咄嗟に腕を伸ばしたが、しかしその手が届くことは無く、彼は地面に倒れて這ってでも前進したが、そのホフクが止まった頃には、彼は既に絶命しており、さらに凄まじいのは、死してなお彼の眼光は力強く見開かれており、その視線の先は黄蓋が走り去った道であった。
劉表討ち死にの報が両軍に知れ渡った後、呉軍の引き際は見事の一言に尽きた。現在呉の頭脳である程普は重症となり、このまま戦が長引けば程普の命に関わる。劉表討ち死により動揺を隠しきれていない荊州軍など、今の呉軍にとっては敵ではないが、しかし程普の命を天秤にかけると、今程普を失う事は忍びなく、優勢であるにも関わらず呉軍は撤退を即決。陣も何もかも全てを捨てて呉へと撤退した。
結局、この合戦での勝利者は呉を撤退させた荊州軍であるが、しかしそれに引き換え、荊州はあまりにも多くのものを失うことになった。
「お父様が………討たれた――」
思春の話の最中に、突然
「小龍様、一度部屋に向かいましょう」
凛寧はそう主に施して部屋に連れて行こうとするが、だが重昌はそれを許さなかった。
「待て蔡瑁。今彼女を連れて行く事は私が許さない」
「なっ、影村殿!!それはあまりにも殺生ではありませんか!?一体なんの権利があって主は体が弱いのですよ!!ただでさえ動揺しているにも関わらず……」
その凛寧の言い分に、重昌は一喝する。
「体が弱いも何も、劉表殿が亡くなった今、劉琦は荊州の主になったのだ!!これからのことを聞かずして主が務まるか!!」
重昌の言い分に凛寧は他に何か言いたげなことも残っていたが、しかし彼の一喝に圧倒され、それからの言葉が出てこなかった。
「向朗。椅子を持ってきて座らせてやりなさい」
「わ、わかったでし」
向朗である
「思春、それからの荊州の様子はいったいどうなったんだ?」
一刀が思春に対しそう聞くと、彼女はまた淡々と語りだした。
「実は今回私が早めに帰還することになったのは、この事実を伝える為だ。今は三葉殿が引き続き荊州に残って現状を調べていて、近日中には戻ると思う」
「だったら今俺達がすべき事は、最の最悪に備えての準備じゃないですか?重昌さん」
「そうだな。西の方も五胡の動きが活発になってきていると聞く。それを交えてこれより軍議を開始する」
一方その頃三葉は、襄陽の城の屋根裏にいた。
日ノ本では重昌抱えの忍びとして重宝された三葉である。屋根裏の下には関羽や趙雲の様な猛者がいるが、彼女の気配に気付くものは一人としていなかった。
広間では劉表臣下の将や文官なども交え、劉備も白龍の死に慟哭していた。
すぐさま喪主が開かれ、荊州の国は二人の偉大な英雄の死を悲しんだ。
またその日の夜に、白龍より遺書を預かっていた彼の臣下の一人である伊籍が遺書を淡々と読み進めていた。
そこには呉との決戦に向けて、自身の身が既に長くないことを悟り、あえてその身を投げ出し、華々しく散り行きたいと語られていた。また自身が呉に敗れることがあれば、決して呉を怨むことなく、戦うであれば誇りをもって臨むようにと記されていた。最後に荊州の次代の後継者については劉琦を主にすることが記されており、その後見人には、同盟者である影村の名が記されており、既にこのことは、影村は了承済みとも書かれていた。
その時の劉備は絶望した。彼は親類である自分のことでは無く、同盟者であり自身が最も嫌う影村を取ったということである。つまりは劉琦の後見人に影村を置くということは、劉琦は国の方針を自身が独立するその時まで、何かにつけて影村に相談しなければならないということ。その形は同盟の体裁を整えているものの、実際には荊州は影村の配領に加わることを意味していた。喪主が終わり次第、劉備達は緊急収集し軍議を始めた。
「皆さん、恐れていた事態が起きてしまいました。劉表殿が死に、いよいよ荊州は影村の属国になりつつあります」
いつもの様に劉封が白衣と眼鏡をかけて、黒板を使って場を取り仕切っており、それを劉備、馬超、趙雲などが見ている形である。
皆議論を重ねに重ね、これからの方針について話し合っていた。いかにして自国を持てばよいのか。近日中にも影村より特使が劉琦を連れて劉表の喪に服しに来るだろう。恐らく劉琦のことであろうから、白龍の遺書に従いこの国を継ぐことであろう。だがそうなれば荊州は影村の配領国となり、劉備達も影村の配下となる。劉備は劉表の親類であったからこそ荊州内でも強い発言権を行使出来たが、影村軍は実力主義であり、発言の権限は最初の実行する前と、実際にそれを実現出来たとき後に限り、初めてその人の言葉の重みが増す。希望論の全てを否定するわけではない。希望というものは持たなければ成功するはずも無く、『思考とは強く念じれば念じるほど実現するもの』である。しかし重昌は小さいことをコツコツ積み重ねて、また、出来る範囲のことしかしない現実主義者。よって劉備と影村は根本的に合わないのだ。そんな劉備が今いる場所で国をもつことは限りなく零に近く、彼女の理想も実現不可能になる。論議が論議を呼ぶ中、ふと公孫瓚が手を上げて発言をする。
「……なぁ桃香。もういいんじゃないか?」
突然、今まで何も発言をしなかった公孫瓚がその口を開く。
「どうしたの、白蓮ちゃん。一体何がもういいの?」
「……ずっと黙っていたんだが、私には今の桃香はただ単に意固地になっているだけにしか見えないぞ」
「――!?な、なにを言っているの白蓮ちゃん。そんなわk「だったら何で影村との共存を望まないんだ?」」
『共存』っという言葉が出てきたとき、劉備の顔が曇る。
「周りの噂はどうであれ、影村の人柄に関しては翠や蒲公英もよく話しているだろう?それに影村の治める国では反乱が起きないと聞く。それこそ影村やそれに仕える者が優秀である証拠じゃないのか?」
その公孫瓚の言に劉備が言う。
「で、でも、それこそ『鬼』って言われているぐらいだから、恐怖で逆らえないだけかもしれないじゃない!!」
「それもそうかもしれないな。しかし桃香、お前の持っている物は、全て影村は持っている。それに対し、”桃香が持っていない物”を影村は持っているぞ」
劉備は公孫瓚の次の言葉を待ちながら、ただジッと黙る。
「それは”非情さ”だよ。国を背負って立つ者にはこれは無くてはならないものだぞ。現にかの漢王朝の創造者劉邦も、時に非情さを持ちつつ、この大陸を統一した。今の桃香にはそれが足りない」
「だったら、一体私はどうすればいいの!?」
劉備は親に反発する子供のように公孫瓚に向けて叫んだが、公孫瓚はその問いに答えようとはしなかった。
「それこそ何故私に聞くんだ。お前がどうしてもその意固地を貫き通すのだったら、取るべき道はわかっているだろう?」
そう言うと公孫瓚はそのまま部屋を出て行き、その彼女を劉封と趙雲が追いかける。
「伯圭殿、なかなかの語りでしたぞ」
「………勘弁してくれ。いくら親友を諭す為とはいえ、叱り付けることは気分のいいものでもないし、私の性分でもない」
「いいえ。桃香様にはあれが丁度いいのです。少し気楽な頭を覚ますには、熱めの湯を垂らすのが丁度いい」
「ハッハッハ、あのお堅い氷華も、中々言うようになったではないか」
「私は普通です。どちらかといえば、趙雲将軍が柔らかすぎるのです」
三人はどう談笑を交えながら廊下を歩いていると、突然小さな影が降りてくる。
「ひゃっ、びっくりさせるな!!蝉!!」
「くっふふふ。まだまだ甘いですよなのね、白蓮様。それよりも、丁度よかったのね。実はお三方に用があって来たのね。愛紗様からの言伝で、『準備が出来た』とのことですなのね。今は雲雀がまとめにかかっていますなのね」
その一言で、先程まで顔を歪めて笑っていた趙雲も真顔になる。
「そうか……ならば蝉、直ぐに桃香様にそのことを伝えろ。我らも愛紗と合流してからそちらに向かう」
趙雲の指示に王甫は「なのね」と返事をすると、彼女達はそのまま廊下を歩き何処かに向かった。
それから数日後、荊州にて劉表の喪主が一段落ついた所で、とある事件が発生した。
それは劉備が荊州の南郡江陵県にて独立を発表したものであった。
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さて皆さん、いよいよ影村包囲網が完成に近づきつつあります。この危機をどういう風にして回避するか。今、私の頭の中の台本をフル稼働させてテロップを作成中ですが、どうも戦闘シーンが上手いことまとめれないです。最後まで書ききってみせるぜ!!
本日は劉備がまた一歩前進する回?だと思います。正史でも恋姫でも、将の層に関しては劉備は恵まれていますね。これだけは一重に彼の、彼女の才能だと思います。私の役目はその劉備を如何に輝かせるかにもよるのですが、どうも脳内テロップでも彼女がボロボロになっていくイメージが拭えないのですww
・・・まぁ、こんな私ですが皆さん楽しんでください。
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