矢崎の拳の軌道がバグの顔面を捉える。
が、バグは避けることなくカウンターの拳を出してくる。
痛みを感じないということは防御を考える必要も無い、矢崎は顔面を捉える拳に膝をついた。
「もう、終わりか?」
バグは矢崎を愉悦の表情で見下ろす。
「ま・・だまだぁ!」
ゆっくりと立ち上がる。
そしてふらふらとした足取りでバグに向かい合う。
「次は左腕だ、その次は右足、左足、右腕・・・」
指で銃を作り、照準を合わすように矢崎の体を指差す。
「どこまで足掻いてくれるんだ?」
くくくっと漏れ出る笑いを矢崎は黙って見つめている。
「おら・・・よ!」
「ぐぁ!」
高速の突進からの回し蹴りが矢崎の左腕を捕らえる。
骨の軋む感覚が、矢崎の頭にダイレクトに流れ込んでくる。
「まだ足は生きてんだ、立てよ」
バグは倒れる矢崎の腹と頭を蹴りつけている。
矢崎の頭の中で走馬灯が流れ始めていた。
その中で最も強い記憶が矢崎の頭に飛来した。
(あ~、悪い、約束守れそうにねぇわ・・・、ここで死ぬわけにはいかないんだ)
(秋穂・・・、ごめんな・・・)
矢崎はゆっくりと立ち上がると自身の左胸、心臓の辺りを強く握る。
「ビビッて心臓止まりそうですってか?」
そう言った瞬間、バグの顎が蹴り上げられる。
「なっ?」
何が起きたのか理解できない、死に掛けの男が最後の力で一矢報いたのか?
その考えも矢崎の目を見た瞬間に間違いだと気づく。
(こいつ・・・、何だ?)
「てめぇ!何をしやがった!」
目つきも、気配もさっきまでとはぜんぜん違う。
何よりも違っていたのは、全身から発せられる『殺気』だった。
「ほう、随分面白い隠し玉を持ってるじゃないか」
「矢崎は、19の冬までは依頼達成率が9割でした、もちろん殺しもです。ある事件をきっかけにその才覚がなりを潜めました」
楽しそうな男の声に双波が淡々と答える。
「こんな話をご存知ですか?」
「なんだ?」
「臓器には持ち主の意識と記憶が宿るんです」
「・・・なるほどな」
そこからは矢崎の一方的な攻撃が続いた。
相手の反撃も僅かな動きでいなし、確実に打撃を打ち込んでいく。
「ちょっと変わった所で、戦況は変わらんな!」
バグはすぐに切り替え、矢崎の攻撃にカウンターをあわせて行く。
が、当たらない。
バグは言葉とは裏腹に焦っていた。
顔色一つ変えずに矢崎は黙々と打ち込み続ける。
暫くするとバグの動きが止まった。
「くっそ!」
「お前が言ったんだろうが、不死身と無痛は違うと」
矢崎はゆっくりと歩いてアリスの銃を拾う。
アリスも未だ朦朧とする意識の中で矢崎の変化に驚いてる様子だった。
「痛みは体の危険信号だ、それに気づけずにキャパ以上のダメージを受けた体はいずれ」
照準をバグの額に合わせる。
「壊れる」
乾いた銃声が響いた。
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オリジナルの続き物 バトルってやっぱ苦手www