バグと呼ばれた男は銃をおろした。
「戦意喪失かい?」
「馬鹿を言え、貴様に撃った所で弾の無駄だ」
アリスとは対照的な真っ黒な髪が印象的な男は、切れ長の目を細め矢崎の方を向く。
「お前か、今回の生贄は」
「いけ・・にえ?」
言葉の意味を理解するのに少し時間を要した矢崎をバグは小さく笑みを零しながら見つめていた。
「どういう事だ」
矢崎は怯える秋穂を背中に隠し、睨みつける。
「簡単な事さ、やることはそこにいる馬鹿女とそんなに変わりゃしない」
右手に構えた拳銃の銃口が矢崎に向けられる。
「変わるのは、誰が死ぬかという点だけだ」
引き金の指に力が入っていく。
「待ちな!!」
2度の銃声が部屋に響いた。
アリスの放った弾丸がバグの右肩を撃ち抜いていた。
バグは無表情でアリスの方へ視線を向ける。
「邪魔だな・・・」
拳銃を懐にしまい、一瞬姿勢を低くするとすばやくアリスの懐に潜り込む。
そして、右拳をアリスの鳩尾に叩き込んだ。
その光景に矢崎は多少の違和感を覚えたが、今は恐怖が勝ってしまう。
「がっ・・・!」
アリスが苦悶の表情を浮かべ、床に倒れこんだ。
「不死身は無痛とは違うんだよ、残念ながらな」
「くっそ・・」
「さて、待たせたな」
矢崎の方に向き直ると、またも銃声が響いた。
6回の銃声の後もカチカチと引き金を引く音が部屋に響いている。
6発中4発が足、右腕、胸、肩口を貫いていた。
「ほう・・・」
矢崎の手にする拳銃が硝煙を上げている。
矢崎は恐怖と撃ってしまった後悔から膝を折った。
秋穂が心配そうに寄り添っている。
「残念だったな」
顔を上げるとバグは全身から血を流しているものの、平然とした様子で立っている。
「なっ!?」
そんなはずはない、と矢崎の頭のなかで思考が回転しだす。
「お前も・・・鬼か・・・」
「ふん、冥土の土産だ、種明かししてやる」
血で汚れたコートを脱いでその場に投げ捨てる。
そして、傷口に指を突っ込み中から銃弾を取り出した。
口の端を僅かに吊り上げながら、矢崎に銃弾を投げつける。
「俺の体は痛みを感じねぇんだよ、鬼の植え付けとやらに失敗してな、遺伝子に『バグ』が出来ちまったらしい」
先程の違和感、右肩を撃ち抜かれても右腕であれだけ重たい一撃を放てる理由の答えだ。
改めて銃口を矢崎に向ける。
「くっ・・・」
秋穂を無事にこの場から非難させる方法を考える。
「お父さん・・・」
秋穂が矢崎の手を握る。
冷たい感触も今は何も感じられない。
(秋穂だけ逃げてなんになる!俺も生延びてこいつを守らなきゃ意味ねぇだろ!!)
反面、矢崎の思考は熱く滾っていた。
(なら、こいつを倒すしかない)
手にある拳銃は弾切れ、武器は無いに等しい。
矢崎は立ち上がり、拳を構える。
「正気か?ただの人間に俺は殺せないぜ?」
バグは銃口を矢崎の足に合わせる。
「ギリギリまで生かしてやる、その為に手榴弾で済むところを閃光弾にしたんだ。より凄惨な死を演出すればそのガキの精神もぶっ壊れるだろうよ」
ここで初めて、矢崎は相手の目的を理解した。
(俺を殺した上で、秋穂の精神も殺すつもりだ。そこに残るのは秋穂の体と鬼の意思か・・・)
先程の生贄という言葉の意味もそれで繋がる。
前の父親が秋穂に再起不能にされたのは受け入れなかったから。
それだけでも鬼の意思を増長させることが出来る。
が、受け入れてしまった場合はどうなるか?
秋穂の意思が強くなり、鬼の意思は弱くなる。
(その時のためにいるのがこいつか・・・)
矢崎はそこで思考を止め、バグに向かって駆け出した。
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オリジナルの続き物 1次創作は2次とは違って閲覧数すら伸びないね~w(100%実力不足)
もっと評価されるべき作品はあると思うんだが・・・。
恋姫作品だけで埋め尽くされるのはあまり気分よくないな~(まぁ、自分も昔書いてたわけだがwww)