アパート内で紫苑はこの場には居ない自分の同僚に電話をかけていた。
紫苑曰く、彼女は方向音痴…だそうなので、今も迷っている事が十分ありえる。
電話に出れれば、場所を確認してそこに向かいたいのだが…。
リト「で、連絡は付いた?」
紫苑「ダメね。全然出ないわ」
桔梗「まさかマナーモードにするのを間違えて電源切ったのか…?」
リト「機械音痴かその人!?」
つい突っ込んでしまう。
だが困った…これではいつまで経ってもこれない。
燈「たぶん近くに居るんだろうけど…」
リト「じゃあ俺探しに行くよ。特徴分かる?」
傾「眼鏡巨乳」
リト「すぐそこに当てはまる人いるけど!?…行ってきます!」
楼杏「あ、気をつけてねー!」
数十分後…迷子こと風鈴はアパートからだんだんと離れていた。
風鈴「えっと…ここが交番で、右に曲がるとコンビニが…」←銭湯があった
風鈴「ここを真っ直ぐ行くと…行き止まりだった…」
風鈴「あ…このお店が東側だから…正反対の方向に来ちゃった…」
風鈴「…学校の近くを探そっと。えっと…」
な、感じで行ったり来たりを繰り返しているのだ。
実際には右に行っては行き止まり、左に行っては元通りとそこら辺をぐるぐる回ってるのだが。
いや、バスとかタクシーとか捕まえればいいんじゃ無い?などと思うがそれはきっとしないだろう。
なぜなら、彼女は自分の足でアパートに行くと言ってバスで行った紫苑達と別行動しているのだ。
『一人にすると迷子になる』とどこぞの痴女が言ったのが原因で……彼女は『一人でできるもん!』と言ったのが始まりだった。
自分の言ったことは最後までやり通すと頑固なまでに行動中なのだ。
そんなこんなしているうちに、風鈴はますますアパートから遠ざかって行く。
そのまま歩き、今は使われていない空き地を横切ろうとした時、
ヘルガー「ガァッッ!」
風鈴「ひっ!?い、犬…じゃなくて、えーと…ヘルガー、だっけ?何でこんなところに…」
ヘルガー「グルルルル…!」
風鈴「えっ…まさか狙われ…!」
ヘルガー「ガァァァァァァ!!」←飛び掛かった
風鈴「きゃあああああ!?」
急に襲ってきたヘルガーに思わず目を瞑ってしまう。
噛まれるのか引っ掛かれるのか、それとも別の何かか…自分の身に起こる事を連想していたが、いくら経っても何も起こらない。
風鈴「……?あ、れ…?」
恐る恐る目を開けると…目の前には、いつの間にか人が立っていた。
リト「おいおい、何盛ってんだよ。飢えてんならメスのヘルガー探せって」←腕噛まれてる
ヘルガー「フーッ…!フーッ…!」
リト「言っても聞かないのか?ならちょっと強めに…」
そう言ってリトはヘルガーの耳元に近づき、囁いた。
それはもう、ありったけの威圧感を込めて。
リト「―――失せろ」
ヘルガー「ッッッ!!?キャンキャン!」←逃走
かなりドスの効いた声を耳元で呟かれたのと動物的本能もあり、ヘルガーは口を離して去っていく。
リトは噛まれた腕を振りながらも風鈴と向き合った。
リト「…ふぃ~。怪我ないっすか?」
風鈴「え?…はい…。…?……あれ…?」
リト「まだ野生のポケモンが彷徨いてるから要注意なんすよ、この街。で、あんたが学園で教師する人?俺は…」
風鈴「リトちゃん…?」
自己紹介をしようとした矢先、風鈴はリトの名前を呼んだ。
しかもちゃん付けされてるし…どこか言い慣れた感じもする。
突然の事でリトは一瞬頭が真っ白になるが、そんな事気付かない風鈴はリトに詰め寄った。
リト「…へ?」
風鈴「貴方、リトちゃんだよね?ほら、風鈴だよ!東方 風鈴!小学校の頃よく遊んだ!」
リト「え…あの…」
風鈴「覚えて…ないの…?」
リト「……あの、実は…」
その後、リトと風鈴は空き地の土管に座って話をした。
自分が今までの事を全て忘れてしまった事、自分の両親の事、今自分が置かれている状況の事…。
一通り話した後、黙って聞いてくれた風鈴は口を開く。
風鈴「…そうだったんだね。じゃあ、叔父さんと叔母さんも…」
リト「もういない。それに、悲しめないっすよ。二人といたときの記憶、無いんで」
風鈴「…ごめんね」
リト「謝んないでくださいよ。昔の話する度に謝ることになるじゃないっすか」
風鈴「そう、だね…」
返答の仕方がまずかったのか、だんだん暗い雰囲気になっていく。
やべぇと内心焦りつつ、リトはポーカーフェイスを保ち話題を変える事にした。
リト「…それより、昔の俺ってどんな感じだったんですか?」
風鈴「昔のリトちゃん?…そうだね、風鈴の学級で一番活発だったね」
リト「……え゛?学級…?」
風鈴「あ、風鈴ね、ちっちゃい頃に飛び級で大学卒業してね…すぐ教員免許とったの。その最初の担任がリトちゃんのいた学級なんだよ?」
リトは正直驚いた…見た目が結構若いので、自分との関係が上級生とか近所のお姉ちゃんとかだと思っていたが、まさか教師だったとは…。
それに飛び級な所も同様に驚いている。
色々な世界で彼女と同じ飛び級は見てきたが、まさか身近な所にいるとは…。
リト(てことはこの人…天才か何かか…?)
風鈴「も~、そんなに褒めないでよ~♪」
リト「心読まれた!?」
風鈴「ふふ♪…リトちゃんの家の向かい側で暮らしててね、リトちゃん、よく桃香ちゃん達と遊びに来たの」
リト「桃香達と一緒だったんすか」
風鈴「うん。たまに一人の時があったけどね。…と言うかリトちゃん、タメ口でいいからね?」
リト「いいんですか?」
風鈴「昔もタメ口だったし、その方がスッキリするの♪…それとね、リトちゃんは風鈴の事、姉ちゃんって呼んでたんだよ?」
リト「教師なのに?」
風鈴「『先生より姉ちゃんの方がしっくりする』って理由でね。ふふ…本当面白い」
リト「それで学園では何を担当するんですか?」
風鈴「もう、また敬語…。小等部だよ。元々風鈴は小学校の先生だったし」
リト「そうっすか。…じゃあ、話もこれくらいにして、アパートに行きましょっか」
風鈴「あ、待って!」
リトは風鈴の荷物を持ち、アパートに行こうとするが風鈴に呼び止められる。
リト「?なんすか?」
風鈴「あの…リトちゃん、辛くないの?その、記憶がなくて…」
リト「………」
風鈴「昔の仲の良かった友達も、叔父さん達との思い出も無くて。もしかしたら、好きな人が居たかも知れないのに…」
リト「…どうなんでしょうね。確かに、『今』の俺は十五歳で始まったから、それより前の俺が気になってしょうがないっすよ」
風鈴「じゃあ…」
リト「でも!…でも、それはこれからわかっていけばいい。昔の事なら、桃香や愛紗達が教えてくれるから。俺の繋がりが消えた訳じゃないから、平気だよ」
そうだ、一人じゃないんだ。
『昔』の俺を知ってる人がいて、『今』の俺を知ってる人がいる。
そしてこれからを、これからの平沢 梨斗を知る人が増えていくのだろう。
決して切れない繋がりを……絆を作っていくのだろう。
だからこそ、リトは過去を深く知ろうとはしなかった。
過去は今を作り、未来に繋ぐためのもの…過去を求めたままじゃ決して未来へは繋がらないから。
リト「振り返ったままじゃ、真っ直ぐ進めないから…俺は今を大事にするよ。俺は今を生きてるから」
風鈴「リトちゃん…」
リト「だけど、昔の繋がりは大切にしたい。……だからさ、また今度、話聴かせてよ…姉ちゃん」
風鈴「…………」
繋がりを大切にする…だからこそ、リトは彼女を昔のリトが呼んだように、彼女をそう呼び、笑う。
彼女から見て、自分は変わってしまったように見えるかもしれない、昔とは違うかもしれない……だけど、せめてこれくらいはやりたい。
何より、これからの自分を見て貰いたいから。
そして呼ばれた彼女は…今のリトと昔のリトを重ねて見ていた。
遠い記憶の中、思い出すのは、偶然にもつい先程と似通った記憶。
犬『きゃんきゃん…!』
リト『いってー!』
風鈴『リトちゃん!腕から血が…』
リト『大丈夫だって!それより姉ちゃん、怪我ない?』
風鈴『な、無いけど…リトちゃんが…』
リト『おれはいいって!ちょっとしたら治るし。姉ちゃんが怪我しなくて良かったよ』
風鈴『でもでも…!』
リト『あーもー、泣くなって。泣くぐらいなら犬嫌い克服してくれよな、もー』
風鈴『グスッ……うん…ふふ…』
不思議と笑えてくる…笑った時が今とそっくりなのだ。
そして、自分を庇ってくれたことも。
風鈴「…良かった」
リト「え?」
風鈴「リトちゃんが変わって無くて良かった♪」
リト「そう…なのかな?」
風鈴「そうだよ♪…この気持ち、無駄にしなくてよかった…」
リト「なんか言った?」
風鈴「んーん?何でも?さ、行こっか」
リト「ちょっと待ってそっち市役所!?」
上機嫌な風鈴を追いかけてアパートに向かうリト。
途中、風鈴に手を繋ごうと言われたが、それはちょっと遠慮していたそうな。
そんで戻ってきてアパート、
炎蓮「坊主!遅かったな、早く一発やるぞ!」
粋怜「レッツゴー♪」
傾「その体、楽しませてくれるかな?」
できればこっちも遠慮したかった。
リト「あんたらまだそれ言ってたのかよ!?」
風鈴「リト…ちゃん…?」
リト「違うから!?いかにも『信じてたのに…』みたいな顔してるけど違うから!?俺まだ汚れてないから!?」
炎蓮「おいおい、今から汚すのにそりゃあねぇだろ」
粋怜「ウブなんだからー、しょーねん♪」
傾「満足させるのだぞ、お前のそのでかt」
リト「デネェェェーブ!今日夕飯三人くらいいらないってさー!」
熟女×3「「「ちょっ」」」
それは勘弁と言った表情をする彼女達。
リトは夕食を物質に自重するように言ったそうな…。
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XXX「単刀直入に言う。香風のリトの呼び方を変更しようと思う」
一刀「いきなりどうしたんだよ」
XXX「ぶっちゃけ、お兄ちゃん呼びが多くてさ…少し変わった呼び方にしてみようと思うの」
一刀「あっそ。という事で『十話:変わらない幸せ』スタート」
XXX「あ、次回は三日後位ですます」