アインツベルンの森の中、キャスターは腕を抑えながら蹲っていたが、不意に立ち上がり虚ろな目で何かを呟く。
「……………れ」
「ん?どうしました、キャスター?」
ブツブツと呟くキャスターを不審に思ったウルが、彼を注視する。
キャスターは人革で装丁された、人の顔のようなものが浮き上がった本―彼がキャスターたる所以の宝具『
「おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇ!!!神聖なる儀式を邪魔するに飽き足らず、贄となるべき子供に化けていたのか!?誰の許しを得てこの私を邪魔立てするか!!」
「外道を殺すのに誰の許しがいると言うんです?それに僕たちは聖杯戦争で争うサーヴァント、あなたの邪魔をするのは当然でしょう?」
「思い上がるなよ匹夫めが!!聖杯戦争はすでに決着しているのだ!そう、誰あろうこの私の勝利で!聖杯はこの私を選んだのだ!!」
「…埒があきませんね」
怒りとともに魔力を滾らせるキャスターに、ウルは溜息を吐きながら自身の武器である日本刀型デバイス『レオーネ・フォルティス』を構える、が―
「ウル兄ちゃん!」
突然自身の後方から投げかけられる声。
その声に反応して後ろを振り向き、飛来してきた物体を掴みとる。
その物体は赤、黄色、緑のメダル、そしてそのメダルを装填する部位があるベルトのバックルだった。
「その人、すっごくいやな感じがするの…。そのメダルを使って!」
「…分かった、妹の忠告は聞いておかないとね」
自身の義妹、咲良の忠告に従ってウルは手に持ったバックル―『
すると、オーズドライバーから自動的にベルトが伸び、ウルの腰に装着された。
ウルは続けざまに、オーズドライバーに三色のメダル―『
「何を無駄なことをしているのです?どうせ我が悪魔の軍勢に敵うわけが無いのです…。無駄な抵抗などせず、大人しく贄となるが良い!!」
キャスターが螺湮城教本の表紙を開き、そのページに勢いよく掌を叩きつける。
次の瞬間、キャスターの周辺から悍ましい鳴き声を上げ、蛸や烏賊などの生物に似た、しかしその大きさは先の二つとは比べ物にならない怪物―海魔が召喚された。
それも一体や二体ではない、優に十を超えた数の海魔がその口と触手をウルと子供たちに向けているのだ。
子供達は突然現れた化物にパニックを起こす寸前だ。それでもパニックを起こしていないのは、彼らを守るように立つ背中に安堵しているからに他ならない。
「大丈夫だよ、君たちは僕らが必ず守る。もう一度お父さんやお母さんに会わせてあげるから」
後ろを振り向きながら、にっこりと子供たちを安心させるように笑いかけるウル。
子供たちは海魔に恐れ戦きながらも、わずかに首を縦に動かす。
「さあ!怯えなさい!竦みなさい!!その希望を私が絶望に変える!!その瞬間こそ恐怖というモノは最大限に光るのですから!!」
―キュァァァアアァァァァアアアァァ!!!!!
キャスターが腕を振り下ろすと同時に海魔の軍団がウルへと迫りくる。
自身に海魔が襲い来る光景を目にしてもウルは怯まない。
慌てずにベルトの右腰に出現した『オースキャナー』を手に取り、それでバックルのメダルをスキャンした。
「変身!!」
《タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ! タトバ タ・ト・バ!》
スキャンした途端、手に持ったオースキャナーから不思議な音声が流れる。
そして音と同時にウルの体を様々な色のメダル状のエネルギーが取り巻く。
音声が止み、メダルのエネルギーがウルの体に取り込まれた時、そこには―
「…かっこいー」
思わず子供たちのうち一人が呟いたが、それは子供たち全員が思っていることだろう。
タカを視力を持つ赤い頭部、トラの鋭い爪を装備した黄色い胴部、そしてバッタの脚力を宿した緑色の脚部。
仮面ライダーオーズ・タトバコンボへとウルは変身したのだ。
「姿が変わったからなんだというのです…行きなさい!!そして食らい尽くせ!!子供たちを贄とせんが為に!!!」
オーズから発せられる威圧感に竦んでいた海魔たちの尻を叩き、キャスターは大声を張り上げる。
主に急かされた海魔たちは自身の餌が目の前にあることもあってか、相当のスピードでオーズに迫る。
迫りくる海魔の雪崩を見据えていたオーズは、勢いのままに海魔たちに飲み込まれてしまった。
オーズが立っていた位置を喰らい尽くすかのように、我先にと海魔が殺到し小さな山のようになっている。
「は、はは!ははははははは!!あれだけ大口を叩いてそれか!姿を変えたのも虚仮威しか!!片腹痛い!―まあいい、貴様は聖処女の贄にも成らない、海魔たちの餌となるが良―」
―ザシュッ!
「―は」
海魔たちが群れを成して出来た山の天辺、その部分から黄色く鋭い爪が突き出している。
そして数瞬の内に黄色い閃光がひらめいたかと思うと、海魔たちをブロックのように解体し、その中から両腕の黄色い爪―トラクローを構えたオーズが姿を現した。
「な―海魔に呑まれて無事なはずが―」
「無事なんですよね、これが」
ジャキッと音を立ててオーズはトラクローを構え、仮面の下でキャスターを睨み付ける。
身の危険を察知したのか、キャスターは再び螺湮城教本を構え、解体された海魔たちを贄として新たな海魔を召喚した。
「…面倒な、消耗戦に持ち込む気ですか…」
「先ほどと同じと思うな!」
キャスターのその言葉を証明するかのように、召喚された海魔たちは瞬く間に数が増えていく。
オーズの視界がほぼ全て海魔で埋め尽くされ、キャスター本人は顔すら視認できなくなってしまう。
「この大軍勢を突破できるものならばしてみるが良い!無垢で無力なる子供たちを守りながら、出来るものならなァ!!!」
キャスターが両腕を大きく広げると同時に、オーズに向かって海魔の軍勢が殺到する。
オーズは専用武器『メダジャリバー』を取り出し、襲い来る海魔の軍勢を見据えて構えるのだった。
★
キャスターとガーディアン、二体のサーヴァントが自陣に侵入したとあり、セイバーは森の中を疾走していた。
彼女の胸中は今穏やかではなかった。
ガーディアンの力量は未だ未知数だが、キャスターの実力も未だ未知数。
いかな異世界の英雄といえども、三十人近くの子供たちを庇ったままでキャスターを倒せるなど、生前一国の王を務めた彼女には楽観視が出来なかった。
―せめて数人でも良い、生き残っていてくれ―
僅かな希望を胸に、森の中を疾走する。
時折進路を遮る邪魔な木を不可視の剣で斬り倒したりしながら、セイバーは二体のサーヴァントの戦場にたどり着いた。
そこでセイバーが見た光景は―
全員五体満足で生き残っている子供たちと、子供たちを背後に庇うように立っている二体の怪人―昆虫に似た緑色の怪人と、獅子に似た黒い体色の怪人。
見るも悍ましい化物を従えるキャスター。そして―
―不死鳥のように翼を広げる、赤い仮面の戦士だった―
前回コメント欄で裏タイトルとか言ってたけど、今回全然セイバー出てこなかったよ…
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第玖話 凶魔術師と仮面の戦士