No.778436

熾天使外伝・運命の獅子 番外編・獅子なる守護者

第捌話 魔術師の凶行

2015-05-20 07:00:01 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1681   閲覧ユーザー数:1433

監督役によるマスターの招集。それによってもたらされた情報は、聖杯戦争の参加者たちにとって決して看過できないことだった。

 

「…ウル、ウェイバー君…。聞いていたか?」

「ええ。一言一句、間違いなく」

「確かに最近、ニュースで殺人や誘拐が多発しているって聞いてたけど…まさか、サーヴァントとマスターの犯行だったなんて」

 

ウルは青筋を立て、不機嫌であるということを隠そうともせずにぶっきらぼうに返答し、ウェイバーは青い顔をして思案に暮れる。

 

「しかも隠蔽すらせず、痕跡をそのまま放置だなんて…。魔術師としては考えられない、二流以下だ!」

「坊主、それ以前に余はそ奴らを人として、何より同じ聖杯に招かれたサーヴァントとして許せぬぞ」

「同感です。それに報道によれば殺されているのも、誘拐のターゲットとされているのも主に幼い子供たちです。…ああ、場所さえ分かれば今すぐにでも向かうものを…!」

 

拳をぎりっと握りしめ、悔しげにウルは眉根を寄せる。

この四人の心中は今、キャスターと名も知らぬマスターに対する怒りでいっぱいだった。

 

「…ウェイバー君、同盟を結んで早速だが、手伝ってほしい」

「キャスターを倒すんですね?」

「そうだ。俺は魔術を使って、罪もない子供たちを襲うキャスターが許せない」

「うむ、カリヤと言ったな?その心意気や良し、だ。だがどうやって彼奴らを探す?曲がりなりにもキャスターだ。自身の根城位、隠すのは訳も無かろう」

 

考え込む雁夜とウェイバー。

思案に耽る数十分、不意にウルが声を上げる。

 

「…キャスターは子供たちをターゲットにしていますよね」

「そうだろうな、子供が多数誘拐されていることからも明らかだろう」

「僕が変装して囮を務めます、要は見た目を子供に偽装すればいい話でしょう」

「おいおいガーディアン、そりゃそんな事が出来れば苦労はしないがな…」

 

苦笑いをしながら肩をバンバン叩くライダーに、ウルは痛みに顔を顰めながらも笑って言う。

 

「まあ見ててくださいよ。僕の世界の技術は結構万能なんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜のアインツベルン城―その広大な庭とも言える雪深い森林。

その中で異彩を放つ集団があった。

虚ろな目をした数十人の子供たちを引き連れて歩く、巨躯の男。

毒々しい衣装と飛び出した眼球が特徴の男―キャスターだ。

キャスターは空中を一瞥した後、恭しいお辞儀をした。

 

「昨夜の約定通りジル・ド・レェ、罷り越してございます。我が麗しの聖処女、ジャンヌに今一度お目通りを願いたい」

 

彼は中空に目を向けている。

その方向からは自陣に侵入したサーヴァントを、アイリスフィールが遠見の水晶玉で監視していたのだ。

キャスターの言葉を聞いたアイリスフィールは、彼の言葉の真意を測りかねるとでも言いたげな顔で監視を続ける。

十数秒キャスターは顔を下げたままだったが、アインツベルンが何のアクションも起こさないのを察して、ギョロッとした目で水晶越しにアイリスフィールを見やる。

 

「…まあ取次ぎはごゆるりと。私も気長に待たせていただくつもりで、それなりの準備をして参りましたからね。なに、他愛もない遊戯なのですが―少々、お庭の隅をお借りいたしますよ?」

 

と、不意にキャスターが指を鳴らす。

すると、虚ろな目をしていた子供たちの眼に光が戻り、ざわざわと騒ぎ出す。

どうやらこの子供たちはキャスターの魔術で軽い催眠術のようなものを施されていたようだ。

 

「ここどこぉ?」「お父さんとお母さんはぁ?」「おかあさぁん!」「お家に帰りたいよぉ!」

「ここ寒いよぉ」「僕なんでこんなとこにいるの?」「ママ…?パパ…?お兄ちゃんは…?」

 

催眠術を解かれた子供たちは自分が置かれている状況が理解できず、口々に困惑の声を上げる。

中には頭が付いてこれず、泣き出す子もいる始末だ。

そんな子供たちにキャスターは朗らかな笑顔を張り付けて話しかける。

 

「さあさあ坊やたち、鬼ごっこを始めますよ。ルールは簡単、この私から逃げ切ればいいのです。さもなくば―」

 

キャスターの筋骨隆々な腕が、泣きながら母を呼んでいた子供の頭にヌウッと伸びる。

生前は軍人として名を馳せ、今やサーヴァントとして現界しているキャスターの腕力は、ひ弱な子供の頭を砕くことなど造作もないだろう。

水晶を通してその光景を幻視したアイリスフィールとセイバーは、声を荒げる。

 

 

 

 

 

しかし―

 

「…む?」

 

連れてきた子供の一人、黒髪黒目の白人と思わしき少年がキャスターの腕を掴んだ。

確かこの少年は今日の正午頃に、路地裏を妹らしき赤い髪の幼女と二人でうろついていたから目を付けた子供だ。

幼女の燃えるような真紅の髪の毛も魅力的だったが、この黄色人種の国では珍しい白磁のような肌、それと相反するかのような艶のある漆黒の髪の毛、黒曜石を嵌めたかのような深い黒色の瞳が不思議な調和をしており、妹とともに聖処女に捧げる最後の贄にしようと考えていた子供だった。

 

「おやおや、私と遊びたいのですか?君は最後に遊んであげるから、今はおとなしく―」

 

おかしい、キャスターはまずそう考えた。

自分はこの少年の腕を振り払えないほど貧弱か?いや、元軍人であり、サーヴァントの自分が高々10歳やそこらの少年に筋力で負ける訳が無い。

しかし現実にこの少年は自身の腕を掴み、なおかつ動きを止めているではないか。

何故―

 

そう逡巡している一瞬の間に、黒髪の少年は手に力を込める。

キャスターの腕がミシリ、と嫌な音を立てる。

まずい、と直感的に感じたキャスターは少年の手を振り払おうとするが、遅かった。

 

―べぎっ

 

「ぐ、ぎぃあぁあぁぁあ!?」

 

鉄の棒がひしゃげる様な音を立て、キャスターの右腕の骨が折れる。

水晶を通して光景を見ているアイリスフィールとセイバーも、何が起きたのか理解が出来ない。

子供たちもキャスターの突然の絶叫に怯えて硬直してしまっている。

その緊張の中、黒髪の少年の体からボウンと白煙が上がる。

白煙が晴れたとき、そこには―

 

「魔術師の英霊も騙せるとは、流石楓さん直伝の忍術ですね。…それはともかくはじめまして、キャスター。できれば貴方のような外道とは知り合いたくなかったんですがね」

 

紺色のパーカーにジーンズという、当代風の衣装に身を包んだ異世界のサーヴァント―守護者(ガーディアン)こと、ウルティムスが佇んでいた。

 

 

 

 

 

キャスターはド外道ですのでさっさと退場させたい自分と、物語を盛り上げるために生き残らせようと考えてる自分がいます。

どちらにせよ聖杯戦争から途中退場しますがね!


 
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