No.774910

マクロスF〜とある昼行灯の日常〜

これっとさん

指揮権を委譲され、出動するS.M.S.の隊員。

本格的な船団防衛の戦が始まった。
その時、それぞれの思惑が交差する。

2015-05-03 00:34:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5007   閲覧ユーザー数:4704

【クロース•エンカウンター③】

 

 

 

『パープル•ヴァーミリオン小隊、壊滅!』

 

『敵の反応は依然としてフロンティア船団へ前進を継続中』

 

『政府は指揮権をS.M.S.へ移譲すると正式に発表』

 

『S.M.S.所属のバルキリー、交戦開始』

 

『すごい…なんて機動なの…?』

 

 

CIC回線を筒抜けのまま放置していたらマズイだろう。

 

 

そうひとりごち、改めて帽子を深く被り直す。

 

ついに来た、か。

我らの誰もが因縁を持つ、謎の生命体『ヴァジュラ』。

やはりジェシカ君の上申通り、少なくはない数。あの感受性には改めて敬意を覚える。

敵の接近を新統合軍より早く予想出来、予め全員に情報を共有できたのは大きい。

特に整備部は、今回のバルキリーの装備換装を時間かけることなくできたのだからな。

 

加えて新しいデータも追加できた。

遠隔カメラが捉えこちらに送られてくる映像によれば、ヴァジュラには複数種類存在するということだ。我ら人間と同じく小隊編成をきっちり組み、そして他のヴァジュラよりも一回り以上大きい指揮官らしき赤いヴァジュラが統率をしているのではないかと予想できる。

そしていずれもがゼントランとは違い野生的な動きで翻弄し、圧倒的な機動力と火力をもって仕留めにかかる。

 

なるほど、これでは新統合軍では相手にならないわけだ。

 

対して、こちらには虎の子とも言える至高のパイロットが多数在籍しており、しかも機体は民間企業からの最新鋭のものが入っている。試験段階と言えど敵に及ばぬはずがない。

そして、影からこちらを『観察』していそうな蛇の気配までするというのは…

人間に仇なす、人間の存在もまた然り、ということだ。

 

さて、どう対応する?

 

 

ここで思考を切り、再びインターフォンマイクを取って外部へとつなげる。

この任務…難易度は高いが、あの二人ならできるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『突撃ラブハート!』

 

 

へっ、隊長ってばノリノリだねぇ。

オレなんざ腕が震えっぱなしだっつーのによ。

少しばかりの実戦経験があるとはいえ、今回の敵とは初の対敵となるわけだしよ。

 

かぁっ、嫁も娘もいるのにこんなとこで死にたくねぇぞ?!

 

まぁ愚痴ったところでしょうがねぇってのは分かるけどよ、っとぉ!?危ねぇ。

デブリにぶつかっちまうとこだったじゃねぇか。

隊長にこんあん見られた日にゃあ訓練倍増とか言われかねん…『ギリアム、お前後で少し残れ。話がある』…なんてこった。

 

こうなりゃあヤケだ、ヴァジュラでも反応弾でも持って来やがれってんだ!

 

 

……

 

 

よし、何体かは片付けた。

おもったよりも敵の動きが見えて攻撃しやすかったぜ。

隊長の怒涛の攻撃や、ダイチの野郎の変則的な機動と比べりゃあ…

しかもルカが的確に敵の動きをモニターし情報をリアルタイムで送ってくれるし、ミシェルの狙撃もピカイチだ。さすがはジェシカの弟だな。

 

ておい。なんで隊長だけならまだしも、ダイチの野郎が出てくんだ?

確かに隊長の攻撃を捌き切るあの腕は買うがよ、なんつーか中途半端感がみたいな、覇気の無さが無性に鼻につきやがる。

余裕かましてやがんのか?

 

 

チィッ?!

 

色々考えてるうちに何体かウチの包囲網を抜けやがったか!

他の小隊も少しだけだが被害が出てるみたいだ。

 

 

『ギリアム!追うぞ、着いてこい!ミシェルは援護射撃、ルカは敵の増援の如何を測れ!』

 

「「「了解!!」」」

 

 

船団の方向に向かってやがるな。

メインバリアは相当な強度を持つし簡単には侵入できないとは思うが…

 

 

『スネーク小隊、対敵します』

 

 

何?

ジェシカとダイチの野郎が?

面白れぇ、その余裕かましたツラ、できるもんならやってみやがれ!

 

あ、ジェシカは無理すんな?

数少ない美人には生き残ってほし『ギリアム。オズマの後。話。逃げるな』…い…

えぇー……カ、カナリア?お前には何も言ってないんだが…ちくしょう。

今日はマジで厄日だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だろう?

お空がピカッて光って…それに戦闘機みたいな光も見えるし。

何か、良くないことでも起きたのかな?

 

さっきまでのシェリルさんのコンサート…非常事態宣言、だったかな?シェリルさんの合図一つで私達は安全区域近くまで誘導されたんだけど、これに関係ある?

 

ブルッ…

 

 

うわ、さっきまでのコンサートの興奮が覚めてきて…急にお手洗いに…うぅ。

自分の身体を少しだけだが恨めしく思い、安全区域入り口まであと少しのところまで歩く。

よし、あともう少し…!

 

 

『!!!???!!!』

 

 

ひゃっ?!何かの悲鳴…何?!

あたりを見回しても何も無い。相変わらずお空が光っているくらいだね。

 

どうして?

私、どうしちゃったんだろう…?

 

 

『!!!』

 

「きゃあっ?!」

 

 

ドーム型の何かが壊れて行くのが見える。

何かがこちらに向かって飛んでくる…ダイチさんが乗ってるような飛行機じゃない。

でも…何だろう?

 

この感じ…どこかで…そう、結構昔だったかもしれない、同じような感覚が…

ダメ、足が震えてきちゃう。もしかしたら私、ここで死んじゃうのかな?って考えがよぎっちゃうのは仕方ないよ。

前を見ても、一緒に避難してきた人達はとっくにシェルターに入ってるっぽいし。

 

 

でもね?

 

 

『てめぇら…このオレの前でオイタするたぁ良い度胸してんじゃねぇか…あぁ!?覚悟できてんだろうな!?』

 

 

ドカァッ!!

 

 

横合いから高速で蹴り飛ばす機体…この前迎え行った時に見たダイチさんの機体だ。

そしてこの声が聞こえてきた瞬間、不思議と怖さとか、そういうのぜぇんぶ無くなっちゃうの!

自分のことながら、現金だよね。えへへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、何とか避難はひと段落ついたってところかしら。

コンサートに来てくれていたお客さんは、ほぼ安全区域に避難できたってインカムに流れてきたし。しかも軍人さんたちがそのまま警護してくれるって話。ホント、ありがたいわね。

 

私も一応VIPの待遇なんだし、軍人さんが護衛してくれるのはありがたいのだけど…

すっごく居心地悪いわ。

だって女性軍人さんの、キャサリン=グラス中尉だったかしら、この人私のことをガン見してくるし、他の人も興味津々って感じで視線向けてくるし…

 

私が良い女だってのは百も承知よ、でもね、1人の女の子としてデリケートな部分もあるんだし、できるだけそういうのはやめて欲しいって思うわ。

 

まだ17歳なんだしね。

 

そう考えてみると、やっぱりダイチって貴重なんだわって改めて感じる。

初対面(?)の時のチャットにしたってそうだし、実際初めて会ったときから『私』のことを個人として見てくれていた。そう、シェリル=ノームって名前に振り回されることなく。

 

普通の男だったら、舞い上がって言いなりになったり、全部私本位で物事を捉えたりと、私だけの世界で私だけの都合で物事が進むようにするのね。以前のコンサートから前はそんな感じだったし。

そんな環境に慣れてしまってた私がいたわけで、それをわずかな間で変えてしまったのだから大したものだと思う。

 

そのお陰で私は今、女の子としての気持ち、プロのアーティストとしての気持ちの両方を両立できるまでには成長できたわ。

良い意味で本当に感謝ってとこよね。そう、簡単には返せない恩ができた。

 

 

 

……それはそうと、今は何が起きているのかしら?

政府から非常事態宣言が出されているのは分かるわ、でも地響きがしたり、僅かに爆発音が聞こえたり、空に閃光が走ったり…

この船体に衝撃が加わっているのは確かよね。

 

 

「グレイス?ちょっと良いかしら」

 

「シェリル?どうしたの、まだ外の方は戦闘継続中らしいからこのシェルターからはまだ出られないわよ?」

 

「そういうのじゃなくて!」

 

 

戦闘継続中、か。何かしらの事態が起きているのは間違い無さそうね。

 

それにしても今の言い方、私がまたワガママを言うとでも思ったのかしら?

全く失礼しちゃうわね!

 

 

「違うわよ、今そういう事態になっているのなら貴女のハッキングで外の映像を見せてくれないかしら?自分がいる船団の情報くらい把握しておきたいのよ」

 

「…分かったわ。じゃあこっちに来て頂戴、こういうのはバレたらマズイから。声もあげないようにね?」

 

 

……グレイスの性格、ちょっと変わって来てないかしら?

もうちょっと、万全を期すって言うか、そんな感じだったと思うのだけど。

 

 

「…シェリル?言いたいことがあるのなら聞くわよ?」

 

「……別に」

 

 

ジト目で睨んでくるのを、そっと目線をずらすことで回避する。

ヤバイわね、これじゃあオフの時の自由時間貰えないかも…

 

 

「ま、まぁグレイスのハッキング能力は私とても信頼してるし!ね?良いから早く!」

 

「……もう。今回だけよ?」

 

 

吊り目から一転、目尻を下げたグレイスがペンダントを起動させて私に映像を見せてくれる。

そこには、荒れ果てた街の外観と蠢いている何か。

そして。

 

 

『てめぇら…このオレの前でオイタするたぁ良い度胸してんじゃねぇか…あぁ!?覚悟できてんだろうな!?』

 

 

私の不安な心を拭いさってくれる、そんな絶大な信頼を誇るダイチのバルキリーが映っていた。

 


 
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