短編小説”小さな指の話”
”それは今から何年も前にこの村で実際に起きた事件でした。
当時のこの村に若い夫婦が住んでいました。
その若い夫婦はとても仲が良くケンカなんて一度もしたことが無かったそうだ
特に夫は気が小さく虫も殺せない優しい人だったそうだ。
人当たりがよく、妻との関係もいたって良好、とても幸せだったそうだ
そう毎日、夫婦は幸せだったのだ。”
僕は自分の祖母からいつもこの話を聞いていた。
特に面白い話ではなかったのでいままで大して興味が出てきませんでした。
ただ、最近になって引っかかることが一つ出来ました。
それは僕が聞いた話にはどうも続きがあるそうでそして、それがこの村では禁句扱
いになっているらしいということだ。
この話の何がいけないのだろうか?
この話をこのまま続けてもよさそうな結果になりそうなものなのに。
ある日、祖母に尋ねてみました。
「どうして、話に続きがあるのに話してくれないの?」
祖母はいやな顔をせずゆっくりと言った。
「それはねぇ、この村で起きた悲しい悲しい事件のことでね。みんな忘れたいのさ
。」
僕にはさっぱりわけがわからなかった。
何が忘れたいのだろうか?
僕は結局続きを聞けず何日も経ってしまいました。
その日、僕は祖母にもう一度尋ねました。
「その話を教えてくれない?」
祖母は前のときと同じようにゆっくりと言った。
「そうねぇ。じゃあ、悲しい話を話しましょうか。」
”そう毎日、夫婦は幸せだったのだ。
あのときまでは・・・・。
妻が身ごもっていることに気づいたのは12月の始めでした。
村の人も夫もたいそう喜びました。
そして、とうとう生まれる日がきました。
その日はその年初めての雪が振っており村の中はしんしんと静まり返ってました
。
「やった。生まれたぞ、男の子だ!!」
その夫の声は村中に響き渡りました。
夫は赤ん坊が包まれているはずのタオルを抱え笑顔で叫びました。
妻は夫の喜びの声を聞き赤ん坊が包まれているはずのタオルを見ました。
そう、赤ん坊が包まれているはずの・・・である。
普通なら包まれているはずの赤ん坊は居なかった。
その代わりに居たのは一本の小さな指。
小さな指は「え~んえ~ん」と産声をあげる。
「おお、泣いたぞ!!」
「そうね、泣いたわ!!」
夫婦は歓喜に包まれて赤ん坊の代わりに一本の小さな指が居ることに気がつかな
かったのです。
その光景に産婆さんは腰を抜かし医者を呼ぶ。
医者は医者で知り合いの精神科医を呼ぶ。
精神科医は頭をひねくった。
とうとう、誰も夫婦に真実を教えるものは居なかった。”
「婆ちゃん。ぜんぜん、悲しくも無いよ」
僕は不評を口にだすが祖母は「まだ、終わって無いよ」と言い話を続けた。
”それから、10年経ちました。
村人はあの事件から極力、夫婦に近寄らないようにしていました。
夫婦も村人に極力近づきませんでした。
そんな、ある日。村に見かけない子供が村の子供達と遊んでいた。
村人は不思議がって子供達に誰の子か?と聞くと驚いたことにあの夫婦の子だと
言う。
村人はあの事件を思い出し今一度、夫婦と話をしようかと夫婦の家に行きました
。
夫婦の家はまるで何年も使ってないかのように寂れていた。
村人は夫婦が住んでいるはずだと家を覗いてみた。
家には誰も居なかった。
「引っ越したのか?」という話もあったがつい先日も夫婦を見かけたという意見
でつぶされた。
そのとき村人の一人が家に侵入した。
他の村人も家に入ったが不思議なにおいと白い棒が転がっている以外は何も変わ
ってなかった。
10年前とはまったく変っていない。
村人達はもっと不思議に思って家を出ようとするとあの件の子供が家の前に居た
。
村人はその子に声を掛けた。
「お父さんとお母さんは?」
その質問に子供は手を前に出しにやりと不適な笑いを見せると言った。
「ここに居るよ。」
子供の小さい手は真っ赤に染まっていた。”
この話について僕はなにも喋ることはなかった。
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小説の訓練に適当に昔話的なものを書きました。よかったら感想をお願いします。