No.770635

紅魔郷:銀の月、鉄槌を下す

消えた父親の姿を捜して館の中を彷徨う銀の月。その一方で、紅白の巫女は館の主との謁見を果たす。

2015-04-12 21:55:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:563   閲覧ユーザー数:561

 

 紅魔館の広い通路を、白装束の少年が通る。

 その袴と胴衣は先程の戦いで激しく擦り切れていて、激戦をくぐってきたことを窺わせる。

 

「ここじゃないな……いったいどこに居るんだろう?」

 

 銀月は自分の父親の気配をたどりながら廊下を進む。

 途中侵入者を排除すべくメイド妖精達が攻撃を仕掛けてくるので、それに対して応戦する。

 

「おっと、悪いけどこの先に通してもらうよ」

 

 銀月は妖精を撃ち落しながら先へ進んで行く。

 将志の気配が強くなると部屋を一つ一つ確認していくが、捜し人の姿は見つからない。

 

「う~ん、こっちの方だと思うんだけどな……それにしても、どうやって父さんを抱きこんだんだろう?」

 

 銀月は将志を捜しながら考え事をする。

 実際問題、将志を利用しようとしても本来非常に困難である。

 何しろそのパワーとスピードから、取り押さえるのが非常に難しいのだ。

 物理的な衝撃には弱いが、魔法や呪術による干渉には強い抵抗があり、拘束するのは一筋縄ではいかない。

 協力を仰ごうにも、多忙な将志が今回のような異変に労力を割くとは考えにくい。

 銀月にはどうやって自分の父親を利用できるようにしたのかがさっぱりわからないのだった。

 

「あれ、何だ今の?」

 

 そんな中、銀月の眼にちょっと変わった光景が映った。

 こんな非常事態だというのに、二人のメイド妖精がバケツを持って飛んでいるのだ。

 銀月は首をかしげた。

 

「何であんなことしてんだろ……?」

 

 疑問に思った銀月は、後をつけてみる事にした。

 忍者の様に天井に張り付いて気配を殺し、見つからないように追跡する。

 すると、妖精達はとある部屋へと入っていった。

 そして、しばらくすると妖精達は空のバケツを持って部屋から出てきた。

 それを確認すると、銀月はそのドアの前に立った。

 

「ここだな……失礼します……」

 

 銀月はそっとドアを開いて中を覗いた。

 

「……」

 

 銀月はその中を見て、言葉を失った。

 そっとドアを閉め、眼をよくマッサージする。

 そして、もう一度ドアを開き、中を確認する。

 

「…………」

 

 銀月はしばらく眺めると、無言でそっとドアを閉めた。

 どうやら見なかったことにする気のようである。

 

「さてと……お嬢様のところに行くとしますか♪」

 

 銀月はにっこり笑ってそう言い放つ。

 しかし見る人が見れば、それは誰かを殺ス笑みだったと言ったことだろう。

 

「……ん?」

 

 そんな銀月がふと足元を見ると、一枚の紙切れが落ちていた。

 それは最近幻想郷に広がりだした、銀月にとってもなじみの深いものだった。

 

「……スペルカード? 誰のだ、これ?」

 

 銀月は疑問に思いながらもそのカードを拾い上げて自分の収納札にしまうと、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 紅魔館の広い廊下を一人の巫女が行く。

 その巫女こと霊夢は、己が直感を頼りにこの異変の首謀者のところへと向かう。

 彼女の直感は上を目指しており、着々と先へ進んでいく。

 

「それにしても、銀月は邪魔になるかと思ったけど、意外とチームプレーも上手かったわね……今度から手伝ってもらおうかしら?」

 

 次から次へと現れるメイド妖精達を裁きながら、霊夢はそう呟く。

 実際、霊夢の体感として銀月の動きが霊夢の行動を妨害するようなことはほとんど無かった。

 それどころか霊夢が取りこぼしそうな敵は率先して倒してくれるため、霊夢はかなりの力を温存することが出来た。

 現在はウォーミングアップも終わって仕上がりは上々といったところである。

 

「ふう……流石に一人だと二人より大変ね」

 

 霊夢は妖精達の群れを切り抜けて、紅魔館の屋上にやってきた。

 霊夢が空を見ると、まず血の様に紅く染まった月が眼に入った。

 その鮮やかに紅く輝く月は、周囲を紅く染め上げている。

 周囲は不気味なほどに静かで、風の音すら聞こえない。

 霊夢の勘はこの場所だといっており、軽く深呼吸をする。

 

「で、そろそろ出てきたらどう?」

「ええ、良いわよ」

 

 霊夢が声をかけると、頭上から声がした。

 すると真紅の月を背景に、一人の小さな少女が降りてきた。

 背中には蝙蝠の様な翼が生えており、頭には変わった帽子を被っていた。

 

「あんたがこの紅い霧の犯人ね?」

「ええ、そうよ。確かにこの紅い霧は私が起こしたものよ」

 

 霊夢の問いかけに、レミリアは謳うようにそう答える。

 それを聞いて、霊夢はレミリアを迷惑そうに睨む。

 

「さっさと止めてくれる? とっても迷惑なんだけど」

「嫌よ」

「それじゃあ力尽くでも止めさせるわ」

「やれるものならやってみなさい。言っておくけど……」

 

 そう言った瞬間、レミリアの身体から凄まじい力があふれ出した。

 その重圧感に、霊夢は思わず息を呑む。

 

「……っ」

「今の私は今までで一番調子が良いわ。それでも私と踊るというの?」

 

 レミリアはそう言って霊夢に微笑みかける。

 その表情には自分の力に対する絶対的な自信が表れていた。

 そのレミリアの紅い瞳を、霊夢はしっかりと見つめ返す。

 

「やってやろうじゃない。あんたを倒して、さっさと帰って銀月にお茶を淹れて貰うわ」

「そう……こんなに月も紅いから、本気で殺すわ」

 

 レミリアは楽しそうな笑みを浮かべてそう言った。

 それを聞いて、霊夢は小さくため息をつく。

 

「こんなに月も紅いのに――――」

 

「楽しい夜になりそうね」

「永い夜になりそうね」

 

 二人の言葉が交錯した瞬間、お互いに弾幕を展開した。

 レミリアは紅く大きな弾と青い弾丸を放って弾幕を展開する。

 霊夢はそれを潜り抜けながらレミリアに向かって攻撃を仕掛ける。

 

「さて……いったいお前はどれだけ楽しませてくれるかしら、巫女さん?」

 

 レミリアは霊夢の攻撃をすいすいと潜り抜けて攻撃を仕掛ける。

 その顔には不敵な笑みが浮かんでおり、戦いというよりもじゃれているような表情である。

 

「楽しむ間も無く終わらせてあげるわよ」

 

 霊夢はそのレミリアの攻撃を縫うように避けていく。

 そしてレミリアを狙い撃とうとするが、レミリアはぶれて見えるほどの速度でそれを回避していく。

 どうやら、絶好調と言うのは嘘ではないらしい。

 

「さあ、いつまで逃げていられるかしら?」

 

 レミリアはニヤリと笑ってそう言うと、一枚目の札を切った。

 

 

 

 神罰「幼きデーモンロード」

 

 

 

 レミリアがスペルを宣言した瞬間、紅い光の玉が現れてそこからレーザーが放たれる。

 

「おっと」

 

 霊夢はそれを見てその線が少ない方へと移動した。

 するとレーザーは強く、太くなり、霊夢の動きを制限する。

 霊夢は感覚的に次に本命の攻撃が来ることを予知した。

 

「まずは小手調べよ! 避けてみせろ!」

 

 そこに向かって、レミリアは大小の弾丸をばら撒く。

 先のレーザーによって行動が制限されているため、かなり避けづらい。

 

「この程度、どうって事ないわ!」

 

 しかし霊夢はそれをものともせずに避けていく。

 しばらくするとレーザーが消え、場がリセットされる。

 そしてすぐに再び紅い光球が現れ、レーザーを放つ。

 

「お返しよ!」

 

 霊夢はその攻撃を次々と躱していき、レミリアへの反撃を試みる。

 貫通力の高い針のような弾丸が、レミリアに向かって真っ直ぐ飛んでいく。

 

「無駄無駄無駄ぁ、そんな攻撃なんて届かないわよ」

 

 それをレミリアはそう言いながら僅かに身体を横にずらして易々と避ける。

 その瞬間、スペルの制限時間がきて解除された。

 

「避け切ったか。そう来なくっちゃ面白くないわ」

 

 レミリアはそう言うと、ショットガンのように紅い弾丸をばら撒いた。

 高速で先頭を飛ぶ大きな弾丸に続いて、小さな弾丸が無数に散らばる。

 

「当たらないわよ、こんなもの」

 

 霊夢は素早く動いてその射線上から離れ、レミリアに針の弾幕で攻撃を仕掛ける。

 それをレミリアは涼しい顔で避けていった。

 

「なかなかやるわね。でも、まだまだ序の口よ。次はこれよ!」

 

 レミリアはそう言うと、二枚目のスペルカードを取り出した。

 

 

 

 獄符「千本の針の山」

 

 

 

 レミリアがスペルを使用すると、大量の紅く小さな弾丸がレミリアの周りを飛び始めた。

 そしてその弾丸は次々と折り重なるようにして霊夢に向かって飛んできた。

 速度の遅い弾丸に混じってやや速い弾丸が飛んでくる。

 一つ一つは脅威ではないのだが、数がものすごく多いために慎重な回避が求められるスペルである。

 

「このくらいならまだまだ平気ね」

 

 霊夢はそう言いながら勘を頼りに弾幕を潜り抜けていく。

 その様子は先程よりも余裕があり、悠々とした動きをしている。

 当然、その分余裕を持って霊夢は反撃を仕掛けた。

 今度は拡散型の札型の弾幕で、広い範囲を覆い尽くす。

 

「おっと、これも避けるか」

 

 レミリアは霊夢の反撃を難なく躱し、やや感心したそぶりを見せる。

 まだかなりの余裕があるらしく、優雅な動きで弾幕の間隙をすり抜けていく。

 その間にスペルカードの制限時間が過ぎ、弾幕は消えうせた。

 それを受けて、レミリアは自分を中心に渦を描くように弾幕を展開する。

 

「さっきのよりも楽だったわね」

 

 そんなレミリアに、霊夢は挑発するようにそう言った。

 それを聞いて、レミリアは鼻で笑った。

 

「ふん……言ったはずよ、まだまだ序の口だって。このくらいでいい気になってもらっては困るわ」

 

 レミリアはそう言うと即座にスペルカードを取り出した。

 

 

 

 神術「吸血鬼幻想」

 

 

 

 今度はレミリアを中心として放射状に大きな弾丸が飛んでいく。

 霊夢はそれを避けるが、その弾丸の軌道上に紅く輝く小さな弾丸が残っていることに気がついた。

 それに重ねるように、レミリアは更に大きな弾丸を撃ち続ける。

 

「さあ、避けられるものなら避けてみろ!」

 

 レミリアがそう言った瞬間、最初に撃った弾丸の軌道が動き始めた。

 その紅い弾丸は、まるで群れを成す蝙蝠が飛んでいくかの様に宙を舞う。

 その編隊飛行は後から放たれた弾丸の軌道と折り重なり、複雑な弾幕を形成した。

 

「っ、めんどくさい弾幕ね!」

 

 霊夢はその弾幕をぶつくさ言いながらも躱していく。

 何度か巫女服を掠めたが、どの弾丸も霊夢を傷つけるまでは至らない。

 しかし、先程よりも避けづらい弾幕であることは明白であった。

 

「そらそらぁ! 逃げ回ってばかりじゃ私は倒せないわよ!」

 

 そんな霊夢に、レミリアは次々と弾丸を放っていく。

 その表情は楽しそうな笑顔であり、完全に遊んでいるようにも見えた。

 

「……むかつくわね、その顔!」

 

 霊夢はそう言うと、スペルカードを取り出した。

 

 

 

 霊符「夢想封印」

 

 

 

 霊夢がスペルを発動させると、霊夢の周囲に七色の玉が現れる。

 七色の玉は現れるなり、レミリアに向かって一直線に飛んでいく。

 レミリアはそれを避けようとするが、それにあわせて七色の玉の軌道も曲がる。

 

「なっ……」

 

 突然の変化に対応できず、レミリアは直撃を受ける。

 その瞬間、レミリアのスペルは破られ弾幕が消えうせた。

 

「……つぅ……追尾型か……やってくれるわね!」

 

 レミリアは直撃を受けてよろけたものの、すぐに体勢を立て直した。

 直前で身体を丸めることで身を守ったのか、スカートの膝から下がボロボロに擦り切れていた。

 

「まだ終わっちゃいないわよ!」

 

 霊夢はそのレミリアに続けざまに七色の玉で攻撃を仕掛ける。

 

「二度も同じ手が通用すると思うなぁ!」

 

 しかしレミリアはその玉の特性を理解するや否や、急加速して追撃を振り切る。

 その速度はレミリア自身が紅い弾丸に見えるほど速かった。

 

「この……いい加減落ちなさいよ!」

 

 霊夢は一気に畳み掛けるべく、七色の玉を連射する。

 何発も放たれる追尾弾はレミリアを次々と揺さぶった。

 その結果、レミリアは右へ左へと激しい運動を強いられることになった。

 

「くっ、調子に乗るなぁ!」

 

 霊夢が追撃を仕掛ける中、レミリアは反撃のためにスペルカードを発動させた。

 

 

 

 紅符「スカーレットマイスタ」

 

 

 

 レミリアは先程のショットガンのような弾幕を、自分の周囲を一周するように放った。

 速度の速い先頭の弾丸の後ろを、大量の遅い弾丸がついて行く。

 その物量は津波のようであり、目の前を真っ赤に染め上げていた。

 

「っ……また力に物を言わせて!」

 

 霊夢はそう叫びながらその弾幕を躱す。

 紅の奔流の中を掻い潜り、レミリアに広範囲弾で反撃する。

 かなりきわどい避け方をしているため、弾丸が掠めて巫女服の裂け目から素肌が見えていた。

 その白い肌には赤く腫れている部分があり、浅くではあるが被弾していたことが分かる。

 

「落ちるのは、お前の方よ!」

 

 レミリアは霊夢に対して激しく攻め込んでいく。

 次から次へと弾幕を展開し、霊夢に攻撃の暇を与えない。

 レミリアの弾幕は霊夢の袴を裂き、肩を掠め、髪をなびかせる。

 

「落とせるものなら……落として見せなさいよ!」

 

 霊夢は自分の直感を信じながら、怒涛の勢いで押し寄せる弾幕を避け続けていく。

 そして、スペルの制限時間が過ぎ去った。

 弾幕は消え、二人はお互いに向かい合う。

 

「これも避け切ったか……次は……あ?」

 

 ポケットに手を突っ込んだレミリアは突如として素っ頓狂な声を上げて凍りついた。

 しばしの間、止まる時。

 しばらくしてから、霊夢が何か思いついたように手を叩いた。

 

「……ひょっとして、スペルカード使い切った?」

「あ、あら? 後一枚あったはずなのに、どこ行っちゃったのかしら?」

 

 レミリアはポケットの中や服の中、果ては帽子の中などを必死で探す。

 しかし、幾ら探しても探し物は見つからない。

 そんなレミリアを見て、霊夢はにっこり微笑んだ。

 

「じゅ~う、きゅ~う、は~ち、な~な……」

「ちょ、ちょっと待って! 今探すから!」

 

 カウントダウンを始めた霊夢に、レミリアは慌てて待ったをかける。

 しかし、非情にも霊夢はカウントをし続ける。

 

「さ~ん、に~、い~ち、ぜろ! はい、時間切れ。私の勝ちね♪」

 

 カウントダウンを終えると、霊夢は満面の笑みを浮かべて勝利を宣言した。

 そんな霊夢に、レミリアは猛抗議を始めた。

 

「ちょっと、待ってって言ったじゃない!」

「だって無いものは無いんだから仕方ないじゃない。私が先に五枚目を使っていたならまだしも、私はまだ一枚しか使ってないもの。現状ならどう考えても私の勝ちよ」

 

 スペルカードルールでは、撃墜されるのと同様に先にスペルカードを使い切っても負けというルールがある。

 このため、この様な事態になった場合は先に使い切ってしまったレミリアの負けとなるのだ。

 もし、霊夢が五枚目を使った後にこの様な事態になったのであれば、話は違ったのかもしれない。

 

「こ、こうなったら……」

 

 レミリアは真紅の槍を取り出し、霊夢を睨む。

 それを見て、霊夢は呆れ顔を浮かべた。

 

「これから普通に戦おうって言うの? 大人気ないわね、あんたに誇りって言うものがあるんなら潔く負けを認めなさいよ」

「……ぐ、ぐぬぬ……」

 

 霊夢の言葉を聞いて、レミリアは悔しそうに顔を歪める。

 そしてしばらくすると、苛立たしげに床を蹴りつけた。

 

「ああもう、分かったわよ! 負けを認めればいいんでしょ、認めれば!」

「そうそう、それで良いのよ。じゃ、この紅い霧を止めてちょうだい」

「……分かってるわよ。ほら」

 

 ふくれっ面のレミリアが少し念じると、周囲を覆っていた紅い霧が瞬く間に晴れていった。

 それを見て、霊夢は笑顔で頷いた。

 

「うん、これで今回の異変は終わりね。さてと、銀月を回収して帰りましょ」

「……良いわ。どうせまたやれば「チェストおおおおおおお!!」あいったああああああ!?」

 

 レミリアが何か言おうとした時、少年の叫び声と共に全体重と落下時の重力加速をフルに使った脳天唐竹割が突き刺さった。

 鈍い音が周囲に響き渡り、レミリアは頭を抑えてしゃがみこんだ。

 

「ちょっと銀月、今まで何してたのよ?」

 

 突然の闖入者に、霊夢はそう問いかける。

 すると、銀月は霊夢に向き直って答えを返した。

 

「話は後でするよ。その前に、そこのお嬢様に聞きたい事があってね」

 

 銀月はそう言うとレミリアに眼を向ける。

 するとレミリアは、頭にでっかいタンコブを作って眼に涙を溜めて銀月を睨みつけていた。

 

「お前……いきなりあんなことしてただで済むと……」

「悪いね。でも、せめて一発殴らないと気がすまなかったんだ。それと、これに見覚えは?」

 

 銀月がそう言って手首を返すと、そこには一枚のカードがあった。

 先程廊下で拾ったあのカードである。

 

「それは私のスペルカード……あっ」

 

 レミリアがスペルカードを取り戻そうと手を伸ばすと、銀月は再び手首を返す。

 すると、手に握られていたはずのスペルカードは跡形もなくなっていた。

 呆然とするレミリアに、銀月は話を続ける。

 

「返して欲しければ、槍ヶ岳 将志について説明してもらおうか? 何であんなことになっているんだ?」

「……銀月のお父さんがどうかしたの?」

「え、こいつ将志の息子なの!?」

 

 横から聞こえてきた霊夢の言葉に、レミリアは眼を見開いて銀月を見つめた。

 その様子を見て、銀月は頭を抱えてため息をついた。

 

「話を逸らすな……ついて来てくれ。見れば分かる」

 

 銀月はすたすたと紅魔館の廊下を歩く。

 その後ろを霊夢とレミリアがついてくる。

 レミリアは苦い表情を浮かべており、この先に行くのを嫌がっている様でもある。

 

「この部屋の中にいるの?」

「ああ。開けてみてくれ」

「うん」

 

 霊夢はそう言うと、部屋のドアを開けた。

 部屋の中はバスルームの様であった。

 

 

 

 ちょろろろろろろろろ……かっこーん。

 

 

 

 聞こえてくる水の音。鳴り響く竹の音。

 水瓶に開けられた穴から樋を伝い、水が斜めに切られた竹の筒に流れ込む。

 溜まってくると重みで竹が倒れて水をこぼし、返ってくる竹が石にぶつかって風流な音を立てる。

 それは紛う事なき鹿威しの姿であった。

 唯一違う点を上げるとするならば、竹とぶつかり合う石の部分が銀髪の青年の額になっているところであろう。

 

 

 

 ちょろろろろろろろろ……かっこーん。

 

 

 

 将志の額に竹がぶつかり、雅な音を立てる。

 その頭に衝撃が加わることによって、彼の目覚めは大いに妨げられているようだ。

 随分とシュールな光景ではあるが、将志の頭に衝撃を加え続ける装置としては理に適っている……と思いたい。

 

「……何これ?」

 

 そのあまりに異様な光景に、霊夢は唖然とした表情を浮かべる。

 場末のコントでもこんな光景は見られないだろうから、当然の反応である。

 

「さて、この状況をどう説明つけてもらおうか? こんなことをして何がしたかったんだ?」

 

 銀月はなんとも微妙な表情を浮かべながらレミリアに問いかける。

 なお、銀月の心境を表現するならば、「銀ちゃん情けなくて涙出てくらぁ!」と言った所であろう。

 

「……ちょっとした出来心?」

 

 レミリアは眼を泳がせながら質問に答える。

 それを聞いて、銀月は盛大にため息をついた。

 

「あのねえ……一歩間違えたら銀の霊峰の全員を敵に回すところだぞ? そこのところ分かってる?」

「ふん、それぐらい返り討ちにしてやるわよ。将志が居なけりゃ怖いのはあのピエロぐらいよ」

「あ、あれと同レベルなのがあと二人は居るから。それ以外にも千年超えた亡霊やら妖怪やらが居るからね、あそこ」

「……大丈夫よ。私は紅魔館のみんなを信じてる。例え銀の霊峰が来ようとも全員返り討ちにして、私の傘下にしてくれるわ!!」

 

 尊大な態度で話すレミリアに、銀月が補足情報を加える。

 すると、レミリアは力強くそう言い切った。

 しかしその顔色は蒼く、やせ我慢をしていることが良く分かった。

 

「……銀月。話も良いけど、まずはお父さん起こしなさいよ」

「……そうだな」

 

 霊夢に促されて、銀月はとりあえず健やかに気絶しているダメ親父に水を被せることにした。

 

 
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