No.770073

九番目の熾天使・外伝 ~vsショッカー残党編~

竜神丸さん

ダークライダーズ

2015-04-10 13:26:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2190   閲覧ユーザー数:872

「ふぅぅぅぅぅぅ…」

 

風都タワー最上階での戦い。その戦いの中に現れた戦士―――仮面ライダーネオ。大きく息を吐き捨て、拳を握るたびにウィンウィン機械音を鳴らすネオを前に、対峙しているプロトディケイドは幸太郎から事前に言われていた事を思い出す。

 

「…なるほど、お前がそうか。幸太郎の言ってた、ショッカーが開発しようとしてた改造人間ってのは」

 

「如何にも。俺は勝つべくしてこの世に生まれたショッカーの戦士…」

 

プロトディケイドと向き合うネオは右手首を左手で握りながら、緑色の複眼をギランと発光させる。プロトディケイドはライドブッカーをソードモードにして構えるも、内心ではかなり焦りを感じていた。

 

(マズいな。相手は1号と同じ改造人間だが、その性能まで同じとは限らない……俺のプロトディケイドも、あまり時間をかけ過ぎれば暴走は免れない…)

 

すると、ネオの隣にソーサラーが並ぶ。

 

「さて、ネオよ。今回はあくまで実戦調整による肩慣らしに過ぎないが、お前が望むのであれば好きに暴れてくれても構わない。何だったら一人くらいは潰してしまっても良い」

 

「ほぉ……それを聞いて安心したよ、首領」

 

ネオは拳を握りながら、左足を後ろに置く。すると左足の関節部分から煙が噴き出し…

 

「せっかく新型の改造人間として生まれ変わったんだ……一暴れさせて貰おうじゃないか」

 

「ッ!!」

 

プロトディケイドの目の前まで、一瞬で跳躍してみせた。予想よりも速い動きで接近して来たネオの拳を、プロトディケイドはライドブッカーで受け止めるも後方まで大きく後退させられる。

 

(やはり、スペック自体はかなり向上してるか…!!)

 

「さぁ、一緒に楽しくやろうぜ……古の破壊者さんよぉ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

ネオは連続でパンチを繰り出し、プロトディケイドもそれをライドブッカーで一発一発を防御する。しかしネオの振るった拳はライドブッカーの防御をすり抜け、プロトディケイドの腹部に命中して彼を壁まで吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「okaka…ッ!?」

 

「ムン!!」

 

一方でネガ電王と対峙していた斬月は、ネガ電王を蹴り倒してからプロトディケイドの加勢に入ろうとする。しかしそんな彼の考えは、ドラグセイバーとドラグシールドを装備したリュウガに妨害され、斬月はドラグセイバーの一撃をパインアイアンで受け止めてから戦極ドライバーのカッティングブレードを左手で倒す。

 

「く…邪魔をするな!!」

 

≪パインスカッシュ!≫

 

「「!!」」

 

「キュオォォォォォォォッ!?」

 

鳴り響いた音声を聞いたリュウガとネガ電王はすぐさま横に回避し、斬月の蹴り飛ばしたパインアイアンは逃げ遅れたバード・ドーパントを拘束。それでも斬月は迷わずその場から大きく跳躍し、必殺の跳び蹴り―――アイアンブレイカーでバード・ドーパントを粉砕する。

 

≪Full Charge≫

 

「フン…!!」

 

「ぐぁあっ!?」

 

そして着地した斬月の真後ろから、ネガデンガッシャー・ガンモードで強力な一撃を放つネガ電王。その一撃は斬月の背中に命中し、吹き飛んだ彼にタイガーオルフェノクやモールイマジン、ガルドストームなどが一斉に追い打ちをかけるべく襲い掛かる。

 

(くそ、これじゃokakaの加勢に入れねぇ…!!)

 

「シャアッ!!」

 

「ぐぁ!?」

 

モールイマジンの振り下ろすアックスハンドを無双セイバーで受け止める斬月を、横から割って入って来たガルドストームが斧で容赦なく攻撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トァッ!!」

 

「ぐぉあ!? く、この…!!」

 

ネオは一瞬だけ内部構造が露出した右腕から煙を噴かせ、ライドブッカーを上にはたき上げてからプロトディケイドの胸部に右手拳を叩き込む。そのたった一撃にプロトディケイドは圧倒され、殴られた胸部を左手で押さえながらライドブッカーを瞬時にガンモードに切り替え、ネオを狙撃する。しかしネオは飛んで来る銃撃に対して防御態勢も取らないまま突っ込んで行き、プロトディケイドの仮面を裏拳で殴りつける。

 

「どうした? 古の破壊者も、所詮はその程度なのか?」

 

「チッ……言ってくれるな…!!」

 

≪カメンライド・カブト!≫

 

ネオの挑発にカチンと来たプロトディケイドは、ドライバーにカードを装填。PDカブト・ライダーフォームとなった彼は即座にベルトの右側に付いているスイッチを叩く。

 

≪CLOCK UP≫

 

「! ほぉ…」

 

クロックアップを発動したPDカブトは姿を消し、ネオは面白そうな反応をしながら周囲を見渡す。ネオの複眼が再び緑色に発光すると同時に、複眼の内部に仕込まれていたレーダーが作動し…

 

「―――ゼァッ!!」

 

「ぐはぁ!?」

 

≪CLOCK OVER≫

 

左方向から殴りかかって来たPDカブトの拳を受け止め、キックによるカウンターの一撃を炸裂させる。クロックアップの時間の中から強制的に引き摺り出された事でクロックアップが解除され、PDカブトはキックを受けた勢いで床を大きく転がる。

 

「ッ……クロックアップに反応出来るのか…!!」

 

「その通り」

 

ソーサラーが詳細を語る。

 

「ネオのボディには、様々な世界から集めたエネルギーを蓄えさせてある。無論、マスクドライダーシステムのタキオン粒子とて例外ではないのだよ」

 

「おいおい、マジかよ…!!」

 

「そういう事だ。さぁ、次はどんな小細工で来る?」

 

「小細工、か……だったら!!」

 

≪カメンライド・リュウキ!≫

 

PDカブトは一旦プロトディケイドの姿に戻り、即座にPD龍騎の姿にチェンジ。ネオの廻し蹴りを回避したPD龍騎は近くの窓ガラスを通じてミラーワールドに飛び込み、ネオの追撃を上手く逃れる。

 

「ミラーワールドに入ったか、面白い…」

 

ネオはベルトの左腰に付いたスイッチを押す。するとベルトのスイッチを通じて左手に電流が纏われ、ネオは左手から電流を放ち窓ガラスを片っ端から割っていく。窓ガラスが次々と割られていき、残るは壁にかかっている鏡のみとなり…

 

「…そこ!!」

 

「うぉっと!?」

 

ネオが蹴り割る直前にPD龍騎が飛び出し、床に着地。同時にネオの右足が鏡を粉砕し、その破片がネオとPD龍騎の周囲に散らばる。

 

「チッ外したか。蹴り飛ばしてやろうと思ったのにな」

 

「ッ……イマイチやりにくい野郎だな…!!」

 

PD龍騎はカードデッキから一枚のカードを抜き取り、それを左腕のドラグバイザーに装填しようとした……その時だった。

 

「!? ッ…ぐ、ぁ……が…ぁぁぁあ…!?」

 

「ん?」

 

突如、PD龍騎の全身に電流のような物が流れ始めた。ネオが首を傾げる中、PD龍騎はプロトディケイドの姿に戻りながらも電流に苦しみ続ける。

 

(ヤ、ヤバい……暴走か…!!)

 

okakaの危惧していた事態が発生してしまった。暴走だ。長時間プロトディケイドとして戦い続けた事が祟り、最悪のタイミングでライダーシステムが暴走を始めてしまったのだ。

 

「ぐ、がぁ……アガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!! okaka、どうした!?」

 

両目の複眼が禍々しい形状に変わり、プロトディケイドは“激情態”となったまま唸り声を上げる。ガルドストームと相対していた斬月がプロトディケイドの異常に気付くも、プロトディケイドは斬月の声に反応する事はなく、ライドブッカー・ソードモードを構えたままネオに向かって突っ込んで行く。

 

「くそ、暴走しやがったのかアイツ…!!」

 

「クハハハハハハハ!! 面白い、ならばその暴走が何処まで保つか見せて貰おうじゃないか……ネオ!!」

 

「あぁ、俺も楽しくなってきたぜ……古の破壊者ァッ!!!」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

プロトディケイドが乱暴に振り回すライドブッカーを、ネオは回避しつつも楽しそうな反応を取る。そんな二人の戦闘を見て、ソーサラーは楽しそうに笑い声を上げており、斬月は舌打ちしてから斬りかかって来るガルドストームをモールイマジンに蹴り当ててからプロトディケイドの方まで向かおうとする。

 

「やめろokaka!! それ以上は危険だ!!」

 

「ウ、グ…グガァァァァァァァァ…!!」

 

「ふん、呼びかけるだけ無駄な事だ。そんな事より、お前もこの戦いを楽しめよ!!」

 

「ッ…悪いが断る!!」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「!?」

 

その直後、斬月の背後から低い音声が聞こえてきた。斬月が素早く振り返った先では、ドラグクローを構えているリュウガの姿があった。

 

「…ハァッ!!」

 

「ギャォォォォォォォォォォォォォン!!」

 

「ッ……くそ!!」

 

≪パインスパーキング!≫

 

リュウガがドラグクローを前方に突き出すと共に、ドラグブラッカーは口から青黒い火炎弾を放射。斬月は戦極ドライバーのカッティングブレードを三回連続で素早く倒し、閉じたパインアームズを火炎弾に向けて発射。パインアームズと火炎弾が相殺され、何も装着していない斬月はその衝撃で大きく吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!≫

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ハハハハハハハハ!! 面白い、最高に面白いぞ!!」

 

「ッ!? ギャァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

プロトディケイドの繰り出したディメンションキックを、近くにいたタイガーオルフェノクを盾代わりにする事で回避するネオ。当然タイガーオルフェノクは爆散し、着地したプロトディケイドの後頭部にネオの後ろ回し蹴りが命中し、プロトディケイドを薙ぎ倒す。

 

「グルゥ……グルァァァァァァッ!!」

 

倒れてからもすぐに起き上がるプロトディケイド。再びカードをドライバーに装填しようとするが…

 

≪チェイン・ナウ≫

 

「グゥッ!?」

 

「ふむ、ここまでの戦闘力とは驚きだ」

 

そんなプロトディケイドを、ソーサラーの召喚した鎖が厳重に拘束する。この程度の拘束であればどうという事も無いプロトディケイドだったが、本命はソーサラーの拘束ではない。

 

≪Full Charge≫

 

「フッ!!」

 

「!? グガ、ァァァァァ…!!」

 

ネガ電王の投げつけたネガデンガッシャー・ロッドモードが、プロトディケイドのボディを容赦なく貫いた。ネガソリッドアタックによる拘束も重ねられた事で、流石のプロトディケイドも脱出が容易ではなくなってしまう。そして…

 

「さぁ、死に絶えろ…」

 

既に姿勢を低くして構えていたネオは、両足の関節部分から煙を噴かせてから大きく跳躍。空中に跳んだ彼は前方向に一回転し…

 

「ライダァァァ……キィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!!」

 

右足を突き出し、ライダーキックを発動する。そのライダーキックの一撃は、プロトディケイドに向かってまっすぐ飛んで行き…

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

プロトディケイドの胸部に命中し、彼を大きく吹き飛ばした。吹き飛んだ彼は床を大きく破壊しながら転がって行き、壁に激突して大きく減り込んでしまう。

 

「ッ…okaka!!!」

 

リュウガに首絞められていた斬月が叫ぶ中、壁に減り込んだプロトディケイドはゆっくり落下し、うつ伏せの状態で床に叩きつけられる。それでもプロトディケイドはフラフラと立ち上がり、既にボロボロの身でありながらもネオに挑みかかろうとする。

 

「グ、ガ……アァァァァァァァ…!!」

 

「クッハッハッハッハ……………………そろそろ失せろ」

 

 

 

 

 

 

-バキャアッ!!-

 

 

 

 

 

 

「ッ…!!」

 

ネオの拳がプロトディケイドの仮面に命中。殴られた仮面はグシャリとひん曲がり、そして鈍い音と共に粉々に砕け散る。仮面の半分が砕けたプロトディケイドはその場に膝を突き、遂に変身が解けてokakaの姿に戻り、完全に意識が飛んだまま倒れ伏してしまった。

 

「okaka!!」

 

「…さぁ、次はお前だ」

 

「ッ!!」

 

≪メロンアームズ! 天下・御免!≫

 

倒れたokakaに目を暮れる事も無く、ネオは次の標的として斬月を見据える。斬月はすぐにパインアームズからメロンアームズへと戻り、メロンディフェンダーと無双セイバーを構えてネオを迎え撃とうとする。

 

その時…

 

 

 

 

-ギャギャギャギャギャギャギャギャ!!-

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

床を削るような音を立てながら、一台の巨大な装甲車が走って来た。髑髏の顔が描かれたその装甲車に、斬月は心当たりがあった。

 

「スカルギャリー!? まさか…」

 

≪スカル・マキシマムドライブ!≫

 

「「!!」」

 

装甲車“スカルギャリー”とは違う方向から、スカルマグナムの銃撃が何発も飛んで来た。ソーサラーやネオ達が両腕で防御する中、一発の銃撃が結界維持装置に命中し、木端微塵に粉砕する。

 

「おやっさん!?」

 

「一城を中に乗せろ。急げ」

 

「…あぁ!!」

 

斬月は倒れているokakaを拾い上げ、スカルと共にスカルギャリーに乗り込む。それを追いかけようとしたガルドストームとモールイマジンは発車したスカルギャリーに轢かれて爆発し、スカルギャリーは風都タワーの壁を走るという無茶な事をしながら一目散に退散して行ってしまった。

 

「ッ……おのれ、装置を…!!」

 

「ふ、そう来なくては面白くない」

 

ソーサラーは忌々しげに呟き、ネオは何処か楽しそうに不敵な笑みを浮かべる。二人がそれぞれ違う反応を見せている中、破壊された結界維持装置からは黒い煙が上がり、その煙は風都タワーの風車によって何処かに吹き流されて行くのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、鳴海探偵事務所…

 

 

 

 

 

 

 

「ん~……ムニャムニャ…」

 

勝手に布団を敷いて眠っているジークを他所に、ディアーリーズ、ハルカ、始の三人が、救出したメイジの少女をベッドに寝かせているところだった。少女はまだ意識が戻っておらず、ハルカは水で濡らしたタオルで少女の額や首元の汗を綺麗に拭き取っている。

 

「取り敢えず、彼女はこれで大丈夫。後は意識が戻るのを待つだけね」

 

「良かった。何事も無いみたいですね」

 

ディアーリーズが安心する中、始はコーヒーを淹れながら尋ねる。

 

「…しかしウル、よくこの女が洗脳されていると分かったな。お前も気配で分かるのか?」

 

「あぁ、えぇっと……大体そんな感じですね。何となく分かったんです。彼女の中に感じた人としての感情と、その感情を無理やり閉じ込めていた不自然な悪意が」

 

「…そうか」

 

「えっと、すみません。アバウトな説明しか出来なくて…」

 

「いや、気にするな。何となくだが理解は出来た」

 

申し訳なさそうに謝罪するディアーリーズだったが、始は特に文句を言う事も無く淹れたコーヒーをディアーリーズとハルカに手渡す。

 

「あら、なかなか良い香りね。コーヒーを淹れるのは得意かしら」

 

「この世界に来る前、居候している喫茶店の手伝いもしていたからな。味はどうだ?」

 

「はい、凄く美味しいですよ。こんなに美味しいコーヒーは久しぶりです」

 

「そうか。それなら良かった」

 

この時、ハルカは始の表情を見てある事に気付く。

 

「…ふぅん、あなたも素直に笑える事ってあるのね」

 

「!」

 

ハルカの言葉を聞いて、始も思わず目を見開いた。無意識の内に嬉しそうな笑みを浮かべていた事に、自分でも気付いたのだから。

 

「…笑っていたのか? 俺が」

 

「えぇ。一瞬だけ、嬉しそうにしてたわよ」

 

「…そう、なのか」

 

始は椅子に座り込み、事務所に戻る前の事を思い出す。

 

(俺が笑っている、か…………これも“奴”の言っていた通りだというのか…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カテゴリーKか、何が目的だ」

 

事務所に戻る十分前。始は目の前に現れた枯葉と名乗る少女―――パラドキサアンデッドに対して、一切警戒心を隠さなかった。その始に強く睨みつけられているにも関わらず、枯葉は特に表情が変わる様子が無いまま、近くの岩の上にちょこんと座る。

 

「ジョーカー。本能のままに暴れ、アンデッドを封印していく存在」

 

「俺をその名で呼ぶな」

 

「でも……ジョーカー、変わった」

 

「何だと?」

 

「…剣崎一真」

 

「!? 貴様、何故その名を知っている…!!」

 

「見ていたから」

 

「…!?」

 

始が驚く中、枯葉は淡々と告げる。

 

「剣崎一真だけじゃない。橘朔也、上城睦月、白井虎太郎、広瀬栞、栗原春香、そして栗原天音」

 

「!!」

 

「全て見ていた。ジョーカーを通じて、全て見ていた」

 

彼女がここまで知っている理由。それは始のカリスラウザー……否、ジョーカーラウザーにあった。ラウズカードに封印されていた彼女は、始がワイルドカリスに変身する際にラウズカードをラウザーに通される事で、間接的にだが始の行動の一部始終を見届けていたのだ。しかしこれはあり得ない話ではない。実際にもヒューマンアンデッドやスパイダーアンデッドは、ラウザーやバックルを通じて変身者に何かしらの影響を与えていたのだから。

 

「ジョーカー、人間の心を得た。それは間違いなくヒューマンアンデッドが原因。でも、それだけじゃない」

 

「…何が言いたい」

 

「剣崎一真……世界とジョーカーを救う為、自らジョーカーとなった人間。ジョーカー……相川始が、大きく変わる切っ掛けを作った存在」

 

「……」

 

「相川始……変われて、嬉しい?」

 

「…嬉しいだと?」

 

枯葉の突然の問いかけに、始は思わず言葉に詰まる。

 

(俺が、嬉しい? 俺が…)

 

ジョーカー……相川始は、人間らしい感情を得た。その切っ掛けがヒューマンアンデッドである事には間違いないのだが、それ以外にも多くの人間と触れ合い、始は変われた。人間として生きている内に、何時からか彼はジョーカーに戻る事を拒絶するようになった。そして今も彼は、人間達の中で生き続ける事が出来ている。

 

「…そうなのかも知れない」

 

「…自信、無さそう」

 

「俺も今、改めて認識させられた」

 

「…そう」

 

枯葉が立ち上がる。

 

「我、知りたい。ジョーカーを変えた人間……剣崎一真を」

 

「何……ッ!?」

 

直後、枯葉は一瞬の内に目の前から姿を消し、その場には始だけが取り残された。しかし会話をする相手がいなくなった後も、始は枯葉に言われた事が脳内に響いていた。

 

 

 

 

 

 

『相川始……変われて、嬉しい?』

 

 

 

 

 

 

「…俺は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――始さん?」

 

「!」

 

自身を呼びかける声。コーヒーを飲まずに考え呆けていた始はハッと気付き、自身を呼びかけているディアーリーズの方に視線を向ける。

 

「どうかしたんですか? 急に黙り込んじゃって」

 

「…すまない。少し考え事をしていた」

 

「?」

 

(…ふぅん、なるほどね)

 

誤魔化すようにコーヒーを飲む始の様子に、ディアーリーズは「?」とクエスチョンマークを浮かべる。その横でハルカは何となく察していたようだが。

 

(変われて嬉しい、か…)

 

確かに自分は変わった。今もジョーカーの本能が目覚める事も無く、人間達の中で生きる事が出来ている。彼がそういった生き方を出来ているのは……ある男のおかげだ。

 

(剣崎…)

 

 

 

 

 

 

お前は、今どうしてる?

 

 

 

 

 

 

お前は、今の状況が嬉しいのか?

 

 

 

 

 

 

お前は、今が辛いと思ってはいないのか?

 

 

 

 

 

 

お前は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、ディアーリーズはある事に気付いた。

 

「あれ、そういえばサツキちゃんは?」

 

「へ? そういえばいないわね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

その時だった。事務所の外から聞こえてきた悲鳴に、三人はほぼ同時に反応する。

 

「今の悲鳴……サツキさん!?」

 

「急ぐぞ!!」

 

ディアーリーズ達は飲みかけのコーヒーを置いて、すぐさま事務所の外へと飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴が上がる数分前…

 

 

 

 

 

 

(怪物は……いない、よね?)

 

ライダー達が装置の破壊に向かっている中、たまたま事務所の近くにあった自身の家に帰還し、ライダー達に渡す為のお握りを作っていたサツキ。既に家族が他界している彼女は心細さを感じつつも、それを耐えながらお握りをいくつも作り、それを事務所まで持って行こうとしていた。

 

(…よし、大丈夫)

 

事務所の前に怪人が一体もいない事を物陰から確認し、サツキは早足で事務所の前まで移動する……筈だった。

 

「お前」

 

「ひゃいっ!?」

 

突然後ろから呼びかけられ、サツキは慌てて背後に振り返る。そこにはボロボロの白い服を着た、不気味な風貌の男が立っていた。

 

「あ、あの……あなたは…?」

 

「随分と危ない事をするものだな。ここらは既に怪物だらけで、人は立ち歩かない筈だが」

 

「え、えっと…」

 

サツキが返答に困っている中、男はサツキが手に持っているカバンに気付く。

 

「それは?」

 

「あ、その……お握り、です。探偵事務所の人達が、依頼を引き受けてくれたので……その、お礼に…」

 

「…良い」

 

「へ?」

 

「実に良い」

 

ビクビクしながらも答えるサツキだったが、男の口からは意外にも称賛の言葉が告げられた。

 

「誰かの為に労いの食事を用意しようとする……お前のその心、実に美しい」

 

「は、はぁ…」

 

予想外の言葉に困惑するサツキだったが、同時に満更でもないような気持ちだった。サツキは褒められた子供のようについ嬉しそうな表情になるが…………その表情も、すぐ凍りつく事になる。

 

「お前のその美しい心……ぜひとも、覗いてみたい」

 

「…!?」

 

直後、男は鳥のような頭部を持ったファントム―――“レギオン”へと姿を変異させる。サツキはその姿を見て一気に表情が青ざめていき、お握りの入ったカバンを落として尻餅をつく。レギオンはそんな彼女の顔に、右手に持っていた薙刀の刃先を向ける。

 

「ん~、エキサイティングゥ…!」

 

「ヒッ……キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

 

 

 

 

 

≪スピアー・ナウ≫

 

 

 

 

 

 

 

「ムゥ!?」

 

「え…」

 

「サツキさん!!」

 

そんなレギオンのボディに、数本の氷柱が命中。レギオンが怯む中、サツキを庇う形でディアーリーズ、ハルカ、始の三人が駆けつける。

 

「全く、私達の知らない間にいなくなられちゃ困るわ。こういう事が起こった時に助けられないじゃない」

 

「あぅ……ごめんなさい…」

 

「ハルカ、説教するなら後だ。お前は早く逃げろ」

 

「は、はい…!」

 

ハルカに怒られたサツキがしょぼんと落ち込む中、始は落ちていたカバンを拾ってからサツキに渡し、彼女を事務所まで逃がす。そして三人はレギオンと正面から対峙する。

 

「ヌゥ……俺の快楽を邪魔するつもりか?」

 

「申し訳ありませんね。それが僕達の仕事ですから」

 

≪シャバドゥビタッチ・ヘンシーン…≫

 

「ま、つまりはそういう事よ」

 

≪ヒート!≫

 

「覚悟しろ……変身」

 

≪CHANGE≫

 

「「変身!!」」

 

≪チェンジ・ナウ≫

 

≪ヒート!≫

 

ウォーロック、ヒート、カリスへの変身が完了。その中でウォーロックは真っ先に駆け出し、既に取り出していたウォーロックソードでレギオンに斬りかかる。

 

「正直、こんなところでも出くわすとは思ってませんでしたよ、レギオン…!!」

 

「ほぉ? 俺の事を知っているか……ならば俺が何を快楽とするかも知っている訳だな?」

 

「えぇもちろん。碌でもない快楽なのは知っています!!」

 

レギオンの薙刀とウォーロックのウォーロックソードがぶつかり合い、二人は鍔迫り合いになりながら戦う場所を変えるべくその場を移動する。それに続こうとするヒートとカリスだったが…

 

-ズガガガァッ!!-

 

「「ッ!?」」

 

そんな二人の足元に、数発の銃撃が飛んできた。二人は銃撃の飛んできた方向へと振り返る。

 

「!? あれは…」

 

ヒートは驚愕する。

 

 

 

 

 

 

「フフフ…♪」

 

漆黒の鎧に黄色の複眼を持った、カブト虫らしい姿の戦士……仮面ライダーダークカブト。

 

 

 

 

 

 

「フン…」

 

赤と漆黒の鎧に漆黒のマントを装備した、皇帝らしい姿の戦士……仮面ライダーダークキバ。

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァァ…!!」

 

黒い陣羽織と黄色の複眼を持った、鎧武者らしい姿の戦士……仮面ライダー鎧武・闇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人のダークライダーと呼ばれる戦士が、ヒートとカリスの前に姿を現したのだ。

 

「何だ貴様等…!!」

 

カリスが警戒する横で、ヒートはダークライダー達の姿を観察する。

 

(ダークカブトにダークキバ、それから…………あれは、黒い鎧武? あんなライダーいたかしら? 財団Xのデータでも見覚えが無いけれど…)

 

「ッ…来るぞ!!」

 

「「「…ハァァァァァァァァァァァァッ!!!」」」

 

ダークカブト、ダークキバ、鎧武・闇が同時に駆け出す。考えても仕方ないと判断し、ヒートはカリスと共にダークライダー達を迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッカーワールドから、遠く離れた一つの世界…

 

 

 

 

 

 

 

「…今のは、まさか…?」

 

 

 

 

 

 

その世界の住人が一人、ショッカーワールドに向かって旅立とうとしていた。

 


 
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